シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第12章~(ハル)~②

その翌日───。

 

吉野亜莉寿は、自室の寒さで目を覚ました。

前夜、秀明が帰宅し、クリスマス・イブのディナーを家族三人で囲んだあと、彼女の進路についての家族会議は、日付が変わる直前まで行われた。

家族会議───とは言っても、両親は、おおむね彼女の意志を尊重し、アメリカの高校の編入試験を受験することを認めてくれた上で、学校の選定と今後のスケジュールに関する話し合いが主なものだった。

父も母も、親身になって彼ら自身の考える助言を与えてくれた。

亜莉寿自身もまた、これまでになく、自分自身の考えを率直に、両親に伝えることが出来た。

カーテン越しに室内に射し込む光は鈍く、空模様は曇天であることがわかったが、今朝は、最高に清々しい気分だ。

寒さに震えながら、窓に近寄りカーテンを少し開くと、視界には真っ白な色が飛び込んできた。

思わず目を見張り、嬉しくなって、靴下を履き、防寒用のコートを羽織って、玄関に向かう。

靴を履いて、玄関から飛び出すと、エントランスを抜けて、左手に曲がり、私大の正門前から伸びる『学園花通り』と名付けられた通りに出て、私鉄沿線の駅へと通じる通学路の光景を目に焼き付ける。

一面が雪景色に覆われた街並みは、とても幻想的で、まるで明るい未来への展望が開けたばかりの自分を祝福してくれている様だ。

 

「ホワイトクリスマス……」

 

無意識につぶやいた亜莉寿は、足もとに冷気を感じて我にかえる。

コートを羽織っているとは言え、雪が残る路面は、容赦なく足の先から熱を奪って行く。

寒さに震えながらも、気持ち良くこの日の朝を迎えることが出来たことに、あらためて喜びを感じた。

この朝の光景と両親が進路について前向きに検討してくれたという事実は、自分にとって、最高のクリスマスプレゼントだ───。

そんなことを感じながら、亜莉寿は、自宅へと戻った。

 

 

前夜から、いつも以上に冷え込んでいるな、と感じながら目を覚ました秀明が、窓から外を確認すると、彼の自宅の周りにも、一面の銀世界が広がっていた。

 

「この地方でホワイトクリスマスの光景が見られるなんて奇跡的確率やな……」

 

独り言をつぶやきながら、共働きの父と母が不在の中、ブランチとは名ばかりの遅い朝食兼昼食を食べ終える。

 

(この天気じゃ外出するのも億劫になるなぁ……。今年は、よみうりテレビの『アニメだいすき』の枠も無くなったみたいやし、さて、午後をどう過ごしたものか?)

 

などと考えていると、自宅の電話が鳴った。

電話の声は、二十時間前と同じ相手のものだったが───。前日の午後と違い、今日の声は弾んでいる様に聞こえる。

亜莉寿は秀明に、両親がアメリカの高校への転校を認めてくれたこと、昨夜は三人で翌年の現地での新学期までのスケジュールの検討をしたこと、両親が秀明に感謝していることを嬉しそうに話した。

 

「それは、良かった───。キチンとご両親と話し合った甲斐があったね」

 

秀明が、穏やかにそう伝えると、

 

「それも、有間クンのおかげだから……。昨日は、本当にありがとう。有間クンには、最初にお礼を言わなきゃいけなかったのに───。遅くなってしまってゴメンね」

 

亜莉寿は、あらためて感謝と謝罪の言葉を口にする。

 

「いや、自分はホンマ何もしてないから!ご両親にも生意気なことを言って申し訳ありませんでした、って伝えておいて」

 

秀明は、恐縮しながら答えつつ、

 

「あと、正式にスケジュールとかが決まったら、高梨先輩とブンちゃんには伝えておかないとアカンね」

 

今後の『シネマハウスにようこそ』の放送に思いを巡らせながら、亜莉寿に自分の考えを語る。

彼女も同じ意見だった様で、年明けの新学期に、亜莉寿が三月いっぱいで学校を去る可能性があることを放送部に伝えようと、二人の見解は一致した。

しかし、秀明が、「亜莉寿がいないなら、三月で放送も終了かな?」と話すと、彼女は、強い口調で「自分としては放送を続けてほしいし、続けるべきだ」と主張した。

 

彼女の意向を汲むことに同意しつつも、吉野家の家族会議が前向きな内容で終わったことに対する喜びと、亜莉寿と離れることになることが現実的になったことに対する寂しさの矛盾した気持ちを抱えながら、秀明は受話器を置く。

 

亜莉寿の弾む様な声が聞けたことは、秀明自身も嬉しく思う。

また、彼女が望むなら、『シネマハウスへようこそ!』の放送も継続しようとは思うが、これまでの様なモチベーションを維持して、放送を続けられるのか、自信があるとは言えなかった。

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