姉妹艦隊 『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』 作:シャルとグナ
先程、砲術長が第一砲塔の様子を見に行かせた伝令が戻って砲術長の
耳元で見聞してきた事を報告した。
その様子からあまり良くない報告だと察したラクスタルは覚悟を決めて
砲術長の報告を聞いた
1.第一砲塔の装甲に破られたところは無いのに砲塔内の人員は全滅して
いた事。
2.装甲板の内側が剥がれて飛散し砲の俯禦機構や旋回機構に挟まって作
動不能になっている事。
3.人員を再配置しても第一砲塔の能力は取り戻せない事。
報告を聞いたラクスタルは黙っていた。
本心は叫び、そこら中の艦橋要員に当たり散らしたくなっていたが、今
そんな事をすればただでさえ下がっている『グレード・アトラスタ
ー』の士気が更に落ちてしまう。
兵器の能力を最大限に発揮させるのは人の力だと言う事をラクスタルは
理解していた。
測距儀で『グレード・アトラスター』の様子を観察したフローラは艦娘
『シャルンホルスト』に次なる命令を発した。
「全砲門発射用意、目標『グレード・アトラスター』上部構造物、弾種
S式榴弾!『グナイゼナウ』も同様!」
「全艦砲撃準備完了!」艦娘『シャルンホルスト』が準備が出来た事を
伝えるとフローラは測距儀を再度覗き『グレード・アトラスター』の位
置が変わっていない事を確認すると発砲ピストルを構え引き金を引いた。
ここで戦艦が海戦で用いる砲弾の種類について説明する。
これは戦車も同じだが、発射された時の運動エネルギーを破壊に用いる
「運動エネルギー弾」、
実際には徹甲弾や徹甲榴弾がそれにあたる、力で装甲を破るものだ。
もう一つは弾着時に爆発して破壊をもたらす「化学エネルギー弾」、
これは普通の榴弾、成形炸薬弾(HEAT)、粘着榴弾(HESH)に
大別される。
この二つにはその弾の威力の源の性質上、大きな違いがある、「運動
エネルギー弾」が弾を遠くに飛ばす程、装甲を破れる力が減っていく
のに対し「化学エネルギー弾」は射線のどこで爆発しようとも威力は変
わらない点に特徴がある。
ロデニウス連合王国艦隊が『グレード・アトラスター』の第一砲塔に
見舞ったのはHESH、粘着榴弾であった。
これはプラスチック炸薬に弾底信管を取り付け着弾して少し後に爆発、
圧力波が装甲の内部に浸透しポプキンソン効果により装甲板の内側に
スポール破壊を起こさせ装甲の内部を引き剝がして装甲板の破片を
ばらまく事で人員や装置に損害を与えると言う凶悪なものであった。
現実世界では戦後登場した兵器であるがIFの世界として艦砲用
粘着榴弾があったらどうなるかを考えて登場させてみた。
もう一つの「化学エネルギー弾」の代表である成形炸薬弾(HEAT)
は貫通装甲厚は大きいが貫通口が小さく戦艦の砲塔の様な大きな目標
の破壊には向かないと判断し採用を見送った。
さて、ロデニウス連合王国艦隊が次に使用する「S式榴弾」とは何か、
こちらは名称は架空だが実在したものである。
一番活躍したのはなんと日露戦争時の帝国海軍の秘密兵器としてであっ
た。
その名は「下瀬火薬」、徹甲弾の威力が装甲の防御力より劣っていた
当時、ロシア海軍に立ち向かう大日本帝国海軍は接近戦にならなければ
使えない徹甲弾ではなく榴弾で勝負する事にした。
しかも当時の常識を超えた破壊力を有する「下瀬火薬」を炸薬としたが、
これは海軍参謀「秋山真之」の立てた日本古来の水軍の戦法の研究によ
るものと思われる。
日本も水軍特に中世に瀬戸内海で勢力を延ばした「村上水軍」は敵船を
奪う「乗っ取り」が主流だったが「村上水軍」を秀でた者にしていた
のが「焙烙(玉)」と呼ばれる爆発物を投てきする武器であった。
当時の船は木造船であったので「火矢」で簡単に着火出来たと思う人が
多いと思うが実際に木造船に使われている太い木材に着火させる事
は難しい。
