マリエラの思い
アルトの混沌の魔力は、強魔地帯の魔よりも珍しい代物だ。
野生の中で生き続けていた本能の赴くが儘に活動していると言わんばかりなメレオレオナはクローバー王国内では誰よりも魔の異変に気付きやすい‥‥‥‥正しく獣の本能の如き知性である。
そんな獣なみの本能を持ったメレオレオナは更に良いのか悪いのか、戦闘狂でもある。
つまり、一番珍しい魔力である混沌の魔力に反応し、アルトに挑むのは、彼女からすれば、本能的な働きに過ぎないのだろう。
自由奔放にも程があるが‥‥‥
「ハァッ!!」
メレオレオナは自身から半径2m程の炎の塊で襲ってくる。
アルトはマリエラに"空間支配"を使って遠くに移動させるとメレオレオナの攻撃に"聖剣エクスカリバー"を抜いて対処した。
メレオレオナの猛攻な打撃の連続にアルトは聖剣で受け止めながら剣技をメレオレオナに向けて繰り返していく。
聖剣と魔力を帯びた拳の衝突の際にガキンと音を鳴らせながら、何度も何度も彼等は拳と剣をぶつけ合いながら、吹雪は続き、氷柱が壊れては鎌鼬の様に風に乗って斬りつけようとする。
二人の交戦が続く中、メレオレオナの拳が柄の部分に近い刀身の根元部分に当たり、聖剣が飛ばされた。
「っ!!?」
「ハァアッ!!」
アルトは聖剣が離れた事で隙を作ってしまい、メレオレオナによって一発頬に魔力を込めた拳で殴られた。
「ガハッ!」
殴られたアルトは悲鳴を上げながらも既に次の手を行なっていた。
メレオレオナの周りに"雷霆の戦鎚"と"一刀火葬"、"水神の荒ぶる大海の槍"を出していた。
"雷霆の戦鎚"が轟音を鳴り響かせながら、雷速でメレオレオナの頭を殴りつけようとする。
しかし、そんな魔法が襲ってくる中、メレオレオナは深い笑みを浮かべると、魔力ではなく、魔法を拳に纏わせた。
「‥全てを燃やし尽くす燼滅の魔法」
__炎魔法"
メレオレオナの灼熱を帯びた拳が"雷霆の戦鎚"を燃やし尽くした。
炎を纏った拳で殴っただけで‥‥
「殴って燃やしやがった!?」
「規格外です‥」
アルトは驚き、マリエラは驚愕を超えて、メレオレオナを人間扱いしなかった。
「次ぎっ!」
メレオレオナは空中で、何かを蹴るかのようにジャンプしてアルトへと近づく、アルトは残りの二つの魔法をメレオレオナに向けて放った。
同系統の"一刀火葬"がメレオレオナを襲うも彼女の"灼熱腕"と10秒ほど拮抗したが、すぐさま威力で負けて消え去り、シャプス氷山にある膨大な自然の魔と吹雪を渦巻き集約させた"水上の荒ぶる大海の槍"で突き刺しにいった。
しかし、すぐさま彼女の魔法で蒸発させられ、水蒸気が舞うだけだった。
しかし、それがアルトの狙いだった。
「コレならどうだ!」
__混沌時間魔法"
左脚に過去を集約させ、右脚に未来を集約させた過去と未来の蹴撃がメレオレオナの背後から襲う。
しかし、メレオレオナは分っていたと言わんばかりに空中で身体を反転させてアルトに振り向き、殴りつけようとするが、アルトはもう一つ時間魔法を行使した。
__混沌時間魔法"
自身の時間を人間が反応できないほどの時間速度へと加速させて、メレオレオナに"表裏一体の終焉時刻"を当てた。
攻撃を当てられたメレオレオナは吹き飛ばされ、凍結された水場へと叩き付けられた。
叩き付けられた場所から幾千も氷河割れした。
「来い! エクスカリバー!!」
吹き飛ばされた聖剣の名を呼ぶと聖剣が勝手に飛んで来てアルトの元へと戻った。
直後、メレオレオナが入った一番氷が割れている場所が爆発した。
突如、猛烈な速度でアルトへと向かってくるメレオレオナ。
