ハリエット・ポッターと夢想の旅   作:永久@

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試験が終わって

 罰則の後、ハリエット達は禁断の森で起きた出来事を特に話し合う事はしなかった。

 そもそも学期末試験という事もあって、三人には罰則の話をする暇がなかったのだ。ロンとハーマイオニーは、ハリエットとセオドールのように黒い影を目にしてはいなかったし、ケンタウロス達から奇妙な言葉を投げかけられた訳でもない。彼らはハリエット達と違って、ただ暗い森の中を適当に探索していただけだった。

 セオドールとドラコも変わらない。ドラコの方は純粋に試験の勉強で忙しいのだろうが、セオドールはよくわからなかった。そもそもドラコやパンジー・パーキンソンのようなハリエットに絡んでくるスリザリン生と違い、セオドールはハリエット達に見向きもしていなかった。グリフィンドールとスリザリンの対立にも興味を示さず、毅然とした態度で常に一人で過ごしている。仲間意識とグリフィンドールへの敵意が強いスリザリンの中では、確かに珍しい部類の存在かもしれない。

 

 兎にも角にも試験が始まり、そして終わった。最後の試験である魔法史のテストを終えた三人はそのままブラブラとあたりをぶらつき、湖の木陰に寝そべった。

 

「もう予習復習をしなくていいんだ」

「私とハリーは普段からやってるわよ」

 

 大の字になったロンの言葉にすかさずハーマイオニーが言い返した。はいはい、とロンは慣れた様子でそれを受け流す。そこから三人は適当に話をした。ジョージとフレッドが実技のテスト中に花火を投げただとか、試験中のスネイプの視線の怖さだとか。それが少しずつ発展して、しばらくして三人の会話は賢者の石の話になった。

 

「フラッフィーとダンブルドアがいれば、とりあえず賢者の石は大丈夫だよ。いくらスネイプだってあの犬を掻い潜れやしないんだから」

「ロン、スネイプは石を守っている先生の一人だって、ハグリッドが言ってたじゃない。もう忘れたの?」

「守ってるからって狙ってないとは限らないだろ。永遠の命が手に入るんだぜ?」

 

 どうやらロンはまだスネイプに疑いの目を向けているらしい。ハグリッドが確かに言っていたのに、とハーマイオニーが呆れたように呟くが、気にしていない様子でロンは更に言葉を続ける。

 

「だって永遠の命だぞ? 欲しくない訳ないじゃんか。闇の魔術に詳しいってパーシー達も言ってたし、ハグリッドは騙されてるのかもしれない」

「じゃあダンブルドアも騙されてると思うの?」

 

 ありえないわ、とハーマイオニーは笑った。

 

「私、マグル生まれだけどダンブルドアがどれだけ偉大な人かって言う事は知ってるわよ。だってどの本を読んでも彼の名前があるんだもの。賢者の石を作ったニコラス・フラメルと旧知の仲で、かつて“例のあの人”と同等に恐れられた闇の魔法使いを討ち倒した英雄。もしもスネイプが嘘をついていたら、ダンブルドアがそれに気付かない筈ない」

 

 ハーマイオニーの話を聞きながら、ハリエットは奇妙な感覚に包まれた。思い出すのはクリスマス、あの奇妙な鏡の前で話をしたダンブルドアの事。切なげな微笑みが何を考えているのか、結局ハリエットはわからなかった。わからなくて当然なのだけれど、何故だか今でも思い出すたび、不思議なくらいハリエットの気持ちも切なくなる。

 ハグリッドはいつもダンブルドアがどれだけ凄い人物なのかを話している。恩があるのだとヒゲと髪に覆われた顔を綻ばせて語る姿は、まるで大好きなヒーローの話をする無邪気な子供のようだった。実際ハグリッドの性格は無邪気と呼ぶに相応しい。ノーバートの件だって違法だってわかっていただろうし、詐欺だったかもしれないのにパブでそんなものを。

 

「あ」

 

 ぽつ、とハリエットが声をこぼす。ロンとハーマイオニーの視線が彼女に向けられるが、ハリエットはどんどん下を俯いて考え込む。

 

「ハリー?」

「……何で」

「え?」

「何で、ドラゴンの卵、あったんだろう」

 

 ドラゴンの飼育は違法だ。卵だってそう簡単に手に入るものではない。魔法薬学の材料として使われる事はあるが、当たり前のように高級品として扱われている。そうでなくてはおかしい代物なのだ。それなのに。

 

「ハグリッドは、魔法動物が好きだから、多分、ドラゴンも欲しかったと、思う。でも、普通は手に、はい、らない……よね」

「そりゃそうだよ。ドラゴン自体珍しいのに」

「で、でも、パブでハグリッドは、もらった」

 

 ハーマイオニーの表情が強張った。まだピンと来ていないロンが何かを言おうとしたのを遮るように、ハリエットがまた口を開く。

 

