東方龍魂伝 ~ Battle of Fantasia 作:龍玉@MUGEN
Fateっていいよね
ズオッ!! と、彼方で爆発が起こった。
「キャッ!? また爆発……」
爆発は一時的に太陽よりも強く輝き、貸本屋「鈴奈庵」の娘、本居小鈴は思わず目元を隠す。
――事の始まりは、約十数分前まで遡る。
人里を地震が襲った。
プレートという概念が存在しないこの世界にとって、地震とは珍しい自然現象の一つであり、滅多に起きる事はない。よって、震度は3程度であったにも関わらず、人里はちょっとしたパニック状態に陥れられた。
そして里の人々は家の中から表へ飛び出したのだが――そこで震源が地下ではなかった事を思い知る事になる。
彼方に見える霧の湖で、高さ数百メートルに及ぶであろう水しぶきが上がっていたのだ。
「小鈴! 大丈夫だった!?」
「ああ阿求……全然大丈夫よ」
「よかった……あんたの家うち、立て付け悪いから……」
「……今なんか、そこはかとなく馬鹿にされた気がするんだけど」
稗田家9代目当主、稗田阿求が人混みを掻き分けて走ってきた。
鈴奈庵にはかなりマニアックな本まであり、稗田阿求本人が直々に本を借りて行く事も少なくなく、本居小鈴とは親友に等しい関係が結ばれている。
「どうせまたアレも記録するつもりなんでしょ。はい、双眼鏡」
「あ、ありがと。こんな物まであったのね」
「たまにお父さんが拾ってくるのよ。まさか、こんな所で役に立つとは思わなかったけど……」
遅れて走ってきた御伴が息切れしているのを余所目に、阿求は渡された双眼鏡に目を通す。
双眼鏡を通して見る目線の先には、紅い人物が居た。
「ねえ阿求、あの紅い人、どっかで見たことがある気がするんだよね……」
「――悪いけど、小鈴。その通りよ」
――嫌な予感が、的中した。
阿求は、紅い人物の服装と小鈴の意見を聞いて確信した。
彼女の額を、感じの悪い汗が伝う。
あの紅い化け物は――
「あれは――新神龍虎よ」
「え? でも色とか髪型とか違うし……それに、左手にあんな鱗は生えてなかったわよ? どう考えても人間じゃない」
「そう、彼女は
阿求の発言を脳内で数回反復した所で、小鈴のぽかんとした顔が急に驚愕一色に染まった。
「ええっ!? じゃあつまり、あの時は人間に化けていたと」
「――半分、当たりね」
「半分?」
阿求は双眼鏡を下げ、険しい表情のまま解説を加える。
「そう半分――というか左手だけ、と言った方が正しいかしら。あの時、妖力を感じたのは、何故か左手だけだったから――」
「あんたってそんな物まで見えるのね」
「9代にも渡って妖怪に取材していれば、否応なしにそうなってくるわよ。ただ――」
「ただ?」
そこまで言った所で、阿求は黙り込み、何か考えだした。
「何故左手のみだったのか……それに、地震までも起こす程のあの強大な力――」
そして数十秒考え込んだ所で、阿求はハッとした。
――家の書庫の何処かに、紅い化物に関する資料があった。
「小鈴! 双眼鏡ありがとっ!!」
「えっ!? 阿求、何処に――」
阿求は慌てて双眼鏡を投げ渡し、元来た道を駆け抜けて行った。
御伴も遅れてふらふらと走り出す様子を見ながら、小鈴は半分呆れたような口調で呟いた。
普段のように、いつものように、
「ほんっと、忙しいやつ……」
――全ての『終わり』が、すぐそこにある事も知らず。
◇◇◇
「ックハハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーッッ!!!! 力が!! 力が溢れるぞォーーーーーーーーーッ!!!!」
響き渡る狂笑。そして、爆風。
その狂笑と爆風の中心に、新神龍虎は居た。
「この無限に力が湧き出てくる感覚……こんなにも漲ったのは初めてだなァ!! ッハハ」
否、彼女は最早
