ハリエット・ポッターと夢想の旅   作:永久@

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ホグワーツ

 九月一日。一晩かけてヘドウィグと名付けたシロフクロウとたくさんの荷物を抱えて、ハリエットはキングス・クロス駅にいた。

 あの後、ハリエットは衣服などの用意の為に、一旦ダーズリー家に戻ってきた。

 ダドリーは「思ってたより早く帰ってきたんだな」と目を丸くし、大人達は夜に改めて話し合い、その末に叔母夫婦はハリエットの入学を許可した。キングス・クロス駅までハリエットを送ったのもダーズリー家だ。

 

「じゃあなハリー。いじめられたら本の角で殴れよ、辞書ぐらい固くて分厚いやつで」

 

 あっけらかんと物騒な護身用のアドバイスをするダドリーと、しかめっ面でヘドウィグと睨めっこをするバーノン。そして複雑な表情を浮かべるペチュニアに見送られて、ハリエットは改札を抜けた。

 

 スネイプから渡されたチケットに書いてあるのは九と四分の三番線。スネイプ曰く、九番線と十番線の間にある煉瓦の壁を通り抜けて辿り着けるらしい。

 疑いながら意を決して通り抜けると、見た事のないホームが目の前に広がっていた。最近は知らないものばかり見ている気がする。

 既にたくさんの人がホームと車内の両方にいる。ハリエットと同じくホグワーツに向かう生徒と、その家族達と言った所だろう。

 和気あいあいと別れを惜しむ彼らの姿に、ハリエットはダーズリー家の事を思い出して少し寂しい気持ちが湧いた。入口から離れた誰もいないコンパートメントを見つけ、窓のカーテンも閉ざす。こういう時、予習という形で教科書を読むのは気が紛れるから良いものだ。

 やがてホグワーツ特急が動き出し、車内が子供達の賑やかな声で溢れ出した。

 

「ねぇ、ここ空いてる?」

 

 列車が動き出してほんの少し、コンパートメントの扉が開いて赤毛の少年が顔を覗かせた。ハリエットは教科書から顔を上げて少年を見上げ、飛び跳ねる心臓を落ち着かせる為に手のひらに爪をくい込ませる。

 

「あ、えと……うん、空いてる、よ」

「じゃあ座らせてもらってもいい?他はどこもいっぱいなんだ」

 

 断る理由もないので頷くと、少年がぱっと笑った。ハリエットの向かい側に座り、ヘドウィグを見て少年は身を乗り出した。

 

「真っ白だなぁ。そのフクロウが君のペット?」

 

 ハリエットは頷いた。

 

「何て名前?」

「えっと、ヘドウィグ。あの、シロフクロウっていう種類の」

 

 こと猛禽類と爬虫類の話なら、ハリエットはいつも以上に饒舌になる自信がある。ありがたい事に少年はそんなハリエットの話をうんうんと楽しげに聞いていた。

 

「シロフクロウって、オスとメスは、模様が少し違って。この子はメスで、でも、他の子より真っ白。普通、シロフクロウのメスは、縞模様が、あ、あったりするから」

「詳しいね。ペットを買うから勉強したの?」

「え、っと……猛禽類とか、爬虫類が、好きなの。それで……」

「へぇ。僕のペットはネズミ。スキャバーズって言うんだ───あ、僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んで」

「私は、ハリエット」

 

 ハリエットの口からこぼれた名前を聞くと、ロンの瞳はきらきらと輝いた。

 

「ハリエットって、もしかしてハリエット・ポッター!?わぁ、凄いや!じゃあ、あの……もしかして、傷もあるの?」

 

 声のトーンを抑えめにしておずおずとロンは問う。ハリエットは瞠目しながらも、ロンが望む額の傷を前髪をあげて晒してみせた。

 

「うわー……凄い、本物だ……でも前髪で隠れてたし、パッと見ただけじゃあ君がハリエットなんてわからないや」

 

 感心するように傷を眺め、そんな事を呟くロン。

 ハリエット・ポッターという名前が魔法界では随分と有名である事を本人が知ったのは、スネイプが用意した学用品の中身をあらためていた時の事だ。

 ぱらぱらと通し読みした『近代魔法史』の本で自分の名前を見つけた時は目を丸めた。そしてそこにあった両親の死因を見て、叔母夫婦が自分の事を避けていた理由もようやくわかった気がする。

