「我の奇跡魔法を更に伸ばすが良い、悪党」
「ほざけっ!」
ゴルメルは剣と盾を使い、アルトへと接近する。
アルトも魔法によってできた属性の武器を複数使い同じく接近した。
__混沌水魔法"
水で創成された三又の槍。
矛先から空気中の水分を含む水分を集め、荒々しく揺れる大海の如き水を纏わせながらゴルメルへと突き刺される。
一定方向に揺れる事はなく、嵐の時の津波がゴルメルの身体を理不尽に削っていく。
しかし、やはり"奇跡の英雄"によってまたもや強化されるが、アルトはそんな事などお構いなしに攻撃を続けた。
__混沌風魔法"
巨大な竜巻がゴルメルを襲い身体の部位という部位を何度も切り刻み続けながら、突風によって上空へと打ち上げられた。
__混沌空気魔法"八十神空撃"__
アルトはゴルメルの隣に"神速の歩み"で移動し、空気魔法による無数の巨大な拳の状態の空気の衝撃波がゴルメルを襲い王都から遠く離れた位置へと飛ばしていった。
__混沌時間魔法"
更には遠く離れた場所へと飛ばしたゴルメルの周りに刻限の数字が現れ、それがⅠからⅫの順に数字が集まり、数字がアルトの足裏に集まり纏われると、強烈なキックを上空からゴルメルの腹部に行なった。
「ガハッ!!」
ゴルメルが血反吐を吐きながら、アルトの強烈なキックを受けて地面へと叩き落とされた。
「ゴホッ! ゴホッ! フハハハハッ! いいぞ我にこれ程の強化を行なわせるとは‥‥」
土煙から現れたゴルメルは血反吐を吐いたかと思えば、すぐさま強化されて現れた。
その姿はまるでカルタゴの英雄・ハンニバル・バルカを思わせる様な服装と肉体をしていた。
「我をここまで強化させたのは貴様が初めてだ! 悪党よ!!」
ゴルメルはそう言うと両手を前に伸ばし、左手を弓を持つ様に固定し、矢を放つために右手を引いた。
すると、両手の間に無数の矢が凝縮していった。
__奇跡魔法"逆転の矢"__
光速に放たれた光の矢がアルトを襲うもアルトは"イクスティクション・レイ"によって分解消滅させ、ゴルメルの肉体全てを分解消滅させた。
ゴルメルが消えた事でアルトの勝利が決まったかのように見えた。
ゴルメルがいた場所から一筋の光が発し、すぐさまその光は巨大なものへと変化させ、一つの巨大な姿へと変貌させた。
巨人たるその姿はまるで神の使いの如く‥
「神の使いへと至った我によって滅びるが良い!!」
ゴルメルがそう言うと突然、アルトの身体に大きな孔が出来てしまった。
「ガッ‥‥!?」
ゴルメルは突然の事に驚愕しながらも、すぐさま"再生"を行使して一瞬で回復した。
「(なんだ‥‥今のは)」
「フハハハハッ! 驚いたか? 悪党よ! 我の"逆転の矢"は因果を逆転する奇跡を持った弓矢だ。我の奇跡の前では因果も死すらも意味は成さん!!」
自分の敗北を一切信じていないと言わんばかりな言葉を煌々と告げるゴルメル。
しかし、その言葉はアルトにとってコレまでにないヒントであった。
アルトは口元を少し上げて笑っていた。
「‥‥成る程‥そうすればいいのか」
アルトの言葉はまるで何かを設定するかのような物言いだった。
しかし、そんな言葉すら今のゴルメルにはまったく聞いて居らず、高らかに笑いながら攻撃をしてきた。
「コレで終わりであるっ!!」
ゴルメルが強化され、巨人となりながらも、圧倒的な身体能力による速度による移動からの、剣撃にアルトは自らの意志で、右腕の肘から先の部分を差し出した。
すると、右腕が切断された
「? なぜ右腕を差し出した?」
「簡単だ。その意味は‥‥‥こうだ!」
アルトが切り落された腕の切断面から一匹のドラゴンが現れた。
そのドラゴンは巨人となったゴルメルの腕に噛み付いた。
「なんのこれしき‥‥」
