ルガーランスはぁ!こう使う! 作:ミツヒRo・バートランド
むしろ我々が総士くん怪我しなかった√を見たい
昨日は結構揺れたので震源近くの我々は注意を
年が明けた2142年の1月8日。
鈴村神社では2名の
竜宮島の成人式とは、単に若者を対象とする通過儀礼にとどまらない。
大人になるということは、すなわち島の運営に関わるということでもあるのだ。
アルヴィスの存在は普段の島民には秘匿されている。ただ、その入り口は島のいたるところに存在しているため、その秘密を開く特殊なカードキーを成人式で渡す。これにより、成人した若者はアルヴィスへの自由なアクセスが可能になるのだ。
とはいえ島の大人にとってもこれが最初の成人式。本当にこのような方式でよかったのかは迷うところでもあった。しかし竜宮島本来の目的である文化の保存を思えばこそ、実行に移すことになったという背景がある。
神社の本殿には、白い礼服姿の皆城公蔵らアルヴィス中心人物と、大人用の紺色を基調としたアルヴィス制服に身を包んだ遠見弓子、狩谷由紀恵。そして神主の立上真幸と当代巫女の立上鈴奈がいた。大人たちは神棚の左側、弓子と由紀恵は正面である。
大人組の代表たる公蔵は1歩前に進み、弓子たちの前に立つ。その後ろに真幸と鈴奈が続く。公蔵は真幸の持つ三方からカードキーを弓子らに手渡し、弓子たちもそれを受け取る。
いたかもしれない大勢。いるはずだった幼馴染。
弓子も由紀恵も、この時ばかりは彼ら彼女の姿が脳裏にちらついた。
果たして2人がこの成人式を迎えるまでいったい、幾人がこの世を去ったのだろう。
フェストゥムの北海道侵攻、ゼロの実験失敗、瀬戸内海ミールの暴走、ティターン・モデルの開発。生まれてからに絞ったとして、どれ1つとっても多くの人命が失われている。
そうした故人の命が、重さが、このカードには詰まっているのだ。
それでも時の波に流されながら、弓子たちは自分にできることのために動き出している。
将来のために走る者、よからぬものと繋がる者、島の外を見に行った者。
意図することは違えと、それはすべて未来のため。
――――もっと母さんの研究論文を見れる。
――――これで深い階層にも手が届くわ。
カードを配り終えた公蔵は、2人の前で口を開いた。
それを見て、カードに落としていた目を上げる弓子たち。
「今、諸君らに与えたアクセス権限は、これまでよりも深い島の真相に携わる部分にも触れることが叶うものだ。しかしそれは、同時に相応の責任を負うことの証でもある……君たちはその責務に耐え、未来のために歩める者だと私は信じたい」
そこで公蔵は目を閉じる。彼は言うべきか言わざるべきか悩んだが、続けることを選んだ。
「……君たち因子移植第1世代には多くの犠牲を強いてきたことは事実だ。危険な実験にも駆り出し、同化現象によって多くが失われ、君たちの体にも傷を残した。その責任は総司令である私にあるだろう……。だが私は謝らない」
弓子も由紀恵も、自分の眉間にしわが寄ったのを感じた。
まさかこの男、あの実験をただの事故だとでもいうつもりなのかと。
だが公蔵は、己の虚栄心や自尊心から謝罪をしないのではないという。
「仮に謝ってしまえば、彼らの重さを私は意思に関わらず軽くしてしまうだろう。それはならない。指令たる私の責務とは、居なくなった者たちの重さを背負うことにある。無論、実験のことで恨んでくれても構わない。ただ、彼らの命は決して無駄ではなく、ファフナーについての理解も彼ら、そして君たちなくして進まなかった。感謝している」
実際、コアを使ったファフナーが時間制限付きだとしてまともに動いたのは島に貴重なデータをもたらした。同化現象について、変性意識について、シナジェティック・コードについて。他にもジークフリード・システムの問題点やフェストゥム因子の免疫との関係についてなど。乗りたくても乗れない大人世代からすればまさに救世主。年下が未知の兵器に乗ることへの罪悪感を除けば、だが。
