DRIFTERSの主人公が舩坂弘だった話 作:BOMBデライオン
舩坂を始めとする漂流者、通称ドリフターズが異世界に飛ばされる時に通る場所──突き当たりが見えない異常に真っ白な廊下と、両側に無数の扉しか存在しない空間。
そんな廊下のど真ん中に、『彼』は堂々と居座っていた。
「…何の用だ? 『
座ったまま、火のついたタバコを咥えたまま、下界の状況をリアルタイムで読むことが可能な摩訶不思議な新聞を読むついでに、彼は問う。
彼の目の前にあった真っ白な空間は、先程とはうってかわって漆黒の廊下とワイヤーフレーム状の扉が無限に続く黒ずくめの空間へと変化しており、その暗闇からは黒装束の女性が姿を現し、こちらに近付いていた。
「まだそんなムダな足掻きをしているのね『紫』。貴方がいくら頑張っても全ては無駄な事なのに」
挨拶も無しに、その女性は初手からキツい言葉を投げかける。まるで全ての勝敗がすでに決しているとでも言いたげな表情と、すでに勝ち誇ったような口調で、彼女はそう言った。
「貴方がいくら頑張った所で、貴方がいくら
彼女は男性をナメきった態度で微笑む。
だが、男は全く動じない所かむしろ哀れみを含んだ目で彼女を見つめた。
「失せよ『EASY』、哀れな女よ。決してお前の好きにはさせぬ」
廊下の中央にある椅子にドッシリと構えたまま、火のついたタバコをふかし、表情をピクリとも変えない『紫』からの挑発。
男の「決意表明」とも「宣戦布告」ともとれる発言に『EASY』はその整った顔面に獰猛な笑みを浮かべて、喧嘩を買う。
「やれるものならやってみなさい、貴方の
彼女がパチッと指を鳴らすと、男の新聞はみるみるうちに記事を改変していき、一面の見出しは『黒王、南征を開始さる』へと変わってしまった。
廃棄物の王による世界廃滅の旅が始まりを告げる。
「…ならばこちらも対抗馬を出すまでだ」
舩坂達がいる古城から遥か北の彼方に位置するカルネアデス王国。その北端に位置する国境要塞は、ゴブリンやコボルトを始めとする化物達の南下を数百年に渡って阻止し続けていた。
高く堅牢な城壁に、無数の防御機構から来るその高い防御力はこの城塞都市に「カルネアデスの北壁」の異名を付ける程であり、ここはまさに人類を人ならざる者から守る最初で最後の砦であった。
「…とうとう来てしまったか」
北壁の上で、ドリフ安倍晴明は拳を握り締める。
城壁の上に登ってようやく見える微かな土煙。それは、地平線の向こうから災厄の軍勢の来訪を告げる終末の狼煙であったのだ。
「
「数百年もこの壁を越えられなかった化け物どもに今更何ができると言うのだ? はっはっは」
カルネアデスの兵がぶつける率直な疑問に、彼の顔が強ばった。
軍事に関しては素人の晴明でも、この調子では彼らは2日と
「どうしますか、師匠」
隣に立つ
「ここは任せた。私はカフェトの方に行く」
「あの兵士と画家ですか」
「そうだ、幸いにも片方のドリフは軍人だ。彼にここの指揮権を渡す」
晴明は早足でカフェトのいる部屋へと急いだ。
黒王の率いる化け物の軍勢は刻一刻と迫っており、モタモタしていると取り返しのつかない事になるのは容易に想像ができていたのだ。
「──ふざけた事を言うでない!!」
部屋に入った途端に目に飛び込んできたのは、部下カフェトがカルネアデスの指揮権を有する人物とその取り巻きに罵声を浴びせられている光景であった。
「その変な格好をした妙なドリフ共に兵の指揮を渡せだと?! バカな事を言うな!!」
カフェトが説得を試みているこの城塞都市の最高指揮官は、ビッと部屋の隅にいるドリフ2人を指さした。
その指先には、片方はキラキラと輝く目で小銃の手入れをする第一次世界大戦時のイギリス兵、そしてもう片方は無言で
「ですが彼に兵を委ねなければ負けます」
「たかが魔導結社ごときが我々を愚弄するか!! 確かに心に響くような絵だが、絵が上手いだけのドリフに何が出来ると言うのだ!!」
「しかし────」
議論は加熱するも、平行線を辿る。カルネアデスの人間が放つ罵詈雑言の嵐が十月機関の人員に降り注ぐのを見て、晴明は全てを諦めた表情をその整った顔に浮かべた。
「へい、そこのジャパニーズ。一体なにをモメているんだ?」
フランスのロマン主義を代表する画家、ドラクロワはあまりの喧騒ぶりに思わず筆を置いて晴明に尋ねる。
安倍晴明は画家の方には大した期待をしていなかったので、この話題に興味を持ってくれたのが軍人の方でない事に不服そうであった。
「いえ、そのう…そこの軍人さんにここの指揮権を渡そうと」
彼はヘンリー・モーズリーと名乗る
「は! 軍事に疎い俺でもそんなん無理だってわかるぞ? いきなり現れた素性の知れない余所者に指揮権を渡す奴がどこにいると思ってんだ。ジャパニーズはサムライの末裔じゃないのか?」
「いえ、私それよりも前の時代の人間なので…」
こんな事をしている間にも、災厄の軍勢はこちらへと近付いている。
指揮権を委譲する交渉もこれ以上は無駄だろうと晴明は判断し、手遅れにならいうちにドリフだけでも撤退させると言う手段を考え始めた。
──しかし、それはもう余りにも遅すぎた。
『こ…ちら…セ…ムです。廃城…の…ドリフ…3名が…動き…出』