「誰が一匹だけと言ったんだ?」
アルトの切断面から新たに七匹の別々の姿形・色をしたドラゴンが現れた。
最初に現れたドラゴンが通常とすると、後に現れたドラゴンはそれぞれ盲目・単眼・四ツ目・骸炎・氷晶・槍状吻・天使型といった色々なドラゴンが現れゴルメルの身体に噛み付き始めた。
しかも‥‥‥
「‥‥どう‥いう‥‥ことであるかっ!? ‥‥‥」
ゴルメルは眉間に皺を寄せ、苦痛の表情を浮かべていた。
苦痛の表情を出している理由はアルトが出したドラゴン達にあった。
通常‥‥つまり基本型ドラゴンはゴルメルの魔法を解呪・精神攻撃し、盲目ドラゴンは恐怖と混乱へと陥らせ、単眼ドラゴンは毒の概念を有した牙で蝕み、四ツ目のドラゴンは幻覚催眠を引き起こし、骸炎ドラゴンはゴルメルのエネルギー‥‥生命力焼き命を吸収し続け、氷晶ドラゴンは強靱な氷で凍てつくし、天使型は肉体を塩化させていた。
八匹のドラゴンの能力にゴルメルは必至に奇跡魔法を行使するも、基本型ドラゴンによって無効化され続けて、強化された肉体が弱体化していき、魔法行使すらも盲目と四ツ目による精神への異常が来され、骸炎によって生命力を吸収され、肉体を氷と塩化に蝕まれ続けた事で、ゴルメルは元の状態へと戻され、更には命を蝕まれ、死がゴルメルを襲っていた。
「俺は、お前との戦いの中、ずっとこの魔法の深淵を覗き続けていた」
「‥馬鹿な‥英雄たる‥我の力が‥‥」
「今まで俺は、唯々魔法を使うだけだった。だが、奇跡という力を持ったお前を倒すために深淵を知る必要があった。感謝するぞ"奇跡の英雄"ゴルメル」
アルトはそう告げると、八匹のドラゴンにゴルメルの肉体を食いちぎらせて、食させた。
ドラゴンの口内に入ったゴルメルは消化されていき死んでいった。
ドラゴンが蜃気楼の様に消えていくと斬り落された右腕が元に戻っていた。
「‥‥フエゴレオン団長と合流するか」
アルトはそう呟くと、身体の向きをフエゴレオンの魔力を感知した東側へと向けて向かおうとしたが、四つの場所で黒い空間が噴火の様に飛び出した。
「あれはっ!? ‥急がないと‥‥」
アルトは空間魔法を見て焦りを感じ取り、すぐさま"神速の歩み"で向かって行った。
────────────────────────
ゴルメルとアルトが王都を離れながら空中戦を行なう最中、アスタは死体を操る魔導士と戦い、他の魔導士は国民を襲う死体を破壊し終えていた。
しかし、そんな中、[紅蓮の獅子王]団と[黒の暴牛]団や、死体を操る屍霊魔法の使い手__ラデスがいる場所を除く他の四ヶ所に突然と黒い空間がその場所にいた魔法騎士団員を呑み込んだ。
呑み込まれた黒い空間が消えると魔法騎士団員たちが王都から消えた。
そして、黒い空間に呑まれた魔法騎士団員たちは王都から数万㎞離れた平野へと転送され、まんまと敵の罠に掛ってしまった。
そんな王都から消えていった魔法騎士団たちの魔力消失に気付いたフエゴレオンとレオポルドとノエル。
「っ!? ‥他の魔法騎士団の魔力が消えた!?」
「どうなっている‥‥っ!?」
ノエルとレオポルドは魔法騎士団達の魔力消失に驚愕と困惑に襲われていた。
二人の呟いた言葉で魔力を全く持っていないが故に魔力感知も出来ないアスタは他の魔法騎士団に何かが起きた事を知った。
「────‥‥‥‥オレらの目的はな。お前だよ、フエゴレオン・ヴァーミリオン」
「なに‥?」
捕えたラデスがそう告げると、フエゴレオンの足下から先程魔法騎士団を空間転移させた空間魔法が彼を襲った。
黒い空間魔法に呑み込まれ行くフエゴレオン。
それを視認したレオポルドは拘束しているラデスの首元を掴んで、鬼気迫る気迫でラデスを尋問した。
「貴様アアアアア!! 兄上をどこへやったァ──────!!!」
