ハリエット・ポッターと夢想の旅   作:永久@

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煙突飛行

 ハリエットが『隠れ穴』で生活するようになって、数週間が経った。その間、ウィーズリー家は相変わらずハリエットに対して、とても親切にしてくれている。

 ロンは初めて庭小人を見るハリエットに駆除のやり方を教えてくれたし、フレッドとジョージはオッタリー・セント・キャッチポール村を案内してくれた。後でニンバス2000をちょっとだけ貸しておくれ、というお願い付きではあるけれど。

 パーシーも、ほとんど部屋に篭もりっぱなしではあったけれど、たまに部屋から出てくる時には、ハリエットに魔法界の本を何冊か用意して貸してくれた(ハリエットは幻の生物とその生息地が一番気に入った)。

 ジニーがハリエットにひっきりなしに質問を仕掛けてきたのは最初の三日ほどだけで、言葉に詰まってばかりのハリエットに興味をなくしたのか、今ではこちらに寄ってくることも少ない。

 申し訳ない気持ちもあるけれど、それと同じくらいほっとする気持ちがハリエットの中にはあった。ジニーは可愛らしく、明るく、とても好感の持てる女の子だが、それがハリエットにはかえって酷く眩しかった。

 ハリエットに自覚はないが、彼女と無条件に仲良くなれるのは、だいたいが図々しい子か忍耐強い子のどちらかである。ダドリーは前者でロンも前者、ハーマイオニーは両方だ。

 

 

 ホグワーツからの手紙が『隠れ穴』に届いたのは、そんなある日の朝だった。

 朝食の時間、ハリエットはロンと一緒に台所に降りていき、先にテーブルについていたウィーズリー夫妻───やっと仕事が一息ついたのか、アーサーは昨日の夕方から『隠れ穴』に戻っていた───に、トーストと封筒をそれぞれから手渡された。トーストの上にはマーマレードが塗られていて、羊皮紙の封筒には緑色のインクで宛名が書かれている。

 アーサー曰く、ダンブルドアはハリエットがウィーズリー家に居させてもらっていることを既に知っているようだった。

 手紙の内容自体はなんてことない。去年と同じく、キングス・クロス駅の九と四分の三番線からホグワーツ特急に乗ること、それから新学期の新しい教科書のリストだ。グリンゴッツで必要なお金を下ろさなければと思いながら、リストに書かれている教科書を確認する。

 

 

二年生は次の本を準備すること

 

 基本呪文集(二学年用) ミランダ・ゴズホーク著

 泣き妖怪バンシーとのナウな休日 ギルデロイ・ロックハート著

 グールお化けとのクールな散策 ギルデロイ・ロックハート著

 鬼婆とのオツな休暇 ギルデロイ・ロックハート著

 トロールとのとろい旅 ギルデロイ・ロックハート著

 ヴァンパイアとバッチリ船旅 ギルデロイ・ロックハート著

 狼男との大いなる山歩き ギルデロイ・ロックハート著

 雪男とゆっくり一年 ギルデロイ・ロックハート著

 

 

 まさかの九割が同じ著者。

 一番スタンダートな教科書に思える基本呪文集が完全に霞んでいる。まるで小説か児童文学のようなタイトルだが、本当に今年の教科書なのか。書店の発注書か何かとリストが取り違えられたのだろうか?

 頭に疑問符を浮かべながらハリエットはそんなことを考えたが、いつの間にか台所に来ていたフレッドの背後からの言葉で、その考えは否定される。

 

「ハリーとロンのもロックハートの本のオンパレードだ。新しい闇の魔術に対する防衛術の教師は大ファンみたいだな」

 

 ぱっとフレッドが顔を上げると、母親と目が合った。慌てて椅子に走って腰を落とす相棒の後をついて、自分のリストを読んでいたジョージが呟く。

 

「これだけ教科書を揃えたら、かなりの値段になっちゃうよ。ロックハートの本は安くないし……」

「まぁ、なんとかするわ」

 

 心配そうな顔をしながらも、モリーは言った。

 

「多分、ジニーのはお古ですませられると思うし……」

 

 その時、ちょうどパーシーが台所に入ってきた。 寝癖をきちんと整えて、手編みのタンクトップに磨き抜かれた監督生バッジが輝いている。

 

「おはよう皆。良い天気ですね」

 

 パーシーは爽やかに挨拶して、たった一つ空いていた椅子に座ろうとした───が、途端に弾けるように立ち上がり、ボロボロの毛ばたきみたいな灰色を引っ張りあげた。

 

「エロール!」

 

 よれよれになったフクロウをパーシーから受け取ると、ロンは翼の下をそっと探って一通の手紙を見つけた。勝手口の内側にある止まり木にそっと止まらせようとしたが、エロールはポトリと床に落ちてしまった。ハリエットの胸がどきりとする。もしかして、死んでしまったのだろうか。

