「ハリー! ハリー! ここよ!」
「ハーマイオニー……!」
ハーマイオニーがいたのは、グリンゴッツ銀行の白い階段の上だった。栗色のふさふさした髪をなびかせながら、ハーマイオニーはハリエットとハグリッドの傍に駆け下りてきて、ぎゅうっとハリエットに飛びつく。久しぶりにハーマイオニーに会えた喜びと、やっと落ち着くところにやってこれた安心感で、ハリエットもぎゅうぎゅうとハーマイオニーを抱きすくめる。
「わっ、あははっ。ハリーが力いっぱい返してくれるのって、何だか珍しいわね」
「不安だったんだろうよ」
ハグリッドはしみじみと言って、ハーマイオニーとハリエット髪を丸ごとわしゃわしゃ撫で回す。
「無理もねぇ、
「そうなの? あぁ、ハリー、大丈夫だった? ハグリッドに会えるまで、何事もなかった?」
きゅっとハリエットは口をつぐんだ。一拍の間をあけて頷くと、そう、とハーマイオニーもそれ以上言及はしてこない。迷い込んだボージン・アンド・ボークスから連れ出してくれた少年と、少年がサーと呼んでいたドミノマスクの魔法使いが脳裏に過ぎる。
誰にも言うなよと少年が言った通り、ハリエットは口を閉ざしている。ここまで連れてきてくれたハグリッドにどうしたのかと聞かれた時も、知らない暖炉に迷い込んだとしか話さなかった。
もしかしたら話すべきなのかもしれないけれど、別に彼らに何かされたという訳でもない。むしろ困っているところを助けてくれて、ハグリッドのもとまで連れて行ってくれたと思えば、言われたことくらいはきちんとしなくてはならないだろう。
「ハリー!」
聞き慣れた声がして、ハーマイオニーとハリエットは声のした方に振り返った。人混みでごった返した通りを、ロンが一目散にこちらに駆けてきていた。更にその後ろから、アーサー、フレッド、ジョージ、パーシーも一緒に走ってきている。
「無事で良かった……せいぜい、一つ向こうの火格子まで行きすぎたくらいであればと願っていた……モリーは半狂乱だった。今こっちに来るがね」
「どっから出てきたの?」
ロンが問いかけた。
「
ハグリッドが暗い顔で代わりに言った。わっと双子の顔色が変わる。
「「すっげ───いや、大丈夫だったか?」」
ぴったり同時に叫びかけ、それからぴったり同時に留まって心配そうに声をかける双子に、ハリエットは苦笑した。心配しつつ好奇心を隠せない彼らの反応が、今は安心させられる。
そうこうしている間にモリーもやってきた。片手に握り締めたハンドバッグが左右に振り回され、もう片方の手にジニーがやっとの思いで捕まっている。
「あぁ、ハリー───おぉ、ハリー───良かった。本当に、貴方に何かあったら、私は貴方のおじ様おば様になんて言ったら良かったのか……」
モリーは興奮気味にハンドバッグからハンカチを取り出して、ハリエットの頬の煤を払ってくれた。服についていた煤はハグリッドが叩き拭いてくれたけれど、ハリエット自身に見えないところはまだ黒っぽかったらしい。ジニーも一緒になって、ハリエットの髪の先を摘んでぱっぱと払い落としてくれた。
「じゃ、俺はもう行かにゃならん。もう迷うんじゃねぇぞ、ハリエット」
ハグリッドがそう言うと、モリーはハグリッドの手をしっかり握って、ぶんぶんと上下に振った。もしもボージン・アンド・バークスの店から連れ出してくれた少年を前にしたら、モリーは感激して泣きじゃくってしまうのではないだろうか。
「じゃあ皆、ホグワーツで、またな!」
ハグリッドが大股で去っていく。一際大きな後ろ姿は、人混みの中に紛れてもずっと目立っていた。
大きなハグリッドが完全に見失ってから、皆はグリンゴッツ銀行の中に入っていった。ハーマイオニーの両親は既に銀行の中にいて、壮大な大理石のホールの長い長いカウンターの傍で、不安そうに佇んでいる様子は、魔法に関することを前にした時の叔母夫婦を思い出させる。
アーサーは心底楽しそうだった。慣れていない様子のグレンジャー夫妻に嬉しそうに話しかけ、彼らの持っている十ポンド紙幣を指さして、子供のように興奮していた。