「ハハハハハハッ!!!」
「何が可笑しい!?」
詰め寄るレオポルドにラデスは唯々笑うだけだった。
言うつもりなどないと、示しているかのように‥‥‥
「レオポルド! そいつは空間魔法の使い手じゃないわ!」
ノエルはレオポルドを冷静にさせる為に、ラデスの魔法ではないことを伝え、思考する。
ピンポイントでフエゴレオンを転移させたということは近くに術者がいるという事‥しかし、一体何処にいるのかわからずにいた。
しかし、アスタは迷うことなく、屍の山に走り出した。
「そこだァァ──────!!!」
断魔の剣で薙ぎ払られた屍の山から一体だけ、まるで避けるように飛び退き、上方向に空間魔法を開けて距離を取った。
屍の山に術者がいた事にノエルはとても驚愕していた。
「(死体の中に‥‥‥っ!?)」
「よく見破ったな。魔法で化ければ魔力で気付かれると思い、わざわざ小汚い格好に変装していたというのに‥‥獣のような奴だな‥だがもう‥終わったようだ‥」
空間魔法テロリストの言葉と同時に別の空間からアスタ達の前に何かが落ちてきた。
それに目を向けるアスタ達は、現実を受け入れられなかった。
「‥‥‥‥‥‥‥あ‥‥‥兄上ぇええええええ!!!」
「うぁああああああああ!!!」
レオポルドはフエゴレオンだと知り叫び、ノエルは悲鳴を上げた。
そしてすぐさまフエゴレオンの元へと駆け寄る二人。
しかし、フエゴレオンの右腕は切り落されており、別空間に落ちているのか、一緒に落とされる事はなかった。
フエゴレオンは右腕を欠如し、ダメージが大きく意識を失っていた。
ノエルは共に落ちてきたフエゴレオンの魔導書を見て、まだ生きている事を確認すると、彼女は着用している服の布を破り、彼の出血している部分に押し当てた。
回復魔法が使える者がいない為、応急手当しか出来ずにいた。
彼女の努力を無駄だと言わんばかりにフエゴレオンの魔導書の端が崩れ始めた。
「レオポルド手伝って!」
ノエルは魔導書が崩れた為に、時間がないことに焦りを感じ取り、レオポルドに手伝わせようとした。
しかし、レオポルドは兄が敗れた事に現実逃避という戦意喪失を起こし掛けており、動揺しまくっていた。
そんなレオポルドに拘束魔法が解けたラデスが魔力弾を放った。
「さっきはよくも嘗めた口利いてくれたなぁ‥‥!」
動揺しているレオポルドにラデスが襲い掛かり、魔力弾によってレオポルドは大きく壁に激突する。
「レオポルド!!」
次々に状況が悪化していく魔法騎士団。
「正しき心だぁ……!? 俺はいつだって自分の心に正直に生きてるぜ……!! あの世でほざいてなフエゴレオン・ヴァーミリオン……!!」
「目的は果たした……他の騎士団員が来る前に行くぞ……ラデス……」
「……待ち……やがれ……!!」
王都を襲撃したテロリストは空間魔法を使って逃げようとした。
しかし、それを止めるべく行動を再開したアスタだったが、ラデスとの距離が大きく、走って間に合う距離ではなかった。
「アスタとか言ったな‥テメェはそのうち絶対殺して俺のオモチャにしてやる‥‥!! 楽しみ待ってろクソガキィ────!!」
三流の負け犬が言いそうな台詞を残して逃げようとしたラデス。
そんなラデスを逃がさないために足を進めるアスタだったが、先程のラデスの操った死体の一体が持っていた呪力の効果が残っており、今尚出血しており、何時倒れても可笑しくない状態にいた。
「アスタ‥! もうムリよ!」
そんなアスタを思ってノエルは制止の声を上げるも、アスタは止まる事はなく、ラデスが逃げようとしている方法への対処法を考えた。
「(オレのこの剣は反魔法!!)」
自身の手に持つ大剣を槍のごとく投げ飛ばし、ラデスの足下に突き刺さる。
