シネマハウスへようこそ   作:遊馬友仁

98 / 113
第14章~Basket Case~④

「うん───。あと、一学期のことで印象に残ってるは、『耳をすませば』を観に行った時と、その放送回かな?」

「私も、あの放送の時は、良く覚えてる!あの頃から、何となく収録で話していて、楽しく話せてるな、って手応えみたいなモノを感じることができた気がするから───」

 

亜莉寿も、秀明に同意する。

 

「そうやね。あと、『耳をすませば』で思い返すのは───。亜莉寿は、あの映画の月島雫と天沢聖司の二人に共感していたのかな、って……」

 

秀明が、ためらいがちに話すと、

 

「良く覚えてるね、有間クン。確かに、あの映画では、雫ちゃんと聖司クンに感情移入しながら観ていたな~。でも、私が映画を観て泣いていた、なんてことまで、映画紹介の時に言う必要はないんじゃない(微笑)?」

 

彼女の例の微笑みに、秀明は即座に謝罪しつつ、

 

「いや、ホントあの時は、申し訳なかったです。確かに、個人的なことは校内放送で言うべきではないよね───。ただ、あの後、オレもアリス店長に、ラブコメ映画ばかり借りている、って個人情報を暴露されるというカウンターパンチを喰らったけど……」

 

と、自らも無傷ではなかったことをアピールする。

一方の亜莉寿は、あくまで自分に非はないとの主張を曲げない。

 

「それは、有間クンの自業自得ね。余計なことを言わなければ、私だって有間クンの趣味を曝すつもりはなかったもの」

 

彼女の言動に、秀明は苦笑しつつ、

 

「それでこそ、亜莉寿らしいわ。まあ、自分が番組の中でイジられるという流れが確立されたし、高梨センパイからも内容に、お墨付きをもらえたから、ケガの功名としておこうか」

 

と振り返る。

 

「私らしい……、って有間クンの中での吉野亜莉寿は、どういう評価なの?」

 

笑いながら問い掛ける彼女の質問はスルーして、秀明は話題を次に移す。

 

「夏休みのことは覚えてる?亜莉寿に、《課題図書》を渡されたけど?」

 

秀明の急な振りに、

 

「うん!ティプトリー・ジュニアの文庫本を一気に読んでもらったよね!」

 

亜莉寿は、戸惑うことなく反応する。

 

「そうそう!内容が難解な話しもあったから、読んだ短編のすべての物語を理解できたとは言い切れないけど───。亜莉寿に感想を聞いてもらった何編かについては、自分の人生の中でも、思い出に残る物語になると思うな」

 

そう語る秀明の言葉に、亜莉寿は、

 

「───あらためて、そう言ってもらえると嬉しいな。私の中では、『たんぽぽ娘』と同じか、それ以上に大切にしたいと思ってる本だから……」

 

ポツリと言う。

秀明も、将来の夢に関わる作品であるという彼女の想いを理解しつつ、

 

「それだけ大切に思ってる作品を薦めてくれて、オレも嬉しいと思うよ───。しかも、自分の好みに合う物語だったから、余計にね。それに、何と言っても、作者のティプトリー・ジュニア本人に興味をひかれたから……。作家個人に、あんなに魅力を感じて、興味を持つことは、もう今後の人生でもないと思うわ」

 

自らの想いを語った。

亜莉寿は、秀明の言葉に苦笑しつつ、

 

「相変わらず、大げさに語るなぁ、有間クンは……。でも、そんなに想ってもらえるなら、ホントに読んでもらえて良かったな、って思う。色々と熱心にティプトリーのことを調べてたみたいだしね。それが、きっかけで、我が家にも来てもらうことになったし───」

 

彼女の言葉を聞きながら、秀明は、意を決した様に告げた。

 

「その、亜莉寿の家に初めて行かせてもらった時のことなんやけどさ───。オレが、あの時、どんなことを考えていたか、ちょっと、話しをさせてもらって良いかな?」

 

秀明の思いがけない言葉に、意表をつかれた亜莉寿は、少し戸惑いながらも、

 

「……うん。それは、構わないけど───」

と、応じる。

 

「ありがとう!───と、その前に、かなり話しも長くなってしまってるし、コーヒーのおかわりを頼もうか?」

 

そう言って、秀明は、店内のウェイターに声を掛けた。

おかわりの注文に応じたウェイターは、すぐに二人分のアイスコーヒーを配膳してくれた。

コーヒーを受け取った秀明は、仕切り直しができたといった感じで、亜莉寿に向き直り、再び語り出す。

 

「亜莉寿に、家に来ないか、って誘われた時、行かせてもらって良いのか、実は、かなり迷ってたんよ」

「どうして?私の方から提案したことなんだから、別に問題ないと思うんだけど───」

 

亜莉寿のしごく当然の疑問に、秀明は答える。

 

「うん。普通に考えれば、そうなんやけど───。ここからは、一方的な自分語りになってしまうかも知れないけど、勘弁してな」

 

やや困惑しながらも、首をたてに振った亜莉寿の様子を肯定、と捉えて秀明は、自分の過去の経験について語り出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。