シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第3章~パルプ・フィクション~⑤

その後、前年の夏の日からの課題事項であった『恋しくて』の感想戦に始まり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『フォレスト・ガンプ』、『レオン』と続く映画談義を終えた二人は、劇場に戻って、二本立ての映画を観賞し、帰途に着いた。

帰りの道すがらも、クエンティン・タランティーノに影響されたのか、二人の話しは延々と続いたため、少しでも長く話しをしたいと思った。

 

そして、秀明は、亜莉寿が乗り換えに使う西ノ宮駅で、彼女と別れる前に、昭聞から提案された件について、思いきって話をしてみると、

「確かに、面白そうな企画ね!お話しを聞くだけなら、放送室に行ってみてもいいかな」

と、亜莉寿は、興味を示してくれた。

週明けの放課後に、放送室に同行することに同意してくれた彼女と別れ、電車に乗車した秀明は、濃密な一日を振り返り、

(今日は、濃い一日だったな~。ともあれ、吉野さんと色々な話しが出来て良かった)

(話しが盛り上がったのは、タランティーノ映画のおかげかも)

(それにしても、映画館で女の子と出会って話しが盛り上がるなんて、タランティーノ脚本の『トゥルー・ロマンス』とか去年読んだ小説の『グミ・チョコレート・パイン』みたいやな~)

 

(………………ん?)

 

ここで、彼は唐突に、数週間前、教室で、ボンクラーズの面々を相手に語った自らの発言を思い出した。

 

「まあ、我々のような女子に縁のない人間にとっては、《アイドル級の美少女と映画デートが出来るということには、五十八万円くらい払う価値がある》ということよ」

 

(!◎△$♪×¥●&%#?!)

 

(話しに夢中で、全然意識してなかったけど、今日、吉野さんと二人で映画観てるやん!)

 

「ナニを今さら……」という読者諸氏からのツッコミをよそに、一ヶ月ほど前に自ら発した言葉に縛られ、その後の彼の思考は停止したままだった。

 

(とりあえず、ショウさんには、橋渡し役になってくれたお礼の意味で報告するとしても……。これは、ブンちゃんには話しづらいなぁ)

 

 

そして、月曜日の放課後の放送室。

秀明から、土曜日の出来事を聞かされた昭聞は、ノックダウン寸前のボクサーの様によろめきながら、つぶやいた。

 

「あ・・・ありのまま、いま起こったことを話すぜ!『クラスで一番女子に縁のないと思っていてオトコが、ヤツを嫌っていたハズの吉野さんと週末に二人で映画を観に行っていた。』何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。『D・N・A2』だとか『BOYS BE・・・』だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ」

 

「ポルナレフかい!しかも、めちゃくちゃ失礼なこと言われてる気がするし……」

すかさず、秀明がツッコミを入れる。

「ポルナレフ?今の何かの映画のセリフ?」

「ミシェル・ポルナレフ?『シェリーの口づけ』かな~」

「いや、少年マンガのセリフやから、二人は、気にしないで下さい」

秀明が、そうフォローすると、グロッキー状態から立ち直った昭聞が頭を振りながら冷静さを取り戻す。

「しかし……。まさか、有間秀明センセイが、女子に手の早いタイプとは思わへんかったわ。もしかして、オレの知らん間に、未来人にDNAを書き換える弾丸を撃ち込まれた、とか?」

「アニメ版の主題歌以外、二十五年後には、多くのヒトが忘れてそうなマンガを例に出すのは止めよう」

コミックやアニメの話しには疎そうな女子二名を差し置いて、彼女たちに背を向けた男子二名は、肩を組みながら、さらに小声で話し始める。

「確認しとくけど、吉野さんの手を握ったり、繋いだりはしてないよな?」

「たまたま、一緒に映画を観ることになっただけで、付き合ってる訳でもないのに、そんなコト出来るわけないやろ!」

「まあ、そら、そうやわな。五十八万円の価値には、届きそうにないか?有間センセ」

ニヤニヤと笑いながら、昭聞が言うと、

「男の子同士で、お話ししてるところ、申し訳ないんですけど」

と、吉野亜莉寿が会話に割り込む。

「『女子にモテない有間クン』は、私と映画を観たことについて、どれくらいの価値があると感じたのか、是非とも聞かせてもらいたいんだけど?」

土曜日にも、さんざん彼の肝胆を寒からしめた、あの《亜莉寿スマイル(命名者:有間秀明)》を携えて……。

「あっ、えっと。二本も一緒に映画を観ることが出来たし、自分にとっては、一〇〇万円以上の価値があるのではないか、と思っています。はい」

「そう」

亜莉寿が、満足気にうなづくと、

「有間クンは、幸せ者やね~」

と翼が感想を口にする。

「先輩も、そう思われます?」

と問う亜莉寿に、「うん」と上級生がうなづき、女子二人は、意気投合した様だ。

そんな二人を見ていた昭聞は、さらにこんなことを言い出した。

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