グレンジャー夫妻がマグルの金銭を換金している間、ハリエットはウィーズリー家と一緒に地下金庫へと向かうことになった。ゴブリンのトロッコに乗るのはこれで二度目だったが、一度目の頃よりたいしたことはないと思った。クィディッチのおかげだろうか。
ウィーズリー家の金庫にやってくると、ハリエットは居心地が悪く感じられた。金庫の中にはシックル銀貨がひと握りと、ガリオン金貨が一枚だけ転がっている。モリーが隅から隅まで全部をかき集めている間、ハリエットはわざと目を逸らして、斜め前に座るパーシーに話しかけた。
ポッター家の金庫についた時には、扉が全開してしまわないよう気を付けながら、ガリオン金貨を少しと、シックル銀貨とクヌート銅貨を多めに掴み取った。金貨ばかりだと、なんだか嫌味なような気がしたのだ。それでも、買い物には困らないよう少なくない量を詰め込んだつもりだし、それだけ詰めたって金庫の中はまだたくさん残っているけれど。
グリンゴッツ銀行を出た後は、皆、別行動を取ることになった。パーシーは新しい羽根ペンを買うと言い、フレッドとジョージはグリフィンドールの悪友、クィディッチ実況のリー・ジョーダンを見つけた。ジニーはモリーと一緒に中古の制服や他の学用品を買いに行くことになったし、アーサーはグレンジャー夫妻に飲み屋の漏れ鍋で一杯飲もうと誘い、魔法界のことを右も左もわからないグレンジャー夫妻は、安心したようにそれを承諾していた。
「それじゃあ皆、一時間後にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で落ち合いましょう。教科書を買わなくちゃ」
そう言って、ジニーの手を握って歩き出そうとし、あぁそうそうと思い出したように振り向く。
「
双子の背中がどきっと跳ねる。それを見てから、モリーはまた歩を進めた。
ハリエットとロンとハーマイオニーは、三人一緒に石畳の道を走った。ロンのオススメで、フローリアン・フォーテスキューのアイスクリーム・パーラーに行き、ハリエットはバニラとストロベリーのアイスクリームを買った。
ロンは高級クィディッチ用具店のショーウィンドウを食い入るように眺めていたが、ハーマイオニーはインクと羊皮紙を買うのに、ロンを隣の店まで無理矢理引きずっていった。ハリエットも苦笑いしながらついて行ったけれど、こっそりとパドルミア・ユナイテッドがモチーフの便箋を買っていた。オリバー・ウッドの教育の賜物である。
ダイアゴン横丁には色んな店があり、当然似たような店も多い。数ある悪戯専門店の中で、三人が入ったのはギャンボル・アンド・ジェイプス悪戯専門店だった。フレッド、ジョージ、リーの三人が、何かを買いだめしているところだ。小さな雑貨屋を抜けて、魔法動物ペットショップを覗いて外に出た時、遠目にパーシーを見つけた。誰かと隣同士に並んで、さっきハリエット達がいた雑貨屋に入っていくところだった。三人は無言で互いの顔を見てから、雑貨屋の方をそろりと覗こうとしたけれど、すぐ近くで即興の魔法ジャズバンドが始まって、三人はそっちの方に走っていった。
そうやって、楽しい一時間はあっという間に過ぎていく。
予定通りフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に向かってみると、予想外の人だかりの山ができていた。遠目からでもわかるくらい押し合う人々の上に、大きな横断幕がデカデカと掛かっている。
自伝 『私はマジックだ』
「本物の彼に会えるわ!」
ハーマイオニーが黄色い悲鳴を上げた。
「だって、彼って、リストにある教科書をほとんど書いている人じゃない!」
きゃあきゃあと騒ぐハーマイオニーを筆頭にして、人を押し分けて中に入っていく。押し寄せる人だかりのほとんどが、モリーと同じくらいの中年の魔女ばかりだった。
長い列は奥まで続いている。三人は急いでロックハートの本を一冊引っ掴むと、ウィーズリー家とグレンジャー夫妻が一緒に並んでいるところにこっそり割り込んだ。当惑している様子のグレンジャー夫妻の隣で、モリーはそわそわしながら何度も髪を撫でつけていた。
