ハリエット・ポッターと夢想の旅   作:永久@

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Good bye , Philosopher’s Stone(ばいばい、賢者の石)

 ダンブルドアが帰った後、真っ先にお見舞いにやってきたのはハーマイオニーとロンだった。

 二人とも走ってきたのか息を切らしており、ハーマイオニーは今にも両手でハリエットを抱き締めようとして、あたふたして、思い留まった。

 ロンは迷いなくハリエットを抱きすくめた。

 

 ハリエットはクィレルのことを、包み隠さず二人に話した。最後の部屋で起こったこと、賢者の石の結末、ターバンの下にあったものの正体まで。

 

「そっか、そうだったんだ」

 

 ほっとした様子でロンは呟いた。

 

「とにかく、君が無事で良かったよ。賢者の石も何事もなくて安心した」

「そうだけど、私達、スネイプ先生に失礼な態度を取っちゃったわね」

 

 困ったようにハーマイオニーが言う。ロンが「げっ」と声をこぼしたが、いつものような文句は続かなかった。ずっと疑っていた手前、思うところがあるのだろう。

 

「まぁ、あいつのことなんて良いんだ。明日は学年末のパーティーがあるから───」

「ロン、先生のことをあいつなんて───」

「───学年末のパーティーがあるから、元気になっておいでよ。寮の得点の計算はもう終わっちゃって、スリザリンが勝ったんだ。クィディッチの最後の試合は君が出られなかったから、レイブンクローにこてんぱんにやられちゃった───そんな顔するなよ、ウッドも兄貴達も別に怒っちゃなかったから……」

 

 三人はそうやって、マダム・ポンフリーに「もう十五分も経ちましたよ!」と言われるまで、色んなことを話した。

 

 

 翌日、学年度末のパーティーに向かう直前に、ハグリッドが面会にやってきた。

 ハグリッドはハリエットを見るなり「みんな……俺の……バカな……しくじりのせいだ!」と叫んでオンオンと泣きじゃくった。慌ててハリエットがハグリッドの大きすぎる腕をさする。

 

「悪い奴らに、フラッフィーを出し抜く方法を喋ってしもうた。俺がヤツに話したんだ! ヤツはこれだけは知らんかったのに、喋ってしもうた! お前は死ぬとこだった! たかがドラゴンの卵のせいで……もう酒はやらん! 俺なんか、おれなんかつまみ出されて、マグルとして生きろと言われてもしょうがない!」

 

 悲しみと後悔に体を震わせて、ハグリッドはぽろぽろと大粒の涙をたくさんこぼす。一体どうしたら良いのかわからなくて、ハリエットはひたすらハグリッドの腕をさすり続けた。

 

「すまねえ、ハリー……本当に、すまんかった……」

 

 涙で震えた声でしゃくりあげるハグリッドに、ハリエットは何と言えば良いのかわからなかった。もとより話をするのは苦手である。気の利いた慰めの言葉もわからない。

 ただ、ハグリッドの気持ちはなんとなくわかるような気がする。

 自分のせいで誰かが、それも見知った人間が傷付いてしまうのは、とても辛いことだ。ハリエットにはたくさん覚えがある───ダドリーの誕生日に、動物園で起きたことなどは未だ記憶に新しい。

 あの日の夜、ハリエットはたくさん怯えて怖がった。誰も傷付けないように、誰にも会わなければ良いのだと引きこもって───。

 

「……は、ハグリッド」

 

 小さな声でハリエットが名前を呼ぶと、ハグリッドは弱々しく顔を上げた。

 

「も、もう、泣かないで……き、気にしてないから……」

「だが、お前さんは死ぬとこだったんだ。俺のせいで死ぬとこだった……」

 

「でも、生きてる、から」

 

 ハリエットがそう告げると、ハグリッドは目をまん丸くさせてきょとんとした。

 

「生きてる、から……へ、平気。だいじょうぶ……だから、な、泣かないで」

 

 ハリエットは、ハグリッドを見上げながらそう囁いた───ダドリーがいつもハリエットに言っていたことの、そっくりそのままの受け売りだった。

 もう泣くなよ、とダドリーはハリエットによく言った。怒ってないから、生きてるんだから平気だと、ずっと泣いている従姉妹を見ながら、どこかぶっきらぼうに言っていた。

 あの時のダドリーも、今のハリエットのような気持ちだったのだろうか。泣き止んで欲しいと───自分の為に落ち込まないで欲しいと、そんなことを思っていたのだろうか。

 

「お前さんは良い奴だなぁ、ハリエット」

 