すると、反魔法が付与された断魔の剣は空間魔法を消滅した。
それによってラデスはその場から逃げる事が出来ず、アスタは身体能力を駆使して迫り、彼の頬に片手剣の反魔法の剣___宿魔の剣を使い傷を付けた。
本当ならば、頭にぶつけて意識を刈り取るべきだったのだが、アスタが負った傷が痛み狙いがそれてしまった。
「ぎゃああああ!! いてぇえ────! 何しやがるこのクソがぁああ」
「マズイな‥‥」
ラデスが斬りつけられた事で、これ以上の攻撃を受けるのは良くないと判断した空間魔法使いはもう一度空間魔法でラデスを逃がそうとするが、アスタは先程と同様に地面に反魔法の剣を突き刺すことで魔法を無効化した。
「人をあれだけ傷付けて……何言ってやがる──!! これが……痛みだ!!! お前が笑いながら罪の無い人に与えたモノだ──!!」
アスタは武器を離し、ラデスを殴りつけた。
殴られたラデスは更に傷を負う。
「‥‥やめろ‥傷負って血ぃ流すなんてのは弱者の証なんだよ‥‥!! 魔力で劣る奴は魔力で勝る者にいいようにやられりゃいいんだ‥‥特にお前のような魔力のないクズはなァァァアアア!!!」
ラデスは何度も傷を受けた事で逆上し、彼の有する膨大な魔力を使い、魔力弾でアスタを攻撃しようとするが、魔力弾を放つ前にアスタからの頭突きを受けた。
「それをさせねーために俺がいる!! そして‥‥魔力のない奴でも最強になれるって‥‥俺が魔法帝になって証明してやる!!!」
「ヴァルトス!! 何とかしろぉ──!!」
ラデスは自分の抵抗が空しくも終わっているが故に、仲間に助けを希う。
「出来たらもうしている‥‥反魔法‥思った以上に厄介だ。先にそいつ自体を片付ける必要があるようだな‥‥」
ヴァルトスはアスタを殺すべく、彼の背後の足下に空間を繋げて、魔力弾で殺そうとした。
しかし、それを阻止するべく復活したレオポルドの"螺旋焔"がヴァルトスを襲う。
ヴァルトスは間一髪の所を回避した。
「‥‥‥オレが‥取り乱してどうする‥‥!? どんな時でも冷静に‥‥ですねよ! 兄上──────!!」
立ち直ってはいないが、それでも自らを奮い立たせ戦うために立ち上がった。
それも先程の空間魔法で逃げようとしたラデスを逃がさないアスタの行動を見たが故なのだろう。
「どうしたものか‥‥」
「クソがぁあ──────」
アスタとレオポルドに囲まれて逃げるに逃げられないラデス。
ラデスを逃がそうとするも反魔法で邪魔され、アスタを殺そうにもレオポルドが邪魔をする。
他の魔法騎士団を別の場所へと強制転移させ、フエゴレオンを瀕死へと追い遣って形勢が逆転されたかの様に見えても、傷を負った獣たるこの二人の前ではラデスとヴァルトスは刈られる時を待つ獲物と変わらなかった。
しかし、そんなラデスとヴァルトスを助けるかの様に、更なる逆転が起きてしまった。
「来るな‥‥来るんじゃねぇ────っ!!?」
『情けない』
この場にいない第三者の声が響き渡った。
アスタやラデスたちの位置、たれたフエゴレオンと応急処置するノエルを覆うように白色の風が吹き荒れる中、数名の人影が現れる。
風が止むと、白を基調としたY字の黒の線に胸元に一直線に伸びた金色の線と真ん中に三つの目を模した刺繍が付けられたローブを羽織った者達が現れた。
「あの方からの報を受けて来てみれば‥このような者どもを相手に‥情けない────‥‥」
どうやら彼等はラデスの仲間の魔導士のようだ。
新たな敵の増援に一気に形勢が逆転されたアスタ達。
同時にアスタは先程までの戦いにて受けた呪詛魔法によって血を流し続けてしまい、既に立つこともままならぬ状態にいた。
そんな彼は先程、フエゴレオンに言われた言葉を思い出した。
【豪快さはお前の一番の武器だろうが冷静さを持て!】
