ルガーランスはぁ!こう使う!   作:ミツヒRo・バートランド

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明確な描写は作中になかったと記憶しているけど、改めてゆきっぺはメシマズになってもらいました。
こ、この時期ならあり得ると思って……

我々は正月によって仕事はじめを理解した

オリ主の過去に興味のない方はこちらからどうぞ


過去~いんねん~

 

 

ピピピッ ピピピッ

 

部屋に鳴り響く機械音。やけに不安感を煽るそれに、俺は起こされた。

わずかにセミの鳴き声も聞こえる。

ああ……? アラームの音だ……もう朝なのか? いつの間に寝たんだ? 

「うーん…………」

だめだ、思い出せん。どうせ漫画でも見てたんでしょ。

目を開ければ、()()()()()見知った部屋だった。

パソコンを置いた机とテレビにゲーム、本棚には漫画本などなど。

ずいぶん俺の部屋も陰気になったもんだなぁ。

やかましいアラームを止め、今日が何日か確認する。

9月2日。ああ、そういえば夏休みが終わったんだった。やだなぁ、休みたいんだが。でも行かなきゃだめだよなぁ。単位足りなくなっちゃうよ。

 

制服に着替え、寝ぐせを直していく。鏡には、だいぶん顔色の悪い少年が映っていた。

――俺だよなぁ。

なんで今違和感を覚えたんだ? 俺は男だよ……名前も男の名前だし。

 

 

鞄を引き寄せ、階下のリビングに向かう。

俺の立てる足音だけが虚しく家の中を反響していた。

都内郊外の一軒家。それが俺たちの家だ。

 

「あー、母さんは今日もパチンコか……昨日負けたって言ってたもんな」

置き土産としてテーブルの上には食パンが置かれている。これを食えということだ。

スマホをいじりながらパンもかじる。行儀が悪い? 知ってる。

「なんか面白いのないかねぇ」

ニュースを漁るが特になかった。芸能人の不倫とか誰得なんだよ、それよりファフナー続編のニュースをやれ。

心の中で毒づいて、スマホをポケットに突っ込んだ。

 

箪笥の写真に手を合わせてから預金通帳を取り出す。

「おーう、ついに5桁かぁ。おかしいなぁ、おととい給料日だったけど?」

貯めても使えば減る。当然のことだ。

俺も高3だしどうすっかなぁ。

高校までは父さんが通えって言ったから通ったけど、進学じゃなくて就職するか。家のローンはないけど借金抱えることになったら大学行く余裕なんてないし。というか母さんならやりかねない。奨学金まで使い込んだら二重でやば(あじ)

 

「あと半年で就職できるか……宛はあるけどコネみたいでいやだなぁ。申し訳ないし」

靴を履き、紐を結んで家から出る。

まぶしい日差しが目を焼いた。

「アカン引きこもり過ぎて病弱になってる」

日光を手で防ぎながら自転車に乗り込んで、ペダルをこぐ。

筋肉が衰えても近代技術はそれを補ってくれる最高のマシンだった。ビバ自転車。

 

「おはよーございまーす」

近所のおばさんたちに挨拶するが、返事はない。

みんな目をそらすんだよねぇ。なんでかな? 理由はわかってるが。

どの道イヤホンから音楽流しているから聞こえない。今Life Goes Onから蒼穹に変わったとこ。

良い子はイヤホンつけながら自転車こいでいるとお巡りさんに職質されるから……やめようね!