 両親は闇の帝王と呼ばれた黒い魔法使いに殺されていて、自分はその中で生き残って闇の帝王を倒した英雄扱い。一歳になったばかりの赤ん坊がどうやったと言うのか。赤ん坊専用の魔法でもあったのかな、と色々考えたが、そのどれもが現実逃避にしかなりえなかった。

 

「ハリエットはどこの寮に入りたい?僕の家はみんなグリフィンドールなんだ。うちには兄貴が五人いて、ビルとチャーリーは卒業しててパーシーとジョージとフレッドがいる。パーシーは監督生をやってて、ジョージとフレッドは双子なんだ」

「寮……?」

「そうそう。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。僕はグリフィンドールがいいし、他の寮になったとしてもスリザリンは嫌だなぁ……ここだけの話、今まで名を馳せた闇の魔法使いはみんなスリザリン出身なんだ」

 

 至極真剣な顔で、ロンはハリエットに呟いた。

 

「『名前を呼んではいけない例のあの人』とかね」

 

 ぎゅっと手のひらを握り込む。

 それが近代魔法史で書かれていた、両親を殺した魔法使いの通称である事を、ハリエットは知っていた。

 

 

 その後、時々ハリエットが口ごもって静寂が訪れる事もあったが、そういう時はロンが無理矢理話を進めて、二人の会話はそれなりに弾んでいた。

 途中でやってきた車内販売ではハリエットがロンの分も多めのお菓子を購入して、ダンブルドアのカードを当てたりと、充実した時間が確かに流れた。

 そんな時、コンパートメントの扉が開いて、上半身だけを覗かせた栗色の髪の少女は、ハリエットを見つけるとあっと呟いた。同時に、ハリエットも口を開く。

 

「───ハーマイオニー?」

「ハリエット!何だ、こんな所にいたのね。貴方を探したけれどいなかったから別のコンパートメントにいたのよ。そう言えば貴方が本に乗っていて、私凄く驚いたわ!貴方のご両親って本当に有名な人だったのね。あ、ヒキガエルを見なかった?ネビルのが逃げちゃったみたいで」

 

 相変わらずハキハキと早口でまくし立てるが、ハリエットはそれが逆にほっとした。自分が有名───らしい───と言って、態度を変えるような人でなかった事は素直に嬉しい事だ。

 

「ごめん、ハーマイオニー……ヒキガエルは、見てない。ずっとここに、いたから」

「あら、そうなの。じゃあ他を当たってみるわ───それと、もうすぐホグワーツにつくだろうってパトロール中の上級生が言っていたから、貴方達も着替えておいた方がいいわよ」

 

 それだけ言って、ハーマイオニーはオリバンダーの店の時と同じようにハリエットへ手を振って、コンパートメントを後にした。

 

「知り合いだったの?」

 

 ロンに聞かれて、ハリエットはハーマイオニーに振り返した手を照れくさそうに握る。

 

「杖を、買った時に。お店で少し、話したの」

「ふーん……まぁいいや。それよりハリエット、先に制服に着替えなよ。僕は廊下にいるから、君が着替え終わったら交代ね」

 

 ロンの提案に頷いて、ハリエットはおろしたてのローブに手を伸ばした。

 

 

 

 

「おう、よっく来たな!イッチ年生はこっちだ!」

 

 列車を降りると、もじゃもじゃの長い髭と髪を持った大男が出迎えた。手に持ったランタンで照らしながらぐるりと生徒達を見渡していると、ハリエットを見つけた途端ににぱっと笑顔を浮かばせた。

 

「お前さんがハリエットだな?俺はハグリッドちゅうもんで、ホグワーツで森番をやっとる。あー、俺のプレゼントは気に入ってくれたか?」

 

 ハグリッドの質問に、ハリエットはきょとりと目を丸くしたが、少し考えてからスネイプとの会話を思い出してはっとした。

 ヘドウィグを手渡された時、スネイプは「ホグワーツの森番から」だと言っていた。つまりヘドウィグは彼からの贈り物という事になる。ハリエットは慌ててハグリッドにお礼を言った。

 

「あ、あの……あ、ありがとう、ございました。凄く、嬉しかったです」

「そりゃ良かった!名前は決めてやったか?」

「えっと、ヘ、ヘドウィグ……」

「そうかそうか。ええ名前をつけたなぁ」

 

 ハグリッドはうんうんと頷くと、ランタンを持たない方の手でハリエットの頭を覆うと、そのままわしわしと撫で回した。頭の上でぴょこぴょこと髪の毛が跳ね飛んでいる。

 