 ハグリッドは手の甲でグイッと鼻を拭った。ハリエットがお菓子の山から紙ナプキンを引っ張って手渡すと、まだほんの少し鼻声のまま「ありがとうな」と言って受け取ってくれた。

 

「おぉ、そうだった。このお菓子の山で思い出した、俺もお前さんにプレゼントを持ってきたんだ」

 

 ハグリッドが取り出したのは、小綺麗な革表紙の本だった。

 

「開けてみてくれ」

 

 言われるがままに表紙を開くと、そこには魔法使いの写真がぎっしりと貼ってあった。どのページを開いてもハリエットに笑いかけ、手を振っている。その顔には見覚えがあった───両親だった。

 

「お前さんの両親の学友達にフクロウを送って、写真を集めたんだ。お前さんは両親の写真をほとんど持ってねぇって聞いたから……」

 

 ハグリッドの言う通り、両親の写真を見た記憶はほとんどない。せいぜいが若い頃の母───リリーのものだけで、父のものを見た記憶もない。

 叔母夫婦は、ハリエットに写真をあまり見せたがらなかった───こうやって動く写真ならば尚のこと。

 

「どうだ、気に入ったか?」

 

 ハリエットは何も言わなかった。けれど、じっと食い入るように写真を見つめると、そっと胸に抱き寄せる。

 それだけでハグリッドにはわかった。痛いほどよくわかった。

 

 

 

 

 その夜ハリエットは、一人で学年度末のパーティーに向かった。直前までマダム・ポンフリーが最後の診察を続けていたものだから、ようやく大広間についた時にはもう人でいっぱいになっていた。

 七年連続で両対抗杯を獲得したスリザリンのグリーンとシルバーで飾られており、スリザリンの蛇を描いた巨大な横断幕が、ハイテーブルの向こうの壁を覆っている。

 ハリエットが足を踏み入れた途端、ざわざわと騒がしかった大広間が突然、しんと静まり返り、かと思えばまた一斉に大声で話し出した。ダンブルドアの言う通り、皆が『秘密』をとっくに知っているのだろう。

 

「ハリー、こっちだよ!」

 

 ロンの呼ぶ声がして、ハリエットは小走りでグリフィンドールのテーブルに向かい、ロンとハーマイオニーの間に座った。皆がハリエットを見ようと立ち上がったが、それもすぐに静まった───ダンブルドアが現れたからだ。

 

「また一年が過ぎた!」

 

 ダンブルドアは朗らかに言った。

 

「一同、ごちそうにかぶりつく前に、老いぼれのたわごとをお聞き願おう。何という一年だったろう。君達の頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればいいのじゃが……新学年を迎える前に君達の頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 

 生徒の中で小さな笑いが起きた。

 

「それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次のとおりじゃ───四位、グリフィンドール、三百十二点。三位、ハッフルパフ、三百五十二点。二位はレイブンクロー、四百二十六点。そしてスリザリン、四百七十二点」

 

 わぁっとスリザリンのテーブルが湧いた。

 スリザリンが嵐のような歓声を上げ、赤いグリフィンドールは悔しげにスリザリンを睨み、青いレイブンクローと黄色いハッフルパフは諦めたように俯瞰した目でぼうっと見ている。

 ハリエットも視線を向けると、興奮したドラコ・マルフォイがゴブレットでテーブルを叩いているのが見えた。

 

「よし、よし。よくやった、スリザリンの諸君」

 

 好々爺が笑っている。緑の努力を称えて───しかし、と付け加える。

 

「つい最近の出来事も勘定に入れねばなるまいて」

 

 途端に広間は静まった。スリザリン寮生の笑いがぴたりと止まる。

 

「ギリギリで得点を上げた者達がおる───まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」

 

 名前を呼ばれたロンの顔がはっと赤くなった。

 

「この何年か、ホグワーツで見ることができなかったような、最高のチェス・ゲームを見させてくれたことを称え……グリフィンドールに五十点を与える」

 

 グリフィンドールのテーブルから、天井が飛んでいきそうなくらいの歓声が上がった。ロンはフレッドとジョージに揉みくちゃに赤毛を撫で回され、パーシーには「僕の兄弟さ! 一番下の弟だよ!」と他の監督生に自慢されていた。

 

「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢───冷静に頭を使って、見事仲間を危機から救ったことを称え……グリフィンドールに五十点」

 

 また割れんばかりの歓声が上がった。ハーマイオニーが腕に顔を埋めている。小さく鼻をすする音が聞こえて、嬉し泣きしているのがわかった。

 

