シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第10章~Smells Like Teen Spirit~⑧

「なになに、何の話しで盛り上がってるん?」

 

声の主は、各学年の代表に連絡された文化委員会での伝言を正田舞に伝えに来た朝日奈愛理沙だ。

スポーツ新聞の紙面を目にした彼女は、露骨にあきれた顔をして、

 

「クリスマスと冬休み前の一番楽しい時期に、競馬の話しするって、どうなん?」

 

と、ボンクラーズの面々を見渡す。

 

♡「有間以外の三人は、やる気があれば、クリスマスに縁がない訳でもなさそうやのに、もったいない」

♤「ちょっと待って!ナチュラルにオレだけ省かれてる?他の三人も、話してる内容は同じなのに?」

♡「そら、校内放送で、『ときめきナントカ』っていう恋愛ゲームを買いに行くとか宣言するオトコは、論外やん(笑)」

♤「いや、あのゲームの世界でなら、オレも大富豪キャラの伊集院家のクリスマス・パーティに参加したりしてるんですけど?」

♡「…………。なあ、有間は放っといて他の三人に聞くけど、アンタら、いつも、どんな話してるん?」

♧「アニメの話し……」

◇「ゲームの話し……」

◆「声優の話し……」

♤「先進国が行う核実験の是非について、かな?」

♡♧◇◆「「「「……」」」」

♡「ただでさえ寒い教室を凍りつかせたオトコは無視して続けるけど、ウチのクラスのオタク組の男子が、わざわざ昼休みに毎日B組に移動してる理由がわかったわ。でも、一部の女子がキャーキャー言ってる理由は、わからへん」

♤「無視されてるところに割り込んで悪いけど、それ、A組の女子は、オレらが話してる内容を聞いてないからちゃう?前にも話したけど、男子同士でイチャついてる様に見えるんやろ、一部の女子には」

♧「えっ、オレらって他の組の女子から、そんな風に見られてるんか?」

◇「まあ、オレは、知ってたけどね」

♤「いや、ドヤ顔で語る様な内容じゃないやろ!?それを受け入れてるお前の神経が、オレには、わからへんわ!」

♡「ハハハ。アンタら話してる話題はキモいけど、話してる内容は、面白いな」

♤「朝日奈さん、誉めてくれるのは嬉しいけど、一言多いわ」

♡「私は、事実を言っただけやけど(笑)それで、アンタらの予想では、どの馬が勝ちそうなん?」

♤「う~ん、今年は難しいな~、って話しをしてたところ。牝馬、メスの馬が一番人気になりそうやしね」

♡「その言い方やと、やっぱり、メス馬はオス馬に勝たれへんってこと?何か面白くないな~」

♤「いや、必ずしもそういう訳ではないんやけど……。有馬記念は、追い込みタイプのヒシアマゾン向きのレースでは無い感じなんよな~」

◆「中山競馬場は、直線が短いしね。今年は、ペースが早くなりそうもないし」

♡「他の馬は?この《マヤノトップガン》って馬とか、名前が女子っぽくない?」

♤「あ~、それは女の子の名前の麻耶じゃなくて、摩耶山が由来みたいやで。馬主さんが、神戸のお医者さんらしいから」

♡「そうなんや~。でも、今年は神戸の年やったし、その馬もアリなんちゃう?」

♧「あと、警察庁のトップがガンで狙撃された事件もあったしな!」

♤「ブンちゃん、無理やり大喜利予想に持っていかんでもイイから!自分なら、『トップガン』が映画のタイトルから取ってることくらいわかってるやろ?」

◆「あ~、でもトップガン良いかも知らんな~。人気馬はジェニュイン以外、みんな差し・追い込み脚質やし。ペースが早くならなかったら、先行できるのは有利かも」

♡「ふ~ん、良くわからへんけど、予想が当たったら、何かおごってな」

♤「いやいや、朝日奈さん!競馬法では、『学生・生徒または、未成年者は勝馬投票券を購入することはできません』って決まってるから、オレらは、馬券は買ってないよ」

♡「まあ、そういうことにしといてあげるわ(笑)あと、言い忘れてたけど、正田さんに一月からの文化委員の活動について、伝言してるから、有間も聞いておいてな!じゃあ、私は、そろそろ教室に戻るわ」

