姉妹艦隊 『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』   作:シャルとグナ

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 さて本編はいよいよ海戦の始まりです。
姉妹艦隊が二十八cmの豆鉄砲で『グレードアトラスター』の四十六cmの巨砲に
どう立ち向かうか、お楽しみに!


5,先手必勝

 出港するのが最後になってしまったフローラ達の艦隊は全力でフォーク

海峡を目指してひた走っていた。

「先遣隊からの情報は? 事態は想定通り推移している?」フローラが艦

娘『シャルンホルスト』に聞いた。

「予定通りです。 残念ながら…。」艦娘の答えはあまり果々しいもので

はなかった。

<神聖ミリシアル帝国・海軍・艦隊は全滅、ムー共和国の戦艦隊も全滅か、

想定通りとはいえ『グレード・アトラスター』の力が際だつな…。>

フローラの心の中は複雑だった。

敗れたミリシアルとムーの将兵を悼む気持ちに嘘はなかったが強大な敵に

挑む事の高揚感に身体が打ち震えるのも確かだった。

<見て居なさいグラ・バスカル帝国、私達の『ジャイアント・キリング』は

半端無いわよ!>フローラは艦隊運動を『グナイゼナウ』に座乗するフレイ

アに譲り、自分は『シャルンホルスト』の光学照準装置の調整に入った。

『グレード・アトラスター』はレーダー射撃が可能だが『シャルンホルス

ト』はレーダーの装備はあるもののそれは対空用で主砲射撃は光学照準

のみだった。

海面は先程の乱戦が終わった後はまた鏡の様に平らに戻っていた、

そこを駆けるロデニウス連合王国艦隊、その艦上で光学照準器を調整し

ながらフローラは思った。

<何とか日没前に接敵したいものだ。 相手はレーダー射撃が可能だから

日が落ちても戦闘にあまり影響はない、しかしこちらは光学照準、太陽が

なくては不利だ。>フローラはまだ見えぬ『グレード・アトラス

ター』を睨み付けた。

「うん?」フローラは自分が覗いている測距儀の視界の内に微かな煙が

たなびいているのを見つけた。

「『グレード・アトラスター』発見! 一時の方向へ全速前進!」

「あいよ!」フローラの命令に全く遅れる事無く追従するフレイア、

艦娘『グナイゼナウ』は確認してから転舵すべきだと思ったが

フローラ、フレイアの息に合った行動に口を出せなかった。。

 

「大丈夫よ、任せなさい。司令と副指令は私達が及びもつかない死地を

潜っているわ。」

艦娘『シャルンホルスト』が妹の懸念を払った。

「敵艦位置、方位盤入力完了、二艦の同期終了、全砲塔:弾種

HESH!」フローラの命令が流れる様に『シャルンホルスト』と『グナ

イゼナウ』を繋いで行く。

方位盤とは端的に言ってアナログ機械式の射撃用コンピュータである、

光学式測距装置を持つ艦(『シャルンホルスト』等)は鐘楼最上部に

位置する測距儀を使って敵の方位、敵までの距離を測る、その他にも大

気温など様々な射撃に関係するデータが入力され中には地球の自転に

よるコリオリ力(りょく)の影響まで換算する物もあった。(大和級)

測距儀を使わない照準方法として代表的なのがレーダー射撃であるが

これは測距儀の変わりにレーダーを使うと言うだけであり射撃方位盤は

同様に使用していた。

ただ、夜間の測距が可能であり探照灯などの照射無しに敵を攻撃出来る

のは大きなアドバンテージだった。

「全砲塔、弾種HESH装填完了、射撃準備完了!」艦娘『シャルン

ホルスト』と『グナイゼナウ』より射撃準備完了の知らせが届く。

「撃て!」と叫びながらフローラは特製の二艦同時発砲ピストルの

引き金を引いた。

幾ら小口径の砲とは言っても二十八cmもの直径の砲弾を打ち出す砲で

ある、それが三連装砲塔三基、二隻で十八門あるのであるから『グレー

ド・アトラスター』は雨霰と降り注ぐ弾雨に慌てた。

しかも第一射目で狭叉である、更に驚くべき事には第一砲塔を中心に

二隻分の弾が弾着して来たことである。

ラクスタル達戦艦乗りの常識では考えられない位狭い散布界だった。

 

通常連装砲以上の砲塔を斉射すると一門だけの砲を撃った時より弾着が

散らばる、これを「散布界」と言って砲術長や砲手、照準手はこの「散

布界」の大きさを出来るだけ小さくしようと努力する。 

敵艦を「散布界」に捕らえる事を「狭叉」したと言い後はどんどん砲

弾を「散布界」に送り込めば一回の斉射で一、二発の命中弾が期待出来

敵艦を撃沈出来るのだ。

日本帝国海軍はこの「散布界を絞る事」に拘り、米国戦艦隊の散布界の

大きさの三分の一を実現していたと言われる。

これは米国艦隊の練度が低かった訳では無く、米国が多用した三連双

砲を同一砲架に装備した事にあると思われる。 同一砲架にすると三連

双砲の一門、一門の間隔を狭く出来、ひいては砲塔幅、艦体幅の減少、

全体重量の減少に繋がる妙案であった。

しかし、砲口の間隔も狭くなり同時に発砲すると飛翔する砲弾同士が

発生する衝撃波が干渉し着弾位置が散らばる傾向があったと考えられる。

日本帝国海軍は英国を手本としてきた関係上二連双砲を独立砲架に装備、

一門づつ発砲する交互撃ち方を多用したため砲弾同士の干渉は起き難く

小さい「散布界」を実現していた.