「お、おかしい、よね? だ、だって、ドラゴンを欲しがってるハグリッドの前に、卵を持った人が、現れるのって」

「タイミングが良すぎるわよね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「ねぇロン、貴方のお兄さんってドラゴンの研究をしてるのよね?そういう人って卵を持ち歩くの?」

「そんな訳ないだろ!」

「そう。じゃあ、やっぱりおかしいのね。ハグリッドが会った相手は」

 

 更に言葉は続く。

 

「考えてみれば、ユニコーンの件だっておかしいのよ。血を飲めばたちまちどんな傷や病気も治ると言われているユニコーンの血、それから永遠の命を得られる賢者の石。そうよ、これってきっと同じ犯人だわ!」

「じゃあ、ユニコーンを殺すようなヤバい奴が、賢者の石を狙ってるって事?」

 

 ロンはそこまで言って、気まずそうな表情で更にこう続けた。

 

「それで、ハグリッドはそんな相手から、ドラゴンの卵をもらったの?」

 

 三人は無言で互いの顔を見合わせると、弾かれるように立ち上がって走り出した。まずい、と彼らの脳裏には危険信号が鳴り響いている。ハグリッドは良い奴で、善良な人間である事は間違いない。間違いないのだけれど、同じくらい彼は口が軽いのだ。あの手この手で賢者の石について聞き出そうとしたハリエット達にはよくわかる。

 一目散に彼らは走る。向かう先は、ハグリッドの家だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ハグリッドは家の外にいた。肘掛け椅子に腰をおろして、クリスマスにハリエットに贈ってくれたオカリナのような、木の笛をぴょろぴょろと奏でている。

 

「何だ、お前さんら。試験終わったのか?」

 

 駆けつけた三人に気付いたハグリッドが、笛から唇を離して訝しそうに問いかけた。

 

「ハグリッド、あのね、聞きたい事があるの。ドラゴンの卵をくれた人の事よ。どんな人だった?」

「どんなって言われても、フードを被っとったからよくわからんかった。気前は良かったがな、次から次に酒を奢ってくれた」

「じゃあ、じゃあ、どんな話をしたの? 動物の話はした?」

「お、おぉ。確かにしたぞ」

 

 矢継早に尋ねるハーマイオニーに眉をしかめながらも、ハグリッドは頷いた。

 

「俺が森番をしとるって話をして、そんであっちが卵の話を持ちかけてきたんだ。向こうもあれを持て余しとったようで、だがちゃんと世話できねぇと渡さねぇと言うからな。フラッフィーに比べりゃドラゴンなんて可愛いもんだって言ってやったんだ」

「フラッフィーの話をしたのね?」

 

 ハーマイオニーがまた尋ねれば、ハグリッドもまた頷いた。

 

「もっとも、フラッフィーだってなだめ方をしっかりわかってれば何も問題ねぇけどな。音楽をきかせりゃすぐぐっすり寝ちまうんだ」

「その話、卵をくれた人にもしたの?」

「あー……多分。まずい、これ言っちゃいけねぇんだ、忘れてくれ」

「僕らに言っても意味ないだろぉ!」

 

 喚くようにロンが叫び、三人はまた走り出した。どこ行くんだ、と首を傾げたハグリッドの声は無視をした。

 

「すぐダンブルドアに伝えないと。フラッフィーの出し抜き方がバレてるって」

「でも校長室は合言葉を言わないと入れない」

「じゃあマクゴナガル先生の所に行きましょう!」

 

 ハーマイオニーがそう言って、三人はまたもや走り出した。やっと彼女のオフィスについた時には、三人揃って息も絶え絶えの状態で、マクゴナガルは目を見開いて三人を見やった。

 

「どうしたのです、そんなに息を切らして」

「あの、ダンブルドア先生はどちらですか? 伝えないといけない事があるんです」

「ダンブルドア先生ならお留守ですよ」

 

 「えっ!?」とロンが大きな声で叫んだ。

 

「お留守!? 何で!?」

「魔法省から緊急のふくろう便があって、急ぎロンドンに発たれました」

「でもあの、僕ら凄い重要な事で来たんです!」

「ウィーズリー、魔法省からの要請も重要な事です。残念ですがもう戻って……」

「賢者の石、」

 

 息を切らしたハリエットの言葉に、マクゴナガルの表情が驚愕で染まった。

 

「どこでそれを……」

「あの、ハグリッドが、えっと……石が、その、狙われてて」

「そうです、誰かが石を盗もうとしてるんです! それでハグリッドが、フラッフィーのなだめ方を、お酒の勢いで教えちゃったみたいで……」

 

 ハリエットの言葉に続けてハーマイオニーがそう言い、マクゴナガルは眉根を寄せながら指先で額を抑えた。酒の勢いで話してしまったという話も酷いが、それをハリエット達が知ってしまっている事自体も酷い話だ。マクゴナガルはしかめ面で深い息を吐き出すと、真剣な表情で三人を見た。

