ルガーランスはぁ!こう使う!   作:ミツヒRo・バートランド

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プロローグの終わり





苦痛~はじめて~

液体のような場所の上を、俺は漂っていた。

冷たくも、熱くもない。

生ぬるく、少し気味の悪い場所だった。

でも、俺はここが自分のいるべき場所だとも思った。

何か、思い出していた気がする。なんだろう?

…………わからない。

思考に霧がかかってしまってうまく考えられないんだ。

ならばと目を開ける。

空はあんなにも……薄暗かった。

雨雲とはいえないが、ただの水蒸気とも思えないものが空を覆いつくしている。

 

――――アナタは、そこにいますか?

 

なんだか、呼ばれている気がする。どこかはわからない。根拠もないけど……そんな気がした。

 

実際、声が聞こえてくる。

 

「――――ず」

 

誰だろう。誰の声だろう。

 

「――――あんず」

 

誰かを呼んでいる。

あんず……誰だろう。

 

「――――案子」

 

案子…………。

 

 

 

 

 

 

 

あ、俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案子」

「かあ……さん……?」

「夕食ができているわ」

 

なぜか、狩谷先生が目の前にいた。

え? 目の前?

 

うわああああああああああああ!?

 

「声が大きい」

「ご、ごめん……」

 

アイエェェェェ!? ナンデ!? 狩谷=センセイナンデ!?

な、なにが起きたかさっぱりわかんねぇ……。

お、俺は確かこれからどうしようかについて考えていたと思ったら、いつの間にか狩谷先生が目の前にいた。何を言ってるかわからねぇと思うが……。ポルナレフ状態ってこういうことか。

 

「えと、何の用……?」

「夕食ができたと言った。いらないの?」

「あっ……わ、わかった。いる! すぐいく!」

 

さっきそう言ってたじゃん! ぼんやりしすぎでしょ。

窓の方を覗くと、確かに月明りが出ていた。3,4時間は寝てたのかな……?

 

 

 

 

 

リビングにつくと、料理がお皿に盛りつけられていた。

ご飯、お吸い物、ほうれん草のおひたしが乗った豆腐とハムカツ……っぽいもの。

シンプルでいいよね、こういうの。

 

そういえば、狩谷先生やっぱりというかプライド高かったんだよ。アルべリヒド機関の人が作るって言ったのをはねのけて「わたしがやります」って。

結果出てきたのは保存食っぽいのと炭素化合物を錬成したものだったけど。本編でどう生活していたんだ?

まあ3か月も経てばご覧の通り。指を怪我しながら作っていたころが懐かしく思える。

でもどんな心境の変化? ミツヒロにでも作ってあげようって思ったのか。なんて健気なんだ……実験台としてうまく俺を使ってくれ。

いや、やっぱミツヒロにはもったいない。

今一度確認するけど18歳だからね? 日本じゃ高校生よ。果たして今の高校生で自炊できる人が何人いるやら。

俺? 無理です。すみませんでした…………。

 

お? ちょっとまって、俺はこの3か月年下の子に介護されてきたわけ? 料理も作らず?

――――品性を疑うな。

け、けど掃除とかは俺がやってる!

――――でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?

うぐっ。

そ、それよりミツヒロの奴は38歳とかで15歳をひっかけたんだぞ! それに比べればなぁ!

――――どっちも虚しい。

そだね。ごはんたべよ…………。

 

 

 

 

 

「母さん」

「なに?」

「今日もおいしい」

「そう」

 

 

 

 

 

それにしてもどうしよ、ご飯食べていたら何を考えていたか思い……だした……!

俺ほんとに必要なんすか? この世界。

「はい」か「いいえ」で答えてもらいたいんだけど!

信じられる? 俺たちの転生はこれからだ! と思ってたら「おめーの席ねーから!」って状況。

 

 

 

 

 

「悩んでいるな」

「え?」

「口数が少ない。いつもうるさいくせに」

「それは……ごめん」

「謝罪など求めていないわ。でかくなったのは図体ばかりで、心はまるで成長していないと思っただけよ」

「う……やっぱ変な伸び方してるよね」

「少なくとも平均的ではないわ」

「おかしな娘でごめん……」

「謝罪は求めていないといったわよ」

「はい……」

 

つ、冷たい……。というか最初がおかしかっただけで、狩谷先生的にはこれが普通だよな。

両親をファフナーに奪われ、憧れたミツヒロは島を去り、気の許せる相手は二人だけ。学校の教師という表の仕事は与えられたものの、アルヴィスの情報はなかなか得られず……。そのうえ変なオモリ()を抱えたまんま。元気に暮らせってほうが無理あるわ。

皆城さんの愛人になるのはいつからだっけ? 