皆、公蔵の言葉に意識を集中していた。
「……勿論
非情な決断も島のためにはせざるを得ないという公蔵の考え。とはいえ、それを全ての大人に要求するのは筋違いであると承知してもいる。
「君たちにそこまでの重責を求めはしないが、立場が変わるということは意識すべきだ」
そこまでが公蔵の訓示。最後に、2人の目を見て彼なりの激励を送った。
「これから続いてくる子供たちのため、先頭に立って彼らを導いてほしい。そして我々と共に未来を築く礎になってもらいたい。君たちこそ、我々の新たな可能性だ」
成人式が終わって。
神社より少し離れた木々の合間で、町を見渡す公蔵の下に由紀恵がやって来た。
「いよいよこのカードをお渡しいただけたということは、わたしも島の一員として認めてくださったということのようですね」
「……認めるもなにも、初めから島の住人だろう。それとも、君は違うというのかね?」
「ふふ……まさか。わたしもこの島の住人ですよ」
お互い、横目で見た後に挨拶をする。その視線の間には見えない火花があった。
先に視線を町に戻したのは公蔵。それを見て由紀恵も町に目を移す。ところどころ雪が積もる、のどかな田舎町といった風情に。
「早いものですね、時間の流れは。大陸から逃げて逃げて逃げ続けて……」
「そうしなければ滅ぼされていたのは私たちだった。そのことを後悔などしていない」
「それもこの景色を守るため、と?」
「そうだ。皆を守るためでもある」
数秒の沈黙。
公蔵は由紀恵の考えていそうなことに検討はついていた。そのうえで、彼女が何か言うことを待っている。
(やはりまだ奴のことが気になるか。あるいはと思ったのだが……さすがに早急すぎたか?)
由紀恵が父性を求めていたのは確かだ。生前、彼女の父もまた頼りになる人物だったがゆえだろう。公蔵自身、彼女の父親には何度も助けられた。だから大事な時期に居なくなってしまい、代わりを求めたのだ。それが、たまたまミツヒロだったということ。
(いや、奴はわかっていて合わせたのだろう……鈍い奴ではなかったからな)
加えて、彼とミツヒロは競争相手でもあった。微妙に分野の違いはあったが、まさしく天才といえる人間。だからそんな相手の子が自分に傾倒していることを悦に入っていたのだろう、というのが公蔵の推測だ。
(それに――――いや)
そこで公蔵は思考を1度打ち切る。由紀恵が口を開くようだ。
「確かに、良い景色だと思いますよ」
「そうか」
(全てが嘘ということでもなし。現状としては及第点だろう、あとはどう傾かせるべきか……だな)
公蔵がピースとして思い浮かべたのは1人――いや、1人の子供。
「彼女は元気かね」
「ええ、それはもう。今日は友達と遊びに行くそうですよ」
「そうか」
「報告書にも書きましたが、あの子の成長は順調です」
「すでに見たとも」
「それはよかったです。このまま良い子に育てますよ」
「期待している」
由紀恵の言い方には含みがあった。何か企んでいるのだろう、むしろこの女が企んでいない時間のほうが珍しい。
そうだとしても。
(しかし、子は親の都合よく動いてくれるわけではないのだ。良くも悪くもな)
それは公蔵自身、実感したことだった。
アルヴィス会議室。
公蔵はミツヒロの暗号化されたデータを一部解読できたという知らせを受け、真壁たちに招集をかけていた。
「説明を頼む、遠見先生」
「はい」
千鶴がコンソールを操作し、ディスプレイに資料を表示させる。
「この計画の趣旨は、ジークフリード・システムなしでもフェストゥムに対抗できるか、シナジェティック・コードはどこまで黄金率に近づけるか、というものでした」
「システムなし……すると」
「新国連への手土産としてか」
史彦の言葉に千鶴は頷く。
「ただフェストゥム因子は使われているようなので、大陸の人々が必ずしも乗ることを想定していたわけではなさそうです」
「あくまでテスト、データ収集が目的だったというわけだな。それで奴はどう実現しようとしたのだ?」
