どうぞお楽しみください
「‥‥初め!」
フエゴレオンの号令によって開始された副団長ランドールと新入団員アルトとの模擬戦。
先に動いたのはランドールだった。
____空気魔法"砕破空圧弾"____
「ホァッ!!」
ランドールは両手で何かを包み込む様に右手を上に、左手を下にして構えると、何かを圧縮して放ってきた。
その何かは何も見えないが、全ての魔力の原典である混沌魔法は魔力感知も含まれる為、空気の魔力弾が猛スピードで襲ってくる魔力を感知した為、"神速の歩み"を行使して回避した。
同時にアルトはランドールの背後に移動して攻撃の準備を行なった。
右手に風の魔力を圧縮した魔法を突きつけるアルト。
____混沌風魔法"螺旋丸"____
高密度の風の回転力と破壊力、そしてそれを球体へと圧縮する力によって出来た風魔法。
当たれば内部破壊する必須の魔法である。
しかし、それは当たればの話しだ。
____空気魔法"真空"____
風属性の魔法の副属性である空気魔法も混沌魔法同様に魔力感知ができる。
よってアルトから放たれる膨大な魔力量を感知する事など簡単な事だった。
彼の魔力は魔力感知が下手な人物(
そして、それが魔力感知ができて更には一魔法騎士団お副団長であるランドールからすればそれを防ぐ方法は多くあった。
同じ風属性の魔法を防ぐには空気を真空状態にすれば、簡単に防ぐことが出来る。
まぁ真空状態は火系統魔法も加わるが‥‥
兎に角、アルトの"螺旋丸"を簡単に消滅させた。
"螺旋丸"が消滅させられた事を視認するとアルトは距離を置き始めた。
しかし、ランドールは距離を置こうとするアルトを逃がすはずもなく、脚に空気魔法による空気を蹴ると言った移動方法でアルトに近づいて空気魔法を付与されている両手で掌底を行なう。
「ホァッ!」
「ッ! ‥‥ガハッ!」
アルトは近づいてきて掌底を放ってきたランドールの手を両手を交差する事で受け止める事が出来たが、空気魔法の威力が大きい為、胸板に空気泡が衝突したかの様な痛みが襲った。
空気を全部抜き出すような痛みに息切れを起こすアルト。
「ゴホッ! ゴホッ! ハァ‥‥ハァ‥」
「まだやるかい?」
ランドールは余裕の笑みを浮かべながらアルトに告げる。
まるでアルトに勝ち目はないと言わんばかりに‥‥
しかし、アルトがそんな事で止めるはずもなかった。
「当然! それに勝ち方はわかった」
「なに?」
とても好戦的な笑みを浮かべるアルトが告げる言葉にランドールは不快に思った。
先程の交戦で勝ち方を理解したと告げたのだ。
それ即ち、ランドールの攻略を簡単に見抜いたという事だ。
つい先程入団したばかりの人物が副団長になる為に如何なる戦績を積んできた人物に勝利する筋道を見つけたと言うのだ。
ハッキリ言って無礼で烏滸がましい事この上ない発言だ。
流石に自身の今までの努力を簡単に見透かした様な発言にランドールも怒りを隠せずにいた。
____空気魔法"真空大玉"____
真空部分を大きな球体として作り出した魔法。
それをランドールはアルトへと向かって放とうとする。
しかし、アルトはその攻撃を大地から出てきた鎖でランドールと自身を囲う様に出現させた。
____混沌鎖魔法"封鎖結界"____
アルトが初めて戦った相手である盗賊レブチの鎖魔法から生み出した結界内の相手の魔法・概念を束縛し封じるアルトの鎖魔法。
"封鎖結界"──────鎖魔法によって出来た結界内に魔法を封縛し、酸素などの空気も封じ込めることが出来る魔法。
その鎖魔法の結界の中でランドールの空気魔法を封鎖した。
掌に収まっていた大きな真空の球体が消えた事で、ランドールは困惑していた。
「こ、コレは‥‥?」
ランドールは"真空大玉"以外の魔法も行使するが、一向に空気魔法が使えないことに漸く気付いた。
「(私の魔法自体を封じているのか)なら‥‥」
ランドールは鎖で囲まれた結界外へと身体を向けて、強化魔法で自走を加速し脱出しようとする。
しかし、それすら予測していたアルトは"封鎖結界"と同時に使用していた魔法を発動させた。
____混沌空気魔法"
アルトはランドールとの交戦で視認し、解析した彼の空気魔法を発動させた。
発動された魔法は"封鎖結界"の中にある空気を‥‥正確には酸素を膨大な吸引力で刹那の間に酸素を消し去った。
「カッ! ‥ガハッ! ‥‥ッ! ‥‥」
アルトが空気魔法を発動すると結界内の酸素が刹那の間に消え去った為、ランドールは呼吸が出来ず、結界から出ようと動かしていた足が止まってしまった。
何故酸素が消えたのか?