 しかしその心配はなかった。ロンが「悲劇的だよな」と呟きながら、エロールを食器の水切り棚の上に乗せてやると、ボロボロの翼が力なくぱたぱた動いた。そして、眠っている時のヘドウィグよりずっと弱々しく、すやすやと羽を休める。

 

「エロール爺さん、ハーマイオニーから返事を持ってきてくれたんだ。ちょっと前に君が我が家にやって来たって手紙を出したから……」

 

 ロンはそう言って封を破り、ハーマイオニーからの手紙を読み上げた。

 

 

親愛なるロンとハリエット

 

 お元気ですか? ハリエットが無事みたいで本当に何よりです。とっても心配していたの。

 ただ、今度手紙を送ってくれる時は、ハリエットのヘドウィグを使ってみた方が良いかもしれません。もう一回配達させたら、ロンのところのフクロウはおしまいになってしまうかもしれないもの。

 ハリエットは夏休みをどう過ごしましたか? ロンの家には庭小人が居るって聞いているけれど、私はまだ本物を見たことがないので気になります。良かったら手紙で、どんなだったか教えてね。

 私は勿論、勉強でとても忙しくしています

 

「マジかよ、おい。休み中だぜ!」

 

実は水曜日に、両親と一緒に新しい教科書を買いに行こうと思っています。もし良かったら、ダイアゴン横丁でお会いしませんか?

 うちの両親も二人に会いたがっています。特にパパなんてロンに興味津々です。きっと仲良くなれるわね。

 なるべく早く近況を知らせてもらえると嬉しいです。

 

 ではまた。

 

 ハーマイオニー

 

 

 ハリーへ追伸 またこういうことがあった時の為に、我が家の電話番号を書いておきます。いつでもかけて。 ○○×○-○○○○

 

 

「電話番号って何? これ何の数字?」

 

 手紙から顔を上げると、ロンは訝しげにハリエットに尋ねた。ハリエットが、電話という道具とその使い方、番号の意味を知っている範囲で説明すると、何故かロンより先にアーサーの方が大きく反応した。

 

「おもしろい! まさに、独創的だ。マグルは魔法が使えなくてもなんとかやっていく方法を、実に色々考えるものだ」

 

 後でロンから聞いた話だが、アーサー・ウィーズリーは魔法省のマグル製品不正使用取締局の職員であるだけでなく、マグルのあらゆることに興味津々らしい。ダーズリー夫妻と話す姿が全く想像できない。

 朝食を終えた後、ハリエットはロン、フレッド、ジョージと一緒に、丘の上にあるウィーズリー家の小さな牧場に向かった。木立で周りを囲まれた草むらは、下の村から見えない程度に上手く隠れている。その為、低空飛行を心掛ければ、クィディッチの練習ができるという訳だった。

 パーシーのことも誘ってみたけれど、忙しいと断って部屋に閉じこもっている。食事の時以外でハリエットがパーシーと話をしたのは、本を貸してくれる時と、ドビーの話を聞いてくれたあの深夜の時くらいだ。

 

「あいつらしくないよな」

 

 丘の上で、ボール代わりのリンゴを投げながら、つまらなさそうにフレッドが言った。

 

「あいつ、フクロウ試験で十二フクロウだったのに、にこりともしなかったんだぜ。槍でも降るのかと思ったけどこんなに良い天気だし」

 

 普通魔法レベル試験、通称フクロウ試験。ハリエットも存在自体は知っている。去年のパーシーがとても忙しそうにしていた一番の理由がそれなのだから。それなのに、双子に遊ばれて困っているハリエットを気にかけてくれたり、勉強でわからないところがあったら向こうから教えに来てくれたり、パーシーは多忙ながら面倒見が良かった。

 

「ビルも十二フクロウだったっけ。下手すると、この家からもう一人首席が出ちまうぞ」

「参った! ジョージ、俺はそんな恥には耐えられないぜ」

「俺もだよフレッド! 俺達はクィディッチと悪戯グッズに集中していこう」

 

 おんおんとわざとらしいくらい大声の嘘泣きをしながら、フレッドとジョージはひしっと互いを抱き締め合う。ビルというのはウィーズリー家の長男で、現在はグリンゴッツ銀行に務めているらしい。確かもう一人の兄、次男のチャーリーはルーマニアでドラゴンの研究をしている。ハリエットはどちらにもまだ会ったことがない。

 去年のクリスマスではウィーズリー夫妻達がルーマニアにいるチャーリーを訪れたので、ロン達ウィーズリーの現役ホグワーツ生は学校に残ったのだ。

 銀行と言えば、真っ先に連想するのはお金のことだろう。ジョージとフレッドは両親がどうやって金銭の工面をするのか気になるようだった。今年から入学する妹の学用品も必要だし、教科書八冊を五人分となればかなりの金額になる。

