ルガーランスはぁ!こう使う! 作:ミツヒRo・バートランド
違う、そうじゃない(SZKMSYK)という回
1学期も終業式を控えた放課後の教室にて。
少女の帰り支度を伺う人影ふたつ。
「案子ちゃん、今日は元気ないね~」
「早苗ちゃんもそう思う?」
「少ししょんぼりしてるように見えるよ~」
「そうだよね……どうしたんだろう、夏休みも近いのに」
「ありゃ、小百合ちゃんもわかんない?」
「うーん」
数秒悩む両者。
早苗が手を叩いた。
「……あっ、ひらめいた!」
「早苗ちゃん……?」
「ま~ま~、任せておきなさいって」
なんとなく不安になる小百合をよそに、早苗は机で教科書とにらめっこしている案子の背後にこっそり回った。
「ど~う~し~た~の~」
そのまま気づかれぬよう両手を彼女の側面に回して――突いた。
「うぎゅ!?」
死角からの強襲に、案子は悲鳴を上げる。
手に持っていた教科書がパタリと落ちた。
「わき腹意外と弱いんだね~、案子ちゃん」
「あっ、ひ、ひゃめ!」
「なんて言ってるのか、わかんな~い」
「こ、こひょぉ!」
突然の刺激に何が起きたかと首を後ろに回す案子。
早苗のやったことは指を使った古来より伝わる拷問術――すなわちくすぐり。
当然、案子も抵抗するがしかし。強引に笑わされてしまい、体に力が入らぬためされるがままになってしまう。
一方の早苗も、手の中の少女がいい反応をしてくれるため止める気などなく。
「ひゃ、ひゃひゅけ……!」
「だめだめだめ、案子ちゃんはこのまま逃げられないんだよ~」
意識と裏腹に過剰な反応を示す体に戸惑いながら、案子は一応拷問官と対話を求める。
「い、いまひゃら、ゆるしゅ!」
「ずいぶんエラソーだね~。そんな悪い子にはこう!」
「んぎゅううう……!」
ダメだこいつ――そう思った案子は周りに助けを求める。
だが無常。周りの生徒はほとんど帰っており――というか案子自身が誘いを断ったため――助けてくれるような人間はわずかだった。
「しゃ、しゃゆ……」
机に崩れ落ちながら、その中でも1番可能性が高いと思われた小百合に手を伸ばす案子。
すると、小百合はその手を掴んでくれた。
助かった――案子は安堵から涙を流す。
「うひ、ひっ、あひゅ?」
ところが1秒待ち、5秒待ち、10秒待ってもこの責め苦から解放されない。
手は繋がれている。だがくすぐりも続いている。
いい加減息も苦しくなって、顔が涙と鼻水で気持ち悪い案子は小百合の顔を見た。
「あは」
三日月の悪魔が、そこに居た。
「ひゅっ…………」
ぴくぴくと痙攣してぐったりする案子。
「あ、気絶しちゃった」
「……早苗ちゃん?」
「え、えへへ。怒らないで欲しいな~って」
どこか責めるような声音に、体を震わせる早苗。
「別に怒らないよ……」
「そ、そう? よかった~」
「あ……でもね」
「でも?」
「可愛い顔だったよね、案子ちゃん」
◇◆◇
知らない天井だ……。
「目が覚めたんだね……」
「あ……まあ、うん」
目の前に小百合。前にもあった気がするぞ。
「ごめんね~、体は大丈夫?」
違いといえば早苗がいることか。
「特に痛いとかはないけどさ……オレはなんでベッドにいるわけ?」
「あっははは。ちょっと疲れてたんじゃないかな~」
「それだけで保健室に運ばれるものかよ」
「早苗ちゃんがくすぐったから……」
「ちょ、ちょっと小百合ちゃん!」
「……なるほど、だいたいわかった」
「あの、あのね。あれは”すきんしっぷ”だよ! 悪気はなかったよ! ほんとほんと、信じて欲しいな~! というかそれなら小百合ちゃんだって先生に注意されたし同じじゃん!」
「わたしは……やってないもん」
「そんな言い訳いいの!?」
とはいったが、よく覚えていない。慌てて弁明する早苗が面白いから言わないけど。
疲れて倒れる……ねえ。
「わかったわかった、ゆるすよ。いまはね」
「おお、ありがとう~! あたしは信じてたよ!」
「調子いいな、おい……」
時間的にもう授業は終わってるはずだから……帰ろうとしてたのか。