水晶球が発した途切れがちの声がタイムリミットを告げる。
これの意味する所は、敵が〝魔導妨害〟を出来る範囲まで近づいていると言う事であったのだ。
「しまった! 来るぞ!!」
晴明が叫ぶや否や、城内が慌しく動き始める。
武器を持つあらゆる人間が壁上へと続く階段に殺到し、カルネアデスの指揮官らは十月機関の人間やドリフターズには目もくれずに立ち上がり、持ち場へと向かった。
「御二人、ここはもはやこれまでです。急いで脱出の準備をなさってください」
晴明は苦虫を噛み潰したような顔で言葉を発する。
勝てないような軍勢がすぐそこまで迫っているのなら仕方ないな、とドラクロワは創作活動の手を止め、筆を置いた。
「…せめてこいつは完成させたかったな。化け物共が俺の芸術を理解してくれれば良いが…行こうぜ、ヘンリー」
「ああ!? 戦場が向こうから来てくれたって言うのに、何で逃げるんだ!?」
「その頭の素晴らしい内容物をガリポリにぶち撒けて死んだマヌケが戦闘狂ぶってんじゃねえよ! そら行くぞ!」
「離せクソ野郎! 俺は戦うんだ! 何のためにノーベル賞捨てて戦場に行ったと思ってやがる! 俺は戦うぞ!」
「ジャパニーズ! こいつを運ぶのに手伝ってくれ!」
「はあ…?」
──その時だった。
内臓が揺さぶられるような爆音が大気を揺るがし、部屋の市街に面する側の壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちたのだ。
幸いにも、先程の爆弾は城壁の一部分を吹き飛ばしただけで済んだようだったが、爆発は一回だけでは終わらずに、連続して何回も発生して様々な物体に影響を与えた。
「な…なんだあの怪物は…!?」
額から流れる血を拭い、安倍晴明は空を見上げる。
彼の目に映ったのは、かつて起こった大戦で東京を平らに均した『超空の要塞』。その巨体と四つのプロペラが発する重低音は人々の心に恐怖を植え付け、女子供も見境なく爆弾を叩き付ける恐怖の象徴が空を飛んでいたのだ。
誰がどう見ようと、あれは異界の兵器。つまり、あれを操る
十中八九エンズの攻撃に間違いないだろうが、非常に強力そうな戦略級兵器の登場に、あれが万が一にも味方であるという可能性を彼は捨てきれなかった。
「カフェト! ヘンリーさん! ドラクロワさん! ご無事ですか!!」
「師匠! ドリフも全員無事です!」
「よかった! 早く脱出するぞ!」
「ですが北壁は…!」
「北壁は失陥した! もう保たない!」
事実、戦闘開始から僅か数分でカルネアデスの北壁は圧倒的な劣勢に陥っていた。先程の爆撃で指揮官ごと城壁の一部が倒壊し、指揮系統に壊滅的な混乱が発生していたのだ。
おまけにカルネアデス駐屯兵力の5倍、10倍以上はありそうな敵数が地上から津波のように押し寄せ、敵の操る竜が空から火炎放射を行うたびに、数十人から数百人にも達するだろう味方の焼死体が出来上がるのである。
人類側から見た戦況は絶望そのものであった。
「
戦場を飛ぶオウムが人語を響かせる。
ゴブリン、コボルト、オークを始めとする地上の人ならざる者はそれに共鳴し、黒王の意のままに人類が生み出した全てを廃棄せんと一層鼻息を荒くした。
「参集セヨ! 参画セヨ! 全テノ権力ヲ黒王ヘ!! 全テノ権力ヲ黒王へ!!」
廃棄物の王〝黒王〟の率いる人ならざる者の軍勢。そして、あらゆる非人類は黒王を神のように崇め奉る。
「ご苦労だった、カーチス・ルメイ。空の同胞を貴殿に任せて正解だった」
『
「爆撃や火炎放射による被害が大きく、敵の士気は大きく下がりました。黒王様、畳みかけるなら今です」
ラスプーチンが提言し、これにてカルネアデスの命運はほぼ決する事となる。
彼の提案に黒王は小さく頷き、配下の
「土方、ロベスピエール、ジャンヌ・ダルク、ジルドレ、アタワルパ、アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ……ゆくがいい」
黒王の声に呼応するかのように、彼ら彼女らは歩を進める。
廃棄物による蹂躙がついにその幕を開けた。
「はっはー! ついにやりやがったな黒王!」
黒王の配下が進軍を開始した直後に、黒王の背後から戦場を見下ろしていた二角帽の男が笑う。彼はどこから調達したのか純白の毛の白馬に跨っており、生臭い温風に棚引く真紅のマントがよく似合っていた。
黒王は彼に向かってゆっくりと振り向き、貴殿はどうするつもりだと聞く。
「我か? 我はそうだな──」
南征開始直前に、黒王一派の前に流れて来た人物──余りにも知名度の高い英雄の登場に、ラスプーチンは今でも鳥肌が止まなかった。
世界で最も有名かつ、戦に勝利した回数が多い武将でもあるフランス第一帝政の創始者は、この世界では「これ」を理念に行動する。
「──より後世に名を残さそうな側につく!!」
自信満々に彼はそう言った。
「……ナポレオン・ボナパルト、お前はどちらだ」
擦り切れたローブを深く被る黒王の目線の先には、最も有名なフランスの英雄、ナポレオン=ボナパルトの姿がそこにあったのだ。
「言っただろう、より歴史に名を残せそうな方だ!!」