 

「どうして知ってしまったのかはわかりませんが、石の護りは万全です。安心なさい」

「でも先生……」

「ハグリッドが話していたのはフラッフィーの話だけですね?」

 

 ロンの言葉を遮るようにマクゴナガルは問いかけた。多分、とハリエットが頷けば、マクゴナガルもまた静かに頷く。

 

「もう一度言いますが、護りは万全です。ですから騒がずに、寮にお戻りなさい」

「先生、でもスネ……」

「ウィーズリー。これが最後です。今すぐ寮に戻るのです」

 

 ロンはスネイプの名前を出そうとしたが、力強いマクゴナガルの言葉に怖じけたのか、そのまま押し黙った。

 三人は静かにマクゴナガルの部屋を出ると、少し離れた人気のない廊下の先で顔を突き合わせた。

 

「どうする? ダンブルドアがいるから大丈夫だって話だったのに、いないなら話が変わって来るだろ」

「マクゴナガル先生は大丈夫だって言ってたわよ」

「本当に大丈夫かはわかんないだろ。魔法省からのふくろう便だってどうせ嘘に決まってる、スネイプがダンブルドアを追い出す為に偽物を用意したんだ……きっと今夜にでもやるつもりなんだよ」

 

 ロンの言う事はあながち間違いではないだろう。ハグリッドの事と言い、あまりにもタイミングが出来すぎている。

 スネイプが確実に犯人であるという証拠も結局は掴めなかったし、犯人ではないという証拠も見つからなかった。わからぬままの犯人像にむいて考えていると、ゆらりと彼らの背後に影が立った。

 

「こんな所で何をうろついている」

 

 ハリエット達が振り向いた先にはスネイプが立っていた。どこか小馬鹿にするような貼り付けた微笑み(とは言ってもハリエットはそれが本当に微笑みかどうか判断がつかないが)を浮かべて、品定めするかのような視線で三人を見下ろしている。

 

「グリフィンドールはもう減点される余裕はない筈だが、また何か企んでいるのですかな」

「そんな事……」

「黙れウィーズリー。兄のように遊び呆けて我輩を馬鹿にされては困る」

 

 厳しい声でロンの言葉を静止したスネイプは、そのまま流れるようにハリエットに視線を向けた。

 

「……どうかしたのかね、ポッター」

「え、あ……いえ、」

 

 ふるふるとハリエットは首を横に振った。スネイプはしばし無言の後、そうか、とだけ短く呟いた。

 

「友人を誰にするのも結構だが、妙な事を唆されぬように気をつけたまえ。次に夜の校内をうろつくような事があれば、我輩が直々に退校処分にして差し上げよう」

 

 スネイプはそう言うと、最後に三人をひと睨みしてから踵を返して立ち去った。残された三人はスネイプの姿が見えなくなるまで黙り込んで、黒い後ろ姿が曲がり角を曲がった際に深く大きな息を吐いた。

 

「……夜にうろつくな、だってさ。自分が出歩いてる所を見られたくないのかな」

 

 吐き捨てるようなロンの言葉に、ハリエットは悲しげに眉を下げた。ハリエットにはスネイプが犯人だとはやっぱり思えなかったが、ロンはそうではないようだ。

 とはいえ、これ以上は本当に何も出来る事がなく、三人はマクゴナガルの言う通り大人しく寮に戻る事にした。試験から開放された清々しさはもうどこかに消えてしまっていて、曖昧なままの不安だけが彼らの心に取り残されている。

 女子寮の自室にはラベンダーもパーバティもいなかった。最初のハリエット達と同じように、試験終了の解放感をどこかで堪能しているのかもしれない。脱いだローブを椅子にでもかけようとして、不意にハリエットは動きを止めた。あ、と小さな吐息のような声がこぼれる。

 椅子には既に透明マントがかかっていた。あの不思議な鏡を見に行くのに使ったのが最後で、あとはジョージやフレッドに望まれるがまま貸しているだけだった。

 ピン、とまるで蓋が開くような閃きだった。ハリエットは透明マントを手に取りながら、自分でも狼狽えた様子でハーマイオニーの方を見た。それに気付いたハーマイオニーが、きょとんとした表情で「どうしたの?」と問いかける。

 ハリエットは自分でも困惑していた。突然の閃きは、なるほど確かに現状の自分達にとって最善の策であるかもしれない。けれど間違いなくやって良い事ではなかった。それでも一度、思いついてしまった事を黙っているのも気が引けて、結局ハリエットはハーマイオニーに言ってしまった。

 

「こ、これで、抜け出せない、かな……夜の、寮」

 

 透明マントを見せてそう告げたハリエットに、ハーマイオニーはこれでもかと大きく目を見開いた。




ハリエットのキャラが作者の自分にすら掴めない気がしてむりぽよ_(:3」∠)_
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