DRIFTERSの主人公が舩坂弘だった話   作:BOMBデライオン

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4話:紫電×虎×ジェリコのラッパ

 夜は暗い。例え月が出ていようと、電気が暗闇を駆逐する以前の世界は真の闇に包まれている。

 

 だが闇を打ち払うのは電気だけではない。

 今宵の空は曇天、手を伸ばせばすぐにでも届いてしまいそうな暗雲は何よりも黒く、直下でメラメラと大きな炎をあげて燃え盛るカルネアデスの城塞に照らされ、雲は灰色を混ぜたような赤色に染まっていた。

 

「射て! 射てェ! どんどん射て!!」

 

「化け物を寄せ付けるな! 矢を放てッ!!」

 

 壁上では大勢の弓兵が化け物の軍勢相手に必死に矢を放って応戦してはいるが、矢もそれを放つ人員も有限である。誰の目にも、いつかは敵の物量に押し潰されてしまうのは明らかだった。

 それに迫り来る脅威は陸上の化け物だけではない。

 

「──あッ!!!」

 

 敵のワイバーン()による火炎放射。先程からこれがカルネアデスの防衛戦力に致命的な損害を与え続けていた。北壁は城壁が真っ直ぐであるが故、壁沿いに襲って来る炎を完璧に回避する事は不可能なのである。

 おまけに空から空挺部隊を送り込む黒王軍側の龍挺作戦(ドラボーン)といった作戦により、空からの奇襲を微塵も想定していなかったカルネアデスの兵士は為す術もなく狩られて行き、戦況は時間を追うごとに黒王軍側へと傾いていく。

 

 ──脅威はそれだけでない。

 

「北門が破られた!! すぐに兵をまわせ!!」

 

 廃棄物(エンズ)である土方歳三により分厚い城壁はバラバラに斬り刻まれ、カルネアデスの北壁はついにその懐に敵の侵入を許す事となる。

 

 その穴を塞ごうと剣を抜いた兵士は、直後に土方の両隣に出現した霧のような人影──今は亡き新撰組の隊士によって瞬く間に斬死体へと姿を変えてしまった。

 さらに別門からはジャンヌ・ダルクとジルドレが突入、彼らの異能により付近の全ての人や建物は豪炎に包まれて灰燼と化し、その一方でアナスタシアは猛吹雪を引き起こして全ての敵を瞬時に凍結させる。

 

 惨劇はこれだけでは終わらなかった。

 

 土方やジャンヌらと同じく廃棄物となったロベスピエール──生前は革命直後のフランスで思想や意見の異なる者を次々に投獄、処刑するという恐怖政治を行い、ギロチンにより短期間で数万人の命を刈り取った恐怖の弁護士は、今世でも上空から無数の鉄の刃を落とし、あらゆる人間の首を切り落とし続ける。

 そしてアタワルパ──生前はインカ帝国の皇帝であったが、スペインからのコンキスタドール(征服者)によって捕縛、幽霊され、大量の金銀と引き換えに解放するという約束を反故にされたあげく処刑された彼は、黄金色に輝く純金の兵士を操り、逃げ惑う北壁の民を一方的に殺戮していった。

 

「アタワルパ殿、なぜ貴方は廃棄物に?」

 

 廃棄物(エンズ)となっても尚、紳士的な口調を続けるロベスピエールがそう問うと、アタワルパは自らの顔面をガリガリと引っ掻き、唸るように恨み辛みを吐露した。

 

「…何もかもが憎い。私を殺したあの男も、侵略者に対して無力な民も兵士も…自分自身もが死ぬほど憎い! 