ベッドから起きようとしたところで、小百合に袖を引かれた。
「どうした?」
「案子ちゃん……元気?」
「なんだそりゃ。元気だよ、見ての通り」
「ん……そっか」
「心配してくれたの? ありがとな」
「ん」
手を放してもらったので立ち上がる。
「よし! 元気なら遊びに行くよ!」
「……オレはその結論に至る過程が知りたい」
暫定倒れた人……あいや、くすぐりで倒れたらしい人なんですけどそれは。
不名誉すぎる。くすぐりで倒れた女、名乗りたくねえ……。
「でも元気なんでしょ? いけるいける!」
「そうだが。その根性論どこかおかしくないか?」
「今日は何するの……?」
「なるほど2対1ってわけ。卑劣な……」
「ん~、そうだね~。だるまさんが転んだにしよっか」
「驚いた、早苗にしては控えめ」
「気を使ってるんです~」
「マッチポンプ狙ってるのか? ねえ?」
「そんなの知りませ~ん」
「それなら公園……かな。ほかの子もいそうだし」
「だね~。よし幾三!」
「また変なの覚えてる……」
筋力は勝てないので、おとなしく提案に乗るしかない。
そういうことになった。
ちなみに、竜宮島の子供たちがいう公園というのは楠木公園のことだ。
公園といえる場所がそこしかないから、単に公園という。
そして、一騎たちも好んで使う場所。
ああ、そうだ。もう夏休み前なのだ。時間が……。
「お~、一騎くんたちもいるじゃん。丁度いいね~」
噂をすればなんとやら……噂はしてないか。
「あ、早苗さんだ」
「ようようだよ~」
一騎、総士、衛、甲洋、剣司の5人組が公園で遊んでいた。
「今からだるまさんが転んだするんだけど、一緒にどうかな~?」
「やる!」
「いい返事だね~。あたしが鬼をやってあげようじゃないか!」
「よっしゃ、こーかいすんなよ!」
「うわ、コーハイが生意気になってる!」
どうやら最初は早苗が鬼をやるらしい。木の根元に歩いていき、そこから大体20m離れたところに線を引いた。鬼は根元に待機する。
結論からいうと、早苗はずっと鬼をやっていた。あいつが走る側になると誰も勝てない。数年後に一騎は勝てるかもしれないが……。とにかく、出禁ならぬ走禁である。
「よろしく、お姉さん」
「あ、ああ。よろしくな」
さて、急に一騎たちと遊ぶことになってしまった……距離感が分からない。
このころの彼らは捻くれてもいないようで、だいぶ素直だ。それが若干やりにくいのだが。大人として引っ張りたいところだけど、鬼役は取られちゃったしなぁ。
みんなでスタートラインに立つ。
「それじゃあいくよ~! だ~る~ま~さ~んが転んだ!」
早苗の合図で始まり、みんな早歩きで接近する。最初は脱落者もいなかった。
確か10秒くらいなんだっけか。あまりやった記憶がないからうろ覚えだ。
とはいえこれはチャンス。勝っていいところを見せてやれば――――。
「だ~る~ま~さんが転んだ!」
「なにか僕の顔についてますか?」
「え? いや、そんなことないぞ」
「ならよかったです」
最初に脱落したのは俺でした。悔しい……。
次に脱落したのが総士で、今は一緒に少し離れたベンチで続きを見てる。
現状は1番近いのが当然ながら一騎で、剣司、衛、甲洋、小百合の順番。
小百合はめっちゃゆっくり進むけど、他の4人はもう走って詰めようとしてる。
しっかし……苦手意識芽生えちゃった気がするんだよなぁ。
小さい総士はどうしても、手から結晶を生やしている姿が重なる。
「総士は誰を応援してるんだ? やっぱり一騎?」
「はい。早苗さんは手加減してるみたいですけど、一騎は追いつきますよ」
オレにはしてくれなかったけどな。
……いや、愚痴くらい許して。
「信頼してるんだな」
「一騎ですからね」
そう言って一騎を見る総士の目は――よくわからない。澄んでいるようにも、濁っているようにも見える。ある意味、このバランスが総士なのだろうか。
それとも、フェストゥムの色が強い今は一騎を妄信しているからか。
どっちにしても、この年で敬語をきちんと同じ小学生に使えるの、すごくない?