「───三番目はハリエット・ポッター嬢」

 

 ハリエットの名前が呼ばれると、まるで水を打ったように静まり返った。

 

「大きな恐怖に取り込まれることなく、自らの足で立ち向かった───その強い心と勇気を称えて、グリフィンドールに六十点を与える」

 

 耳をつんざく大騒音だった。声がかすれるほどの大声で、グリフィンドール寮生達が叫んでいる───ハリエット達だけで、スリザリンと同点の四百七十二点になったのだ。

 

「勇気にも色々ある」

 

 ダンブルドアは微笑みながら更に続けた。

 

「敵に立ち向かっていくにも大いなる勇気がいる。しかし、友に立ち向かうことは更なる勇気がいる───その勇気を称えて、ネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」

 

 グリフィンドールのテーブルから爆発が起こった。ハーマイオニーとロンが歓声と共に立ち上がり、ハリエットは口もとに笑みを浮かべながらネビルを見た。ネビルは驚いて顔色を青白くさせていたが、両隣にいたシェーマスとディーンに抱きつかれ、そのまま他の生徒達にも揉みくちゃに埋め尽くされて姿が見えなくなってしまった。

 

「よくやったのう、グリフィンドール───じゃが、まだ続きがあるのじゃ」

 

 ダンブルドアは、大興奮のグリフィンドールをなだめるようにそう言った。

 広間がようやく落ち着きを取り戻した頃、好々爺は微笑みのままグリフィンドールのテーブルから、()()()()()のテーブルに視線を向け直した。

 

「恐怖や敵に直面することほど勇気を必要とすることはない。じゃが、わしはこうも思う─── ()()()()()()()()()()()()()()行いもまた、美徳と呼ぶに値すると」

 

 ざわめきが至る所に広がった。グリフィンドール寮生達が、ダンブルドアとスリザリンのテーブルを交互に見やっている。ハリエットもスリザリンの方に目をやれば、彼らもまた困惑している様子なのが伺えた。

 

「ひけらかさず、密かに友の為に臨機に振舞った。わしはそれを評価したい。が、どうやら()は目立ちたくないようでな。故に、スリザリンには『匿名』で、十点を与えようと思う」

 

 スリザリンから歓声が湧き上がる。困惑の声もあるようだが、グリフィンドールに負けるよりかは同列一位の方がマシだと思ったのだろう。少なくとも、七年連続寮杯獲得の記録は保持できる。

 

「従って、飾り付けをちょいと変えねばならんのう」

 

 ダンブルドアが手を叩くと、グリーンとシルバーだけに包まれていた広間に深紅と黄金色の垂れ幕が混ざりあう。ダンブルドアが更に指を振るうと、大きな蛇の横断幕の隣にそびえ立つような獅子が現れた。そこでようやく、グリフィンドールは困惑から抜け出して、改めて喝采を轟かせた。

 不思議な空間だった。グリフィンドールとスリザリンが、互いに互いの一位を賞賛する形になっている。レイブンクローとハッフルパフは、スリザリンの一人勝ちでなくなったことに喜んで喝采に加わっていた。教員席では、微妙に苦々しい作り笑いのスネイプが、満面の笑みのマクゴナガルと握手をしていた。

 ───最高の日だ。

 誰かがそんなことを言った気がした。あるいは、自分の頭の中の言葉だったかもしれない。その境がよくわからなくなるくらい、あちこちで皆が言っていた。

 ハリエットもそう思った。笑いながら、ロンやハーマイオニーと共に手を取り合って喜び合う───今日はとっても、素晴らしい夜だ。

 

 

 

 

「……」

 

 スリザリンのテーブルで聞こえた誰かの小さな舌打ちは、嵐のような喝采に飲み込まれて掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ホグワーツの一年目はゆっくりと終わろうとしていた。

 

 試験の結果も発表された。ハリエットは上から数えた方が早いくらいの好成績で、特に良かったのは薬草学と魔法薬学だった。クリスマスプレゼントの中にあった参考書のおかげである。未だ送り主はわからないままだが、ハリエットは感謝した。

 ハーマイオニーはもちろん学年トップで、ロンは本人が驚く程度には良い成績だった。ネビルも薬草学は好成績で、どん底だった魔法薬学の成績を補っていた。

 成績のことを話さなくなる頃には、洋服タンスは空っぽになっていた。代わりに旅行カバンはいっぱいになって、生徒達には「休暇中魔法を使わないように」という注意書きが配られた。

 