そう告げられた事を思い出したアスタは自身の両手に持つ反魔法の剣を自身が傷を負った箇所である右頬と左脇腹に剣を当てて、思いっきり引いた。
「アスタっ!?」
ノエルはアスタの所行に驚愕し、声を荒げる。
端から見れば自身を傷つける所行だが、彼の反魔法がラデスの屍霊魔法によって操られた屍の呪詛魔法の効力が消え去り、傷口から流れていた血が止まった。
「これで‥‥オレはまだ戦えます‥‥!! 見ていて下さい‥!!」
倒れて生死の狭間にいるフエゴレオンに告げながら、アスタは戦意を剥き出しにしながら周りの敵を倒そうとしていた。
そんな彼に参加するかのように、上空からこの場所に降り立った者がいた。
轟音と共に現れたのはアルトだった。
「アルトッ!!」
「随分とボロボロだな。アスタ」
降り立ったアルトは外見的な傷はなかった。
それは"再生"によって元に戻しているからだが、その代わりに膨大な魔力が消費してしまっている。
それ程までにゴルメルの奇跡魔法に苦戦したという事なのだろう。
アルトの魔力量を知っているレオポルドからすれば、残り1/5ほどの魔力量しかなかった。
そんなアルトは右腕を失い生死の狭間に迷い続けているフエゴレオンを見てしまった。
「‥‥‥‥」
「誰だ‥?」
「ハッ! そこに倒れてる[紅蓮の獅子王]の団員か。今まで隠れてただけの雑魚だろがァア────」
突然現れたアルトに対して疑問に思った増援に来たテロリストの言葉にラデスが罵倒していた。
その罵倒にアスタが怒ろうとしたが、すぐさま今この場にいる全員が黙らされる。
それは、残り1/5ほどの魔力量しかないアルトの魔力による圧だった。
忘れているとは思うが、アルトの魔法属性は混沌。
混沌は世界を創造し、生物を創造し、大陸を四つに別けて国を創った意志ある魔力の塊。
光を照らす光、闇を呑み込む闇。時間と空間すらも飛び越えて、全ての事象は混沌から生まれた。
‥‥‥謂わば、
真の混沌の魔力には至るには地球から太陽までの距離を一気に飛び越える様な覚醒が必要であり、一気に飛び越えるだけでも不可能に等しい困難なのだ。
しかも、その覚醒には10段階もあり、僅か2段階目の覚醒まで至っているアルトの魔力は全力を出せば、国中の人間を濃厚な魔力で
ゴルメルとの戦いで魔力量が1/5になろうとも、その魔力量は嘗て魔力に好かれたと言われる異種族と同等以上の魔力なのだ。
そんな膨大な魔力を持っていて、肉体と精神も代償無く戦い続けている彼の潜在能力は過去・現在・未来に至るまで最高の代物といっていい程であり、他者からすれば、正しく彼の魔力は‥‥‥‥
‥‥‥‥
「‥‥誰がやった?」
アルトが問い詰めるように怒りに燃え、ボソリと呟くような泡のように脆く弾ける様な声が、沈黙に包まれたこの場所に響いた。
「‥兄上は‥‥空間魔法で何処かに連れて行かれ‥こんな状態になった‥っ!!」
そんなアルトの言葉にレオポルドが悔しそうに呟くように教えた。
そんなレオポルドを見ることなく、唯々フエゴレオンを見つめるアルトは右手を向けた。
同じ様に、傷ついているアスタに左手を向けた。
すると、フエゴレオンとアスタの身体が一瞬。霞の様な靄が起きると、負傷していた傷や服までもが元に戻り、フエゴレオンに関しては失っていた右腕が元に戻り、流れていた血までもが何もなかったかのように消えていた。
それを見たノエルとテロリストは驚愕した。
「うぉぉおおおお!!!! 怪我が治ったぁぁあああ!!! サンキュー、アルト!!」
アスタは怪我が治っている事にアルトに感謝した。
(ウソでしょっ!? アスタは兎も角。フエゴレオン団長の傷は腕が無くなってるのよ‥‥一瞬で治療したなんてレベルじゃないわよっ!?)