目が痛くなる程深紅に染まった全身からは、他の生物は本能的な恐怖心が駆り立てられる程の威圧感を放ち、顔はまるで悪魔のような獰猛な笑みを浮かべている。
破壊の化身。狂気の具現者。血染めの悪魔。
そう比喩するに相応しい化物に彼女は成り果てていた。
化物はハアァ~、と満足そうに息を吐き、真っ赤な鱗に被われた左手を見つめる。
「この状態も今だけって事ァねェだろうし、あらかじめ名前でも付けとくか……」
そしてそのまま左手を持ち上げ、言う。
「あまりゴタゴタした名前でも言いにくいだけだしな――“
「………
狂気の笑みから告げられたその名前を、離れて戦闘を見ていた魔理沙は思わず反芻する。
あれが絶対的恐怖の状態の名前なのかと、考えるだけで全身の鳥肌が立つ。
突如、化物が何かを思い出したかの様に空を見上げた。
煙が晴れてきていた。
そして、化物が見つめる先には、青い球体で身を守り、怒りで顔をグシャグシャに歪ませたチルノ――正確には別のナニカ――がそこにいた。
「フン。間一髪だったようだなァ、誉めてやるよ。よくぞ生き延びた」
純粋に、嬉しそうな笑顔で拍手を送る龍虎。明らかな挑発だ。
『許さない……ユルサナイ……!!』
バカにされた。チルノを動かすのは、覚醒する以前から変わらないたったそれだけの理由。
ただ、バカにされる毎に、自分の存在定義を否定されてるような気がしたから――
『バカにするなァァァァアアアアアアアア!!!!』
遂に、青い化物の本性が剥き出しになる。
全身から邪悪な黒いエネルギーを吹き出し、眼光は深紅に染まる。
『雹符「ヘイルブリザード」!!!!』
そして、何を思ったのか前と同じスペルカードを発動する。
しかし、出現した結界の数が2倍以上に増え、放たれる弾幕の密度もより一層濃くなっていた。――はっきり言って、これはスペルカードルール違反のレベルだ。
だが、龍虎はその不可避の弾幕を前に臆する事なく、他人事のようにあきれたようすで溜め息を吐いた。
「また同じスペルカードとは……芸の無い野郎だ。……つかもう攻撃しなくていいっつったろーが……」
しかし、そう言いながら、彼女の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「まあ、いいか。丁度魔力の方も試してみたかった頃だったしなァ――」
遠距離でその見ていた大妖精だったが、龍虎の笑みを見た直後、彼女の肩が突如ビクッ!! と揺れた。
「魔理沙さん! 何か来ますよっ!!」
「うぐっ!?」
この時完全に呆気に取られていた魔理沙の服の首下を、大妖精がお構い無しに思いっきり引き伸ばす。
その間にも、龍虎の右手がゆっくりと持ち上げられてゆく。
「ほら魔理沙さん!! 早く早く!!」
「わ、わかった! わかったからイダイイダイイダイイダイ!!」
首が締められむせていた魔理沙を、大妖精は箒に股がり、バシバシバシ!! と背後から叩きまくる。
しかし、受け答えながら魔理沙は見てしまった。
持ち上げられた龍虎の指先が、
「滅拶『ジャイアントストーム』」
「クンッ」と上げられ――
――死んだ。
一瞬の無音。そして、白閃。
直後、想像を絶する爆発が起こった。
この時、魔理沙達の鼓膜が破れなかったのは奇跡と言えよう。しかし、その事を実感する間も無く、身を消し飛ばすような爆風が衝撃とともに彼女らを襲った。
「「うわああああああああーーーーーっ!!」」
赤外線によって肌が焼かれるような感覚を覚えながら、彼女らは嵐の中のビニール袋のように散り散りに吹き飛ばされた。
「くっ、そおおっ!!」
幸運な事に遠い場所だった事で巻き込まれなかった事に対する安堵と、何故もっと早く動き出せなかったかという悔しさを噛み締めながら、暴風の中魔理沙はなんとか体勢を立て直す事に成功する。
しかし、一緒にいたはずの大妖精の姿が見当たらない。咄嗟に振り向くと、そこには失神したまま吹き飛ばされてゆく大妖精の姿。
(間に合えっ……!)