……わからん。

というかもしそうなったら俺はどういう顔すればいい? 

……やっぱりわからんわ。

あとミツヒロの脱島時期おかしくない? 記憶違いかな?

 

俺たちは黙々と食事を進めた。

ご馳走様と手を合わせ、食器を洗っているころ。また狩谷先生に声をかけられる。

 

「なぜわたしがあなたを育てているかわかる?」

 

それは、なんで今?っていう質問だったけど。

 

「……機関の人に言われたからじゃないの?」

「確かにそう。でも、それだけじゃないのよ」

「どういうこと」

「わたしは信用を得たいのよ。特に校長先生や真壁史彦のね」

「信用?」

「そう、信用よ。信用とは隣に立つことに不信感を持たれないこと。信用は人の心に入り込むための第一歩で、信用されて初めて同情や愛情を抱かれるわ」

 

な、なんだ? いつに増して先生が饒舌なんだけど何を言いたいんだ。

 

「つまり、あの人の役に立つには島の大人たちの信用が必要で、そして信頼される必要があるわ。あなたを育てることは私にとって絶好のチャンスなのよ」

 

まって、狩谷先生ってこんなぶっちゃけトークする人だったっけ?

 

「何を……言ってるの……?」

「あなたが何を考えているのか知らないけど、人との付き合いというのはそういう(信用によって成り立つ)ものだということよ。覚えておきなさい」

「う、うん…………?」

「ほら。洗い終わったらお風呂に入る」

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

お風呂温かいなぁ…………。

湯船につかりながら思考をまとめる。

確かに、先生の言う通りなんだよな。ここは俺の妄想の世界じゃない。みんな生きてるんだってこと、気が付いていたはずなんだけど……うじうじしたって仕方ないし、やっぱ動くしかない。

問題はまだアルべリヒド機関での基礎学習中なんだよねぇ……小中の内容は転生時に忘れたなんてこともなかったから、覚えてるんだけど。いつまで続くかが問題よ。早く介入をはじめないと時間が足りなくなりかねないのに。

信用……かぁ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

偽りの月が昇り、夜も深まったころ。部屋の戸が叩かれた音を由紀恵の耳は捉えた。

 

「開いているわよ」

彼女が許可を出すと、恐る恐るといった様子で戸が開かれる。

隙間からこちらを覗くのは小さな少女。

「今日も来たのね」

短く頷くと、少女はぼんやりとした表情のままたどたどしい足取りでこちらに歩いてくる。

「おいで。一緒に寝ましょう」

由紀恵はまとめていた資料を引き出しにしまい、向かってきた小さな体を抱きとめた。

「大丈夫、わたしの言う通りにしていればいいの」

蠱惑的な声で安心させるように囁けば、少女は体を預けてくる。

そのまま2人でベッドの中に入り、やがて少女は静かな眠りについた。

「せいぜい、役に立って頂戴ね」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

次の日、俺は学習プログラムを受けにアルべリヒド機関へ向かっていた。

といっても、車で送られるわけ。しかもスモークガラスっていう念の入用。そんなに俺は信用ないですか? むしろできる要素なかったわ。

 

アルべリヒド機関と一言でいうけど、図書館だったり運動場だったり教室だったり視聴覚室っぽいものだったり……意外と広いところだったりする。最初はただの研究所だったらしいけど、孤児の委託所として使うようになると設備が足りないから増やしたっぽい。

 

 

「お、アズにゃん! 今日も来たんだ」

「よっす~」

「いらっしゃい」

 

学習室に向かう途中で声をかけてきたのは3人の女性。アルべリヒド機関で生活している人たちだ。知っての通り、コアギュラで生まれた後に里親が見つからない場合や親を失った孤児をこうして育てているのがアルべリヒド機関の役割である。

その中でも彼女たちは蔵前と同じような、ファフナーに乗ることを運命づけられた子供たち。年は15歳だから今の俺から見ると年上である。

また年下に頼ってるって?

いや、うん。俺も最初は怖かったんすよ……。だって作中で出てきたのなんか甲洋のときのおばちゃんくらいじゃん。筋骨隆々筋肉モリモリマッチョマンの変態が出てきたらと思ってさ……。ちょっとくらい頼りたいときってあるじゃん!