 ああ! 皆死んでしまえ! 死んでしまえ!! 銀が錆びる程に殺し尽くしてやる!」

 

 彼が腕を大きく振るうと、地面から禍々しい金色の兵士が次々と生み出され、数秒も経たないうちに百を越える軍団が出現する。剣も槍も矢も弾く純金製の人形がカルネアデスの兵に襲い掛ると、数秒も経たないうちに死体の山が生み出された。

 

「はは! 当職も同意見です」

 

 死体の山を踏みつけ、ロベスピエールの顔はみるみるうちに狂気に歪む。彼がパチッと指を鳴らすと、まだ生き残っている人間に向かって、ギロチンを模した黒く輝く刃が上空から振り落とされた。

 哀れな犠牲者の首は彼の足元まで転がり、彼はその生首を思い切り蹴飛ばしてからこう叫んだ。

 

「これは黒王陛下を指導者とした、ある種の革命であります! 愚劣で野蛮なヒト(人類)が支配するアンシャン・レジーム(旧制度)とはもうおさらばです!」

 

 カーチス・ルメイの爆撃に、土方の新撰組の亡霊。ジャンヌの業火に、アナスタシアの全てを凍てつかせる猛吹雪。そしてロベスピエールのギロチンに、アタワルパの黄金の操り人形。

 すでに城壁内に侵攻している化け物の軍勢だけではなく、カルネアデスの北壁は廃棄物の異能を前に為す術もなく壊滅状態に陥り、市街は逃げ惑う民ごと火炎放射の餌食となる。

 四方八方を火と化け物に囲まれ、ドリフ2人を連れての脱出を試みていた十月機関(オクト)の人員すらも逃げ遅れていた。

 

「急げ! 脱出だ! 一刻も早く廃城のドリフたちと合流するぞ!」

 

 北壁がこれ程までに早く陥落するとは思いもしなかった。いや…逃げ遅れた事はどうでもいい。状況は最悪であるが、廃城に居る3人のドリフターズたちと合流さえすれば、まだ望みはある。十月機関の長であり、自身もドリフである安倍晴明はそう信じていた。

 

「ヘンリーさん! 私は符術で追っ手の足止めをします! 貴方は前方からの敵の排除を!」

 

「へへっ! 背中は任せるぞってやつか、極東の魔術師さんよ!」

 

 愛銃と即席の手投げ弾を手に、第一次大戦期のイギリス軍工兵であったヘンリーはニカッと笑みを浮かべた。実際、ヘンリー・モーズリーと言う兵士は戦場の中でも比較的安全な後方に勤務する通信兵であったため、彼自身、実戦の経験は全くない。

 だが、下手な鉄砲かずうちゃ当たるの理論でばら撒かれた鉛玉は、黒王軍の雑兵の何匹かの眉間を貫き、その仲間の戦意を削いだため、威嚇としては十分な効果があった。

 

 しかし、自身の創作活動のためにフランス革命の事を調べ尽くし、その副産物として市街戦についての知識がある画家、ウジェーヌ・ドラクロワだけは不安げな表情をしていた。

 

(建物と建物の間隔が狭く、細い道ばかり。そしてこの見通しの悪さ…まるでパリだな。道に大きめの家具を数点並べただけで馬車は通れなくなるぞ…!)

 

 事実、先程から小道に家具を並べただけのバリケードが増えている。まるでどこかに追い込まれているような気さえし始めていた。

 両側を燃え盛る建物とその残骸に阻まれ、逃げ道は前か後ろしか無い状況。おまけに後ろからはコボルトやオークが槍や剣を構えて迫っており、前方にしか逃げ道がない。

 

「しまった! 待ち伏せだ!」

 

 馬車を操るカフェトが悲鳴をあげたが、時すでに遅し。ドラクロワの予想は最悪の形で当たってしまったのだった。

 

「ボナパルト殿の言う通り、この道だったな…」

 

 ナポレオンによる敵の退却路予想と、土方の指揮により即席の馬防柵を建てて進路を塞ぐコボルトの集団。前方の道は敵に塞がれ、左右は燃え盛る建物で阻まれ、後方からは追っ手がジリジリと迫る。

 