 

「にしても独り言多くなった上、内面愉快になったなぁ」

慣れちゃったからあまり気持ち悪いとかは思わないけどね。

さて、自転車を走らせること30分もすれば高校にたどり着く。

大体みんな電車で来るから高校近くは歩いている人が多い。

 

 

「お前それダサいよ?」

校門では、暴走族にあこがれて失敗したっぽい生徒を先生が注意してた。

 

 

 

それを横目に見ながら教室に進む。

「おはよー」

扉を開けて挨拶してみれば当然というべきか、今まで話していた声がぴたりと止んだ。

俺の姿を確認すると目をそらし、仲間内で再び話し出す。俺は入れないってわけね。

でも机を上から投げられて「お゛ま゛え゛の゛せ゛き゛ね゛え゛か゛ら゛!!」と言われないだけいい高校だと思う。

代わりに俺の机に今日も花瓶が置かれていた。

これマジ? 時代に対して手法が古典的すぎんだろ……。

 

 

 

結局今日は夏休み明け最初の登校日なので始業式と宿題の提出で終わった。

会話? 事務手続きだけだよ。

さて帰ろ帰ろ。

 

 

 

「おい、ちょっといいか?」

帰ろうとしたら校門で呼び止められた。誰?

「俺は1年の牙井ってモンよ」

「後輩か。すまんね、あまり後輩は会わないもんだから」

「別に気にしぃせん。それより時間あるか?」

「あー、10分くらいなら」

最近増えたんだよなぁ、こういうの。

バイトに間に合うなら断る理由もないしついていくけど。

 

 

 

「連れてきたで」

「おう、来たか」

学校裏の道具置き場か。ひぃふぅみぃ……5人集まってる。

「騙すようでスマンな、これも仕方ないんよ」

「別にいいよ。で、要件は?」

「おう。去年の夏、わかるか?」

「『血の夏休み』だろ、そのくらい知ってるさ」

「それなら話が早ようくて助かるわ」

 

血の夏休み。厨二っぽいが、マスコミのつけた事件名である。

都内某デパートの地下で起きた爆弾テロ。死傷者40人の内死者は9人にも及んだ大事件。あれ、もっといたっけな。

 

「俺ん妹があのデパートに友達と買い物に出かけていてな。巻き込まれたのよ」

「それは……運が悪かったな」

「ああ、運が悪かったんはわかる。けどな、それとこれは別なんよ」

 

頬に衝撃。揺れる視界。横転する体。

 

そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

バイトも終わり、家に帰ってきた。いつも通りだけど日を跨ぎそう。

ん、玄関に母さんの靴があるな。

 

「母さーん、電気つけないと危ないよ」

 

代わりにリビングの電気をつけると母さんがいた。

母さんはもう40歳だが、出るところは出て細いところは細い20代の体型という、たぶん俺が知る中で一番の美人だ。ギャンブル狂いであることを除けば。

 

 

「勇作、今日は肉じゃがにしてみたんだ。お前の好きな肉じゃがだぞ? たんと食えよ…………おいしい? そうだろうそうだろう、なんだってアタシが作ったんだからな! それで……そのだな……えっと、来週の日曜日……久しぶりにデートしないか? ほら、最近仕事が忙しいって言っていたからその、アタシも寂しいんだよ! アタシのために働いてくれてるのはわかってるけどそれはそれってことで……わ、悪いか? 悪くない? えへへ、そっかそっか。よし、そうと決まれば準備しなきゃな! 気が早いだと? バカ者、準備はいくら早くても困ることはないんだよ! それで夜は……楽しみだな、勇作!」

 

 

あー、今日は勝ったらしい。機嫌がいいや。

真っ暗なリビングで父さんを模した人形相手にご飯……残骸みたいなものを食べさせようとしてる光景、慣れるまではホラーだよ。

そんで……

「こりゃ片付けないとなぁ」

台所は鍋やらお玉やら使ったらしい材料が散乱しててすごいことになってる。

母さん、結構料理うまかったんだけどなぁ。今じゃ滅多に成功することはない。

さて片づけ片づけ。

 

 

 

「帰ってたのか」

「ん……まあね」

 

簡単な夕食――転がってた材料を洗って皮やタネを取り除いたあと、薄めためんつゆで煮たスープっぽいもの――を食べていたら母さんがトリップから戻ってきた。

顔を手で覆って鬱向いている……じゃなかった、俯いている。

 

「…………」

「…………」

 