 

「こんにちは。3人は今日も仕事?」

「もちろん! でも最近ハードでさ。肩こっちゃいそう」

「人使い荒いしな~」

「島のためだし嫌じゃないけどね」

「そっか……オレにできることとか、あったりする?」

 

彼女たちの境遇を思うと、ついそんな言葉が出てきた。

金も地位も力もない今の俺に何ができるかなんて、たかが知れてるけど。

 

「アズにゃんが? そうだねー、繭と寿里は何かある?」

「べっつにー?」

「これと言って特別なのはないかな」

「だってさ。アズにゃんはどんと構えてればいいんだよ」

「そう言われても」

「あのね、別にあたしたちは特別なものが欲しくてやってるわけじゃないんだよ、アズにゃん」

「そうそう。それを言うなら私たちこそアズにゃんと話ができるのに感謝してるんだから」

「感謝? なんで?」

「わたしたちの同年代は()()場所にいっちゃったからね、世間話ができる子ってアズにゃんくらいなのよ」

「ほかの子はどちらかというと私たちがお守りするって感じだもんね~」

「それはそれでかわいいけど」

「ともかく、私たちは私たちのすることをやる。アズにゃんもアズにゃんでやることをやる。それで、時間があるときはこうやって話をしてくれるなら私たちは満足なのよ」

 

そういうものなのかな……。

 

「そういうものなの」

「はいはい、それでこの話は終わり。それよりそれより、お母さんとどうなったのよ。お風呂一緒に入った?」

「えと、それはまだです……」

「なになに、もう思春期なの~? 体の成長も早ければ心も早いのかな~この子は」

 

いうなり繭さんは俺を引き寄せる。く、くびが……。

 

「あの……」

「こら。繭みたいにオープンな人は珍しいんだよ」

「私だって誰彼構わずじゃないわよ!」

「それは知ってる。でも母親とどう関わればいいかなんて、あたしたちにもわからないよね」

「けどさぁ~、妹分の悩みくらいなんとかしてあげたいじゃん」

「それはまあ、みんなの知恵を合わせていくってことで」

「やっぱりそうなるよね~。お風呂がだめってなると次はどうしよっか」

「プレゼントとかどう?」

「定番ね」

「でもさ浅葱、それ相手の好みがわからないと地雷に早変わりしちゃうよ」

「ならお守りは?」

「お~、いいかも」

「確かに、お守りは好みとか関係ないもんね」

「アズにゃんってお金持ってたっけ?」

「いや、そういうのは貰ってないかな……」

「だよねぇ。手作りもひとつの手だけど……私たちがひと肌脱ぎますか!」

「いいんじゃない?」

「あたしも賛成。2人が変にギスギスしないもの選んであげなきゃね」

 

どんどん話を進めて行っちゃうんだけど……。3人寄ればなんとやらですか。

 

「えっと、それはさすがに悪い気がする」

「いーのいーの、気にしない気にしない」

「貰えるものは受け取っておくものよ」

「わたしたちの好意でやることだからね」

「えっと、はい……」

「素直なのはいいことだよ、アズにゃん」

 

ちょっと頭を撫でられた程度で従っちゃうとか俺ちょろすぎない?

 

「それじゃ、あたしたちはこっちだから」

「またね~」

「勉強、がんばって」

 

結局、押し切られたまま彼女たちは行ってしまった。

浅葱さんたちもがんばってるし、俺もがんばらないと。

 

 

 

 

 

 

アルべリヒド機関での学習プログラムだけど、大体はカプセルみたいなのに入って疑似授業を受けるか、図書室などを使って実地授業をするかの2通りに分かれる。

今日は前者らしく、仮想現実で授業を受けた。

ちなみに俺が授業を受けている環境だけど、監視カメラが四方を確認できるようになっていたりする。

 

「だいぶん、ここでのプログラムも退屈になってきたんじゃない?」

 

授業が終わったあと、端末を片手に話しかけてくるのは俺の教育係である育知(そだち)さん。

 

「オレ1人ならそうかもそれませんけど……ここは友人がいますから」

「また『オレ』なんて言ってる。あなたは女の子なのよ?」

「わかってます。けどこれがしっくりくるんです」

「はぁ……浅葱ちゃんたちの影響かしら。彼女たちと仲良さそうだもんね」

「そりゃぁ、オレはまだ彼女たち以外に友達いませんから」

「ふふ、そんな友達が欲しい案子ちゃんに朗報よ」

「朗報ですか?」

「ええ。この調子でプログラムを進めていければ次の年度に編入できるかもしれないわ」

「編入……? どこにですか」

「決まってるじゃない。学校よ」

 

学校。学校!?