 ハリエットはなんだか居心地悪く感じた。じっと黙って、ニンバス2000に横向きで掛けながら、ぼんやりと足の先を眺めている。グリンゴッツ銀行のポッター家の地下金庫には、ハリエットの両親が残してくれたかなりの財産が預けられていた。現状は魔法界でしか使えないものだけれど、あの日のゴブリンの話では、換金しようと思えばマグルの世界のお金にも替えられるらしい。無論、それだって手間も時間もかかりはするだろうけれど。

 今のところあの金庫について知っている大人は、グリンゴッツまでハリエットを連れてきて鍵を渡してくれたスネイプと、ハリエットの母───ポッター夫人の実の姉妹にあたるペチュニア・ダーズリーの二人だけだ。

 スネイプは鍵をなくすなという忠告以外は何も言及してこなかったし、ペチュニアは無駄遣いをしないことと、無闇矢鱈にその金庫のことを人に話してはいけないということ以外、特に何も言うことはなかった。

 

 

 水曜日の朝は早かった。皆がモリーに容赦なく叩き起されて、一人あたり六個ずつのベーコンサンドイッチを口に詰め込んでいく。ハリエットは自分のコートではなく、モリーが持ってきてくれた魔法使いらしい真っ黒のローブを羽織った。

 皆が集められたのは家の外ではなく、暖炉の前だった。モリーは、暖炉の上の植木鉢を取って、そっと中を覗き込み、そして小さくため息をついた。

 

「アーサー、だいぶ少なくなってるわ。今日買い足しておかないと……さて、お客様からよ。どうぞハリー」

 

 モリーはそう言って、笑顔でハリエットに植木鉢を差し出した。

 

「ママ、ハリーは煙突飛行粉(フルーパウダー)を使ったことないんだよ」

 

 ロンがすかさず言った。アーサーが不思議そうに目を細める。

 

「一度も? では去年はどうやってダイアゴン横丁に行ったのかね?」

「あ、す、スネイプ先生に、つれられて……」

 

 ハリエットが言うと、アーサーは納得したように頷いた。大人とジニー以外のグリフィンドール生達だけが、うげぇ、と顔を歪めて気の毒そうにハリエットを見ている。

 

「一度も使ったことがないとはねぇ……じゃ、ジョージちゃん。貴方がお手本を見せてあげて」

 

 ジョージは頷くと、鉢からきらきら光る粉を手のひらでひとつまみした。暖炉の炎に粉を振りかけると、ごうっとエメラルドグリーンに変色し、ジョージの背丈を易々と超えるくらい燃え盛る。ジョージはハリエットにウインクをしてみせると、その炎の中に入って叫んだ。

 

「ダイアゴン横丁!」

 

 次の瞬間、ジョージの体は炎に包まれて、姿はフッとなくなった。次にフレッドが前に出て、鉢の中に手を突っ込む。

 

「良いわねハリー、はっきり発音しなくちゃ駄目よ」

 

 フレッドが暖炉の中に入って叫ぶ。燃え上がった炎が、フレッドの姿をかき消した。

 

「良いわね? 炎の中に入ったら、しっかり行き先を言うのよ」

「肘は引っ込めておけよ」

「火はそんなに暑くないから大丈夫よ。煤は鬱陶しいけど」

「そうね。ジニーちゃんの言う通り、煤は目を閉じていれば平気だから───」

「もぞもぞ動くなよ。慌てる必要も別にないから。フレッドとジョージが待っててくれるから───」

「……全部一気に話しても、ハリーが困るだけだよ」

 

 心配そうなロンとモリーと、二人と一緒になってアドバイスをしたがるジニーを見ながら、呆れたようにパーシーはそう言った。

 

「全くだ。ほら、行きなさいハリー」

 

 アーサーに背中を押され、ハリエットはモリーの手の中の鉢から煙突飛行粉をひとつまみ取った。視線が集まるのは緊張するが、心配をかけているということだから、甘んじて受けるしかない。粉を暖炉の投げ入れ、炎の中に踏み入れる。エメラルドグリーンがぱちぱちと視界で煌めいた。

 ───発音は。

 

「ダ───アイアゴン、横丁───!」

 

 緊張しきって強ばった声で、ハリエットは叫んた───次の瞬間、強い巨大な穴に渦を巻いて吸い込まれていくような感覚に襲われる。

 ぐるぐると体が、世界が、頭のどこかが回っている。スネイプの腕を掴んで飛ばされていく時と似ているけれど、少し違う。あのエメラルドグリーンの炎の渦が視界を舞っていた。

 ロンの忠告なんて必要なかったくらい、ハリエットは肘を引っ込めて縮こまっていた。スネイプの手で飛ばされる時は、いつも彼に掴まっていた───手を伸ばせるものがないだけで、こんなにも心許ないなんて思ってもみなかった。