それはこの"絶滅の呼吸"が関係している。
"絶滅の呼吸"──────一呼吸するだけで、周囲一帯を無酸素状態にし、生命活動に酸素を必要とする生物は戦う事すら出来なくなる魔法。しかも術者がこの魔法を使う場合一呼吸で3600億tの空気を吸う事が出来る機関を体内に作り出してしまう副次的な効果が付与される。しかも不動の場合のみ約1年間は無呼吸状態で生きられるほどである。
人間では不可能に等しい魔法だが、膨大な魔力と自身の身体を創成する事が出来る混沌の魔力の持ち主であるアルトだからこその魔法である。
しかもアルトはこの魔法を使う為に周りに効果が起きないように"風空封鎖結界"によって空気を封縛させていたので、"絶滅の呼吸"の無酸素状態を結界外に及ぶことはない。
よって呼吸を我慢できる時間が短すぎる人間にとってこの魔法は正に致死的な魔法だ。
ランドールが呼吸困難で倒れそうになった所でアルトは二つの魔法を解除した。
「‥‥‥‥プハッ! ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」
酸素を目一杯取り込もうと呼吸を荒くして吸い込むランドールは呼吸が整うと立ち上がり、両手を挙げた。
「降参だ。私の負けだよ」
ランドールは敗北を認めた。
「勝者、アルト!」
ランドールが敗北を認めた為、フエゴレオンは勝者の名を叫んだ。
副団長までも倒したアルトに驚愕と恐怖を交じらせた表情で見つめる他の団員達。
「嘘だろ‥‥」
「ランドール副団長まで‥‥」
「何なんだアイツ‥」
などとアルトへの恐怖心が先輩団員達に植え付いてしまった。
アルトに一切の敵対的な思考はなかったのだが‥‥‥強大な力に怯えるのは生物の性である。
ランドールとの模擬戦が終わり、流石にアルトの体力も疲れた為、フエゴレオンとの模擬戦は双方が空いた時間の際に行なうという事で終わり、新入団員を歓迎するための夕食が始まり、自室を案内された。
その際にアルトはやはり浮いてしまっていたが、レオやフエゴレオン、ランドールから認められていた。
自室に案内された後、教会への手紙を書いて翌日の早朝に使い魔によって送り届けた。
────────────────────────
翌日。
アルトはフエゴレオンに呼ばれて初任務を頼まれた。
初任務には同伴として参加したフォルティ・グリスが選ばれ、アルトと二人の新人を連れて、国境付近のパトロールを行なう任務だった。
パトロールと聞いて何故だと思った新人達だったが、国境付近は危険なことが多く遠征が必須になる為、魔法騎士団が交代で別々の国境の遠征を行なっている。
そして、今日は[紅蓮の獅子王]団が遠征の番になったのだ。
「────では、頼むぞ」
『はい!』
パトロールに向かう4人は右手の親指と小指をおり、人差し指と中指、薬指を三本真っ直ぐな状態にして胸に平行になるように敬礼しながら返事をした。
この敬礼はクローバー王国の敬礼である。
────────────────────────
クローバー王国の国境にやってきたアルトはフォルティの命令を聞きながら二人組で見回っていた。
「‥‥‥」
「‥‥あ、あの!」
アルトとフォルティがそれぞれリーダー役としてもう一人を連れて遠征していると、アルトと組を汲んでいるアルトと同じ新入団員の金髪ショートヘアーの少女___フェリア・ハスカーが話し掛けてきた。
「どうした?」
アルトは歩みを止めてフェリアに身体を向けた。
「‥‥‥」
「何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」
アルトは中々話し掛けた理由を告げないフェリアに更に問うた。
「‥‥して」
「ん?」
「どうしてそんなに強いんですか?」
フェリア純粋に思っていた事を訪ねた。
昨日のアルトの模擬戦を見て感じた事を聞いた。
それも仕方のないことだろう。
どれ程才能があろうと努力しなければ意味はなさいモノである。
赤ん坊が成長して言葉や文字、時刻などと学習する必要がある。
理解力が異なろうと全ての人間が学習という名の努力を行なっているのだ。
魔力も同じだ。