「総士。最近、気が付いたら外にいたとか……なかった?」
「え? いえ、ないですけど」
「そっか」
「どこかで僕を見たんですか?」
「いや、違う違う。気にしないでくれ。まだ島に来て日が浅いから、他人の空似を勘違いしたっぽい」
「そうですか」
あの時のダーク総士(仮名)は総士の自意識外の行動ってわけか。俺の幻覚でなけりゃ。
そもそも俺についてどこまで知らされているのか、わからないな。
そんな話をしていたら小百合が脱落。
迷わず隣に座ってきた。
「早苗ちゃん、こういうのうまいよね」
「ドンマイ。完全にあっちの土俵だからなぁ」
「柴田さん、もとからあまりやる気なかったのでは?」
「あはは、たぶんこの後も続くからね。バテちゃうかなって」
「なるほど、それは確かに」
後先考えない4人は、以外に体力あるっぽいんだよな……そりゃそうか。
あー。
「総士、一騎ってどうなんだ?」
「……どう、とは? 質問の範囲が広すぎます」
「あー。あー……遊んでて楽しい相手か」
「そうですね。一騎は根がまっすぐで余計なことを言わないので楽しいですよ」
「そうか。一騎のこと、好きなのか?」
すごい
「好きですよ、それは」
「おおう、直球か……ひとつになりたいとか、思ってたりする?」
「……狩谷さん、あなたこそ――――何を狙ってるんです?」
今まで一騎だけを見ていた総士が、ゆらりと首をこちらに回した。
「一騎は僕を選んでくれるんです。そうです。ほかの人に渡すもんですか」
うす昏い双眸が俺を見つめる。
「アナタは……僕から一騎を奪う気なんですか」
それはまさに、虚無の瞳。
「答えろよ……人のふりなんてしやがって」
これだ、これがまずい。
全身に鳥肌が立つ。口は乾くし、体温も急激に下がったように思えてくる。
後ろに下がりたくなる。
にしてもマジか。もう依存に片足突っ込んでるのか。
俺も質問を間違えた気がするけど、他にいい案が浮かばなかったから仕方ないだろ。
今、確信した。
総士は、俺の手におえる相手じゃなかった。
答えなくては。
このままじゃ、消される気がする。
でも……口が開かない。
脂汗までにじんできた。圧縮された時に取り残された気分だ。
ど、どうしよう。やったのは自分だけど、盛大な自爆をした。くそ、こんなつもりじゃなかったのに。だってしょうがないだろ。仕方ないだろ!? 個の確立は傷をつけられてからだって思うじゃん! そりゃEXOのOPで総士めっちゃ笑顔だったからもしやと思わなかったわけじゃないよ? だからってファフナーはそこそこ後付け設定があるしあんまり深く考えない方がいいかなって思ったりしたし、俺にとっちゃ1期の一騎の記憶に出てくる総士とフェストゥムが見せたあの幻影総士の方が印象深くてだからつまり――――。
こ、心が…………。
「うわー! やられた~!」
「やったー!」
「っは……………!」
一騎の声で、総士の目が外れた。
同時に威圧感も消滅する。
命拾いした……ありがとう、一騎。
もしかしなくても、今とんでもない橋を渡ろうとしたな……。
「お~い、またやるから戻っておいで~!」
早苗の声が聞こえる。
「あれ、狩谷さん。大丈夫ですか?」
「えぇ……? あ、ああ。大丈夫だよ」
「それならいいんですけど……先に行ってますからね」
今気が付いたみたいな風に声をかけてくる総士。
なんだ、記憶がすれ違ってる……それともあえてそうしてるのか?
わからないぞ……お前はどっちなんだ。
とにかく、今はこの遊びを続けよう……。
「案子ちゃん……手が」
「あれ。すまん」
いつの間に、小百合の手を掴んでたらしい。
「案子ちゃん……体調悪いなら、休んでもいいんだよ?」
「大丈夫、大丈夫。さっ、行こうぜ。次はオレがあいつを捕まえてやる」
「…………」
それからは、総士が豹変することもなく――原因は俺以外に居ないし当たり前だが。
古い遊びとはいえ、だるまさんが転んだも結構楽しかった。
ただ、夏休みも毎日こうして遊んでいればいつ「ひとつになろうよ」が起きてもわかるだろうけど……物理的に無理だよな……。
自爆
室内ではなく屋外の遊びを提案したのは「体動かした方が悩みもふっとぶでしょ」という早苗の親切だったり。