しかし、爆発物であれば太い木を使った船も破壊し、爆発物の内容を焼夷
効果のある物に変えれば安宅船の様に巨大で頑丈な船を燃やす事が出来た。
「秋山真之」はそこから日本古来の海戦戦術を読み取ったのではないか
と思われる。
もちろん日露戦争の前に戦われた日清戦争でも小口径だが速射性の高い速
射砲で敵艦隊を焼き尽くしているがこの時、大日本帝国海軍は清国の戦艦
「鎮遠」「定遠」の主砲三十cm砲を上回る三十二cm砲を一門だけ積ん
だ砲艦三隻で対抗しようとした。
結果はこの三景艦(「松島」「厳島」「橋立」)の主砲は役にたたず、
補助的な目的で装備していた十二cm速射砲を撃ちまくり結果的に「焼討
戦術」を行使する事になり重装甲だった清国戦艦「鎮遠」「定遠」の装甲
は抜けなかったがそれ以外の薄い鉄板で作られた
上部構造物は完全にスクラップと化し戦闘継続は不可能になってしまった。
「秋山参謀」は日清戦争の黄海海戦を分析し、そこから小口径砲による
「焼討戦術」の有効性に気付き、日露戦争時は各海戦に「焼討」に最適な
「下瀬火薬」を多用した。
『貫徹出来ないなら焼き尽くして機能を奪う。』これが大日本帝国海軍の
日露戦争時の戦術であり、これはそのままロデニウス連合王国艦隊の対
『グレード・アトラスター』戦術であった。
「少し『散布界』を広げて敵艦の上部構造物全体を目標とする。 弾種
『S式榴弾』、装填良いか?」フローラが確認する。
「第一砲塔、良し!」「第二砲塔、良し!」「第三砲塔、良し! 全砲塔
装填完了!」艦娘『シャルンホルスト』が報告する。続いて艦娘『グナイ
ゼナウ』も装填完了を伝える。
フローラが最初の宣言通り、二隻の戦艦の射撃統制装置を操作して散布界
を極限的に絞ったものではなく敵艦の全長が収まる位の緩い散布界に調整
して二艦同時に射撃を開始した。
海面上はかなり夕闇が垂れこめて来て光学測距での砲戦は難しい状況に
なって来ていた。
だがここでロデニウス連合王国艦隊の執った戦術は非常に有効だった。
自艦隊を東に敵艦を西になる様、占位したのである。 こうすると自艦
隊は闇に紛れて視認し難くなり、敵艦は夕日に照らされシルエットとなっ
てくっきりと見えるのだ。
『グレード・アトラスター』にはレーダーがあるのでこのハンデは無いと
考えがちだがグラ・バスカル帝国のレーダー技術は電波戦の概念も無い
未だ初期のもので方角はまだしも
距離の計測は測測距儀の方が勝っているくらいであった。
『グレード・アトラスター』の上構左側面に次々に着弾する「S式榴弾」、
榴弾だから上構側面で炸裂するのは判る、しかし、「S式榴弾」は炸裂後
でも炎が直ぐには消えない様に見えた。
『グレード・アトラスター』の戦闘艦橋では「S式榴弾」の大量被弾の
衝撃を受けて艦長以下
艦橋要員は全て床に投げ出された。
「くそっ、被害報告!」ラクスタルが士官たちに被害を調べさせる。
左舷後方を担当する士官が声も無く一、二歩下った。
「どうした!」ラクスタルは報告を求める、が、その士官は床に蹲り、
右手で自分が観測した窓を震える手で指差し「鉄が、鉄が燃えて・・・。」
とやっと言った。
ラクスタルはその窓を開けて外部を良く見ようとしたがすさまじい熱
風に襲われ窓を開け続ける事は出来なかった。
しかし僅かな時間観測した上構左側面は高角砲、機銃共に榴弾の爆風に
砲座銃座の覆いは吹き飛ばされ多分操作要員は全滅していると考えら
れた。
また、幾つかの高角砲は砲身から炎を上げていた。
ラクスタルもギョッとしたが、彼は鉄が燃えている訳ではなく、砲身の
塗装が熱で気化、燃焼していると分析し、次なる作戦行動を指示した。
S式榴弾に使われている下瀬火薬は純ピクリン酸火薬です。
非常に鋭敏で砲弾が海面に落ちたり、敵艦の索具に触れただけで爆発します。
特に鉄に触れると三千度の熱を放って爆発します。
戦艦「三笠」と戦艦「陸奥」はこの下瀬火薬の取り扱いに不備があって
爆沈したとも言われています。