魔理沙は魔力を全開にして、まるで洪水のような暴風を掻き分けてなんとか大妖精の下へ到達。タイミングを見計らって、左手で大妖精の襟元を掴んだ。
その後彼女は方向転換し、右手で帽子を押さえ、左手で大妖精を掴んだまま再び湖の方向を見据える。
その時の霧の湖上空は――火山が爆発したかのような爆炎と黒煙に包まれていた。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! オモシれぇなこれ!! 指振り上げただけでコレかよ!!」
黒煙の中から、
魔理沙達は既に5キロ近く龍虎達から離れてしまっていた。しかし、その絶叫は不気味な程克明に聞こえた。
(なんてバカでかい笑い声だ……!)
これじゃまるで怪獣映画だぜ……と、魔理沙は悪態を吐く。
実際、彼女自身現場にいるというのに、臨場感を全くと言っていい程感じていなかった。あるのはただ、極限までリアルを突き詰めたアトラクションをやっているような感覚。現実から逸脱し過ぎた戦いに、心の根底で目の前の事象を受け入れきれないでいるのだ。
しばらくして、風が少し止んできた。
風に逆らうので必死だった魔理沙に、やっと動ける程の余裕が出来る。
そして丁度良く、魔理沙の手にぶら下がっていた大妖精の目が覚める。
「ふぁ……?」
「おっ、気が付いたようだな」
「……あ! ありがとうございます、魔理沙さん」
「いやいや礼はいらないぜ。元言えば反応が遅かった私が悪かったんだし……。――それにしても、だいぶ飛ばされてきたな。ここからじゃ見えにくいし、戻るぞ、大妖精――」
深く気にかけないように敢えて軽くあしらった魔理沙。
しかし、彼女は大妖精が少し具合が悪そうにしている事に気付く。
「おい、大妖精?」
「……すみません、風に飛ばされた時に少し酔ったようで」
「……そうか。何も無理してまで見に行く必要は無いしな、お前はここで休んでな」
「わかりました、そうさせてもらいます」
魔理沙の気遣いに甘え、大妖精はここで離脱する事にした。
だが、ここで彼女の心にある疑念が生まれる。
「あの……今まで一緒に居た私が言うことじゃないとも思うんですが、一ついいですか?」
「ん……何だ」
「どうして、危険を冒してまで、あの死闘を間近で見届けようとするんですか?」
今更な気もしたが、どうしても疑問に思った。
あんな間近で見ていたら、いつ流れ弾が飛んできてもおかしくない。ついさっきもそうだ。一歩間違えれば直接死につながるリスクを負ってまで、あの戦いを間近で見る理由があるのか。それとも、見なければならない理由があるのか。
返答は、予想外のものだった。
「償い……かな」
「償い?」
「そうだ。大妖精、今更だが、お前に謝らなくちゃならない」
魔理沙は遥か向こうの爆炎を見たまま振り向かない。
その声は、少し悲しげだった。
「アイツにこの霧の湖を襲うように言ったのは、私なんだ」
「え……」
「修行に行き詰まっていたアイツに刺激になればいいと思ったんだ。ごめんよ。――だけど結果、この幻想郷をも滅ぼしかねない事態になってしった。だから私は、この戦いがせめて無事に終わるように見届けなくちゃならない。それでしか償えない」
「……」
何と言葉をかけたらいいか、大妖精にはわからなかった。
それぐらい、魔理沙はとんでもない物を背負っていた。
「大妖精、お前の親友、死なせはしない」
だから大妖精は、飛び立つ彼女を見送りながら、激闘が何も無く無事に終わる事を願う事しか出来なかった。
――場所を戻し、霧の湖上空に上がる黒煙の中。
その中心に近い場所で、新神龍虎は見上げたまま佇んでいた。
「……さっさと来いよ。今のヤツで終わりなワケがねぇよなァ?」
チルノの弾幕は龍虎のスペルカードで一弾残らず消し飛ばされ、今あるのはこの視界を真っ黒に染める黒煙のみであった。
普通の人間がこの黒煙の中にいたと有らば、目を開ける事すらままならず、数分とせずに呼吸困難に陥るであろう。しかし龍虎は、その中で普通に目を開け、普通に息をしている。まるで、彼女だけが別の世界にいるかのように。