うーん、お互い話すこともないから無言になっちゃうんだよなぁ。

俺は嫌いじゃないんだけど、母さんは俺が嫌いらしい。いや、俺より父さんが好きだった……って感じかなぁ。ギャンブルしてるのだって、父さんと初めて会ったのが「パチンコ屋で意気消沈してたら拾ってもらった」って話してたからそれだよねぇ。止められない俺も俺なんだけど。

 

「食う?」

「ああ」

 

話せてもそれだけ。

お互い口は動くけど会話がない。

 

 

 

「うっ、ううっ、ううううううっ」

食べていると、急に母さんは泣き出した。発作である。

 

「母さん、薬まだ飲んでないでしょ。はい」

箪笥から予備の薬と水をコップにいれて渡す。

「お前ぇ……お前がいたからぁ……!」

薬を無視して泣きながら母さんは俺の胸をたたいてくる。対して力も入ってないからそれほど痛くもない。

「そうだね、ごめん。俺のせいだよ、わかってる。だから薬飲もう?」

「こんな、こんなものでアタシは……アタシはあああ!」

叫ぶなりコップを叩き落とされちゃった。プラスチックだから割れたりしないけど、水がこぼれたから汲みなおさないといけない。そんな暇なさそうだけど。

「母さん、落ち着いて。薬飲んだらひとまず楽になれるから」

「ふざけるな! 誰が飲むかよ……どうしてテメエが生きてるんだよ!」

もうめちゃくちゃだよ。椅子を持ち上げるのはヤバイから取り押さえる。

「やめ、やめろ! 離せ! アタシは勇作のところに行くんだ!」

「どうしたもこうしたも、お母さんが暴れるからでしょ」

「暴れる? 暴れてねえよ! お前がアタシの邪魔してるんだろうがあああ!」

スイッチ入っちゃったや。やっぱり薬飲まないと……いい子はお医者様から処方された薬は毎日飲もうね。

「くそがあああああああ!」

やばいやばい、筋力でいうと母さんのほうが上なんだよ。早く効いてくれ。

 

 

 

 

 

 

騒ぎ始めてから少し経って。

 

「すぅ……すぅ……」

母さんは寝息を立ててぐっすりしていた。

「あー、よかった。死ぬかと思った」

スープに睡眠薬混ぜといたんだ。

朝、ごみ箱に薬の袋が捨てられてなかったからもしやと思ったんだけど、正解だったなぁ。

とりあえず今のうちに薬を飲ませてからベッドに運ぼう。

俺もそろそろ眠いって…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは竜宮島唯一の定食屋である堂馬食堂。

昼時を若干過ぎたころ、3人の男女が入店していた。

 

「それで、私たちに用があるんだっけ? ゆきっぺ」

差し出された水を一口飲んでから話し始めたのは、気さくな雰囲気の女性は遠見弓子。遠見医院の長女である。

「お前()()ではなく弓子()用があるのだけどね」

肩をすくめる女性が狩谷由紀恵。オープンショルダーのやや露出が多い服を着ている。

「俺は財布だってかぁ? そりゃないぜゆきっぺ……」

赤いバンダナが特徴の若い男は日野道生。

この3人はかつて同じ学び舎の下で過ごした同級生だった。そして現在も、場所は違えど島の中で仕事をしている。そんな彼らを呼び出したのが由紀恵だった。

 

「ふっ……冗談よ」

「そりゃどうも……仲間外れは寂しいんだがなぁ?」

「悪いとは思っているわよ。でも道生に何かできるとは思ってないから違わないかもね?」

「ちょっ、なんだよそれぇ」

「ふふ。だめよ道生、女の子同士の話に入ってきちゃ」

「なんで弓子までゆきっぺの方に回ろうとするんだよ!」

「ふふっ」

 

普段は気難しい表情をしている由紀恵だが、この3人で集まるときだけは表情をわずかに緩めることができていた。それもほかの同級生はみな死に、残されたのがこの2人の幼馴染だけだからである。いわば、最後のゆりかごなのだ。

 

 

各々が料理を頼み、雑談を交えながらある程度食べ進めたころ。ようやく3人は本題に入った。

 

