「うん───。あと、一学期のことで印象に残ってるは、『耳をすませば』を観に行った時と、その放送回かな?」
「私も、あの放送の時は、良く覚えてる!あの頃から、何となく収録で話していて、楽しく話せてるな、って手応えみたいなモノを感じることができた気がするから───」
亜莉寿も、秀明に同意する。
「そうやね。あと、『耳をすませば』で思い返すのは───。亜莉寿は、あの映画の月島雫と天沢聖司の二人に共感していたのかな、って……」
秀明が、ためらいがちに話すと、
「良く覚えてるね、有間クン。確かに、あの映画では、雫ちゃんと聖司クンに感情移入しながら観ていたな~。でも、私が映画を観て泣いていた、なんてことまで、映画紹介の時に言う必要はないんじゃない(微笑)?」
彼女の例の微笑みに、秀明は即座に謝罪しつつ、
「いや、ホントあの時は、申し訳なかったです。確かに、個人的なことは校内放送で言うべきではないよね───。ただ、あの後、オレもアリス店長に、ラブコメ映画ばかり借りている、って個人情報を暴露されるというカウンターパンチを喰らったけど……」
と、自らも無傷ではなかったことをアピールする。
一方の亜莉寿は、あくまで自分に非はないとの主張を曲げない。
「それは、有間クンの自業自得ね。余計なことを言わなければ、私だって有間クンの趣味を曝すつもりはなかったもの」
彼女の言動に、秀明は苦笑しつつ、
「それでこそ、亜莉寿らしいわ。まあ、自分が番組の中でイジられるという流れが確立されたし、高梨センパイからも内容に、お墨付きをもらえたから、ケガの功名としておこうか」
と振り返る。
「私らしい……、って有間クンの中での吉野亜莉寿は、どういう評価なの?」
笑いながら問い掛ける彼女の質問はスルーして、秀明は話題を次に移す。
「夏休みのことは覚えてる?亜莉寿に、《課題図書》を渡されたけど?」
秀明の急な振りに、
「うん!ティプトリー・ジュニアの文庫本を一気に読んでもらったよね!」
亜莉寿は、戸惑うことなく反応する。
「そうそう!内容が難解な話しもあったから、読んだ短編のすべての物語を理解できたとは言い切れないけど───。亜莉寿に感想を聞いてもらった何編かについては、自分の人生の中でも、思い出に残る物語になると思うな」
そう語る秀明の言葉に、亜莉寿は、
「───あらためて、そう言ってもらえると嬉しいな。私の中では、『たんぽぽ娘』と同じか、それ以上に大切にしたいと思ってる本だから……」
ポツリと言う。
秀明も、将来の夢に関わる作品であるという彼女の想いを理解しつつ、
「それだけ大切に思ってる作品を薦めてくれて、オレも嬉しいと思うよ───。しかも、自分の好みに合う物語だったから、余計にね。それに、何と言っても、作者のティプトリー・ジュニア本人に興味をひかれたから……。作家個人に、あんなに魅力を感じて、興味を持つことは、もう今後の人生でもないと思うわ」
自らの想いを語った。
亜莉寿は、秀明の言葉に苦笑しつつ、
「相変わらず、大げさに語るなぁ、有間クンは……。でも、そんなに想ってもらえるなら、ホントに読んでもらえて良かったな、って思う。色々と熱心にティプトリーのことを調べてたみたいだしね。それが、きっかけで、我が家にも来てもらうことになったし───」
彼女の言葉を聞きながら、秀明は、意を決した様に告げた。
「その、亜莉寿の家に初めて行かせてもらった時のことなんやけどさ───。オレが、あの時、どんなことを考えていたか、ちょっと、話しをさせてもらって良いかな?」
秀明の思いがけない言葉に、意表をつかれた亜莉寿は、少し戸惑いながらも、
「……うん。それは、構わないけど───」
と、応じる。
「ありがとう!───と、その前に、かなり話しも長くなってしまってるし、コーヒーのおかわりを頼もうか?」
そう言って、秀明は、店内のウェイターに声を掛けた。
おかわりの注文に応じたウェイターは、すぐに二人分のアイスコーヒーを配膳してくれた。
コーヒーを受け取った秀明は、仕切り直しができたといった感じで、亜莉寿に向き直り、再び語り出す。
「亜莉寿に、家に来ないか、って誘われた時、行かせてもらって良いのか、実は、かなり迷ってたんよ」
「どうして?私の方から提案したことなんだから、別に問題ないと思うんだけど───」
亜莉寿のしごく当然の疑問に、秀明は答える。
「うん。普通に考えれば、そうなんやけど───。ここからは、一方的な自分語りになってしまうかも知れないけど、勘弁してな」
やや困惑しながらも、首をたてに振った亜莉寿の様子を肯定、と捉えて秀明は、自分の過去の経験について語り出した。