辺り一面を包む濃煙は、しばらく経った今も晴れる兆しが見えない。今日の風速がほぼゼロというのもあるが、それほどまでに、爆発は強烈で広範囲に及ぶものだった。
その闇に等しい空間を、龍虎はただ呆然と見ていた。が、
突如、闇が切り裂かれた。
『アイシクルソードッ!!!!』
同時に斬撃が飛んできたが、龍虎は体を少し反らすだけで軽々とかわす。
闇が切り裂かれた先にいたのは、突撃してくるチルノ。そしてその両手に携えているのは、巨大な氷の剣。
彼女自身が覚醒以前に使った物よりもさらに大きく、刀身は自分の体よりも大きい。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「また剣か……ほんっとワンパターンだよな、オマエ。だからバカ呼ばわりされんだよ」
決死の表情で突撃するチルノとは対象に、あきれた表情でため息を吐く龍虎。
だが、チルノがついに目の前に達し、今にも剣を降り下ろそうと体を仰け反らせた時。
彼女が、微かに笑った。
「まあいい、こっちも
次の瞬間。
『……!?』
彼女は一瞬、理解が出来なかった。武器も何も持ってない龍虎が、生身で剣を受け止めるとは考えられなかったからだ。
だが、縦に降り下ろした剣を受け止めた
生身ではなかった。
受け止めたのは、防御するように交差した、両手から伸びる光の筋。
「叛剣『リベリオンエッジ』!!」
光の筋の正体は、恐ろしい程の気を集束させて作られた、ビームサーベルだった。
それでも完全に理解しきれなかった彼女の脳が、体の動きを止める。
「どうした? 続けろよ」
『!!』
龍虎の言葉で我にかえったチルノは、咄嗟に剣を引き抜く。
『ォォォォオオオオオオオッ!!』
そして、息つく間もなく始まった――乱れ斬り。
チルノの体がブレて見える程の超高速の連続斬り。
しかし、
「ハッハハハハハハハ!! なかなか良い動きするじゃねェか!! だが――」
それでさえ、龍虎は涼しい顔で、気の剣で全てを受けきってゆく。それも、
彼女には絶対的な余裕があった。この動きも、視覚にかなりの余裕があるから成せる必要最低限のかわし方だったのだ。
そして、次の瞬間。
「遅い」
プスッ、と。
ビームサーベルの先端が、チルノの額にわずかに突き刺さった。
『…………………………ッ!?』
チルノは一瞬硬直した後に、龍虎から突き放されたかのように後ろに引いた。
一瞬、何をされたのかわからなかった。
動きどころか、気配すらわからなかった。
そして、理解する前に感じた、痛み。
――速すぎる。
「――つまんねぇな、オマエ」
『!!』
龍虎の冷たい一言。
ビクッとチルノは気圧されるように、少し肩を震わせた。
「オマエは必死でやってんだろうが、オレからしたら無理矢理引き延ばしたアニメ見ているみてーな気分なんだよ。やってても萎えてくるだけだ」
龍虎は突き出したままであった腕を下ろし、
「このグダグダした展開を延々と続けるつもりはねぇし、オマエに付き合ってやる義理もない」
またも、呆れたように溜め息をする。――だが、
「――つもりだったが」
その表情に、凶悪な笑みが戻る。
「オマエにその反骨精神に免じて、もう10秒続けてやる。――当ててみろよ」
『ナニッ……!?』
悪魔の誘いに、チルノは一瞬たじろぐ。
――この時点で、彼女の脳内は「ヤツに本当に勝てるのか?」という疑念で埋め尽くされそうになっていた。
しかし、彼女は――わずかに残った復讐心に従った。
『ワタシヲ……舐メルナァァァァァアアアアアアアッッッ!!!!』
幻想郷の空を、復讐鬼の咆哮が響き渡る。
そして、二人の姿が虚空に消えた。
直後、
斬撃音と衝撃波の嵐が始まった。
影を置き去りにした彼女らの戦闘は、その空間に絶え間ない金属音だけを残し、巻き起こる衝撃波で雲を吹き飛ばした。
「10秒前……9……8……」
その金属音と衝撃波の中、不気味なカウントダウンが響く。