魔力を制御するために多くの努力が必要であり、努力の数だけ使用できる魔力量も増えるモノだ。
魔力量が違っていたとしても努力によって魔力量の多い者が少ない者に敗退する事もある。
よってアルトはフェリアのその発言に、自身が強いと思った事などなかった為、思うが儘に告げる。
「俺が強いか‥‥俺は自分が強いなど思った事などない」
「え?」
「俺の故郷では魔力を全く持たずに生まれた奴がいる。ソイツは誰よりも努力を諦める事はなかった」
この世界は魔力が全て。
そんな中で魔力を持たずに生まれるという事は一生の敗北者と言うことになる。
しかし────
「ソイツが諦めなかったからこそ、力を得た。その力を使い魔法騎士団に入団した。確かに魔力量ならば俺は最高の者かもしれないが、力とは魔力だけじゃねぇって事だ。自分なりの強い力を見つければ良い。それが強さになる」
「自分なりの強さ」
フェリアがアルトの言葉に聞き入っていた。
昨日のアルトの模擬戦を見て自分との差を見せつけられた事に不安を感じ取っていたが、アルトの言う魔力の持たぬ人物が魔法騎士団に入団するなど前代未聞だが、それを実現させたのはその人物の心の強さだった。
魔力という強さがないものの心という強さによって合格し入団したならば、自分にも何らかの強さがあるのだと思ったフェリアは憑き物が落ちた様な表情を浮かべ、アルトに感謝を告げた。
「ありがとう」
「あぁ」
フェリアからの感謝に相槌を打ったアルトは遠征を続けていく。
一通り見回して行くも異常な事はなかった。
「異常はなかったな」
「はい」
「フォルティさん達合流しよう」
アルトはフェリアと会話をした後、フォルティ達と合流しようと合流地点へと"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"を創成して乗って行く。
ドラゴンの背に乗って合流地点まで行く事に初めての体験だった為にフェリアは驚愕と歓喜に心を打たれていた。
そして合流地点へとやってきたが、そこには思わぬ光景が広がっていた。
フォルティ達が倒れていた。
「なに!?」
「フォルティさん! ガルヴァ君!」
アルトとフェリアは倒れているフォルティと同じく新入団員のガルヴァを見て驚愕し、心配の声をあげる。
"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"を着地させた。
"冥灯龍ゼノ・ジーヴァ"が着地するとドラゴンから飛び降りた2人は倒れている二人へと早足で近づいた。
「どうしたんですか!? フォルティさん、ガルヴァ君!」
「これは‥‥っ!! 拙い息を吸うな!?」
「え?」
フェリアはフォルティとガルヴァに心配の声をかけ続ける中、アルトは2人に起きた事を思考するが、すぐにある異変に気づき、フェリアに注意を促すが異変に気付いていないフェリアは呆けた声を告げる。
そんなフェリアにアルトは仕方なく左手で彼女の口を塞ぎフォルティとガルヴァから強化魔法で強化した身体能力で離れた。
フェリアは突然のアルトの行動に呆然としていた。
「いったい何を」と抗議しようとしたかったが、何故アルトがその様な行動を取ったのか漸く理解できた。
フォルティとガルヴァの周りに黄緑色の煙のようなモノが流れていたのだ。
フォルティ達から100m程離れた場所へとやってきたアルトはフェリアの口を塞いでいた手を離すとフォルティ達の周りにある煙を除去するために魔法を使った。
____混沌回復魔法"再生"____
"再生"=24時間以内ならば負傷がなかった状態へと再生させる事が出来るが、人体のみならず無機質も対象に入る為、フォルティとガルヴァに起きた状態を元に戻し、空気の状態も元の状態へと再生させた。
「‥ぅ‥‥これは‥」
「‥‥さっきまで苦しかったのに‥」
フォルティ達は自分達に起きた事が理解できずにいた。
しかし、そんな中、四人とは別の声がこの場に聞こえた。
「あら~神話の混沌の魔導士がいるなんて~」
『ッ!?』
第三者の声が聞こえた為に、誰もがその者へと視線を向けた。
すると、そこにはダイヤモンドの紋章を付けたローブを羽織ったシミが多い白衣の女性がいた。
