シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

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第1章~Real Wild Child~④

この様に、わずか数日の間で、彼ら四人の会話には、役割分担が出来つつあった。

 

間合いやタイミングを計りながら、三人に話しを振る有間秀明。

振られた話題に天然ぶりを発揮して、場を盛り上げる伊藤大地。

毒舌とも言える切れ味でツッコミを入れ、笑いをとる坂野昭聞。

空気を読みながら、適度な相づちで会話を円滑にする梅原慶明。

 

さらに、伊藤の天然ボケや坂野のツッコミに、秀明が火に油を注ぐが如く茶々を入れると、彼らの会話は永久機関の様に無限に拡がりをみせた。

「そうそう、お弁当と言えば、ドーナツチェーンのキャンペーンCM覚えてる?」

と秀明が三人にたずねる。

「あぁ~、あのネタをココで出すか?」

ニヤニヤと笑う昭聞。

「なになに、何の話しよ?」

あくどい笑みを浮かべる二人の話しに梅原が食いつく。

「これは、オレとブンちゃんが聴いてるラジオで話してたことなんやけど……」

秀明は語り始めた。

「去年さ、某ドーナツチェーンが、スクラッチカードの得点を集めてお弁当箱をもらえる恒例の企画をしてたやろ?その一環で、CMに出演してる《人気アイドルが手作りしたお弁当を抽選で一名にプレゼント》っていうキャンペーン企画があったのよ」

「ああ!確かに、手作りマフィンとかお弁当箱とかCMしてたよな」

梅原が反応する。

「さすが、テレビっ子の梅ちゃん!そうそう!しかも、手作りしたお弁当は、そのアイドルが直接お届けしてくれるというオマケ付きだった訳よ」

ここで、たっぷりと間を置いて秀明は続ける。

「……で、このプレゼント、どんな人が当選したと思う?」

「そういう企画なら、応募するのは、そのアイドルのファンやろうし、普通にファンが当選したんと違うの?」

純粋無垢な伊藤は、そう答える。

「と思うよな?ところが、このプレゼントに当選したのは、十四歳の女の子でした、というオチ」

そして、食べ終わった弁当箱を横にどけて、机をドンッ!と叩き、

 

「ちょっと待て、と!こういう企画なら、応募者の九十九・九パーセントは、そのアイドルのファンやろう?なぁ、ブンちゃん」

 

「そう!」

 

声色を低くした昭聞が続ける。

「『早く、アノ娘のおべんとうが食べたい~』って、妖怪人間みたいなファンが、ドーナツを大量にむさぼりながら、複数応募してたと想像するね」

「ミスドやし、普通に女の子が当選してもおかしくないんちゃう?」

と梅原が答えるも、

「いや、ブンちゃんの言うとおり、ファンが一人で大量応募することを考えると、確率からして、無作為の抽選が行われたとは考えにくいんちゃう?当選者の女の子がヤラせだったとまでは言わんけど、初めから当選するタイプのヒトは、決まってたんじゃないかな?」

秀明が見解を述べると、さらに、昭聞が続ける。

「『あの人気アイドルが、どんな濃いファンと遭遇するんやろう?』って、期待してたのに!ホンマにドーナツチェーンには、ガッカリやわ!」

そして、飲み終えた紙パックのドリンクを握りしめ、

「『ファンが、どんな気持ちでドーナツを大量購入したのか、わかってるのか!?』と関係者には問いたい!」

最後に秀明がダメを押す。

 

「ドーナツ大量に食べて応募しても、この仕打ちやからね(笑)企業キャンペーンですら、オトコの夢は打ち砕かれるねん。なっ!?これでわかったやろ?かわいい女の子がアイドルファンになる様なオトコにお弁当を作ってくれるなんて、現実世界では有り得ないのよ!!ここ、次の定期テストに出るから忘れたらアカンで」

 

絶妙なコンビネーションで、ネタを披露する二人に、伊藤大地は無言で感心していた。

一方、梅原は思い出した様に付け加える。

「そう言えば、あのアイドルって、先月フジテレビのオークション番組にも出てなかった?落札者と一緒に映画を観るとか何とか」

(筆者注:この頃、芸能人を初めとした有名人に所縁のある《品物》や、その有名人に様々なことをしてもらう《権利》を一般視聴者がオークション形式で落札するバラエティー番組が実在した)

「あったな~!あのアイドルが主演した映画を彼女と二人で観る権利!落札価格は、五十八万円やったっけ?ドーナツチェーンのお弁当キャンペーンとは違うかたちで、ファンのガチンコぶりが見れたな」

秀明が即座に反応する。

昭聞が続けて、

「映画を観たあとは、手を繋いでくれるって、オプションもあったよな!アイドルと映画デートもどきのシチュエーションを体験しようと思ったら、お値段五十八万円か……。切ないな~」

後の国民的アイドルなどが行う握手会ビジネスにも通じる悲哀を感じさせる案件である。

 

「まあ、我々のような、将来的にアイドルコンサートの客席に座ってる人間にとっては、《人気アイドル級の美少女と映画デートが出来るということには、それだけの価値がある》と考えるしかないかな?あの映画には、一ミリも興味ないけど(笑)。そういうことやろ、ブンちゃん?」

「まあ、映画の原作者である『折原みと先生の大ファン』である俺からしたら、作品を揶揄するようなヤツらは許さへんけどな(笑)」

「ボケてるのか、素なのかわからんネタで落とすのは止めてくれ」

秀明が、そう言って会話を締めたと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

この時、ボンクラ四人組の馬鹿話を眺めながら、教室内で、ため息をつくクラスメートがいたことに、彼らは気づかなかった。

四月中旬の穏やかな春の出来事である。

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