 カフェトも己の符術を取り出して戦う姿勢を見せたが、顔には絶望の二文字がハッキリと浮かび上がっており、今にも泣き出してしまいそうであった。

 こちらには3人のドリフが居るとは言え、戦えるのは2人。おまけにその片方は天才とは言えただの陰陽師だ。戦闘に関してはド素人である。

 

 完全に〝詰み〟だ。

 

「もはやこれまでか…」

 

 彼が頭を抱え、そう思ったのも束の間──

 

『こちらも対抗馬を出すまでだ』

 

「「──!!!?」」

 

 耳慣れない声が一帯に響き、何も無かったはずの空間に見覚えのある石造り風の奇妙な扉が3()()現れた。

 その配分は赤い夜空に2つ、地上に1つである。

 

「どっちだ!? ()()()だ!?」

 

 希望の火が灯された表情で晴明は叫ぶ。先程の声の主は明らかに『紫』だ。彼だってこの世界の廃滅は望んでいない。十中八九、あれらはこちらの味方(ドリフターズ)だ。

 

「糞ッ糞ッ! なんだバカヤロウ! なァにが起きやがったあ!!」

 

1945 0801 菅野デストロイヤー直

 

「Rudel!! Geht es dir gut?!」

 

「Niermann! Ich bin sicher!」

 

1945 0507 ハンス=ウルリッヒ・ルーデル

1945 0507 エルンスト・ニールマン

 

 空の扉から現れたのは大日本帝国の戦闘機『紫電改』とナチス・ドイツの急降下爆撃機『Ju87G シュトゥーカ』であった。

 一方、地上では大地を揺るがすような巨大な鉄の塊が、獣の咆哮のような唸り声をあげて土方が率いる黒王軍部隊の前に立ちはだかっていた。

 大きな車体、重装甲、大型砲搭載の、かつてドイツ第三帝国が誇った最強の戦車が『紫』の手によって異世界へと召喚されたのだった。

 

「「な、なんだこれは…!」」

 

1944 0808 IV号戦車ティーガーE型

 戦車長:SS大尉 ミハエル・ヴィットマン

 操縦手:SS軍曹 ハインリッヒ・ライマース

 照準手:SS軍曹 カルル・ワグナー

 

 それはまるで鋼鉄の戦像。意図せずその長い砲身を向けられたコボルトらは見た事のない怪物の存在に恐れおののき、中には勇敢にも弓を引く個体もいたが、放たれた矢はカンと軽い音を立てて弾かれ、地面にポトリを落ちたのだった。

 

「師匠! あの乗り物の上部ハッチから人が! 何やら問いかけてきていますが!」

 

「西洋人か! ならばこの(ふだ)で会話は可能なはずだ!」

 

 今こそ自分の出番だと言わんばかりに、安倍晴明は自分で作った符術の札を取り出していた。

 この符術の札は彼がこの世界に来てから作った物で、これを貼れば例え異国だろうと異世界であろうと、たちどころにその言葉が喋れるという、様々な時代や地域から来訪するドリフターズを纏めるにはまさに必須と言ってもいい便利道具である。

 

「私は安倍晴明(あべのはるあきら)! その珍妙な乗り物に乗る人物に問う! 貴殿がこの世界に来る時、出会ったのはどのような人物か!」

 

 晴明が叫ぶと、ようやく理解できる言語を解せる者が現れたと、ティーガー戦車の砲塔上部からヴィットマンが顔を出した。

 

「私はSS(武装親衛隊)大尉ミハエル・ヴィットマンだ! 我々3人が道中で出会ったのは眼鏡にワイシャツの男だけだが、それが何なのだね!?」

 

「その情報、千金に値する! ヴィットマン殿、貴殿らは我々の仲間だ! 突然こちらにやってきて、突然戦えと言われても困るだろう! でも、でも…どうか助けてくれ!」

 

 晴明がそう言い切ると、辺り一帯が数秒の静寂に包まれる。ヴィットマンは無言で辺りを何周か見回した後、ようやく口を開いた。

 