「それでそれで、私に何を聞きたいの? ゆきっぺ」

「そうね……料理ってどうやるのかしら」

「へっ……?」

「ぶっ……!」

 

あの――服装以外――堅物な由紀恵が一体何を言い出すのか。ワクワクして耳を澄ましていた弓子たちだったが、あまりにも予想外の言葉が飛び出してきたため、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「なによ。そんな反応しなくてもいいじゃない」

「えっ、えっ。ゆきっぺ、今の聞き間違いじゃない? 料理を習いたいっていうの? 私に!」

「だからそういっているじゃないの」

「あのゆきっぺが……だと……? そりゃまたどうして。天と地がひっくり返りでもしたのか?」

「あなたたちねぇ……何よ、わたしが料理に興味を持っちゃだめだっていうの?」

「そりゃ違えけどよぉ……」

「だってゆきっぺ、いつも何食べてるのよ」

「戦闘糧食よ」

弓子の問いに由紀恵は即答した。

「ほらー! 絶対年ごろの乙女が食べるものじゃないわよそんなの!」

 

()()()()ですって?」

 

額に青筋が浮かび上がるのを我慢しながら、由紀恵は説明する。

「5大栄養素の補給と消化吸収が2分以内に行われることのすばらしさが分からないの? 発生するごみもバイオ容器だから土に埋めればゼロよ。食器も使わないから食器洗いもなくて時間の節約にも効率的だわ。これの何が悪いっていうの? あるなら言ってみなさい」

「確かに、栄養学から見れば私も賛成だわ……」

「でしょう?」

 

「でもおいしくないわよ!」

 

「おいしく……ない……?」

「あー……。すまんゆきっぺ、これに関しては俺も弓子側だ。毎日ではないだろうけど、あのゴムみたいな食べ物はできるだけ避けておきたい」

「…………」

たった一言。しかも感情に任せたそれだけで、由紀恵の味方はいなくなってしまった。

「ゆきっぺ、悪いことは言わないわ。今からでも普通の食事をしましょう?」

 

弓子の言葉で、ある場面を由紀恵は思い出した。

案子を預かることになった最初の夜である。

 

『母さん、これ何?』

『何って……夕食に決まっているわ』

『そ、そっか……うん……』

『何かおかしいところでも?』

『いや、おいしいよ、うん』

 

彼女は差し出されたチューブ型の戦闘糧食をおいしいといって食べていた。

 

「でも、おいしいと思うことだって――――」

「ないわよ」 「ないな」

「うっ……」

苦し紛れの言葉は、食い気味に放たれた2人に封殺される。

「仮にいるとしたら、嫌々食べているだけよそれ。絶対不満を抱いているわ」

「そうなのね……」

 

不満。それはまずい。もしも彼女が不満を抱いていて、他の大人――アルべリヒド機関の者たちにそれを報告されでもしたら「資格」が疑われてしまう。

なら彼女は不満を抱いているのだろうか?

優れた頭脳を持つ由紀恵はそれらしい案子の反応をとらえてはいたが、確信しきれないでいた。

加えて、もし料理ができるようになればミツヒロさんに褒めてもらえるかもしれない。いつか「男は胃袋で掴む」と弓子が言っていた。

それならやはり、料理することは価値あることなのだろうか。いや、ある。

(ミツヒロさんに褒めてもらえるなら……)

 

『由紀恵、私は嬉しいよ。家に帰れば君が温かい料理を出してくれるから、私は研究に注力できるのだ』

 

由紀恵は訪れるかもしれない未来を夢想した。

 

 

――――由紀恵の現状を弁明するなら、アルべリヒド機関での食事は里親の自炊能力と比較させないため、過度に味のあるものは食べさせない方針をこの時はとっていた。問題は由紀恵には里親が見つからず、またファフナーの同化現象で味覚が若干麻痺してしまったことにある。これも全部ミツヒロってやつの仕業なんだ。

 

 