ギルデロイ・ロックハートの姿が少しずつ見えてくる。にこやかにウインクして白い歯を見せびらかす自分自身の写真に囲まれて、ロックハートは席に座ってサインをしていた。勿忘草色のローブに魔法使いの三角帽を被って、ファンの魔女にいちいち微笑みかけている。記者らしい男がカメラを手に、何度もフラッシュを焚いていた。
「そら、そこどいて───日刊預言者新聞の写真なんだから」
一人のカメラマンが後退りして、ロンとハリエットの立ち位置を無理に押しやる。それがなんだってんだよ、とロンがぶっきらぼうに悪態をつくと、ぱっとロックハートが顔を上げた。声を聞いていたのだろうか。
ロックハートはまずロンを見て、それから隣のハリエットを見た。じっと見つめた。少しの沈黙があって、ハリエットが居心地悪そうに目を逸らした途端、ロックハートは勢いよく立ち上がって叫んだ。
「───もしや、ハリエット・ポッターでは?」
ロックハートがそう言うと、真っ先に反応したのは目の前のカメラマンだった。ぐるりと勢いよく振り向くと、力強くハリエットを引き寄せて、ロックハートの隣に立たせる。流れるようにハリエットを受け取ったロックハートが、自らの傍らに立たせてがっちりと肩に手を回して離さなかった。
恐ろしい連携っぷりである。ハリエットが混乱している間に、目が眩むようなフラッシュが何度も焚かれた。
「にっこり笑って。明日の朝刊に一面大見出し記事ですよ」
そうは言っても度が過ぎる。人に見られることなんて好きじゃないのに、今は書店中全ての視線がハリエットとロックハートに集まっていた。とてもじゃないが笑顔なんて浮かべられない。
「皆さん」
何度目かのフラッシュの後、ロックハートが声を張り上げた。
「なんと記念すべき瞬間でしょう! 私がここしばらく伏せていたことを発表するのに、これほど相応しい瞬間はまたとありますまい!」
ハリエットはこっそりロン達のもとに帰りたかったが、ロックハートの手がそれを阻止していた。
「ミス・ハリエットが、私の自伝『私はマジックだ』を求めて、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に足を踏み入れた……私としても、こんなに名誉なことはありません。日刊預言者新聞ベストセラーで二十七週連続一位を飾っているくらいにね」
人垣が拍手で湧いた。ロックハートが更に続ける。
「この互いの幸運に、私は彼女に喜んでこの本をプレゼントします───勿論、無料で。それも全著書を!」
歓声が上がり、ハリエットの頭にきんきんと響く。
「また彼女も、そのクラスメイト達も、良いものを手にするとお約束致しましょう。ここに、大いなる喜びと誇りを持って発表致します───この九月から、私はホグワーツ魔法魔術学校にて、闇の魔術に対する防衛術の担当教授職をお引き受けすることになりました!」
これまでで一番大きな拍手が響いた。ロックハートはハリエットの手を無理矢理に握手すると、ハリエットの細腕に分厚い全著書をプレゼントしてきた。流石に耐えきれずばさばさと何冊か落ちたところを、ロックハートが笑いながら拾って、そしてまた上に乗せてくる。
全て拾い終わった後で、ロックハートは最後に『私はマジックだ』の自伝をハリエットに手渡した。
「ホグワーツで会いましょう、うら若き英雄。君に教えられるのを、楽しみにしていますよ」
ハリエットは返事もしなかった。俯いて、誰とも視線を合わせないようにしながら、書店の隅の方に逃れていく。買ってもらったばかりの大鍋の傍で、ジニーがぽつんと突っ立っていた。
「ハリー、大丈夫?」
ジニーが問いかける。ハリエットはふるふると首を横に振って、持っていた本をジニーの大鍋の中に入れた。
「これ、あげる……」
ハリエットはか細く言った。
「わ、私、自分で買うから……」
「大変そうだね、ミス・ポッター」
突然話しかけられて、ハリエットは咄嗟にびくりとしてしまった。恐る恐る顔を上げると、煌びやかなプラチナブロンドの少年が微笑んでこちらを見ている───ドラコ・マルフォイだった。