巻き起こった暴風によって、地上の木々が波打ち始めた。
だが、ここまでのスピードを出しておきながら、チルノの剣は未だ龍虎に届かない。
『クッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
彼女は狂ったように一心不乱に剣を振り続ける。
「……7……6」
それを龍虎は、カウントダウンをすると共に見事なまでの動きでかわし、受け流していく。
だが、しかし。
「……5」
カウントダウンが5に差し掛かった時、チルノが
「オイオイどうしたァ!! オツカレにはまだ早いんじゃねぇのかァ!?」
疲れた訳ではない。彼女は着いていくのは無理だと判断し、動きを読み取る為に瞑想状態に入ったのだ。
「勝てないかもしれない」という思想が頭の中にある今だからこそ出来る、冷静な判断だった。
「……4……3」
それでも、カウントダウンは無感情に進む。
龍虎自信も、チルノを惑わすように高速移動を止めない。
だが、
「……2……1!!」
残り時間が1秒に差し掛かった瞬間、チルノが無造作に剣を投げ放った。
「!!」
バキィン!! と、右手のビームサーベルで受けられたものの、チルノの剣が見事龍虎を捉える。
龍虎の動きが、一瞬止まる。意表を突かれた彼女が、睨み付けるようにチルノの方へ目を送った。
が、そこにチルノはいない。
『―――ウシロダァァァアアッ!!!!』
音も無く、彼女は後ろにいた。
――完全に捉えた。
――掛けに、ワタシは勝った。
確信と共に、チルノは剣を振り下ろした――
――ハズだった。
『――!?』
剣は、振り下ろされなかった。
否、正確には
いつの間にか、龍虎の左手の剣が振り上げたようになっていた。
そして振り向いた彼女の顔に浮かぶは、
狂笑。
「
直後。
バシュッ!! と、チルノの体が、瞬時に細切れにされた。
『…………カッ……!?』
そう思えるレベルの、超スピードだった。
気付くと、チルノの胸
そして、
「……烈剣『バーニングスラッシュ』!!」
焼却。
ズァッ!! という放出音と共に、チルノは跡形も無く消し飛ばされた。
が、瞬時にして龍虎の背後に冷気が集い、新たにチルノを形成し始める。それと同時に、右手には氷の爪が形成され――完全に再生する前に龍虎の肩口に目掛けて降り下ろされた。
しかし、その爪が龍虎を捉えるより一瞬速く。
バコォン!! と、大砲が放たれたかのような打撃音を響かせて、龍虎の裏拳が彼女の顔面に突き刺さった。
裏拳は彼女の顔面にめり込み、その少女のあどけなさの残る顔を醜く潰した。
『ガッ……アアアア…………ッ!!』
彼女は顔を押さえ、苦痛に悶える。
龍虎が振り向く。チルノを見下すように見るその顔には、狂気を孕んだ微笑が浮かんでいた。
「中々、いい判断だった……。完全にオレの虚を突いた一撃だったな、ヒヤヒヤしちまったよ……」
龍虎が、チルノを誉めるような言葉を言う。
しかしチルノは、嘘だ、と心の中で悪態を吐いた。
完全に虚を突いていたのなら、当たってていて当然だ。それをヤツは、まるでゲームの実況をしているような口調で言ってのけた。こいつは私をただバカにしてるだけなのか。それとも――
そこまで考えた所で、龍虎の言葉が思考を遮る。
「嘘を吐いている、と思ったか? いやいや、本当の事だ。じゃあ何故あの状況に対応できたのか、わかるか?」
読まれていた――
精神的に極限状態に追い込まれた彼女は、素直に龍虎の問いの答えを考え始める。
膝がガクガクと震えていた。それでも彼女は、何とか一つの答えを絞り出す。
『反射……神経……?』
己でも弱々しく感じる程に掠れた声だった。
無理もない。チルノの心境は、完全に蛇に見いられた蛙そのものであったからだ。
一方、答えを聞いた龍虎は、「やっぱりダメか……」と言って項垂れた様子で話を続ける。
「オマエみてェに猪のような突進しかしねェ単純脳にはちょっと難しかったか……いや、答えは実に単純なんだがな。いいだろう、この際ハッキリと答えを教えてやろう」