「……ハルアキラと向こうのサムライは日本人か? そこのイギリス兵は何だ? 隣のお前は?」

 

 晴明と廃棄物の侍(土方歳三)を見る目はともかく、ヴィットマンのヘンリー・モーズリーを見る目は間違いなく敵を見る目であった。

 

(ちっ、前世界の因縁か。面倒な…)

 

 安倍晴明という人物が生きた平安の時代から約千年後の未来。その時代に何が起きたのか彼はほぼ何も知らなかったが、ヴィットマンの漂わせるタダならぬ空気だけで、彼らの間で何かしらのイザコザがあったのだろうと察した。

 

「ヴィットマン殿、こちらの方はヘンリー・モ…──」

 

 晴明がそう言いかけた時に、転機が空から訪れた。

 

「──ッ!! 伏せてください!!」

 

 直後、敵ワイバーンによる火炎放射が、ヴィットマンの乗るティーガー戦車を襲ったのだった。数千度の炎はティーガーの前面装甲に斜め上から直撃し、付近に熱波を散らす。

 後部のエンジン部分と比べて比較的気密性の高い前面に炎が集中した事は幸いであった。もし少しでもエンジンに熱が集中して故障をきたした場合、彼らの命運はそこまでだっただろう。

 晴明の叫びに咄嗟に反応し、即座にハッチを閉じて難を逃れたヴィットマンの反射神経にも賞賛を送りたい所である。

 

 そして、その一部始終を空で旋回しながら状況を窺っていた「菅野デストロイヤー」が見ていたのも、結果的にヴィットマン一味が安倍晴明に協力する一つの要因ともなった。

 彼が操縦桿を傾けると、『紫電改』は甲高い射撃音を鳴らしながら急降下し、先程ティーガー戦車を攻撃したワイバーンは蜂の巣となって叩き落とされたのだった。

 

「戦果『竜』一騎撃墜!!」

 

 真っ赤な日の丸に、黄色のストライプ模様を持った機体が地面スレスレを這った時、そんな声が聞こえたような気がした。

 

「ドイツ戦車に攻撃するってこったあ、手前(てめェ)ら全員墜ちやがれコノヤロウ! バカヤロウ! 

 好き勝手にボーボーやりやがってムカつくんだよバカヤロウ!!」

 

 たちまち、大空でワイバーンと紫電改とのドッグファイトが開かれる事となった。

 

「ルーデル、眼下のティーガー戦車から発光信号を確認した! 城外への脱出を手伝えってよ!」

 

「…理解した。制空権奪取はあの恐ろしく攻撃的な戦い方をする頼もしき同盟国人(ジャパニーズ)に一任するとしよう」

 

 言い終わるや否や操縦桿が傾けられ、スツーカ特有の独特な風切り音がカルネアデスの北壁に鳴り響く。連合国側の兵士から「悪魔のサイレン」の異名で恐れられた急降下爆撃機。それに30mm機関砲を無理やり取り付けた「大砲鳥」は、ルーデルに操られる事でその真価を発揮する。

 

 その威力や如何に。

 戦車さえも軽々と破壊する30mm機関砲弾によって、安倍晴明たちの進路を遮っていた雑兵は、直後に瓦礫と共に木っ端微塵にされたのだった。

 

「ハルアキラ、お前はこっちに乗れ! 道がわかる奴が後続に乗っててどうする!」

 

「…! かたじけない!」

 

 通常であれば5人乗りのティーガー戦車だが、ヴィットマンの乗る車両は通信兵と装填手がいない分のスペースが余っていたのだ。

 

「その代わり客人待遇とはいかせん。なに、俺と一緒にせいぜい数十kgの砲弾を装填する手伝いをしてもらうだけだ」

 

 この時点で人類がカルネアデスの北壁を完全に失陥するまで、残り時間はほんの僅かであった。

 

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