シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第10章~Smells Like Teen Spirit~②

沈黙を破る様に、秀明は亜莉寿にたずねた。

「あの、もし考えていることがあるなら聞きたいんやけど……。具体的に転校する学校とか決めてるの?亜莉寿のことやから、何か自分なりの考えがあってのことだとは思うけど」

秀明の問いに、亜莉寿は、落ち着いた声で話し出した。

「うん……。いま、資料を取り寄せているところなんたけど、アメリカの高校に編入できないかなって、考えてるんだ。来年、ウチの母が仕事の関係で、あっちに赴任することになりそうで、一緒に着いていけたらなって」

彼女の発言に、「えっ!?」と言葉を失いそうになり、また、海外とは思い切ったことを……、と感じた秀明だが、

 

(いや、しかし……)

 

と思い直す。

夏休みに、亜莉寿が語った彼女自身の将来の夢とは何だったか?

ハリウッド映画の世界で脚本家を目指し、自身が映像化を熱望する企画を持っているならば、進学先や就職先の目標を国内に限定する必要はない。

むしろ、アメリカの大学ならば、国内の大学と違い、シナリオライティングや映画の企画化などについて、本格的に学べる講義があるのかも知れない。

高校三年時にアメリカの大学の入学試験を受けて渡米するよりも、状況が許すならば、高校時に編入をしていた方が大学受験時の負担もはるかに少ないだろう。

ましてや、彼女が映像化を目標としているのは、アメリカ合衆国のSF作家をテーマにしたものだ。

「それなら、転校先がアメリカの高校になるか……」

秀明が、一人言のようにつぶやくと、

「うん、やっぱり、家族が一緒にいると安心かなって、思うし……」

と亜莉寿が答える。

それを聞いた秀明は、

「あ、いや、そうじゃなくてさ……」

と、返答し、今しがた自分が考えていた、彼女の夢と、その目標にたどり着くために相応しい進学先や就職先、現時点で可能なことと近い将来に向けて何をしておけば有利なのか、ティプトリーがアメリカの作家である以上、日本国内に留まるより、彼女の母国であったアメリカを目指すのは当然だ、ということが納得できたということを亜莉寿に伝えた。

そして、こう付け加える。

「合理的に考えることが出来ていて、亜莉寿らしいな、って思った」

秀明が、そう口にすると、亜莉寿は目を丸くして、

「すごい……。どうして、私が考えていたことがわかったの?それに───、私が、頭の中で色々と考えてグチャグチャになっていたことを、シンプルで、わかりやすくまとめてくれてる!」

感心した、と言わんばかりの口調で秀明に語る。

彼女の言葉を聞いた秀明は、

「いや、夏休みくらいから、亜莉寿の話しは、良く聞かせてもらってたし」

と笑いながら話し、

「それに、一見、複雑な内容のことも簡潔にわかりやすくまとめるのは、亜莉寿の方が得意やと思うけど……。さっき『ロッキー・ホラー・ショー』を解説してくれた時も思ったけど」

と付け加えた。

亜莉寿の言葉からは、先ほど、秀明が『ロッキー・ホラー・ショー』とタイガースファンとの共通性を語った時の様に《畏敬の念》とも取れる想いを感じることが出来たが、先刻とは異なり、それを嬉しいと感じることはなかった。

自分は、この夏以降、断片的に語られた彼女の話しを思い出し、その点と点を、線としてつないだだけだ。

 

(そんなに誉められることでもないと思うけど……)

 

校内放送で映画について語る時や、秀明に小説の魅力について語る時などは、理路整然と饒舌に話す亜莉寿だが、自分自身のことを考えたり、他者に伝えたりする場合には、そのスキルは、あまり発揮されない様だ。

秀明が、そんなふうに思いを巡らせていると、亜莉寿は、唐突にこんなことを言い出した。

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