「次ぎっ!!」
メレオレオナは攻撃を受けた部分だけ衣服が破れ、血を流していたが、好戦的な笑みを浮かべ、戦いに愉悦を抱いている様な表情でアルトへと近づき、"灼熱腕"で殴りつけてきた。
アルトは"神速の歩み"で移動しながら、左手を指鉄砲の形にして魔法を放った。
__混沌火魔法"灼熱の銃撃"__
まるで銃弾のような熱線がメレオレオナに放たれる。空中にいれば躱せる動作も出来ず、例え躱すために身体を捻ろうとしても、身体が当たる様に胴体を狙った。
しかし、メレオレオナは先程と同じ様に空中を蹴って、別方向へと跳躍して回避し、更に何度も空中を蹴ってアルトへと猛烈な速度で近寄ってくる。
アルトはメレオレオナの動きから剣技は彼女の武闘で圧倒され、斬撃や遠距離は彼女の魔法で燼滅される。
ならば彼が取る方法は、彼女と同じく魔法行使中の武闘以外無いと考えた。
「コイツはどうだ!」
__混沌反魔法"幻想殺し"__
右手でメレオレオナの拳とぶつけ合った。すると、彼女が纏っていた魔力や魔法が解除された。
解除されたせいか、彼女は先程まで空中を蹴っていた状態が消えて、重力にそって落下したが、すぐさま空中を蹴ってきた。
「ほう。中々面白い魔法を使うな」
驚愕を与える事が出来たが、同時に更なる好戦的な笑みを浮かべた。
そして、今までアルトとメレオレオナの衝突を見ていたマリエラがメレオレオナの使っている技術に気付いた。
「アルトッ! 彼女はマナゾーンを使っています!」
「マナゾーン?」
アルトはマリエラから聞いた言葉に聞き覚えがなかった。
「マナゾーンは自分の周囲を魔を自分の味方として自由自在に操るマナスキンの上位技術です!」
「ほう。15歳あたりでよく知っているようだな、小娘」
メレオレオナは僅か15歳でマナゾーンに関する情報を得ている事に感心した。
「周囲の魔を味方にする‥‥か。なるほど大体分った」
マリエラの助言のお陰でマナゾーンに関する方法を理解したアルトはマナスキンの技術力を向上させた。
すると、アルトの膨大な魔力に加えて、周囲の魔を味方にしてみせた。
しかも、アルトのマナゾーンはメレオレオナが起こしているマナゾーンの4倍以上の範囲と濃度をしていた。
「フハハハ!! 私よりも濃密なマナゾーンとは、愚弟の団に入った者にしてはやるな!!」
「俺はフエゴレオン団長に起きた事について話しに来ただけだ」
「ほう、言ってみろ。聞いてやる」
構えを解こうとは為ずに話を聞き始めたメレオレオナ。
「つい昨日。テロリストである[白夜の魔眼]の掛けられた
アルトはメレオレオナがいつ攻めに来ようとするだろうことは感づいていた為、戦闘できる状態で話しを終えた。
「フン! 愚弟が眠っただけで浮き足立つとはフエゴレオンの馬鹿め、とんだ腑抜け軍団を育て寄って‥‥」
メレオレオナは弟を意識不明にさせたテロリストへの憤怒ではなく、怠慢な鍛え方をしている弟への罵倒であった。
その罵倒はアルトにとっても怒りを隠せずにいた。
「‥‥自身の弟を罵倒か」
先程まで目上に対する敬語ではなく、いつも通りな口調だった。
それは彼にとって家族を大切にする思いは、彼が最果て出身である事と教会で育成された事で、彼にとって家族への、仲間への暴言は許せないのだ。
事実、戦功叙勲式の際に起きた、妹への躊躇無き罵倒をしる兄姉たちに少なからず怒りを覚え、アスタやユノへの罵倒すらも怒りを抑える事で精一杯だったのだから‥‥‥
そんな彼が団長を、同じく姉が弟を罵倒するのは許せなかった。