その女性はまるで何らかの研究者と言わんばかりの格好だった。
「お、お前は‥‥八輝将の一人‥」
「初めまして~[八輝将]の一人、エルパ・フィルダムで~す」
エルパと呼ばれた女性は下卑た笑みを浮かべながら、自己紹介した。
あまりに巫山戯た態度にアルトは苛立ちを隠せずにいた。
「何のために襲ってきた?」
「何のためって、決まってるじゃな~い。私の調合魔法で出来た薬品の人体実験のためよ~」
何一つ悪びれることなく告げるエルパにアルトだけでなく、フォルティ達も怒りを滲み出ていた。
「そんな理由で襲ったんですか!?」
「そだよ~」
フェリアはあまりに信じられなかったのか再確認として問うが、エルパの反応は一切変化がなかった。
何とも思わぬその所行にアルトも堪忍袋の緒が切れる寸前でいた。
しかし、アルトよりも早く、堪忍袋の緒が切れた者がいた。
それはエルパの調合薬の被害を受けた人物達___つまり、フォルティとガルヴァだった。
「巫山戯るな!!」
____炎魔法"バーストジャベリン"____
____植物魔法"切葉の蔦"____
フォルティの炎魔法によって出来た炎の槍とガルヴァの植物魔法によって出来た切れ味が強い葉っぱを有した蔦が襲うが、エルパの調合魔法が発動した。
____調合魔法"オゾンドーム"____
二人の攻撃を簡単に回避したエルパは自分達を囲むようにオゾンによって出来たドームを作り出した。
オゾンは人間にとって有害なガスである。
しかし、エルパ自身もこの"オゾンドーム"にいる為、自身にも影響が起きるのが普通だが、どうやら彼女はこの魔法の耐性を同時に自身に起こしている様だ。
有害ガスを吸い込んでしまった四人はすぐさま、口に手を当てて身を低くする事で対抗しようとするも、ドーム内の空気がオゾンだけなので意味が成さない状態だった。
よってアルトが動いた。
____混沌回復魔法"再生"+混沌風魔法"惑星大玉螺旋丸"____
まず最初に自身達の状態を元の状態へと"再生"させて、惑星の様な複数の大玉状態の"螺旋丸"を右手に集約した魔法を"オゾンドーム"に放つ。
すると、オゾンのドームが簡単に大玉状の乱回転の螺旋丸によって吹き飛ばされた。
「くっ!?」
エルパは巨大な突風に回避はすれど、完全に回避できたわけではなく、彼女の左腕に僅かに軽傷を与える事が出来た。
しかし、それで勝てる筈もない。
「あっは~。混沌魔法はやっぱり凄いね。どんなに調合しても簡単には死なないから~もっと実験になってよ~!!」
エルパは"オゾンドーム"を防がれた事で更にアルトを実体実験対象としての評価が上がった。
その言い方は、他の者は一切眼中にないと言わんばかりの代物だった。
その発言は実験体にされた2人とアルトと共にいたフェリアは苦渋と憤怒の表情を浮かべていた。
当然だ。
勝手に実体実験として扱われ、今度はいない者扱いされれば、そうなるのも無理はない。
「お前は何故、非道な事が出来る」
「何でって、決まってるじゃ~ん。人間なんて実験動物として生まれただけの存在じゃ~ん。死んだ所で問題ないでしょ~」
笑いながらも凶器な理由を告げるエルパに正気を疑うフェリア達。
エルパの行動理由を聞いたアルトは俯いていた。
「さぁさぁ! もっと「もういい‥喋るな」え?」
ドゴォオオオン!!!
「‥‥ガハッ!! ゴホッ! ゴホッ!」
『え?』
実験を続けようとしていたエルパにアルトは何時の間にか手にしていた"聖剣エクスカリバー"の剣先を向けていた。
エルパは剣先を向けられた瞬間に、一点に無数の衝撃によってエルパの背後にあった大岩に衝突した。
一体何がおきたのか、フェリア達も、エルパにもわからなかった。
アルトは唯々純粋な剣術を行なっただけだ。
強烈な連続の突きを行なう剣術、"デスペッカー"を‥‥
「貴様は、命を何だと思っている。お前の娯楽の為に、多くの命が犠牲になった」
アルトは言葉は一つ一つに怒りが籠もっていた。
「俺の仲間も襲った。もう喋る必要はない。貴様は俺が殺す」
深海の如き憤怒を纏ったアルトは"聖剣エクスカリバー"を構えてエルパに挑むのだった。
次回~裏に隠れし火種~