そして、龍虎きょうしゃは、絶対的自信の下に告げる。
実に残酷で、実に無慈悲な一言を。
「
氷精の背筋が凍りついた。
彼女は産まれて初めて、心の底から『絶望』というモノを思い知った。何も救いは無く、助かる道も何一つ無くて、ただあるのは絶対なる恐怖のみ。
――これが、『絶望』。
「テメェの勝つ可能性なんざ、最初ハナっから0%なんだよ。――イイ加減理解しろ」
生きている心地がしなかった。比喩ではなく、本能からそう思った。
「これが、『絶望』だ」
どこまでも冷たい視線からその言葉を浴びせかけられた瞬間、ゾワッ!! と、彼女の体が正体不明の力に襲われた。
『あ……』と、力の無い声が漏る。涙が止めどなく溢れ、全身の震えが止まらなくなる。
このレベルまで怯えるようになると、元々のチルノも、覚醒して出てきた別のナニカも関係なくなる。何しろ、本能から震え上がってしまったのだから。
「さて……と、この引き延ばしの展開にもそろそろ飽き飽きしてきちゃったし、もう終わりにしようぜ、チルノ」
覚醒する以前から不変であった、チルノの「勝利」への執念が、今ここで砕けようとしていた。
もう何もかも終わらせて欲しい。さっさと終わらせてくれ。早く自分を楽にしてくれ――
心の底からそう思った。
だが、そう心の中で嘆き続けている中。
(――本当にそうか?)
疑問が過よぎった。
それから絶望の中、彼女は自分を再確認した。――何の為に自分は今までやってきたのか、と。
そして、思う。
(――せめて、ヤツに一発だけでも……!)
龍虎の様子を再確認する。
ニヤニヤと、こちらを見ながら不気味な笑みを浮かべている。だが、その表情からして、完全に慢心している。
今だ! 今ならヤツにこの渾身の一撃を――
顔のダメージは、癒えた。
そして。
『チ……クショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
絶叫。
それとともに、顎を押さえていた右手を大きく振りかぶり、龍虎の肩口を目掛け猛スピードで降り下ろす。
決して砕けず、朽ちなかった執念。それの集大成。これが彼女の最後と言ってもいい、渾身の一撃。
だが、それよりも一瞬速く、圧倒的に重く。
無情に。無慈悲に。
ズドォッ!! と、悪魔の左拳が、彼女の鳩尾に背中が隆起する程深々と突き刺さった。
その華奢な体には有り余る程の拳の威力が、放射状にチルノの背中から突き抜ける。
『ゴッ……バァ……!?』
チルノは胃酸と血反吐が混じった液体をポンプのように吐き出し、ガクンと崩れ落ち、そのまま龍虎の腕にもたれ掛かるような体勢になる。
ズッ、と龍虎が拳を引き抜くと、チルノはそのまま自由落下を始めた。が、龍虎がチルノの頭を鷲掴みにし、それを許さない。
「そぉいやまだ実験の礼を言ってなかったな。ありがとよ。そしてすまなかった。これまで痛かったろ? 苦しかったろ? 辛かったろ? だがもう、そんな思いをしなくていいんだ」
頭を掴んだ手を目線の高さまで持ち上げ、ぶらさがっているだけで意識の無いチルノに語りかける。
依然変わらず、おちゃらけたようなふざけた口調だ。表情も同様に、演技臭いへらへらした表情だった。
しかし、その表情が、風に吹かれたかのようにふっ、と消え。
「――今楽にしてやるッッッ!!!!」
代わりに、今までにない程の狂気がその顔に満ちた。
失踪してました(断言)
尚、8ヶ月経っても文章力は相変わらずクズの模様
以下、スペカ説明
・滅拶「ジャイアントストーム」
街一つ消し飛ばした、我らがナッパ様の技。原作では「挨拶がわり」なので「殺」を挨拶の「拶」にした
・叛剣「リベリオンエッジ」
DBHにて、バーダックゼノSS3の技。他所で既に「スピリッツソード」と「サウザーブレード」が出たのでこれにした
・烈剣「バーニングスラッシュ」
メカフリーザを消し飛ばしたトランクスの技。正直スペカじゃなくてもいいと思う
本来なら大ちゃんは酔うだけじゃなくて吐いてもらう予定でした(黒歴史)