ノエルはアルトが行なった魔法が回復魔法である事は傷が癒えたアスタを見ればわかるが、腕を切り落されたフエゴレオンに関しては回復魔法では説明できない領域にいた。
斬られて何処にあるかわからないフエゴレオンの右腕が、何もなかったかのように元に戻り、出血すらも消えていたとなれば、一般的な回復魔導士の回復魔法の領域を逸脱していた。
「さて‥‥お前らの誰が
アルトはそう言うや否や、アルトの周りに雷で出来た戦鎚と、水で創成された三又の槍、巨大な火よって出来た刀の刀身が現れ、彼の瞳には時計の紋章が浮かんでいた。
__混沌雷魔法"
「‥‥ッ!? 図に乗るな!」
テロリストがそう言うと、魔導書を開き攻撃を開始してきた。
しかし、アルトは"雷霆の戦鎚"と"水神の荒ぶる大海の槍"、"一刀火葬"によって叩き潰し、突き刺し、斬り裂いていった。
しかも、テロリストの動きを見抜いているかのように行動をしていた。
「チッ!? 嘗めんじゃねぇ!」
__樹木魔法"引魔の根"__
地面から生やした無数の樹木の根が"水神の荒ぶる大海の槍"を捕えようとしていた。
しかし、"一刀火葬"によって灰燼へと還すアルト。
加えて、アルトの攻撃に続くようにアスタとレオポルドも攻撃を続けた。
(この三人。手負いでここまで‥‥危険だ)
テロリスト達は三人を危険と判断し、魔力弾ではなく魔導書の魔法で殺す事に変えた。
度重なる交戦が続く中、戦況が一変する事になった。
__風魔法"穿通竜巻針"__
風で出来た細い竜巻の針がアスタとレオポルドの身体を貫いた。
二人は無数の針に突き刺され地に倒れる。
「アスタッ! レオポルドッ!!」
「チッ!?」
アルトが二人の治療を行なおうとした時、ゲル魔法の魔導士とヴァルトスの空間魔法がアルトの行動を妨げる。
「行かせん!」
「君、面白いねぇ!解剖した~い!!」
そう言いながら、ゲル魔法の魔導士がゲル魔法"ベトベトサラマンダー"で襲い、ヴァルトスがアルトの魔法を空間魔法でアルトに戻る様に仕向けていたが、アルトの周りでアルトの魔法やゲル魔法が消滅していった。
__混沌空間魔法"絶滅界"__
僅かな黒い球体型の空間が出来ていた。
その球体型の空間は触れる万物の全てを消滅させる魔法空間がアルトの魔法とゲル魔法を消滅させていた。
「邪魔だ」
__混沌魔法"月牙天衝"__
アルトは聖剣エクスカリバーを使い"月牙天衝"を放った。
しかし、その巨大な斬撃に小さな毒々しい紫のボールが斬撃に接触した。
すると、ドクンッ! とアルトの心臓が大きくうねりを上げた。
「ッ!? ‥‥ガハッ!!」
アルトの心臓がうねりを上げると、アルトは血を吐いた。
同時にアルトが放っている魔法が全て解除された。
アルトの足下は彼の多量の血によって広がっていた。
「アルト!」
アルトが吐血した事にノエルが騒いだ。
(‥‥毒? しかもこれは‥‥)
「いや~、危なかったねヴァルトス君達~」
そんな中、ヴァルトスの隣に立つ様に降り立った新たな増援が現れた。
「カル。お前はゴルメルと行動する様に言われていた筈だ」
「そのゴルメルさんが、そこにいる混沌の魔導士に殺されちゃったんだよね~」