 初めてやってきた時のようにハグリッドの案内で船に乗って、ホグワーツ特急に乗り込んで、ロンとハーマイオニーと笑ったり喋ったりしているうちにキングス・クロス駅に到着した。九と四分の三番線ホームに生徒達がなだれ降り、年老いたしわくちゃの駅員が、唯一の改札口の前で立っている。マグルを驚かせないように、少しずつ送り出さなければならないからだ。

 長蛇の列を待っている間も、ハリエットはロンとハーマイオニーと一緒にいた。

 

「二人共、夏休みにはうちに泊まりに来てよ。フクロウ便を送るから」

「私も手紙を書くわ。二人の方からフクロウを出してくれると助かるんだけれど」

 

 フクロウを飼っていないハーマイオニーが申し訳なさそうにそう言って、ロンもハリエットも頷いた。ヘドウィグがくるくると鳴いている。きっと夏休みの間、たくさん働いてもらうことになるだろう。

 話している間も列が進んでいき、ようやくハリエット達は改札の壁を通り抜けて、マグルの世界へと進んでいった。何人かが声をかけてきたけれど、ハリエットは笑って会釈をするだけだった。

 改札口を出ると、ハリエットはなんだか懐かしいような感覚を感じた。魔法の世界からマグルの世界に戻ってきたのが肌で感じ取れる。

 

「ローン───こっちよ───」

 

 朗らかな声がロンを呼ぶ。一緒になって振り返ると、赤毛の女性が手を振っていた。女性は同じ明るい赤毛の少女の肩を抱き締めており、すぐ近くには双子のフレッドとジョージの姿もある。ウィーズリー家だ。

 

「おかえり。そちらのお嬢さん達もおかえりなさい……」

「もしかしてハリエット・ポッター?」

 

 母親だろう女性の声を遮って、少女が口を開いた。けれど、視線は久々に会った兄ではなく、ハリエットの方を向いていた。

 

「そうでしょ、貴方、ハリエット・ポッターでしょ! 皆、手紙で貴方の話を教えてくれたわ! ねぇママ、ハリエット・ポッターよ!」

「ジニー、お黙り。指さすなんて失礼ですよ」

 

 ウィーズリー夫人は娘の金切り声を叱責すると、ハリエットとハーマイオニーに笑いかけた。

 

「忙しい一年だった?」

「はい、とっても!」

 

 ハーマイオニーが元気よく返事をする。ハリエットも頷き、おずおずと口を開いた。

 

「あ、あの……」

「はい?」

「セ、セーター……ありがとう、ございました」

「まぁ。どういたしまして」

 

 ウィーズリー夫人は嬉しそうに笑った。フレッドとジョージが顔を見合せて笑い、楽しげに口を開こうとした。

 

「ハリー!」

 

 喧騒の中、誰かがハリエットの名前を呼んだ。ハリエットは振り向くと、目を見張り───へにゃ、と自然に口もとが柔った。ハリエットを呼んだ声の主が、小走りになってこっちにやってくる。

 

「こんなとこにいたのかよ。全然見つからないからいないかと思ったじゃんか」

「う、うん。ごめん……」

 

 ダドリーは相変わらずだった。相変わらず小太りで、相変わらず言い方がぶっきらぼうで、相変わらずハリエットのことを手のかかる奴だと言いたげで───相変わらず、ハリエットのことを迎えに来てくれた。

 

「ハリエットのご家族?」

 

 ウィーズリー夫人が微笑みながら言った。ダドリーははっとした様子でウィーズリー夫人を見ると、反射的に背筋を伸ばした。

 

「えっと、はい。従兄弟です」

「まぁ、まぁ……ご両親は?」

「あっちにいます」

 

 ダドリーが指さした先には、かなり遠くの壁に立っているバーノンとペチュニアの姿があった。ウィーズリー夫人がそちらを向いて、まぁ、と呟く。

 

「あの方達ね。ご挨拶にいかなくちゃ……」

「あ、いや」

 

 ダドリーが何やらもごもごと口ごもる。

 

「やめといた方が良いかも……うちの親、今日は調子が悪いんです。だから……」

「あらま、そうなの?」

 

 こくこくとダドリーが何度も首を縦に振る。多分違うんだろうな、とハリエットは思った。ただちょっと、普通じゃない人間がたくさんいる中に、入っていきたくはないだけで。

 

「じゃあ、代わりにご両親によろしく伝えていただけるかしら? うちのロンがハリエットにたくさんお世話になったみたいだから」

「はい。こっちも、こいつがお世話になりました」

 