「おおっといけねぇ、そろそろ行かにゃならん。ハリエット、続きはまた今度話そうな」

 

 手を離してそう言ったハグリッドに、ハリエットは跳ねた髪を抑えながら頷いた。

 

 

 

 列車の後はボートだった。ハリエットのボートにはロンと、ハーマイオニー、そしてハーマイオニーと同じコンパートメントにいたネビル・ロングボトムが一緒に乗った。

 自動的にボートが動き、中世の城のように豪壮な校舎に生徒達を導く。新入生のほとんどが、ホグワーツの城を見上げて息を飲んだ。

 ボートを降りて校舎の中に入ると、ミネルバ・マクゴナガルが階段の上で生徒達を待っていた。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。学校にいる間は、寮が貴方達の家です」

 

 彼女は玄関前に集めた生徒達の耳に、よく通る声を響かせる。

 

「寮は全部で四つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。どれも輝かしい歴史があり、偉大な魔女や魔法使いを輩出しました」

「確か、マクゴナガル先生はグリフィンドールの寮監だった筈よ」

 

 ひっそりとハーマイオニーがハリエットに耳打ちした。マクゴナガルが更に寮杯の存在を生徒達に告げてから立ち去ると、再び生徒達の間にざわめきが走る。

 

「「ねぇ、ハリエット」」

 

 ハリエットの両隣にいたロンとハーマイオニー、二人が同時に声を上げた。ハリエットは硬直して、ロンとハーマイオニーもお互いを見て口をつぐんでいる。

 

「失礼するよ」

 

 その声に、ハーマイオニーとロンが前を向き直した。ブロンドに青白い肌の少年と、彼より大柄な二人、計三人が黙り込んでいたハリエット達を見下ろすように前に立つ。

 

「君───あぁ、何だ、君だったのか。マダム・マルキンの店で遭遇した事、覚えているかい?ミス・ポッター」

「あ……」

 

 そういえば採寸に行った時、ハーマイオニーのように話はしなかったが、同年代ほどの少年が隣に立った事をハリエットは思い出し、小さな吐息に近い呟きをこぼした。その表情と声からハリエットが思い出した事を理解したらしい少年は、満足げに口角を上げて微笑んでいる。

 

「これならあの時、話しかければ良かったね。僕はドラコ・マルフォイ、後ろのこいつらはクラッブとゴイルだよ」

 

 その姿に、ダドリー軍団の存在がハリエットの脳裏を過ぎった。金髪で取り巻きを連れている、たったそれだけの共通点だが、ハリエットの視点で考えれば誰もが納得するだろう。

 ドラコ自身が知れば「肥満体質のマグルと一緒にするな」と激怒するかもしれないが、生憎と彼にハリエットの思考を読む事はできない。

 

「ハリエット・ポッター……です」

「うん、だろうね」

 

 実に愉快げな笑みをしたドラコは、ハリエットの両隣に立つロンとハーマイオニーを見て唇を曲げてみせた。

 

「ミス・ポッター。君は知らないのだろうが、魔法使いとは血筋と家柄で優劣が決まるものなんだ」

 

 そう言って、ドラコの視線がハーマイオニーと、特にロンの方をじっとりと睨めつける。

 

「マグルと……赤毛にお下がりのローブ、ウィーズリー家の子か。最初からこんなのに絡まれるなんて、君も運がないね」

「どういう事だよ!」

 

 ロンが口調を尖らせて突っかかると、ドラコは冷たい色を浮かべた瞳で彼を見返す。後ろでクラッブとゴイルもロンを見てにやついている。

 

「自分の家の事を思い出してみたらどうだい、ウィーズリー。血を裏切る者、恥さらしのウィーズリー家───ミス・ポッター。もし良ければ、僕が友達の選び方というものを教えてあげるよ」

 

 そっと差し出されたドラコの手に、ハリエットは困り果てた。隣に目を向けるとロンは顔を真っ赤に怒っていて、ハーマイオニーはドラコの態度に絶句している。どうやらドラコは、ダドリーよりずっとタチが悪いようだ。

 ここで握手をしないのはドラコに悪いだろうし、かと言ってしてしまえばロンが更に怒り狂う事は察するに余りある。

 とにかく何かを言わなければならない。けれど、表し方のわからない恐怖が喉に蓋をして話せなかった。

 結局ハリエットがドラコの手を取らないまま、マクゴナガルが戻ってきた。ドラコはすました顔で手を引いて「またね、ミス・ポッター」と告げて戻っていく。その仕草は実に優雅なものだが、ロンは憎らしそうな顔でドラコを睨んでいた。