「なにっ!?」
おどけた様な発言で現れたのは白黒の縞模様の様な髪の分け方をし、テロリスト達と同じローブを羽織った男が現れた。
ヴァルトスがカルと呼んだ事から名前はカルなのだろう。
そして、カルの魔法属性は毒魔法。
そんなカルの報告にヴァルトスたちが驚愕していた。
それはゴルメルの死なのか。
それとも、アルトの魔法属性についてなのか‥‥‥
どちらにしろ。敵が驚愕している間に、アルトはカルの毒魔法の特性をすぐさま理解し、解読した。
「‥‥致死量を‥操る毒‥か」
「正解。いや~凄いよ混沌の魔導士君。あの方が言った通り君は厄介だ。でも君の膨大な魔力は利用できるからね。この場にいる魔法騎士を殺した後、連れて行くよ~」
カルは語尾を伸ばしながらアルトに話していた。
「‥‥笑わせるな」
__混沌回復魔法"再生"__
アルトは自身の身体を"再生"させるが、毒の影響が戻らなかった。
「‥‥‥どういう事だ‥」
「無駄だよ~毒魔法"毒入りボール"と"決定の毒虫"。この二つの魔法で君は触れた時点で、君は回復魔法では治らないよ~」
回復魔法では治せない事を語るカル。
魔法名と自身の魔力量に関係している事を毒魔法である事に気付いた。
「毒に干渉した場合‥元に戻す効果‥だな‥」
「またまた正解~素晴らしいよ~」
カルがアルトの次々と自分の毒魔法を解読して出てきた解答に、カルは盛大に喜んでいた。
「そんな事より、止めだ」
アスタとレオポルドに止めを刺そうと風魔法の魔導士の"穿通竜巻針"が襲う。
「止めてぇぇぇええええ!!!」
ノエルの悲鳴が響く中、彼等の前に銀の球体が現れ、二人を護った。
銀の球体は水銀で出来ており、水銀が解かれるとそこにはヴァルトスによって転移された魔法騎士団がいた。
「みんな!」
ノエルはそれを見ると、歓喜した。
アルトは今まで何をしていたのかと呆れたように、苦しみながらも魔法騎士団を見ていた。
「‥‥魔法騎士団‥‥」
「よくもあんな所まで
他の魔法騎士団と共に帰還してきたアレクドラが建物の屋上に立っているヴァルトスに臨戦態勢のまま近づいた。
「どうやってこんなに早く‥‥」
「バカな‥! あの距離をこんなにも早く‥‥‥‥!?」
彼等を転移させたヴァルトスは驚きを隠せずにいた。
彼が転移させた場所から王都までは短時間で戻れる距離ではない。にも関わらず、魔法騎士団は戻ってきた。
そんなヴァルトスにアレクドラが語る。
「不本意の極みだったが‥全員で協力し戻ってきた‥‥超複合魔法‥とでも言うべきか」
全員の魔法を合わせたが故に、「超複合魔法」と例えたアレクドラ。
「力を合わせるというのも‥‥良いものですねぇ」
「ま、男も捨てたもんじゃないっスね」
「フン。能力だけは認めてやる」
「協力なんざ二度とごめんだな」
「違う団とはやはり相容れないものだもの」
不本意だったのはアレクドラだけではなかったらしく、次々と不満を告げる魔法騎士団。
「────‥だが、我ら九つの魔法騎士団はただ一つ。クローバー王国の平和の為にある!!」
ノゼルはテロリストたちを冷たく睨み付けながらそう言い放った。