 ダドリーはウィーズリー夫人に頭を下げると、ウィーズリー夫人は機嫌よくそれに返し、遠くのペチュニアとバーノンにも会釈した。予想外の行動だったのか、慌てた様子でペチュニアとバーノンも遠くで頭を下げている。ダドリーはハリエットの腕とカートを掴んで、そのままさっさと連れていこうとした。

 

「また夏休みに!」

「私も! 楽しい夏休みを!」

 

 慌ててロンとハーマイオニーが叫んだ。ハリエットも慌てて頷き、二人に「またね」と呟いて、そのまま引っ張られていく。

 

「あれ、友達か?」

「う、うん」

「へぇ。お前、友達作れたのか」

 

 なんとも失礼な発言である。これまでのハリエットを思えば当然の反応ではあるが。そんなことを話していると、突然、通りすがりに女性に声をかけられた。

 

「あら。さっきの坊や、従姉妹は見つかったの?」

「あ、どうも。見つかりました。ありがとうございました!」

 

 話しかけてきた女性に、ダドリーはハキハキと答えて小さく会釈しながらそのまま通り過ぎた。ハリエットがびっくりして瞠目しながら女性の方を見やると、ハリエットが押しているのと同じようなカートを持った少年が女性の傍にいた。顔は知らないが、様子からして彼もホグワーツの生徒なのだろう。荷物の端から黄色いネクタイが飛び出している。きっとハッフルパフ寮生だ。

 

「……知ってる人?」

「さっき案内してもらった。あのー、あれ、最初は九と四分の三番線ってとこまで迎えに行こうと思ったんだよ。でもわからなかったから。お前らの改札もよくわかんなかったし」

 

 なるほど。さっきの少年もきょとんとしてこちらを見ていたようだったから、彼らが合流する前のことなのだろう。しかしそうなると、ダドリーが知らない魔法族の女性と一対一で話をしたことになる。

 話しかけてきたのが向こうからにせよダドリーからにせよ、純粋に凄いことだ。ペチュニアとバーノンなら絶対に不可能である。何ならハリエットも無理かもしれない。コミュニケーション能力の問題で。

 

「それで、ちょっとは上手くなったか?」

 

 ダドリーが言った。ハリエットが首を傾げると、太い眉を寄せながらダドリーは更に言う。

 

「お前のヘンテコな力のことだよ。ちょっとは上手く使えるようになったのか?」

 

 あぁ。

 そういえば、最初の理由はそれだった。ホグワーツに入学する決意の決め手となったのは、ダドリーの後押しと、ハリエット自身が『普通』になりたかったからだ。

 ハリエットがぽつりと言う。

 

「た、多分……マシになった」

 

 と、思う。少なくとも、呪文学や変身術で上々の成績を取れる程度にはなれた───ホグワーツでは感情のままに物が壊れることもなくなったと、その時やっと気が付いた。

 ダドリーは「そっか」と素っ気なく呟いた。見上げると、態度はぶっきらぼうなまま、どこかそわそわとした様子が滲み出ている。

 

「じゃあ……もう自分で使いこなせるんだろ?」

 

 横目でこちらを見ながら問いかけられ、ハリエットは頷いた。いつも素直で単純なダドリーにしては、なんだかわかりにくい表情だった。

 不意にダドリーが足を止めたので、ハリエットも一緒に立ち止まる。ひそひそと、ダドリーが小声でハリエットに囁く。

 

「つまり……できるんだろ。火を出したりとか、何か……そういうの」

 

 きょとんと、ハリエットは目を見張る。そこでようやく、ダドリーが一体何にそわそわしているのか理解した。バーノンとペチュニアが知れば、血相を変えて叱りつけそうなことだと思った。けれど確かに、思い返してみるとダドリーはそういうのを心から嫌っている訳ではなかったかもしれない。火を噴くドラゴンなんかはお気に入りだったし、テレビの向こうでビームを放つスーパーヒーローなんかも好んでいたような気がする。

 しかし、そうなると。ハリエットは、困ったようにダドリーを見上げた。期待に満ちた目がきらきらとこちらを向いていて、なんだか罪悪感を抱かせられる。

 

「……えっと……」

 

 ハリエットは「学校の外では魔法を使ってはいけない」ということを、どうやってダドリーに伝えようかと思案した。




賢者の石、これにて終!
時間がかかったけれど、読者の皆様におかれましてはお付き合いくださり感謝です!秘密の部屋もゆっくりお待ちになってお付き合いいただければと思います。がんばろ〜う!
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