シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第7章~恋人までの距離(ディスタンス)~⑦

「はぁ~~~~~~」

 

と正田舞は、大きなため息をつく。

 

「それで、ホンマに吉野さんの部屋で、二人で本を読んで帰って来ただけ?」

呆れかえる様に聞くクラスメートに、秀明は、「はい」と消え入る様な声で返事をして、

「結果的に言うと、そうなりますね……」

と続けた。

「今どき、小学生でも、その展開は無いんとちゃう?」

再び、ため息まじりに言う舞。

「そう言われると、何も言葉がないと言うか何と言うか……」

苦笑いしながら、視線を落とす秀明を見て、舞はフォローを入れる。

「ま、何かトラブルになる様なことがなかっただけでも良かったと考えたらイイんちゃう?それに……」

「それに……?」

聞き返す秀明に、

「何て言うか、今日の吉野さん、機嫌が良かったんよな~。『夏休みに貸した本を有間クンがスゴく楽しんで読んでくれた』とか『ようやく、有間クンも気をつかえるようになってきた』とか『有間クンと坂野クンの会話を見てるのって和むよね』とか。最後の方は、何を言ってるのか、良くわからへんかったけど……。夏休みから、今日まで吉野さんと話す機会は多かったん?」

と舞は秀明に問い掛ける。

「あぁ、夏休みにお家にお邪魔させてもらった日と昨日の放課後と、わりと話し込んだ気はする。夏休みの時の話しは、彼女のプライベートに関わることやから、ショウさんと言えど、オレの方からは話されへんけど……」

秀明が答えると、

「あ~、吉野さんの家で、有間に家族の話しを聞いてもらったとか言ってたのは、そのことか……。昨日は?吉野さんと何か話したん?」

問われた秀明は、中学時代以来の仲である同級生を信頼し、出演する番組の《暗黙のコンセプト》について打ち明けた。

「これも、自分たちの内輪の話しやけど、ショウさんになら話しても良いか……。オレたちが放送してる『シネマハウスにようこそ』で、最近は、ブンちゃんと吉野さんが、オレをイジる様な内容が多いやろ?」

「そう言えば……。『耳をすませば』の紹介をした時くらいから、三人の会話が面白くなって来たかな?興味を持ってた映画やったってこともあるけど、有間たちが楽しそうに話してたから、夏休みに観に行ってきた」

舞の返答に、

「ありがとう!それは、あの放送をしてた人間としては、めっちゃ嬉しいわ!!───それは、さておき、昨日は吉野さんが『番組の中で、イジられ役をするのはイヤじゃないのか?』って聞いてきたから、『オレは気にしてないから、今のままで大丈夫!けど、吉野さんがブンちゃんをイジるのは止めておこう』って提案したんよ」

秀明が答えを返すと、

「ん?なんで?もしかして、最近、坂野クンが女子に注目され始めてることと関係ある?」

と舞が聞き返す。

「さすが、ショウさん!『女子に人気がある男子に絡むのは、聞き手の女子に反感を持たれる可能性があるから、なるべく止めておこう』って提案したんよ」

秀明が昨日の会話のいきさつを語ると、舞は心得た、という風に答える。

「……で、その点、『女子に注目されてない有間なら、いくらイジっても大丈夫!』と伝えた、と」

「ご明察、その通りです」

秀明は、感心した様に頭を下げて、目の前の同級生に敬意を示した。

「そっか……。だいたいのことが、わかってきた。───で、ここからが本題!」

言葉の最後の声のトーンを一段上げて舞は秀明に語る。

「他の生徒、特に異性から注目を集め始めてるのは、坂野クンだけじゃないと思うねんけど、その点、有間はどう考えてるん?」

「……それって吉野さんのこと?」

懸念していたことなのだろうか、秀明の声のトーンは、一段低くなる。

舞は、秀明の問いを肯定する様に答えた。

 

「そう!有間も予想というか、覚悟してたことやろ?」

 

舞と秀明の考えには、それなりの根拠があった。

秀明たちの通う稲野高校は、彼らの所属する単位制コースと、その他に、理数系科目の授業に特化した理数科コース、一般的な普通科高校の授業を行う普通科コースの三つのコースに別れている。

秀明たちが一年制時の各学年のクラス編成は、

 

一年生:単位制三クラス・理数科一クラス・普通科六クラス

二年生:単位制三クラス・理数科一クラス・普通科六クラス

三年生:理数科二クラス・普通科八クラス

 

となっていた。

このうち、一年と二年の単位制と理数科のクラスは、体育の合同授業などで、他のクラスの生徒とも面識があったが、単位制と普通科クラスの生徒は、授業が重なることがないため、生徒間の面識は、ほぼ無いと言って良かった。

また、単位制クラスでは、校内のクラブ活動をする生徒が極端に少なかったため、稲野高校内の上級生と交流を持つ生徒も少ない。

このため、秀明たち一年生の単位制コースの生徒は、単位制三クラス一二〇名以外の生徒とは、事実上、没交渉状態にあった。

しかし、全校生徒向けに昼休みの放送を行うということは、これまで学校内で、一二〇名の生徒にしか存在を認識されていなかった秀明・亜莉寿・昭聞の三人が、一気に全校生徒一二〇〇名に認識されるということになる。

校内で目立った活動を行う生徒が、容姿まで人目を引くとすれば……。

 

「これが、マンガとかの世界なら、ブンちゃんにも、吉野さんにも、校内ファンクラブが出来てるところやな」

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