 ぎゅるんぎゅるん音を立てて、胃の中がひっくり返りそうになる。薄く開いた目の先で、景色が何度も切り替わった。フレッドとジョージの姿は見えない。どれくらいこうしているべきなのだろう、フレッドとジョージのところまでどれくらいなのだろう───とにかく、早く止まってくれたら、それで良いのに。

 

 そう思った瞬間だった。突然、ハリエットの体は回転から解放されて、冷たい石に前のめりに倒れ込んだ。咄嗟に前に出した手は煤だらけになっている。多分、全身そうだろう。

 ずきずき痛みを感じながら、そろりと立ち上がる。言われた通り、待ってくれているはずのフレッドとジョージを探そうとして───この空間に、ハリエットしかいないことに気が付いた。

 血の気が引く感覚を感じながら、ハリエットは周囲を見渡す。ハリエットの背後には石の暖炉があり、多分ここから飛び出してきたのだろうとわかる。カウンターがあって、上には人骨がばら積みになり、近くの壁には邪悪な風貌の仮面が飾られていた。

 恐怖で凍りつく。ここにはホグワーツや『隠れ穴』で感じられた、暖かみのようなものがまるでなかった。すぐに出ていくべきだと思ったけれど、淡いパニックに犯された頭では冷静な思考は難しい。その場で改めて周囲を見渡そうとした時───ハリエットの手首が掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。

 

「静かに」

 

 ひゅっと息を飲む。凍りつくような足がもつれそうになったが、手を掴んだ誰かは構わずぎゅっと力を込め、不気味な品々の間を駆け抜けた。ガラス戸を通ってようやく、ハリエットは自分がいたところが店だったということを知った。ボージン・アンド・バークスと看板に書かれており、どうやら胡散臭いこの通りで一番大きな店らしい。

 外は店の中よりは明るかったけれど、それでもダイアゴン横丁の活気を思うとあまりにも暗かった。

 ハリエットの手を引く誰かはフードを被っていて、背丈はハリエットと変わらない。強いて言うならハリエットよりは少し高いだろうが、周りのみすぼらしい大人の魔法使い達と比べると、明らかに子供だった。

 曲がり角を曲がりかけた時、古ぼけた看板に通りの名が記されている。そこには『夜の闇(ノクターン)横丁』と書いてあった。

 

「サー」

 

 目の前の手を引く誰かが言った。少年の声だった。

 気付くと、同じようにフードを被った知らない魔法使いが、二人の前に立っている。全身真っ黒なローブを纏っていて怪しげではあるが、あの通りで見かけた他の魔法使い達とは違い、小綺麗で洗練されている。立っている裏道はひとけもなく、他の場所よりは比較的清潔なような気がした。

 サーと呼ばれた魔法使いがこちらを見やる。ハリエットの身長から見上げるとフードの中は丸見えになっていたが、顔立ちは完全にはわからなかった。フードの下に、夜をそのまま塗りつけたような、漆黒色のドミノマスクをつけていたからだ。それも顔の左側───ハリエットから見て右にあたる側だけを覆っており、隠れていないところは見えるものの、フードの影で特徴的なところはわからない。さながらオペラ座の怪人だ。口もとに薄く見える皺からして、ミドルエイジほどだろうか。

 

「───」

 

 サーはぴくりとも表情を動かさぬまま、仮面から覗くダークブラウンの瞳だけが、ハリエットを見据えて揺れ動いた。まっすぐな瞳の瞳孔がきろりと開いている。けれどそれだって長くはなく、そっと目を伏せてもう一度開いた時には、何ともなさそうな瞳がハリエットを映していた。

 

「……彼はあそこのすぐ先にいる」

 

 告げて、指さす。少年が再びハリエットの手を引いて、示された方角に早足で駆けた。ハリエットが何かを問うタイミングはなかったし、極度の緊張故なのか、そもそも何も話せなかった。

 裏道から新たな通りに出ようとしたその瞬間、少年はまたあの店のように、ハリエットの手を強く引いた。そして、前のめりに転げかけたハリエットを支えでもするかのように、手首から手を離し、背中に添えてひそりと囁く。

 

「誰にも話すなよ」

 

 決して。

 最後に一言を付け加え、どんっと少年はハリエットの背中を押した。倒れると目を瞑った刹那、ばふん、と柔らかくて大きな何かにぶつかった。荒い毛皮のような手編みで、なんだか少し───獣臭い。

 くる、と振り向いた大男が、ハリエットを見下ろして、真っ黒な目をぱちくりと瞬かせた。

 

「───ハリー! お前さん、こんなとこで何しちょる?」

「ハグリッド……」

 

 ほっと胸を撫で下ろして、ハリエットはやっと掠れた声をこぼすことができた。

 少年は、もうどこにもいなかった。

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