 

 

 

 ホグワーツの講堂は広く、そして幻想的な空間だった。

 何千と燃ゆる蝋燭、本物の星空のように美しい魔法のプラネタリウムの天井、新入生を迎える四つのロングテーブルに腰掛ける上級生達と、講堂の一番前のテーブルに座す教職員達による絶え間ない拍手のハーモニーが響き渡る。

 新入生達は上級生と教職員のテーブルの間で止められ、マクゴナガルが彼らの前に椅子と古ぼけた三角帽子を用意する。

 

 誰かが耳もとで囁いた───あれは組み分け帽子だ、と。

 

 

『私はきれいじゃないけれど

私を凌ぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シルクハットはすらりと高い

私は彼らの上を行く

私はホグワーツ組分け帽子

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

 

グリフィンドールに入るなら

勇気ある者が住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

ほかとは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに入るなら

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレインブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

必ずここで得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん恐れずに

君を私の手にゆだね(私に手なんかないけれど)

だって私は考える帽子』

 

 

 歌が終わると拍手が響き、それも鳴り止むと長い羊皮紙を持ったマクゴナガルが帽子の傍に立つ。ついに組み分けが始まる事が、何もわからない生徒達にも伝わった。

 

「アボット・ハンナ!」

 

 まず最初に少女が呼ばれた。駆け寄って椅子に腰掛けた少女の頭に組み分け帽子が乗る。少々唸って、帽子が叫んだ。

 

「ハッフルパフ!」

 

 ハッフルパフのテーブルから拍手喝采が沸き起こり、歓声と拍手が講堂を轟かせる───瞬間、何故かぶわりと鳥肌が立って、ハリエットは思わず自分の腕を撫でさすった。

 他の生徒達の組み分けも順調に行われていく。ハリエットよりドラコとハーマイオニーが先に呼ばれて、ドラコはスリザリン、ハーマイオニーはグリフィンドール。

 ドラコがスリザリンに選ばれた時、ロンは少し上機嫌にになって「やっぱり」と呟いていた。

 

「ポッター・ハリエット!」

 

 そうして、ついにハリエットの番がやってきた。ざわついたようで静まり返ったようでもある講堂に不安をかられながら、マクゴナガルのもとに向かう。

 緊張するハリエットにマクゴナガルが目もとを緩め、大丈夫ですよと呟いてから帽子を被せる。

 

「これは───ふぅむ、おぉ……なかなかどうして」

 

 帽子は何かに感心しているようだった。ハリエットが首を傾げれば、被さっている帽子も一緒に揺れる。

 

「うーむ、また難しい生徒が来たものだ、はっはっは」

 

 そう言う帽子は楽しげに笑っている。迷惑をかけているのかいないのか、ハリエットには判断がつけられない。

 

「おや、迷惑ではないよ。私はこの仕事が好きなのだ」

 

 そして心を読まれて、ハリエットは目を見開いた。組み分け帽子の力は最初の四人に与えられたもの。思考を読み取る事など朝飯前なのだ。

 

「さてと。どうにも君は感情やら気持ちやらが色々と表に出にくい気質のようだが、それはそれで良し。だが……そうだなぁ、どうしようかなぁ」

 

 帽子はうんうんと唸っているが、やはり楽しそうなのは変わらない。

 

「素晴らしい才能がある。頭は悪くない、心優しく、誰かの為に立ち向かう勇気がある───どの寮に行っても、きっと君の未来は切り開かれる。しかし───ハリエット、特に君は───あぁいや、これ以上は野暮になるかね」

 

 才能なんて、よくわからないというのがハリエットの本音。けれども帽子は、そんな事お構いなしとでも言いたげだった。

 くつくつ笑いながらまたしばらく一人で考え込んで。そうしてようやく、ハリエットの“組み分け”の瞬間がやってきた。

 

「うん、うん、そうだ、そうしよう。さぁハリエット───ハリー───その行く末に、輝かしい可能性がある事を信じているよ」

 

 慈悲に満ちた優しげな声で囁いて、組み分け帽子は新たな生徒の道を照らした。

 

「───グリフィンドール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリフィンドールに入るなら

 勇気ある者が住まう寮

 勇猛果敢な騎士道で

 ほかとは違うグリフィンドール

 

 

 

 

 ほかとは違う、グリフィンドール

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