「レポートの言葉を借りるなら、人格の多重形成及びそれらの同時前面展開、とのことです」
「……二重人格のようなものか?」
「その通りです」
『私たちが変性意識をノートゥング・モデルに搭載したのと同じ理屈だな』
「ティターン・モデルでは試作のものしか搭載できなかったようですから。理論上、思考自体を水増しすればフェストゥムに本当の思考が読まれ辛いというのはわかっています」
「だが、簡単にそのようなことができるものだろうか。変性意識でさえ本来の人格ではないのに」
「当然、無理だろう。しかし、奴はそれを押し通してしまったということだな?」
「はい。多重人格を意図的に起こすことは21世紀のうちに研究論文が発表されている通り不可能ではありませんでした」
千鶴は画面をスクロールする。
「……自我の形成期に適応能力を超えた肉体的・精神的
「ファフナーに乗れる子がいないのなら作り出してしまえ、というわけか」
「いかにもあいつのやりそうなことを……ひとくちにストレスだとしてそう単純ではないはず。いったい何をしでかしたんだ」
『とはいえ、そのために作られた少女が私たちの前に現れたというなら、成功したと考えてもよいのか?』
「不明です。結果については調査を続けていますが……目的のデータを得られたから彼は島を出た、と私は考えています」
「つまり、彼女の中にはまだ未知の人格がいる可能性もあるということか」
「あるいは、これから生まれるか、だ」
「そのことですが、最近は対象が狩谷先生にべったりな様子も見られるそうです。もとから拒否感などはあらわにしていませんでしたし、親に対する愛情の発露であればよいのですが」
「あるいはそれが別人格の可能性もあるということだな」
「可能性として、ですが」
「どちらにしろ狩谷先生の手に余るんじゃないか、皆城」
「決断を下すにはまだ早いぞ、真壁。新国連と繋がっているのは事実だが、それだけではなくなりつつある」
「本当なのか? 俺にはそう見えないぞ」
「あの狩谷が他人の世話を焼いているのだ、これ以上はあるまい」
史彦はううむ、と目を閉じた。
『随分入れ込むな。それも博士のためか』
「否定はせん」
「確かに弓子のところにも来ますから、仲間意識が昔からなかったわけじゃないですものね。懐が強固に守られているだけで」
あくまで由紀恵が嫌っているのは島の大人であり、同級生以下について露骨な嫌悪を現したことは少ない。
公蔵の見立てでは、この資料が事実なら彼女と由紀恵は似たものだ。彼女を通して、自分を見直すきっかけになればよいとも考えが廻った。
史彦が目を開く。
「話を彼女に戻すが、用済みだったなら放置したミツヒロの考えはわからん」
「さぁ……彼にとってもイレギュラーが起きたのかもしれません」
「それを解明するためにも、解析は引き続き任せる」
「はい」
「去年は予想外のことが多く起きた。今年はどうなるか」
指を組んで考えこむ公蔵。
そこに史彦が問いを投げかける。
「そうだ。一騎から総士くんの話を聞く機会が減ってきているが、総士くんのほうはどうなんだ?」
「こちらも似たようなものだ。特に悪感情を抱いているわけではなさそうなのだがな」
「やはり前のことが原因か。体調は悪くないのか?」
「それについてですが、日常生活に極端な支障は見られていません。視力が低下しているのは確かですが、一体化した瀬戸内海ミールの因子が過度に活性化する様子もなく体のほうは健康ですね」
「問題は2人の距離感、か」
総士が一騎を同化しようとした事件は双方に少なくない溝を生んでいるようだった。
本人は帰り道で転んだと話したが、大人からすれば何かあったと疑うのは自然。検査と検証の結果、同化現象を引き起こしたというのが発覚する。
――およそ半年前の会議で話されたこと。
「それにしてもなぜあんなことが起きたのか」
「前にも言ったが、きちんと因子に適合しているのは確認済みだ。ただ、総士が思っていることを我々が知る術はない」