「なら、改めてわたしに料理を教えてほしい」

「もっちろん、任せなさい!」

力こぶのポーズをとりながら弓子が断言したのを見て、由紀恵は安堵した。

「でも問題はぁ~」

しかし、直後に弓子の目に映った怪しい光がその安堵を後悔させる。

 

「どんなきっかけがあったかってことよねぇ~?」

意味深にこちらを見てくる弓子に、由紀恵はなんと答えるか一瞬迷った。

案子のことはまだアルヴィスでも一部しか知らない秘密事項である。それを弓子に話すかどうか考えて――――ごまかすことにした。

 

「別に、なんとなくよ」

「えぇ~? あのゆきっぺが自分を曲げるほどの決定をするなんて、絶対何かあったはずよ!」

「ほんとにないのよ、ほんと」

「う~ん……絶対何かある……道生もそう思うわよね?」

「えっ、俺? あぁ~、まぁ。ゆきっぺだしなぁ」

「そうよね! 絶対、今ゆきっぺは隠し事をしたわ!」

 

「いっつ!」

弓子が余計な思考を始めたため、遠回しに賛同した道生を由紀子はテーブルの下で足蹴りした。

「なんで俺ばっか……」

「ふん」

 

 

「あっ、わかったわ!」

数秒後、何か思い至ったらしい弓子が声を上げた。

「そのひらめきはきっとろくでもないものね……」

「違えねぇ……」

弓子は大体こういうとき、素っ頓狂なことをいう。そしてそれに呆れるという流れが3人のお約束だった。

 

 

「イイ人ができたんでしょ、ゆきっぺ!」

「っ」

 

 

だから、まさかの当たらずとも遠からずな発言に、由紀恵は手を止めてしまった。

そして、不幸なことに弓子とは付き合ってきた時間も長く、こういった仕草を見抜いてしまう。

 

「ふふ~ん? へぇ~? そうだったんだぁ。で~? 誰なのよ。真壁のおじさま? それとも校長先生? 大穴で手塚君だったりして……!」

「あのね弓子……」

「あ、でも道生はダメよ。成人したら私と結婚するんだから! そうよね、道生?」

「お、おう……そうだな……」

「はぁ……別にとって食おうってわけじゃないから安心しなさい」

「そう? よかった~」

 

こういう時、感情的になって反論すると余計に相手が調子に乗ることを知っている由紀恵は、冷静に弓子を諭した。

 

「それならさっそくこの後ゆきっぺの家で作りましょう!」

「家はダメよ」

「え? …………あっ」

しかし、その努力もまた弓子によって破壊されようとしていた。

 

「まさかゆきっぺ……もう同居してるの? きゃー! もうそこまで進んでるなんて!」

「弓子……あなたってのはほんと……」

 

由紀恵はいい加減眩暈がしてきそうだった。

 

「あっ、そうよ。道生! 私たちも結婚の前に同居しちゃいましょ!」

「はっ?」

「別にいいでしょ、道生。実は恵さんにはもう許可をとっているのよ」

「手が早すぎねぇか!?」

「は~ぁ。ちっちっちっ、道生はわかってないなぁ。こういうのはね? 早いほうがいいのよ、早いほうが」

「そういうもんかねぇ……」

 

道生と弓子のカップルは、島の因子移植第1世代ともあって有名だ。その恋路を応援する大人は割と多いのである。

 

 

 

一方の由紀恵は、自分から矛先が移ったことで静かに喜んでいた。

「はぁ……人の気も知らないで……」

ただ、自分とミツヒロとの物理的距離を思えば、目の前でいちゃつくこのバカップルが妬ましく見えないわけでもない。

しかし、それを差し引いても悪感情に傾かないのが、この3人なのであった。

 

 

 

――――その後、折衷案として学校の家庭科室を「来たるべき調理実習」という名目で使うことに合意した。なお、この案は弓子が由紀恵に余計な世話を焼いて「思い人がいつでも見られるように」と考えてのものでもあった。弓子……恐ろしい子。

 

 

 

 

 

 

 

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