 

しかし、条約型巡洋艦(通称重巡)の建造後、この問題にぶち当たって

しまった。

青葉型偵察巡洋艦(備砲の関係で後に重巡に分類)の砲の命中率は十五~

十六%と良い成績を示していたが、砲を十門に増やしたにも関わらず

条約型巡洋艦の命中率は五~八%と全くお話にならない数値であった。

当時は前記した砲弾飛翔時の衝撃波干渉説など唱える研究者もおらず、

巡洋艦の艦体が細長い事による捻じれが主要因だと考えられた。

そして主砲群を一か所に集めてしまった「利根」型が建造され、大分

改善されたものの不十分であり帝国海軍の重巡の最終型である「最上」

型でもこの問題を引きづっていた。(鈴谷は解消)

しかし研究者の地道な努力で飛翔中の砲弾の相互干渉を解決する九八式

発砲遅延装置が実用化されこの問題は解決した。

これは斉射時、隣の砲との発砲タイミングを百分の三秒ずらす事で砲弾

相互が発生させる衝撃波の影響を受けにくくすると言うものだ。

完全な解決は見なかったが実用上は全く問題のないレベルに仕上がった。

 

当然、「斉射」を多用する『シャルンホルスト』・『グナイゼナウ』も

同じ問題を抱えていたが泊地提督の計らいで九八式発砲遅延装置が

全砲塔に搭載された。この装備が『グレード・アトラスター』の

砲術長に頭を抱えさせた驚異の狭・散布界実現に大いに貢献した。

「おい、敵艦隊の着弾点は一つしか見えなかった様な気がするが・・・。」

ラクスタルも二隻の戦艦が同一散布界を持つなどの非常識な現実は受け

入れられなかった。

「敵艦隊、距離四万二千m付近に接近、射撃出来ます!」測距員が勇み

こんで言った。

<このまま何もしないで撃たれっぱなしではこちらに被害が出なくとも

艦全体の士気に係わる・・・。>ラクスタルは三基の主砲塔全てに射撃準

備を命じた。

<まだ遠い、もう少し近づいてくれれば、水上レーダー射撃が使えるも

のを・・・。>ラクスタルは歯噛みをしつつ「ロデニウス連合王国

・艦隊」を睨んだ。

その時、ラクスタルの視野の端に在らざるべき光景が写った、何事か、

と、顔をそちらに向けてみるとあり得ないものが見えた。

全砲塔にラクスタルは左舷、ロデニウス連合王国・艦隊を指向する様に

命じていた、しかし第二、第三砲塔は忠実に命令を守っていたが、第一

砲塔は旋回せず、砲は前方を指向したままだった。

砲術長も異変に気付き、艦内電話を繋ぐも通じず、急遽伝令を第一砲塔

に走らせた。

<大丈夫、艦内電話の故障さ、敵艦隊の砲は二十八cm、こちらの四十

六cm砲対応の装甲は抜けない。>ラクスタルは自分を安心させようと

心の中で念じた。

「敵艦隊四万mまで接近!」測距員の声がラクスタルと砲術長の背中を

押す。

「第一砲塔の状況は不明だが敵艦隊がこちらの射程距離を割り込んでく

れたのは僥倖だ。 第二,三砲塔だけでも反撃する!」ラクスタルは受け

身の戦闘を嫌った。

四六cm四五口径三連双砲塔二基から六発の砲弾が飛び出しロデニウス

連合王国艦隊を目指す。

するとロデニウス連合王国艦隊は『グレード・アトラスター』の

発砲煙を観測すると『グレード・アトラスター』の射程外に舵を切った。

『グレード・アトラスター』の観測員は今放った六発の徹甲弾が全て

近弾となり、相手に届いていない事を告げた。

<くそっ、遠弾か命中弾を出せなければこちらの散布界に敵艦を取り

込め無い! 再び射程距離が縮まるまで辛抱するしかないのか!>ラクス

タルは拳を握りしめロデニウス連合王国隊の方を睨み付けた」。




 フローラが光学測距に長けているのは彼女が宇宙艦乗りだからです。

地上ではレーダーは探知方法として有用ですが、宇宙での戦いは敵を
探知するのに時間の掛かるアクティブなレーダーより空間に満ちている
光によって敵を照らし出すパッシブな方式の方が探知時間は倍早いです。
しかも地上とは異なり視界は綺麗、天候の悪化の心配もありません。

もしかすると彼女達の召喚理由は光学戦闘に長けていたかもしれません。
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