朝食を終えると、ハリエットとロンはいつものように図書室へ足を運んだ。どうせ見つからないとは思うものの、すっかり日課のようになっているし、スネイプの悪行を黙って見過ごす事はできない───と、ロンは言う。
司書のマダム・ピンスに聞けばすぐにわかるかもしれないが、万が一スネイプの耳に入った事を考えて、自分達だけの手で調べるようにしてきた。スネイプの事を抜きにしても、ハリエットの頭は例のプレゼントの事でいっぱいになっていたので、調べ物をするのは気が紛れて良かった。
まぁ予想通り、この日もニコラス・フラメルの詳細は何一つわからなかったのだけれど。
「もうやだ……疲れたよ……」
あれだけ見つけてみせると意気込んでいたロンの熱意も、今では、見る影もない。けれどそれを咎めるなんてハリエットはしなかった。むしろここまで探して見つからなければ、やる気が失せるのも仕方のない事だ。
結局その日は、一時間と経たずに図書室を後にした。寮に帰る途中で、雪で髭が真っ白になったハグリッドと遭遇し、二人はケルベロスやニコラス・フラメルの事を詳しく聞いてみようとした。
けれど、失敗を重ねた事でハグリッドも学んだらしく、ハリエット達が「ニコラス」と名前を呟いただけで、ぎゅっと口を閉ざしてしまい、そのまま背を向けてずんずんと雪の中を歩いて行ってしまった。
「ちえっ。口の軽さこそがハグリッドの取り柄の一つだってジョージが言ってたのに、あんな風に黙られちゃったら意味ないじゃん」
とんでもなく失礼極まりない事を口走ったロンだったが、丁度ピッタリ通りかかったマクゴナガルから静かに五点減点を言い渡された。
そのついでと言わんばかりに、その話をロンに吹き込んだらしいジョージにも五点の減点が言い渡された。グリフィンドール、クリスマス当日に計十点の減点である。
談話室には誰の気配もなかった。ロンが兄達の部屋を覗いてみると双子は見つかったが、パーシーの姿はどこにもない。
どこかで勉強でもしているのだろうか、けれど図書室にはいなかったのに、と疑問に思っていると、知らぬ間に減点されている事を知らないジョージがひょっこりと顔を出して二人に声をかけた。
「パーシーならどっかの監督生の所に行ってるんだよ。監督生同士で勉強してるのさ」
肩をすくめながら話すジョージは呆れているようだった。
曰く、パーシーは普段から兄弟の自分達よりも、監督生と行動する方が多いそうだ。それを聞いたハリエットは、ジョージは構ってもらえない事に拗ねているのだろうか、と思いながら、ロンの誘いでチェスに興じる事にした。
白熱したチェスを楽しんだ後は、たくさんのご馳走がハリエット達を待っていた。
クリスマスツリーはロウソクだけで飾り付けたものや、眩しいほど輝かしいものまで様々で、テーブルの上にはダーズリー家で“見た”事さえない豪勢な食事がずらりと並んでいる。
丸々太った七面鳥のこんがりロースト、大きく盛り上がったポテトの山、バターの味が染み込んだ煮豆や大皿の上のソーセージにこってりした味の肉汁とクランベリーソース。パイやタルトにケーキまで、溢れそうなぐらいにたくさんの料理が揃っている。思わず手を取る事を躊躇っていると、ウィーズリーの兄達が甲斐甲斐しく料理を取り分けてくれた。
双子に手渡された魔法のクラッカーを鳴らしてみると、大砲のように大きな音が大広間に響き渡り、テーブルの上ではプレゼントに紛れ込んだハツカネズミが逃げ回っていた。こんなに大騒ぎするクリスマスは生まれて初めてで、ハリエットはドキドキしながら、どんちゃん騒ぎのクリスマスパーティーを楽しんだ。
・
そこは、埃臭い、おそらくは使われていないと思われる教室だった。それでも見つかって罰を受けるよりはマシだと思い、後ろ手に扉を閉めながら部屋を見渡す。埃の膜を張った窓から差し込んだ薄い月明かりに、その“鏡”は照らされていた。
恐る恐る近付いてみる。自分の身長よりずっと大きな鏡には凝った装飾が施されていて、所謂アンティーク品だと感じられた。ふと枠組みに文字が刻まれているのに気付く。
