ルガーランスはぁ!こう使う!   作:ミツヒRo・バートランド

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前話と同日の話。
意識せずとも日野家その③みたいになってた





謝意~もうぼ~

 

 

 

 

 

翌日、日曜のため学校はない。

母さんが家を出たあと、俺も目的地に向かうことにした。

 

「はい、どなた?」

「こんにちは、案子です」

 

向かう先は道生さんの自宅である。

呼び鈴を鳴らせば、恵さんが出てくれた。

 

「あら、案子ちゃん。今日はどうしたの?」

「道生さんのことで、少し……」

「大丈夫よ、中へどうぞ」

「どうも……」

 

 

 

出してもらったお茶を飲む。……美味しい。

 

「道生とは違う味でしょ」

「はい」

「正直ね」

 

茶葉から入れる場合、お湯の温度や置いておく時間によって味が微妙に変化するのは俺も知ってる。

けど、子供舌にはどれくらい変化するか理解できないからどちらも美味しいとしか言えないのが残念だった。

 

「案子ちゃんが道生のことを気になってるなんて少し意外ね」

「最近、よく遊んでもらっていたから」

「ああ、それで。あの子、昔から年下の面倒見は良いほうなのよ」

「そんな気がします」

 

出自の不明な子供を快く引き取るくらいね。

 

「恵さんはその……」

「うん?」

 

聞きたいことではあるのだが、少し躊躇してしまう。

お世辞にも良い質問とは言えないわけだから。

 

「随分、落ち着いてるでますね」

「日本語がおかしくなってるわよ。そうね……弓子さんのように取り乱していないのが不思議かしら」

「そう思わないことも……ないです」

 

自分のお茶をひと口飲んでから恵さんは答えた。

 

「息子が自分で決めたことなら、受け入れて応援する。母親の役目はそう思っているの、私は」

「不安には、ならないんですか」

「なるわよ、当然。母親はいくつになっても子供が心配だわ。でもね、だからといって否定したくはないの」

 

そういうものなのだろうか。

 

「なら洋治さんのことは、どう思っているんです?」

「あら、主人とも会ってたのね」

「はい。ごめんなさい、失礼なこと聞いてますけど……」

「別に構わないわよ。……そうね、後悔がないわけじゃない」

 

恵さんは写真を横目で見た。

 

「ただ、主人も私も、見ている未来は同じだから」

「不安はないと?」

「そうね。いつかきっと交わるときがくる。伊達に20年、一緒なわけじゃないのよ」

「そこまで長いと、オレじゃ理解できないわけです」

「ええ、時間が紡いだ絆は簡単に崩れない。でも嫌だわ、若い子に言われると私も年を取ってしまったって思うから」

「えぇ……」

 

恵さんが恥じらうとか誰が想像できるんだよ。

こっちまで気恥ずかしくなるから、話題を少しずらす。

 

「そういえば洋治さんとはどう知り合ったんです?」

「ああ、主人は作曲が趣味でね。弾けもしない楽譜を大量に書いては捨てていたから、それが気に食わなかったの」

「気に食わない?」

「私、バイオリンが趣味なの。弾く才能は母親から受け継いだものだけど、曲を作る才能はなかったのよ」

「つまり」

「ええ、私にできないことができるくせに、それを無駄だって言う主人に食って掛かったの。『捨てるくらいなら私が弾くから寄こしなさい』ってね」

「……それで、弾いたんですか?」

「もちろん。いい曲だったわ……余計に腹立たしくなったけど」

 

言葉とは裏腹に笑う恵さん。お互い、欠けたところを補う相手に出会えてうれしかったんだろうか。

 

「それでお互いに熱くなっちゃってね。そのままゴールインってわけよ」

「なんとなく想像できます」

「その年でゴールインの意味が分かるの? 案子ちゃん、意外とマセてるわね」

「そうじゃないんですが……」

 

別に洋治さんと恵さんの思い出話が聞きたくないとも言わないけど。

 

「それで、道生さんの話に戻るんですけど、なにか弓子さんに渡す予定があるとか言っていませんでしたか」

「弓子さんに?」

「はい。()()道生さんが何も言わずに出ていくというのは考えられなくて」

「そうね……写真を撮ったのは聞いたけどそれ以外に?」

「……はい」

 

写真はもう弓子さんに渡されているみたいだし、他にないかと思ったんだが。

 

「残念だけど、聞いていないわね」

「そう、ですか」

「気になるなら、道生の部屋を見ていく?」

「さすがに、そこまでするのは」

 

やるとしても、弓子さんくらいにしか権利はない。

他を当たるしかないか……。

 

「心配なのね、あの2人が」

「そんな綺麗なものじゃないです」

 

ただの自己満足に過ぎないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「お茶、ありがとうございました」

「ええ、いつ来てもいいからね」

 

日野家を後にする。次はどこに行くべきか……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

案子が去ったあと、恵は扉の前で立ち止まっていた。息子の部屋の。

 

「2人ともう少し話をすればよかったかしら……それでも、この結果は変わらないような気がするの。こんな悩み、今更過ぎる?」

 

道生が島を出たと聞いた時、恵の心中では疑問よりも確信が勝った。やっぱり、あの人の子だと。

そうして自分の下から離れていくことが嬉しいような、寂しいような。

出て行った以上、部屋も整理しようかと思った。しかし、そのままにしてある。

いや。

 