「顔色が悪いけれど、平気かい? この本、外まで持っていくのを手伝おうか?」
ドラコが心配そうに聞きながらハリエットを見つめる。ハリエットは少しだけ驚いたけれど、ドラコがハリエットに親切にしてくれるのは今までもよくあった。ふるふると首を横に振ると、そう、とドラコも大人しく引き下がる。
「あぁやって急に人前に引き出されるのは辛いよね。僕も父上に連れられた魔法省の上級役員のパーティーで、いきなりスピーチみたいなことをさせられそうになったことがあるからわかるよ」
ドラコはため息をつきながら、ロックハートの方を見てぼそりと呟いた。肩を竦めて、それからちらりとハリエットの隣のジニーを見る。
「それで」
ドラコがぽつりと言った。
「……ミス・ポッター、やっぱりまだウィーズリーとつるんでいるんだね。さっきのことでもわかったろう、君は特別なんだから、付き合う友人は選んだ方が良いんだと」
ハリエットの体が僅かに強ばる。ジニーはむっとしてドラコのことを睨みつけた。
「どういう意味よ、それ?」
「そのままの意味だよ。見たところ、君もウィーズリーだろう───」
ドラコはジニーの赤毛を見下ろしながら、ねちっこく言った。
「君が思想まで染まっていないなら何も問題ないけれど、悲しいことに君の家族は皆、血を裏切る者ばかりなんだ。君達の先祖が知れば、きっと耐えられないだろうね───」
「僕の妹に何話してるんだ、マルフォイ」
ちょうど、ロンとハーマイオニーが、ロックハートの本を山積みに抱えて、ハリエットの方にやってきたところだった。ロンとドラコはお互いを、不快なものを見るような目で睨みつけた。
「これはこれはウィーズリー、君がこの店にいたなんて驚いたよ……そんなに買い込んで、ご両親は飲まず食わずかい?」
ロンは髪の色と同じくらいかっと顔を赤くして、本の山をジニーの鍋の中に突っ込み、ドラコに拳を振り上げようとした。ハリエットとハーマイオニーがロンの上着を掴んでギリギリで止めたところに、ドラコが薄笑いを浮かべながらまた何かを言おうとしたが、とん、と肩を後ろから叩かれて、口を閉ざす。
「これドラコ、失礼するでない……」
見上げると、ドラコと同じプラチナブロンドを靡かせた男性が、子供達を見下ろしていた。青白いくらい純白の肌、端正な顔立ちと尖った顎。口もとにうっすら浮かべた笑みはドラコとそっくりだった。
「あぁ、ミス・ハリエット・ポッター───ルシウス・マルフォイです、ドラコの父の……どうぞお見知り置きを」
そっと息子の肩をステッキで押しのけて、ルシウスはハリエットに手を差し伸べる。それはまるで、ホグワーツに初めて足を踏み入れたあの日、ドラコに手を差し出された時と同じ場面だった。
あの時は悩んでいるうちにマクゴナガル先生がやってきてお開きになったけれど、今はそうもいかないだろう。じっと黙り込むハリエットがどう見えたのか、ドラコが父親の傍から小さく囁いた。
「握手だよ」
少し躊躇ってから、ハリエットはルシウスと同じようにそっと自身の手を差し出した。革手袋の上質な肌触りが手のひらに伝わる。二人は長く触れ合うことはせず、ルシウスが力を緩めるとハリエットも手を離した。
「確か寮は……あぁ、そうだ、グリフィンドール───父君や祖父君と同じ。ポッター家は由緒ある家系で、代々グリフィンドールが多い……」
目を見張る。父と母がグリフィンドール寮生だったことは知っていたけれど、祖父もそうだというのは初耳だったし、ましてポッター家自体ががグリフィンドールの家系だなんて思ってもみなかった。
同じように生粋のグリフィンドール家系であるロンも、驚いた様子でハリエットとルシウスを交互に見やっている。当惑している子供達を見下ろしながら、ルシウスがほくそ笑んだ。
「きっと知らないことがたくさんおありなのでしょう、無理もない。聞くところによれば、ずっとマグルの世界で過ごされていたとか……」
ルシウスはため息をつくと、とても残念そうに目を伏せる。
