その表情に、プッと吹き出した亜莉寿は、
「そうだね。そういうところでは、男子の輪に入っていける正田さんが、羨ましい、って思ってたなぁ」
と、入学直後の頃を振り返る。
「ショウさんには、高校に入ってからも、あの頃からお世話になってる気がするなぁ」
と、秀明は、クラスメートに感謝しつつ、
「それで、神戸の新開地で二本立て映画を観に行った日に───」
前年の五月のことを回想すると、亜莉寿も、
「タランティーノ映画の二本立てだったよね?あの映画館のロビーに有間クンが座っていて……」
と、その日のことを懐かしむ。
「いや、亜莉寿に声を掛けられたときは、ビックリしたな~。まさか、クラスの女子が、下町の映画館に来るとは思ってなかったから」
秀明も懐かしそうに語ると、
「でも、ニブいニブい有間クンが、本当に驚いたのは、その後でしょう?」
クククと、楽しそうに笑いながら亜莉寿は問い掛ける。
亜莉寿の問いに応じた秀明は、
「えぇ、そうですよ!《ビデオ・アーカイブ》のお姉さんが、目の前にいたんですからね!」
と観念した様に事実を認めた。
「その後、哀れな少年は、お姉さんに、チクチクとイジメられるし───」
と、拗ねた様な表情で、つぶやく。
そんな秀明の表情を見ながら、亜莉寿が
「イジメたなんて言われるのは、心外だな。私は、一ヶ月以上も放置されていたことに対する説明を求めただけだから」
持論を展開すると、秀明は表情を崩して
「その言い方、亜莉寿らしいな」
そう言って微笑み、
「───で、その後、夏休み以来になる映画の話をして……」
と、続ける。
すると、亜莉寿は、
「うん!私にとっては、一ヶ月以上も待たされてからのことだったからね」
言って笑いながら、
「ようやく、話せる様になった!と思って、たくさん、おしゃべりしちゃった」
懐かしげに話す。
秀明も、
「あの時、亜莉寿と話せたのは、本当に幸運だったと思うな~。ブンちゃんから『シネマハウスへようこそ』の企画に誘われたばかりだったし───」
と振り返りながら、
「そういえば、初めての番組に備えた打ち合わせで、話し合いをしたのも、この喫茶店で……」
感慨深げに言った。
「『ショーシャンクの空に』について、話したんだっけ?」
亜莉寿が思い返して言うと、
「そうそう!ブンちゃんから、招待状をもらって、二人で試写会に行って───。初見の映画の感想を話し合ったのは、あの日が最初だったかも!同じ様に観ていても、亜莉寿は、深く映画を観てるな~、って感心してた」
秀明も、当時のことを振り返りながら、その時、感じていたことを口にした。そして、
「いま、思えばやけど───。あの頃から、亜莉寿は、小説とか脚本のアイデアを練ってたの?」
と、疑問に思っていたことを彼女に質問する。
「ん~、どうだったかな?ただ、有間クンと映画や小説の話しをし始めてから、具体的に将来の夢とか、小説を書いてみよう、と考え始めたのは確かかな」
亜莉寿も、その頃を思い出しながら、答えてくれた。
「そっか───。あと、『たんぽぽ娘』を薦めてくれたのも、あの頃だったんじゃないかな、確か」
「そうだね!それまで、映画の話しは良くしていたけど、SF小説の話しは、その時が初めてだったかな?私にとっては、大切な本だったから、有間クンの感想を聞くまでは、ドキドキだったけど……」
亜莉寿は、そんな風に振り返る。
しかし、秀明が
「そう言う割りには、オレが感想を話した時、見事にワナに嵌めてくれた感じがしたけど?」
と、皮肉っぽく言うと、亜莉寿は
「あの時は、ゴメンナサイ」
珍しくしおらしく謝罪した。
彼女のその様子を意外に感じたのか、
「いや、別に怒ってないから、謝らんといて!亜莉寿に、そんな風に言われると調子が狂うわ」
秀明は笑いながら言って、さらに、
「それに、亜莉寿だけじゃなくて、吉野家のご両親にとっても、大切な思い出になっているみたいやし───。そういう作品を薦めてもらって嬉しいな、って思ってるよ」
と、続けた。
「そう───。それなら良かった。そう言ってもらえて、私も嬉しいな……。ありがとう」
亜莉寿は、照れた様に、つぶやいた。
彼女の様子を見ながら、秀明は話題を次に移す。