「ほんの数ヶ月だが、フエゴレオン団長は誰よりも熱くこの国を想う最高の大魔法騎士だ! いくら姉弟であろうと、それを罵倒することは許さん!!」
「ならば、口だけでなく己の手で体現せんか!!」
「「っ!?」」
メレオレオナはアルトとマリエラに叱咤した。
叱咤された二人は驚愕した。
「最高の団長に導かれた最強の団だという事を!!!」
メレオレオナは自身の身体に炎の魔力を膨大に放出した。
「あの大馬鹿は貴様等を、この国を見捨てて死んだりは絶対にせん! アイツが戻るまで貴様等が誇りある[紅蓮の獅子王]の力を見せつけて見ろ!!!」
メレオレオナの叱咤に二人は唯々沈黙した。
それもそうだ。
理不尽を許さないといいながら、フエゴレオンの姉に団長代行を頼もうとした。
それは同時に理不尽に屈し、放棄する事と同義。
理不尽を滅ぼすことを信条にしていたアルトは己の愚かさに苛立ち、そして、フエゴレオンとの模擬戦のことを思い出していた。
【アルト。如何なる任務であろうと、不安は憑き物だ。だが、我々魔法騎士団は理不尽な相手を倒し、平和を示さねばならん!! それには強き心で、悪を打たねばならん!!】
「(そうだ。俺はフエゴレオン団長にいった矢先に‥‥)」
メレオレオナの叱咤から俯いていたアルトは顔を上げた。
顔を上げたアルトに覚悟が籠もっていた。
それを見たメレオレオナは笑みを浮かべた。
「先程の失礼を謝罪します」
アルトは戦闘態勢を解いて、頭を下げた。
「そして、一魔法騎士として、貴女に決闘を申し込む!」
「私も、決闘を申し込ませて貰います」
「よかろう。まとめて掛ってこい!!」
アルトとマリエラの決闘申し込みにメレオレオナが了承し、マナゾーンを発揮して二人を威嚇した。
__混沌強化魔法"
__氷創成魔法"氷剣の暗殺"__
アルトの胸元と両肩両足に∞のマークが浮き上がった。
そしてマリエラは[紅蓮の獅子王]の団員となった後、アルトと時折とも訓練をしていた彼女はダイヤモンド王国の暗殺者時代以上の実力を秘め、暗殺部隊時代で使っていた氷の剣を無数に出した。
「こい!」
メレオレオナがそう言うと、アルトがメレオレオナに攻撃しに向かい、マリエラは無数の氷剣を射出した。
アルトより早く"氷剣の暗殺"がメレオレオナを襲う。
しかし、メレオレオナの"灼熱腕"が連続的に無数の氷剣を燼滅させていく。
無駄だと言わんばかりな剛胆にして単純な攻撃で‥‥
しかし、それはアルトも同じだった。
「「ハァアッ!!」」
"灼熱腕"のメレオレオナの右腕と"無限の倍加"のアルトの右手が衝突した。
すると、メレオレオナが吹き飛ばされた。
「ほぅ(私が膂力で負けるとは‥‥)」
マナゾーンで空を蹴るように立ち上がった。
そんなメレオレオナに熱気ごと凍結させる魔法を行なった。
__氷魔法"
マリエラの"凍結する火炎"が彼女の炎魔法を凍らせようとする。
しかし、マナゾーンを使っているメレオレオナ相手にマリエラの魔法はあまり有効打を与えていなかった。
__炎魔法マナゾーン"灼熱腕"・連撃__
連続的な振われる"灼熱腕"がの熱線がアルトとマリエラを襲う。
アルトは"神速の歩み"で何度も移動しながら熱線を捌ききった。
すると、メレオレオナと同じく空中を蹴ってメレオレオナに近づいた。
メレオレオナに一瞬で近づくと、今尚強化し続ける身体機能とマナゾーンを加えて
__混沌強化魔法マナゾーン"無限の倍加・連撃"__
__炎魔法マナゾーン"灼熱腕"・連撃__
アルトとメレオレオナはマナゾーン越しの互いの拳と拳、拳と足とぶつけ合っていた。
(同じ女性として、あの実力は犯則ですね。それにアルト)
