ファンゼルとドミナントを連れてくる為に、先ずファンゼルの元へとやって来たアルト。
彼はファンゼルが魔導士育成に使用されている施設へと続く施設内の道のりを進んでいた。
暗闇しか入らない施設内に、彼の目の前に一つの光が溢れていき、その光の奥から無数の人声が響いていた。
彼がその光の出ている場所へと入っていく。
目の前の景色が暗闇から光が差す場所へと移動した事でで、白い空間が広がっていた。
「────そう。そのまま心を熱くして一点に集中するように炎魔法を使うんだ」
白い空間が止むと、ファンゼルの声がアルトの耳に聞こえていた。
「(ダイヤモンドでの経験があるとは言え‥)随分と様になっているみたいだなファンゼル」
「!アルト君。どうして君が此処に?」
ファンゼルはアルトがそう呟いた声が耳に入った為、彼に視線を向けて存在を確認したのだった。
「まだ辞令が下りていなかったか」
「辞令?何のことだい?」
ファンゼルは何の事だがわからず、首を傾げた。
そんな彼に応えようとしたアルトだが、その必要がなくなった。
何故なら、彼等のいる場所に空間移動を熟せる魔法動物の梟がやってきた。
梟の脚には手紙を掴んでおり、その手紙を届けるためにやってきたのだ。故に、その手紙を届け先であるファンゼルへと手紙を落とすのだった。
落とされた手紙がヒラリと舞っては落ちていく。
ファンゼルが手紙を受け取ると、一瞬アルトに視線を向けた。
アルトはアイコンタクトだけでファンゼルに手紙の方を先に見るように促した。
促されたファンゼルは彼に頷くと、手中にある手紙の封筒を開き、黙読し始める。
ファンゼルが目を早く動かしながら文を読み更けていくと、彼の表情が驚愕へと変わっていき、アルトへと視線を向けたり、手紙に戻したりと右往左往と視線を動かしていた。
2分ほど手紙を読んでいたファンゼルは驚きの感情から落ち着きを取り戻したのか、手紙を折り畳むと、一息を付けてアルトへと顔を向けた。
「事情はわかったよ。私とドミナ、それにマリエラも同じように君の団に入る様に指示が来た。君やアスタには助けられた身だからね。できるだけ協力するよ」
ファンゼルはそう言って了承した。
「礼を言う」
アルトは感謝を告げると、手を差し伸べた。
ファンゼルはアルトの差し伸べられた手を掴み、握手をした。
僅か数秒ほどの握手は互いに手を離した事で解かれた。
「では、ドミナさんを連れて此処に来て下さい」
アルトがそう言うと右手の人差し指にマルクスの記憶交信魔法によって得た記憶の共有を行なう事で、彼に自分達のアジトの場所を示した。
「俺は先に戻ってアジトを作っておく」
「わかったよ。私もドミナを連れてすぐに向かうよ」
アルトの言葉にファンゼルは了承と応答を返した。
彼の応答を受け取ったアルトは空間魔法を使って転移した。
しかし、アルトはこの際、一つだけ嘘をついた。
先に戻ってアジトを作るといったが、アジト建設地に最初に向かうとは一言も言っていないということに‥‥‥
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アルトの目の前が又もや真っ白に変化するも、すぐさま真っ白から別の景色へと変化した。
彼の目の前にはどこぞの室長用の机と椅子があり、その椅子に腰を掛ける口元と顎の丁度、間にほくろを持つ、緑色の服装に両肩に白い布を被せた様な服装を着用した男が座っていた。
「何者だ?」
男はアルトを見るや警戒心を最大にして睨み付けていた。
彼の一挙一動は何時でも戦闘に入れるようにしていた。
「貴方がダムナティオ・キーラか?」
「‥‥だとしたら?」
アルトはそれに気付きながらも、無視して男の名を尋ね‥‥いや、確認を取ったのだった。
ダムナティオは自身が目的である事を再認識し、一瞬の隙を見せぬ様に警戒しながら次なる一手を構えていた。
「俺はアルト・キーラ。バヴェル・キーラの嫡子だ」
「なに?」
ほんの僅かな揺らぎ。
一瞬にも等しい揺らぎの中で、彼の首筋からひっそりと記憶交信魔法による記憶供給を行なう。
