シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第9章~ロッキー・ホラー・ショー~④

すでに、時刻は十一時を過ぎようとしている。

心斎橋から梅田経由で秀明や亜莉寿の住む神戸方面へ向かうには、終電まで一時間の猶予もない。

 

「わ、わかった!とりあえず、家に電話するから、ちょっとだけ時間くれる?」

 

ビッグステップの周辺で、あわてて、公衆電話を探した秀明は、自宅に電話を掛ける。

「はい、有間です」

母親が電話に出る。

「あ、秀明やけど。遅くにゴメン。今日は帰りが遅くなるって言ってたけど。友達の家で話してたら、盛り上がって、『今日はウチに泊まっていけ』って言われて……。明日の朝イチに帰るから、今日は泊まらせてもらうわ」

秀明が一気に言うと、

「そうか。相手のご両親にも、ちゃんとお礼を言っときや~」

と母親は、特に疑う様子もなく了承した。

「うん、わかった。それじゃ」

と言って電話を切る秀明。

 

まずは、第一関門を突破したというところだが……。

 

(そう言えば、彼女の方は家に連絡しなくて大丈夫なのか?)

 

気になった秀明は、亜莉寿の元に戻って、彼女にたずねる。

「吉野家には、帰れないって連絡しとかなくて大丈夫?」

秀明の問いに、亜莉寿は答えた。

「うん。今日は、『ハロウィンで友だちの家に泊まらせてもらう』って伝えて来てるから……」

その答えに、また色々と想像をめぐらせ、秀明の脳内には、

 

 ・人通りの少ない西の方向に歩く

 ・人通りの多い東の方向に歩く

 

と二つの選択肢が浮かんだが……。

 

「そ、そっか!とりあえず、落ち着いて話せるファミレスにでも行こっか?」

 

無難な提案をして、道頓堀川のそばにある高級指向のファミリーレストランにむかうことにした。

 

 

心斎橋アメリカ村から御堂筋に出て、目的地にむかう途中、様々な想いや想像が交錯し、秀明の口数は少なかった。

亜莉寿もまた、何か考えるところがあるのか、話す言葉は少ない。

結局、ほとんど言葉を交わさないまま、目的地であるファミレスに到着し、ウェイターに案内された席に着く。

席に座り、

 

「ご注文が決まった頃に、また伺います」

 

と、ウェイターが立ち去ったと同時に、緊張感に耐えられなくなった秀明が、ゆっくりと切り出した。

「あの、今日、自宅に『帰りたくない』っていうのは……。この前、言ってた『話したいことがある』ってことと関係あるのかな?」

亜莉寿は、

「うん、今日のお話しは、ちょっと長くなるかも知れないから……」

と答える。

彼女の答えに秀明は、「ふぅ」と息をついた。

 

(あぁ、良かった~!変な勘違いして、ビッグステップから反対方面に歩かなくて!!)

 

アメリカ村から東の方向に進めば秀明たちが歩いた大通りの御堂筋に出るが、反対の西の方向に歩いて四ツ橋筋に向かうと、そこには、ホテル街が広がっている。

『そう!自分には、やましい気持ちなどないのだ!』と、自らに言い聞かせて、秀明は努めて、さわやかに語る。

「わかった!この店は早朝まで営業してるし、今日は朝まで話しを聞かせてもらうわ」

そう言って笑う秀明を見て、亜莉寿も、緊張がほぐれたのか

「うん、ありがとう」

と言って、映画館を出てから初めて笑みを見せた。

「じゃあ、大事なことなら、急には話しにくいかも知れんから、さっきの『ロッキー・ホラー・ショー特別上映』の話からしよっか?」

秀明の提案に、亜莉寿もうなづく。

「そうね!じゃあ、有間クンの感想から聞かせてくれない?」

いつもの様に、お気に入りの映画や小説について語る時の亜莉寿が見せる表情に戻ったことに安心しながらも、秀明は急なフリに少したじろぐ。

「えっ!?オレから?……と、その前に、心の準備をしたいから、ドリンクの注文だけさせてもらって良い?」

と言って、ウェイターを呼び、ドリンクを注文する。

注文を終えた秀明は、言葉を選びつつ、

「う~ん、何というか、今日みたいな上映会は、自分の映画観賞にとっても初体験やったから……」

と苦笑いしながら、

「でも、ものスッゴい楽しかった!今日の特別上映に誘ってくれた亜莉寿サンに大感謝です」

と続ける。

「良かった!有間クンなら、そう言ってくれると思ってた」

亜莉寿も、つられた様に笑う。

「今日の特別上映は、映画観賞と言うより、『体験』とか『体感』とか、そんな感じの言葉が当てはまるのかな?とにかく、スゴい経験をしたって感じ!亜莉寿は、どこでこんな企画があるって知ったの?」

秀明がたずねると、

「もともとは、『フェーム』って映画で、『ロッキー・ホラー・ショー』の参加型上映を取り上げているシーンがあって、それで知ったんだけどね。情報誌を見ていたら、大阪でも、その参加型上映会をするって書いてあったから、行ってみたいな、って思ったんだ!」

亜莉寿は、そう答えたあとに、

「でも、一人だったら、やっぱり来る勇気がなかったと思う……。今日は、一緒に来てくれて嬉しかった!ありがとう」

と付け加えた。

 

(いやいや、嬉しいのは、コッチの方だわ!)

 

秀明は、心の底から、そう思ったが、口には出さない。代わりに、

「それは、良かった……。少しは役に立てたかな?自分も、学校では優等生と思われているであろう《吉野サン》のハジけた様子を見ることが出来て楽しかったし」

少し彼女をからかう口調で言うが、そこには、秀明の

 

(吉野亜莉寿が、こんな映画を観て、こんなにも楽しそうにしている姿を知っているのは自分だけなのではないか?)

 

という優越感にも似た想いも交じっていた。

秀明の口調に感じるところがあったのか、亜莉寿は「ナニ、それ」と少し頬を膨らませたが、

「でも、この映画というか、原作のミュージカルも含めて、作品には、《抑圧からの解放》っていうテーマがあると思うから……。それも、ある意味で正しいのかな?」

と話しを続けた。

彼女が言うと同時に、注文したドリンクが二人の席に届いた。

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