「彼の精神的な変化が同化現象を引き起こしたのか?」
「因子の作用はまだ私たちにとって未知の領域もあります、特にミールのものについて。ひとまず、解析班は彼の心が本能的にフェストゥムに寄ったのではないかと仮説を立てました」
「問題はこれが今までの積み重ねによる成長か、あるいは外的要因なのかだ。そしてこれから繰り返す可能性も」
「その可能性は低いと思われます。現在は安定しており、染色体の変化も見受けられません。そもそも前例がないため断言はできませんが……」
「いや、今すぐ発現しないのであれば十分だ。おそらくフェストゥムの声に答えたことが呼び水ではあろう、しかしそれだけならあの瞬間に起こしてもおかしくない」
「……つまり皆城は出来事か、人物を疑っているということだな?」
「そうだ。そして丁度、総士に近づいていた人物がいる」
『洋治や道生くんの件も、彼女が探っていたような形跡があった。皆城、どうするつもりだ?』
「……どちらにしても経過を観察するほかない。判断を下す材料すら揃っていないのだから」
――そういうことがあった。
「どうする、皆城」
「下手に干渉することはしない、以前決めた通りだ」
「シナジェティック・コードのためか?」
「そうだ」
「……子供の悩みすら聞いてやれんとは」
「これは本人たちの問題だ、真壁。我々が手を出せば余計に波を生む。お互い器用でないのは知っているだろう」
「それは、そうだが」
肩を落とす史彦から目を外して、公蔵は正幸に話を向けた。
「生駒、そちらはどうだ」
『劇的に祐未が変化したということはない』
「そうか。クラスでの彼女はどう聞いている?」
『今のところトラブルも起こすことなく溶け込んでいるそうだな』
「私の診療所にも何度か来ています。最近は表情が豊かになってきたように感じますね」
「報告書の通り、か。この短期間で集団内の立場を覚えたな」
『ならば進めるのか』
「ああ、当初の予定通りだ」
公蔵に視線が集まる。
「不安定な人格だというなら安定させればよいだけのこと。適任者は居るのだからな」
言葉と他人の存在を理解したなら、次は精神だ。
少々イレギュラーはあったものの、いやあったからこそ、爆弾のような存在を早く島に有益なものとする必要がある。そのための教育。
「それと、分離型ジークフリードの開発はどうだ?」
『ひとまずは順調……といいたいが、少し時間がかかっている』
「できるだけ急いでくれ」
『ああ』
◇◆◇
竜宮島の秘匿されたどこか。数か月に1度、新国連に繋がる者たちの集いがあった。
比較的年齢の高い者が多い中、そこには由紀恵の姿もある。
「それで、新しく開発されたとかいうファフナーについてはわからずじまいか?」
「詳しいことは残念ながらな。連中、ハリネズミのように厳重なロックをかけていやがる」
忌々し気に毒を吐く男たち。
「私たちは中心から外されてしまっているから直接情報を得ることもできん。面倒な存在だよ、皆城は」
「しかし今日、風向きは変わる」
「左様。我々にも目と指ができた」
大人たちの視線は由紀恵に向かう。
「カードキーは受け取ったかね?」
「はい」
「それは上々。あの娘についてはどうだ」
「もちろん万全です。わたしの言うことならなんでも聞くように教育しています」
「よろしい。君に任せて正解だったな」
「ありがとうございます」
「引き続き、君は中枢に潜りこんでデータ収集をしたまえ。人類のためにどちらが働いているのかは明らかなのだから」
「それに、君の仕事次第で彼に会わせてやることもできる。期待しているぞ」
「……はい」
由紀恵の返答に笑みを深くした男は、ついでとばかりに提案する。
「そうだ。ミツヒロの忘れ形見、役目を終えた後は貴様にやってもいい」
「それは……」
「なんだ、いらないのか? ふふ、本人以外は必要ないか」
「まあまあ。とにかく明日からも頑張り給え、狩谷君」
「当然です」
由紀恵が退出した後、男たちは口をそろえて言う。
「人が人たる世界のために」