彼の脳内ではすぐさまバヴェルに起きた一件の全てを見せられ、ダムナティオは警戒という表向きな態度を取りながらも内心は困惑していた。
「(これは‥‥)」
「父の記憶からアンタに接触させて貰った。困惑している所悪いが、俺はアンタに頼みがあってな。記憶と共に内容を伝えておいた。頼むぞ」
アルトは一方的な要件を魔法で伝えると、彼は空間魔法で彼の団のアジト先となる場所へと向かった。
「待て!」
ダムナティオが裁きを受けさせようと己の魔法を使って止めようとするが、それよりも早くアルトが転移した為、間に合わなかった。
彼の手には金色に輝く天秤が一つあったが、アルトが目の前から消えた事でポツリと空しく立った状態で天秤を構えていたが、すぐさま魔法を解いて、先程の件を確認するためにある者の元へと向かって行った。
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ダムナティオが何処へと向かう前に、転移していたアルトはある場所へとやって来た。
そこは誰の手も付いていない秘境ともいえる場所。
その場所の名は‥‥‥
「アジトの拠点地はクローバー王国の‥‥‥強魔地帯に」
純粋な魔力の圧力しかない強魔地帯だった。
魔力の圧力は時として重力の圧力よりも更に濃くなる時もある。
アルトにとってはマリエラ達に魔力の圧力による抵抗力の習得とそれによる成長の促進。
それがアルトがこの場所を選んだ理由の一つだ。
では他に理由があるのかと尋ねられた場合、それは後々にこの場所にアジトを選んだ理由の結果が現れるだろうからこの場では、一切記載しないでおく。
「さて、創造するか」
アルトがそう言うと、宙へと舞い、左目を白く、右目を黒く変色させた。
次ぎにアルトは左手を高らかに挙げてから勢い良く腕を振り下ろす。
すると、アルトの目の前の景色が変化した。
西洋風の建造物の多いクローバー異形とも言える形状の建造物が建築されていった。
白く光り輝く塔と暗闇に呑み込み続ける塔が東西に分れ、それよりも遥に高く聳え立つ無数の城が一つとなった様な居城が中央に出来上がり、七色の大地が成り立ち、その大地には海や炎、森林などと七つの超自然的代物が存在していた。
しかし、その超自然的な大地には強魔地帯の約10倍近い魔力が備わっていた。
そんな大地と居城、二つの塔に対して囲む様に十二の方向にそれぞれ創り出された、
創り出されたと言っても、聖騎士を思わせる人形の機械的な剛鉄の像だ。
同時に、六つの石像があった。
しかし、石像の背後にはそれぞれ六つの属性を秘めているかのように、それぞれルビーやダイヤモンド、サファイア、エメラルドなどといった六つの鉱石の様な紋章が秘めており、石像は両手を広げて輪を作るかのような姿勢をしていた。
__混沌創成魔法"
元来、有機物のみならず無機物や時間・空間なども創造し美学的な万象へと創造したのは混沌だ。
故に、この様に永続的な建造物を創り出す事など混沌にとっては朝飯前よりも遥に簡単と言えることなのだ。
その混沌を持つアルトは神と悪魔の力を覚醒させた事で、混沌由来の矛盾が肯定化される力までもが手に入れやすくなった。
本格的な矛盾、混沌は全ての段階に覚醒する事で始まる為、残り段階は6つであるため、魔導書を手にしてから四つまで覚醒するのに、まだ数ヶ月内での2段階の覚醒は快挙‥‥‥というよりも異常とも言えるが、混沌の所有syはにそんな物言いは意味は成さない為、諦めるしかない。
「さて、アジト内も創らないとな」
そう言ってアルトがアジト内へと歩んだ。
アジトの階層は空間を弄る事で、敵には辿り着けない状態にし、味方には即座に辿り着ける状態へと自動改変する様に設計してあった。
家具は時間経過による老化を消す為に創っていた。
一流の料理人が10人いても料理できるほどの調理室。
一流以上の家具を創造してみせた。
「建築物としての構造もかなりいいな」
アルトは建造物の構造を隙間無く見続けていた。
歩を進める内に七色の大地に二つの塔なども隈なく観察し続けた。