♤「ありがとう、朝日奈さん!良いお年を!!」

 

秀明が言うと、愛理沙は「ほ~い」と言いながら去って行った。

再び四人の会話に戻ると、すぐに昭聞が秀明にたずねる。

 

「お前、いつの間に朝日奈さんと仲良くなったん?」

「あ~、文化委員の会合の時に、正田さんと朝日奈さんと三人で少しだけ話し込んだ時があって、その時からかな?」

 

と秀明は答えた。

 

「それにしても、朝日奈さんのコミュニケーション能力は、スゴいな」

 

と、今度は梅原が感想を述べる。

 

「前々から、ボンクラーズのことが、A組でも話題になってたから、オレらがどんな話しをしてるのか、気になってたらしいけど……。オレらの会話に割って入って来る女子って、ショウさんくらいやったもんな。いや、会話の流れに加わってるって意味では、朝日奈さんの方が、さらに上手か……」

 

秀明が同意すると、

 

「けど、オレは、ああいうグイグイ来るタイプの女子は、ちょっと苦手やわ」

 

と伊藤が口を挟む。

それを聞いた秀明は、

 

「まあ、伊藤はA組の大人しいタイプの女子のアイドルやってる方が向いてるやろうし。伊藤とブンちゃんが、夢みる女子の幻想を壊さないことを祈ろう」

 

と締めくくった。

 

ボンクラーズ+朝日奈愛理沙という希少な組み合わせの会話を終えた後、秀明の意識は、別のクラスメートに向いていた。

吉野亜莉寿は、両親に転校の話しをできたのだろうか───?

あの夜から二ヶ月近くが経過した年末の時期になっても、彼女からは、転校話しの進展について、何の報告もなかった。

もしかして、あの夜の発言は、『一時の気の迷い』で、二年生以降も、変わらず、稲野高校に通うのだろうか?

 

(亜莉寿のそばに居られるのなら、嬉しいけれど……)

 

彼女自身の本心がわからないままでは、自分の心にもモヤモヤした感情が残るままだ。

 

(学校では話しづらいだろうし、冬休みに入ったら、亜莉寿に連絡してみるか)

 

秀明は、そんなことを考えながら、二学期の最後の登校日を過ごした。

 

 

十二月二十四日───。

 

クリスマス・イブのこの日に行われた第四十回有馬記念のゴール板を最初に駆け抜けたのは、菊花賞を制しながら、六番人気と評価が低かったマヤノトップガンだった。

秀明が密かに復活の期待を寄せていたナリタブライアンは、最終コーナーで前年の走りを彷彿とさせる追い上げを見せたものの、今回も直線で伸びを欠き、四着に終わっていた。

テレビ中継を観ていた秀明が、

 

(今年は、『神戸の年』って、そんなことを朝日奈さんも言ってたな)

 

などと感慨にひたっていると、リビングの電話が鳴った。

キッチンで夕食用のサラダを作っていた母親は、

 

「秀明、手が離されへんから、電話に出て!」

 

と声を張り上げる。

クリスマス・イブの日は、毎年デリバリーのピザと大手チェーン店のフライドチキンがテーブルに並ぶのが、有間家の習わしだった。

この日は、午後七時に宅配ピザの予約をしており、その時間に合わせて父親も、チキンを買って帰って来る予定だ。

母親の声に、「ハイハイ」と返事をして、テレビの音量をミュートにした後、秀明は受話器を取る。

 

「はい、有間です」

 

電話に出た秀明の声に続いて、受話器の向こうから聞こえてきた声は、予想もしない人物のものだった。

 

「有間クン……。両親に転校の話しをしたんだけど、ダメだった───。私、どうしたらいいの───?」

 

今にも、泣き出しそうな吉野亜莉寿の声に、秀明は、胸を締め付けられる様な感覚を味わった。

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