シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第10章~Smells Like Teen Spirit~①

時刻は、深夜二時をまわろうとしていた。

亜莉寿の唐突な発言に、秀明は絶句したあと、二の句が継げないでいた。

予想していなかった、彼女の言葉に、彼の思考は追い付けないでいる。

しかし、

「ゴメンナサイ!急にこんな話しをしてしまって……」

申し訳なさそうに、身を縮める亜莉寿の様子を見て、停止しかけていた思考が戻り始める。

とにかくも、ほんの数分前に亜莉寿の話しを聞くことを決めていたのだ。そう、自分で決意したことを思い出し、秀明は、慎重に彼女にたずねる。

「いや、ちょっとビックリしただけやから、謝らんといて。学校を辞めるっていうのは、家庭の事情とか?」

フルフルと無言で首を振る亜莉寿。

「じゃあ……。学校で何か不満に思ったこととかがあった?」

秀明が、言葉を選びながらたずねると、亜莉寿は、小さく首を縦に振った。

「そっか……。それってさ、今月の初め頃に生徒集会で話があったことと関係ある?」

秀明は、ひと月ほど前に開催された集会のことを思い出しながら問い掛ける。

すると、亜莉寿は、「どうして、わかったの?」という表情をしたあと、

「あの集会は、学期制度の変更の話をされるのかと思っていたら、急に受験に向けた来年度の単位取得の話になって……。『自分は、そんな目的で、この高校に入学したんじゃないのに』って思ったら、何だか、このまま今の学校に居るべきなのかな、って思い始めて……」

一気に自分の想いを語った亜莉寿の言葉に、秀明は胸を打たれた。

「その気持ち、何となく、わかるわ。ひと月前のあの集会の時に、オレも同じように感じたから」

試験の成績が毎回の様に赤点ギリギリに近い自分とは違い、大学受験を優先する場合、学年内でもトップクラスの成績を誇っている亜莉寿なら、今より大学進学に有利な高校への受験も考えられたはずで、その悔しさは自分とは比べものにならないだろうと、秀明は思った。

「あの集会で話を聞かされた時に、『入学前に聞いてた話と違うやん!』って思ったからなぁ……」

と、秀明はため息をつく。

同意を得たことに安心したのか、亜莉寿の表情も落ち着いた様で、

「有間クンもそうだったんだ……。私も、『何のために、この高校に入ったんだろう?』って、思っちゃったんだ」

と、ポツリとつぶやいた。

「でも、良かった……。みんな大人しく話しを聞いてたし、その後も、話題になることなんてなかったから、こんなことを気にしてるのは、私だけなんじゃないかと思ってたから。私たちって似てるのかな?」

と続けて話した亜莉寿は、秀明を見て少し微笑んだ。

彼女の笑顔に、一瞬で鼓動が早くなるのを感じた秀明は、照れ隠しに

「う~ん、周りの評価には、だいぶ開きがある様に思うけど……」

と苦笑いをしながら言いつつ、

「でも、好みの映画や小説が似ているからか、嬉しいと感じることとか、逆に悲しかったり、イヤだなって思うことのツボは、お互いに似てるかも知らんね」

と付け加えた。

学業は低調気味で、教師たちの評価も高くはない秀明と異なり、成績優秀で素行や言動にも問題のない優等生と評価されているであろう亜莉寿だが、何かを強制されたり、自由度の少ない空気には反発する『芯の強さ』というか『我の強さ』の様なモノを持っている。

 

(ああ、自分は彼女のそんな部分にも惹かれていたのか……)

 

と、あらためて考えると、また動悸が激しくなるのが感じられ、彼女の顔を直視できなくなってしまう。

彼らのテーブルには、しばしの間、沈黙が訪れた。

目の前の彼女の顔を見ることが出来ず、うつむきがちになりながらも、秀明は考えた。

 

───そう言えば、亜莉寿は、具体的な転校先などは考えているのだろうか?

まずは、彼女の考えていることを聞いてみよう───。

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