ヴァルトスはアレクドラの隙を付いて空間移動し、テロリスト達の元へと移動した。
「このまま戦えばただでは済まない‥‥退こう」
ヴァルトスは戦況を冷静に把握し、撤退する事を提案し、空間魔導士にとって固有の空間を空けて撤退するのならば、仲間が近くにいる方が効率が良いのだ。
敵からの妨害や短時間による空間移動に備えてもあるのだ。
「そう急ぐな」
__水銀魔法"銀の雨"__
ノゼルがテロリスト達の頭上から一匹逃さずこの場で一網打尽しようとする水銀で出来た雨を放つ魔法にカルとゲル魔法の魔導士が魔導書を開いき魔法を行使した。
__ゲル魔法"ベトベトサラマンダー"__
__毒魔法"毒入りボール"__
アルトはカルが魔法を使ったのを見て、毒に犯されながらも耐えてノゼルの魔法を強制解除する為に魔法を放った。
__混沌調合魔法"
アルトが左手を挙げて水銀の雨に向けて魔法を放つと、水銀は一つ残らず消え去り、魔法自体が分解された。
ノゼルは驚きながらも、自身の行動を邪魔したアルトに向けて殺気を込めて睨み付けながら問うた。
「貴様‥なんのつもりだ?」
「‥‥‥」
他の魔法騎士団もアルトの行動がテロリスト達の補助‥‥つまり国への反逆に見える行いに同じく彼に視線を向けた。
ノゼルの問いにアルトは息を切らしながら答えようとしない。
それは答えないのではなく、答えられないのだ。
彼の受けた毒魔法が致死量を操り、そして操作されている致死量は魔力であるが故に‥‥‥
「いやいや~彼を責めるのはお門違いだよ~銀翼の団長さん」
「なに‥‥?」
「彼が君を助けないと、君の魔法に僕の致死量を操る毒魔法に干渉されて君は死んでいたよ~。つ・ま・り‥‥君は彼に助けられたんだよ。僕の魔力の致死量を受けて死にかけている状態の彼にね」
『!』
カルがアルトの行動を褒めながら、ノゼル達が魔法行使を迂闊に出来ないように脅した。
魔法自体に干渉し、その魔法に使われた
それはカルの毒魔法の性質であるのだ。
しかも、カルが設定した毒の部分は魔力の致死量。
つまり、魔力が高ければ高いほど毒牙強力であるという事だ。
カルがアルトを擁護している間に、ゲル魔法の魔導士がサラマンダーを操りクラウスに抱きかかえられ、気を失っているアスタを捕えた。
「もぉ~~~らい」
アルトはどうにかしてアスタを救おうとするが、カルの"毒入りボール"の影響が強く、ノゼルを助けた際の魔法でもう既に動けない状態にまで追い込まれていた。
アスタをゲル内に入れて拘束した魔導士は機嫌を良くした。
「どうするつもりだ‥‥ソイツ」
「秘密」
アスタが掴まった事にクラウスとノエルが騒いだ。
「アスタ‥!」
「ッ‥!?」
ヴァルトスの空間魔法が開かれ、黒い空間がテロリスト達を覆っていく。
「覚えておくがいい‥‥魔法騎士団の者どもよ」
フードを被った一人が魔導書を閉じて告げた。
「我らは[白夜の魔眼]。クローバー王国を滅ぼす者だ‥‥!!」
そう言い放つとヴァルトスの空間魔法でアスタを連れ去りながら、この場から消えていった。
「アスタぁぁぁああああああ!!!」
アルト達はその場に立ち尽くしか無かった。
次回~赤獅子の姉~