『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』
訝しむように目を細め、そろりと文字の羅列から下に視線を落とす。はっと目を見開いて後ろを振り返っても何もない。暗い部屋の中に立っているのは間違いなく自分一人。それなのに。
再び視線を鏡へ向ける。鏡の中には、確かに誰かが立っていた。
・
「……ん……」
ふと、ハリエットは目を覚ました。
目をこすりながら毛布から起き上がる。外はもう真っ暗闇に染まっていて、時々、白い粉雪がちらちらと窓にぶつかって、音もなく溶けて水に姿を変えている。
パーティーの後、ハリエットはウィーズリー兄弟達と揃って寮に戻り、そのまま軽くシャワーを浴びて早々にベッドに潜り込んだ。あんなにたくさん騒いだクリスマスは生まれて初めてで疲れてしまったのだ。
ハリエットはぼんやりしながら、しばらくジッと窓を見つめた。黒くなった窓に薄く自分の姿が映っている。そう言えば、目覚める直前に夢を見ていたような気がする。うぅんと首を傾げてみるが、思い出す事は特になかった。
ぼんやりしたまま、ハリエットはヘドウィグの方に視線を変えた。暗い中でもヘドウィグの純白はよく目立っている。傍にはまだ包装を破っていないクリスマスプレゼントが積んである。
ハリエットは一人と一羽しかいない部屋で、残りのクリスマスプレゼントを開けてみる事にした。
残っているのは淡い緑の包みと黒い包みで、どちらも差出人の名前はない。父親の透明マントに気を取られて、今朝は後回しにしてしまった。
ジッと包みを見つめて数秒、ハリエットは覚悟を決めた。まず黒い包みを開いてみると、魔法薬学の参考書が数冊積まれていた。相変わらずメッセージカードの一つも見当たらないが、透明マントに比べればずっと平凡で当たり障りのないもので、なんとなくホッとする。
最後に開いた淡い緑の包みは、手のひらサイズのシックなネイビーブルーのボックスだった。一見すれば宝石箱のようなそれは、アンティーク調の細やかなデザインが施され、至る所に薄い光を放つ小粒の宝石が散りばめられている。
呆然としたハリエットは思わずヘドウィグの方を向き、それから再びボックスへと視線を戻した。おそらくハリエットに届いたクリスマスプレゼントの中で、このボックスは透明マントの次に高価なものに違いない。
もしかするとこれも父の遺品なのでは、と一人で静かに狼狽えるハリエットは、混乱したままそのボックスを開ける事にした。
かすかに早まった鼓動を感じながら、ハリエットが意を決して蓋を開いた、その瞬間。
ハリエットの瞳に、輝きが映り込んだ。
ボックスの奥から溢れた光が、暗い部屋の中を照らす。
意思を持つように空中を泳ぐ煌めきが、キラキラと部屋全体の天井を目指して弾け合った。
頭上を見上げ、ハリエットは息を呑む───暗くなった部屋を、宝石のように美しい満天の星空が照らしていた。
言葉をなくしたその瞬間、どこからともなく穏やかなヴァイオリンの深い音色が流れ出す。
そして、最後に美しい星のオルゴールから溢れた光の粒が、ハリエットの目の前をゆらゆらと泳いだ。
「……すごい」
小さな声で、ハリエットはそう呟いた。
魔法の星がヴァイオリンの音色と共に部屋の中で揺らいでおり、緑色の瞳の中に小さな宇宙が輝いていた。
クリスマスプレゼント一覧
・ハグリッド:オカリナ
原作は横笛。まぁ誤差の範囲。
・マクゴナガル
魔女っぽいと思った。魔女コーデ。
・ハーマイオニー:お菓子の詰め合わせ
原作もお菓子。意訳:たくさん食べなさい(静かな圧)
・モリーおばさん:セーター
原作もセーター。色は違うけど。
・ダーズリー:五十ペンス硬貨、ヘアピン、ブローチ、ボールペン
原作は五十ペンス硬貨のみ。どれが誰からでしょう。
・赤い包み:透明マント
差出人は原作通り。
・黒い包み:魔法薬学の参考書
ヒェ〜〜〜!!!(裏声)(恐怖)
・淡い緑の包み:魔法のオルゴール(プラネタリウム付き)
絶対誰にも差出人わからない(断言)