「嘆かわしいことだ。由緒正しい家柄だったことも、これまでの家の歴史や家系についても教わらずにいたとは……あぁそうだ、もしよろしければ、私が手を貸して───」
「ロン!」
ルシウスの言葉を遮って、人混みの向こうからアーサーが息子を呼びかけた。フレッドとジョージを連れて、何とかこっち側に来ようともがいている。やっと辿り着いた時には、もう息絶え絶えだ。
「中はもう酷いもんだ。外に出よう……」
「おや、これは、これは───アーサー・ウィーズリーじゃないか」
ぱっとアーサーは顔を上げた。息を吸い込み、きゅっと唇を引き結んで、素っ気ない態度で名を呟く。
「ルシウス」
「お役所は忙しいらしいですな。抜き打ち調査で……残業代は当然払ってもらっているのでしょうな?」
ルシウスはアーサーから視線を逸らさず、ジニーの大鍋に手を突っ込んで、使い古しの本を一冊引っ張り出した。表紙には変身術入門と書いている。
「この様子では、どうもそうではないらしいが……」
嘲笑するルシウスに、アーサーは無言で怒りに握り拳を震わせている。
「まともに給料も支払われないのでは、魔法使いの面汚しの仕事をする甲斐もないでしょうねぇ」
「魔法使いの面汚しが何かについては、私達の意見はだいぶ違うようだが」
「ふん───さようですな」
ルシウスの冷たい目がアーサーから逸れて、今度は不安げになりゆきを見守っているグレンジャー夫妻に向けられた。
「マグルと付き合っているようでは……ウィーズリー、お宅の家族はもう落ちるところまで落ちていたと思っていたがね───」
次の瞬間、ジニーの大鍋が宙を舞っていた。顔を真っ赤にして怒ったアーサーがルシウスに飛びかかり、本棚に背中を叩きつけたのだ。どこかで悲鳴が聞こえ、金属の落ちる音がして、本棚のたくさんの本が雨のように皆の頭に降り注ぐ。
「やっちまえ、パパ!」「やっつけろ、パパ!」
双子が叫ぶ。ロンが呼応するように拳を降っていて、ハリエットはハーマイオニーと一緒にジニーを隠しながら後ろに下がった。
「アーサー、駄目、やめて!」
「父さん!?」
モリーが悲鳴を上げたのと同時に、ちょうどパーシーが駆けつけてきた。一番最後に到着した息子だけが応援に回らず、父親を引き剥がそうとする。しかし、怒っている大の大人をにするのは骨が折れるようで。やっと引っペがした時には、アーサーの唇は切れ、ルシウスの瞼には本でぶたれた痕が残っていた。
「はぁ、全く───さぁ、君の本だ───君の父親にしてみれば、これで精一杯だろう───」
ジニーの変身術の古本を乱暴に大鍋に投げ入れ、ルシウスは深く息を吸い込みながら襟を整える。そして、アーサーを一瞥し睨みつけてから、作り笑いをハリエットに向けた。
「お見苦しいところを見せました、ミス・ポッター。お話はまたいずれ───では役所でな」
ルシウスは捨て台詞を吐くと、そのままドラコを引き連れてさっさと書店を後にした。ふんと鼻を鳴らしてアーサーか勝ち誇った様子を見せると、その後ろで、今度は違う人物がわなわなと怒りで震えていた。
「あぁ、まぁ……子供達に、なんて良いお手本を見せてくれたものですこと……公衆の面前で、取っ組み合いをするだなんて……!」
「も、モリー……」
爆発寸前の妻に顔をひきつらせたアーサーが、ずるずると書店の外までひきずられていく。その後をついていきながら、フレッドとジョージはぼそりと呟きあった。
「なぁジョージ。ロックハートの奴、日刊預言者新聞の記者に喧嘩のこと記事にしてくれないかって頼んでたな。宣伝になるからって」
「あぁ。もしかしてフレッド、俺達ハリーとロックハートの写真と一緒に、一面見出しに乗るのかな?」
馬鹿、と双子の会話を聞いていたパーシーが頭を抱えている。自分の写真が目立たないなら、その方が良いのかもしれない、とハリエットは少しだけそう思った。
原作ハリーと違ってスリザリン嫌いという訳ではなく、優秀だが引っ込み思案、息子から聞くところによればいつも誰かの後ろに隠れている系で、由緒正しい家柄の半純血の、生き残った女の子。
そんなんルシウスからしたら籠絡しときたいよね。できるもんならね。