アルトが建設したこのアジトは外見的には数10km程度の範囲内にて建築されているわけなのだが、高度は中間圏と同等の高さを秘めた二つの塔と一つの城。
七色の大地に十二の剛鉄の象と六人の石像というものしか外見的に存在しなかったが、内面的には地下10階で地上100階近くあり、合計110階の階層を二つの塔によって時間と空間に干渉し、味方には一瞬にして辿り着ける事が出来るようになっており、階層ごとに一つ一つの世界を創り出していた。
"美学な創造建築":今回のように建造物などを絵画や小説のような美学的印象を秘めた状態で創り出す魔法なのだが、この魔法は未完成だ。
混沌による真の創造魔法は永続的で無限、つまり、一つの創造に宇宙を思わせるほどの広大にして未知数なのが、混沌の創造魔法だ。
この魔法はその為の基本とした創造魔法なのだ。
「これならば問題はないか」
基本的な創造魔法によって建設されたアジトでも十二分と言っていい程の性能を秘めている事から、混沌の真価が計り知れぬ事が分かるだろう。
しかし、混沌の力を持つアルトにとっては、一切疑問のない事であるため、誰かに常識を尋ねられても、アルトの常識は力である混沌に作用されるため、一般的な常識が通じないことがある。
実際、破滅の神シェヴァを相手に理を滅ぼす魔剣を創り出した。
現実を覆すのが魔法ならば、力の原点にして意志たる混沌は、常識が存在しても存在しないのが常識なのかも知れない。
とまぁ、話が脱線してしまったが、自身の作り上げたアジトを見直したアルトがそう結論付けると、両親とマリエラ達に通信魔法を行使した。
『アジトができた。場所はお前達の脳内に送っておいた』
通信魔法と同時に記憶交信魔法を行なった事で、会話のみならず情報の開示までも簡単に成し遂げた。
アルトが団員となる五人へと通信を終えると、2時間ほど待った。
いち早くアジトへと着いたのはバヴェルとビナーだ。
【これがアルトの創ったアジト‥】
【これは‥‥凄いな‥】
アルトの両親は一目見ただけで、このアジトの異質性に気付きながらも、それを建築して見せた息子の想像力と創造力に舌を巻いていた。
【時間と空間に干渉する建築物なんて、混沌の力が強まっているみたいですね‥‥】
【‥‥息子の常識が崩れそうだな】
ビナーは時間と空間に干渉する魔法建築物を見てアルトの混沌の力が強まっている事に気付いた。
バヴェルは混沌の未知数な底のない力から来るアルトの世間的な常識からはみ出しかねない可能性に危機感を感じながらも、息子の成長を見守ることに一切の躊躇いなど彼にはなかった。
そんな彼らの後に続く様にやってきたのは獅子幻獣レグルスの背に乗ってやって来たマリエラとファンゼル、ドミナントだった。
「着いたぞ」
レグルスがそう言うと、大地に脚を付けた。
レグルスの背から降り立ったマリエラ達は驚愕する。
彼がアジトを創ると言ってからそう時間は経ってはいない。
それはつまり、僅かな時間でこれ程の建築を創り出したとう事。それを為せるだけの想像力と魔法属性と膨大な魔力を有しているからこそである。
「すごいな」
「わぁ!‥‥どうやったらこんなに凄いのができるのよ」
ファンゼルは唯々驚嘆し、ドミナントは膨大な魔力と想像力によってもたらされた創造物を見て呆れてしまっていた。
「無駄に凝ってますね」
「無駄とはなんだ、無駄とは」
マリエラは辛辣に凝っている事を指摘した。
凝っている‥‥そんな部分がこのアジトにあっただろうか?
いや、あった。
二つの塔と七色の大地に剛鉄の象と石像。
それを創造していて凝っていないはずがないのだ。
軽口のような言い争いをするマリエラとアルトだったが、ファンゼル達がニコニコとニヤニヤとも笑みを浮かべて此方を見ている事に気付き、言い争いを止めた。
「ンンッ!改めて‥‥此処が俺達のアジト」
アルトが両手を広げて紹介した。
「[混沌の王軍]アジト。名を
アジトの名を紹介し、そして自分たち、十番目の団の居住を高らかに宣言した。
次回~スペード王国の悪魔憑き~