秀明が、チラリと翼の顔を見ると、彼女は、さらに続けて、
「はい、みんな注目~」
と言って、パンパンと手を叩く。
「四月以降の校内放送についてですが、有間クンと協議の結果、『シネマハウスにようこそ』の存続が正式に決まりました~。ビッグマウスの有間クンは、《番組の看板は、ボクが背負わせてもらいます!》と恥ずかしいセリフで出演を引き受けてくれましたよ~。有間クンの熱い決意に拍手~」
番組プロデューサーにして、放送部の最高権力者の言葉に、室内の一同は、「オオ~!!」と声を挙げて盛大に手を叩く。
「ちょ……。恥ずかしいセリフって───」
秀明のツッコミが終わらないうちに、上級生は、さらに場を進行する。
「では、四月からもメインを張ってくれる有間クンから、一言お願いします~」
「はっ!?ちょっと、そんなん聞いてないんですけど」
抵抗する秀明に、
「プロデューサーさんからのご指名やぞ!」
昭聞が檄をとばし、
「アリマ館長、がんばって!」
亜莉寿も笑いながら、無責任な声援を贈る。
「はぁ、仕方ないなぁ……」
と、ため息をついてから、秀明は語り出す。
「プロデューサーさんから、ご指名いただいた有間です。番組の中心であったアリス店長が抜けるということで、今後の放送について不安に感じることもあると思いますが……。この企画に誘ってくれたブンちゃんと、今日の放送で熱い想いを語ってくれたアリス店長の気持ちに応えるために、四月からの番組についても、これまでと変わらず全力で放送に挑もうと考えているので、引き続き、ご支援いただけると嬉しいです。来月からも、よろしくお願いします!───以上です」
室内の一同から拍手が鳴る。
その拍手がやむと、番組プロデューサーは、
「はい、有間クン、ありがとう~。来月からとヨロシクね~」
と進行を続け、次にあいさつする人物を指名した。
「じゃあ、吉野さんからも、最後に一言お願いできるかな~?」
再びの急な指名に、亜莉寿は、「えっ!?私ですか?」と驚いたように、つぶやいたあと、一呼吸おいて、
「ご指名いただきました吉野亜莉寿です。今日の放送でも話しをした様に、私は、『シネマハウスへようこそ』の番組を聞いてくれている皆さんが、何か人生で迷ったときや悩んだときに、これまで私たちが紹介する映画を思い出して、《心の支えにしてくれることがあれば、嬉しいな》という想いで、番組に出演させてもらっていました……。一学期に番組が始まったとき、校内放送について、何もわかっていなかった拙い私を、十カ月間、支えていただいて、本当にありがとうございました。向こうに行っても、この番組と放送部の活動を応援したいと思うので、四月からの放送も、がんばって下さい!そして、番組に出演者として残る二人を───。特に、私がフォローできなくなってしまう有間クンを、皆さんのチカラで支えてくれたらな、と思います。私もアメリカで環境に負けない様にがんばるので、皆さんも引き続き、良い番組ができる様にがんばって下さい!今までのお付き合い、本当に……本当に……、ありがとうございました」
そう言って、亜莉寿は、深々と頭を下げた。
この日、一番の盛大な拍手が、亜莉寿に贈られる。
最後の方の言葉は、涙ぐんだ声がまじっている様に聞こえた。
「こちらこそ、今までありがとう~!」
そう言って、翼が亜莉寿に駆け寄り、二人は抱き合った。
拍手を続けながら、秀明も目に水分が溜まって来ていることに気付く。
昭聞の方に目をやると、彼もまた、目を潤ませ、瞬きを繰り返していた。
「じゃあ、最後は、みんなで集まって写真撮るよ~」
翼の一言で、番組出演者と放送部の面々が集い、一月最初の収録から用意されたレンズ付きフィルムで、集合写真が撮られる。
しばし、別れの余韻に浸ったあと、翼から、放送室の一同に解散が告げられ、三々五々、放送部のメンバーが、亜莉寿に別れの言葉を告げて帰宅していく。
同じ路線で下校する昭聞と翼とともに最後まで残っていた秀明に、亜莉寿が声を掛けてきた。
「ねぇ、有間クンに借りている『エヴァンゲリオン』のビデオテープを返しておきたいんだけど───。日本を発つ前に、もう一度、会えないかな?」
亜莉寿の提案に、秀明は即座に反応する。
「うん、大丈夫!コッチは、何日でもイイよ!」
「じゃあ、一週間後の二十二日は、どうかな?」
亜莉寿は、秀明の答えに、これまた即座に提案した。
「了解!また、時間と場所の確認のために、前日にでも連絡させてもらうわ」
秀明は、提案を快諾し、二人は亜莉寿の出発前日に落ち合うことになった。
その様子を見た翼は、ニンマリと笑みをこぼし、昭聞は、不思議そうに放送部の先輩の表情を眺めていた。
こうして、吉野亜莉寿は、放送部の外部協力者としての十カ月間の活動を終えた。