「まだ、怖いと」

 

ドアノブを回すことがどうしてもできなかった。

部屋の中に入ろうとすれば足がすくむ。

子供のころの無茶をしていた道生と今の道生。同じと分かっていても、どこか違う存在かのような。部屋に入ってしまえば、自分の思い出が変わってしまう気がした。

 

「でも」

 

案子だけじゃない。島の子供たちに道生は慕われていた。

悲しみの差は違えど、誰もが親しい相手の別れと戦っている。

弓子も。

 

だから自分だけ逃げるなんていうのは、都合がよすぎる。

 

「私にも……扉を開くことはできるかしら。洋治さん――――」

 

振るえる指を抑え、ドアノブに添える。

 

そして。

 

「あ」

 

あっさりと、扉は開いた。

 

誰もいない部屋。だというのに散らかったまま。持ち主が計画性もなく飛び出したことは明らかだった。

 

「変わってなかった」

 

思い出の中の部屋と、配置もなにもかも。服の大きさだけが道生の成長を示していた。

 

少しだけ埃がつもった机を撫でる。

家族写真の置かれた机。

 

「ん?」

 

ふと、引き出しがわずかに閉じ切っていない場所を恵は見つけた。

閉じようかと悩んで……開ける。

 

「これは……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「おかえり、母さん」

「ただいま。弓子のほうは大丈夫よ」

「ごめん、母さん。オレ何もできなかった。任せちゃって……」

 

帰ってきた母さんに声をかけると、彼女はため息をついた。

 

「何か……?」

「前にも言ったわよね。私は謝罪が欲しくてやっているわけじゃないの」

「ごめ――――あ痛っ」

 

額に小さな衝撃が走った。

思わず閉じた瞼を開くと、母さんは掌を広げている。

デコピン……されたのか? んな古典的な。

 

「うすうす気が付いてはいたけれど、あなた馬鹿よね」

「馬鹿って……」

「落ち込む必要などないわ。まだ生まれて1年も経っていないのだから」

「落ち込んでなんか。いない、よ」

「……結構、ショックを受けているじゃない」

 

自分があまり頭よくないのなんてわかってる。けど、それを指摘されるのは……。

 

「でもね、少し安心してもいる」

「安心?」

「あなた、ちゃんと子供なのね」

「……?」

 

どういう意味だ? 子供だから扱いやすいって?

精神は大人だぞ、遠回しな罵倒だったりすんの?

 

 

 

「…………忘れなさい」

「あ、はい」

 

俺が反応しないでいると、母さんはなかったことにしたいらしい。

俺もよくわかんなかったからいいけどさ。

柏手(かしわで)ひとつ。

仕切りなおして、彼女は言う。

 

「兎に角。こういう時は『ありがとう』でいいのよ」

「……」

 

確かに、俺ができなかったことをやってもらったわけだし、そう言うべきなんだけど。

なんだかなぁ……。

 

「わかったかしら?」

 

「……」

 

わかったわね?

 

「わ……」

 

この羞恥心の行き場をどうしようか悩んでいると、母さんは表情と声音の圧で迫ってきた。

 

「わ?」

「わかり、ました」

 

当然、勝てるはずもなく。年下に圧かけられて負ける俺……。

 

「じゃあ言ってみなさい」

「……ありがとう」

「当然ね」

 

さっきまでの怖い顔が一転して、母さんはほんの少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「うう……頭痛い……」

「おはよう、加減を覚えるべきね」

「昨日は例外よ……」

 

千鶴が居間でデータ確認をしている折、頭を押さえた弓子が降りてきた。

 

「弓子、恵さんから手紙が来てるわよ」

「手紙?」

 

受け取った封筒を開き、弓子はソファに腰を沈めて中身を読み込んだ。

 

「……」

「……」

 

静かな時が流れる。電子資料をスクロールしながら千鶴が横を気にかければ、弓子の表情は二転三転していた。

 

「……」

「弓子、なんて書いてあったの?」

「……道生から。島を頼むって」

「……そう。よかったわね」

「ええ」

 

手紙を置いて、弓子はまっすぐ千鶴の目を見た。

 

「母さん……私、教師になるわ」

「え?」

「今まで母さんの手伝いをしてきたけど……それじゃ足りないのよ。道生が帰ってきて、子供が生まれたらきっと私、困るわ。子供たちのことをもっと間近で見ていなきゃ……それに、真矢たちはこんな思いをしてほくない」

「……」

 

弓子の瞳には悲観や、自暴自棄のような色はなかった。

千鶴は安堵の息をつく。ひとまず山を越えたらしい。

 

「母さん、何か開いている役はない?」

「確か、中学の養護教諭なら開いてるわよ」

「わかった。あと半年で勉強して、ちゃんとできるようにする」

「けど、あなた……」

「いいのよ母さん。これがきっと……私が進む1番の道だから」

 

母親の心配は理解している。だけれど、他にも答えたい思いができた。だから弓子は進む決意をしたのだ。

 

「無理はしないでね」

「当然、母さんの子だもん」

「……もう、いいのね」

「うん、大丈夫。もう、いつもの私になれるから」

 

涙を振り払い、弓子は笑う。

 

「――――元気100倍ってね!」

 

 

 

 

 

 

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