それを見たマリエラはメレオレオナに対して、同じ女性として悔しさを覚え、アルトに対して嫉妬した。
(貴方は出会った時から規格外でした。圧倒的な潜在能力に余所を寄せ付けない増え続ける魔力量)
マリエラがアルトとあったばかりの頃と心の内に思っていた事を思い出していた。
(一度見ただけでその属性を得る貴方を化け物の様に見てました)
アルトと出会ったのは、アルトの修行時に起きた流れ弾によって負傷したことから始まった。
一瞬にして傷を治し‥‥いや、元に戻したアルトの魔法にマリエラはダイヤモンド王国に引き入れようとも思った。
その為にアルトと幾日も同居生活をしていた。
アルトもマリエラを警戒してか、最初は二人とも互いを見張るような行動をしていた。
しかし、幾日も同居していた為か、友人の様に感じられるようになり、生活が楽しくなっていた二人。
(でも、先生の捕獲を貴方が邪魔した時は理解に苦しみました)
そんな二人の生活に終止符が起きた。
ガレオと呼ばれるダイヤモンド王国の魔導士によってファンゼルの捕獲を行なうも、それを止めに入ったのはアスタとアルトだった。
何故アルトが自分達の前にいるのか、なぜ邪魔をするのか理解出来ずにいた。
しかし、その時のアルトの言葉にマリエラは強く勇気を得た。
【──────何故俺が‥‥俺達が生きる理由を誰かに決めつけられなければいけない。生きる理由なんて、俺自身が決めることだ!】
(そして、貴方は犯罪者である私に言ってくれました)
【次に出会ったら、今度こそ俺がお前を助ける。絶対に】
(とても嬉しかったです。だから、貴方の隣に立ち、共に強くなろうと、
しかし、彼女の思いを叶わせない様にするかの如く成長という名の進化をし続けるアルトに焦りを感じていた。
(それでも、貴方は呼吸するように成長していく。あまりに遠い背中に私は焦りました。でも、貴方にも敗北がある事を知りました)
王都襲撃の際に起きたフエゴレオンの意識不明の状態に陥った出来事に対して、アルトが自身でも気付かぬほどに己を悔やんでいる事に、何時も彼を見ていたからこそ、マリエラは気付いていたのだ。
しかし、メレオレオナの叱咤によって悔やみを乗越え、成長したアルトに安堵をかんじながらも、メレオレオナに嫉妬してしまっている。
(彼女によって何時もの貴方になった事は嫉妬しますが、今度こそ、貴方の力になり、先生とドミナさんと同じくらいに、大事な貴方を助け、守りたい!)
マリエラがアルトとメレオレオナとの戦いで、自身への決意を秘めた。
それに呼応するかの如く、彼女の魔導書が光り出した。
同時にマリエラの魔導書の発光と同時にシャプス氷山の地下深くから膨大な魔力が起動した。
地下深くの魔力を感じ取ったアルトとメレオレオナは互いの頬を殴りつけようとした拳を止めて、すぐさまその場を遠ざかった。
すると、彼等がいた場所から青白い光柱が現れた。
その光柱を仰ぎ見る三人に、獅子のごとき獣の声が響いた。
「ウォオオオオオンッ!!!!」
耳に響く雄叫びはアルトとメレオレオナの表情を苦痛に変えた。
しかし、マリエラだけが、そうはならなかった。
光柱が発光体となり、マリエラへと向かう。
「マリエラッ!!」
アルトは思わず、助けに行こうとするが、マリエラが頭を横に振った。
まるで来るなと言わんばかりに‥‥‥
そんなマリエラの行動で動きを止めてしまったアルト。
発光体はマリエラへと衝突した。
「マリエラァァアア!!」
アルトは発光体と衝突したマリエラの名を叫んだ。
今回はヒロインの覚醒話の前編として書かせて貰いました。
次回~教授の証明~