 

「それって本当ですか?」

「本当よ。私が学力も性格も問題ありませんって報告しておいてあげたから」

「まじかぁ……それって学校以外にも行けるって意味ですよね?」

「きっとね。学校にだけ通わせるなんてことはないもの。だから今のうちに友達を作る練習しておきなさいな」

「やった! 先生大好き!」

「こらこら。ちゃんと真面目にこれからも進めるのが条件よ」

「はーい。3人にも報告しなきゃ」

「きっと喜ぶわよ。彼女たち、貴方を応援していたから」

 

 

学校に行ける。それはつまり、原作組に会えるっていうことだ。

1人のファンとして会うことに期待しているのも事実だけど、それ以上に原作介入ができる機会を得られることに感謝してる。

ありがとう育知先生、ありがとう遠見先生。

 

 

 

 

 

その帰り道。

「よう、娘っ子。何かいいことでも、あったのかい?」

上機嫌な心持ちで廊下を歩いていたら、独特な渋い声に呼び止められた。

「あんたは……」

「溝口。ただの酔っ払いだよ」

声のするほうに振り返れば、スキットル片手に寝転がる30代の男がいた。

溝口。異能生存体の……。

「異能……なんだって?」

しまった、声に出てたのか。

「いえ、なんでも」

「そうかい。それより一杯やっていかねえか?」

そう言って溝口さんはスキットル――中身はただの水だが――を差し出してきた。

「オレが飲酒できる年に見えるなら、遠見先生のところに行くのが先決だと思う。それに初対面の人にお酒を進めるのもおかしい」

「おーおー、そりゃすまんね。いっただけだよ、言っただけ」

 

溝口。フェストゥムとの戦闘初期から生き延び続けている特殊部隊の男。

ファフナー全編通してどんな絶望的状況からでも生還することで有名だ。そこでついた別名が異能生存体(非公式)。由来はどんな状況でも自分だけは生き残る別アニメの能力?のようなものだ。

ちなみに原作者すら「どうやっても死なねえ」と言っていたりする。

 

「そのおっさんはここで何をしてるの?」

「何って……酔っぱらっているだけさ。それ以外に理由なんてなぁ~んにもありませんよぉ?」

 

大方監視かな? 皆城さんに言われたんだろうか。でも溝口さんなら遠距離から見るとかもできるはずなんだけど。

まあでも、別に今何かいうこともないんだよな……。帰るか。

 

「それじゃあ、酔っ払いさんはほどほどにしてお家に帰ってくださいね」

「はぁ~い、わかってまぁ~す」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

アルヴィス地下会議室。

案子という少女がこの世に生まれてより、幾度目かの会議が開かれていた。

 

「溝口、どうだった?」

「んぁ~、ありゃ見た目じゃ普通の子供と変わらねえな。しかも何考えてるのかわかりゃしねえ。表情が変わらねえからよ。鉄仮面か何かじゃねえのか?」

公蔵に尋ねられた溝口はお手上げだ、と肩をすくめる。

「彼女は生きた人間だ。健康診断からもそれは判明している」

「わかってますってば。ただミツヒロの奴はとんでもねえのを作っちまったなと思っただけさ」

「感情を殺された兵士、とでもいうのか」

「あいつが求めていたモンまんま(電池)ってことよ。おーこわいこわい」

史彦の声に同調する溝口。

「それで、遠見先生。記録はどうなっている?」

場の流れを変えるように、公蔵は千鶴に目を向けた。

「はい、お手元の資料に書いている通りですが、対象に今のところ異常な結果は観測されていません。アルべリヒド機関の教育方針にも逆らうことなく従っており、頭脳に関しても現在10歳~15歳程度の知能を有していると想定されます。唯一の例外は身体の成長速度ですが、対象の細胞内に成長剤の投与が確認されているため不自然なことではありませんし、極めて健康体であると言えます」

「考える力は花丸あげちゃいたいねぇ」

「こちらが予想した範囲に収まっているのか」

「生駒、どう見る?」

『妙だ、仮にもミツヒロが計画したのなら何かあるに違いない』

無機質な機械音声の出どころは、生駒と呼ばれたベッドに寝たきりの男性。アルヴィスの参謀役――生駒正幸。

新国連の核攻撃で病に倒れ、彼は現在、生命維持装置なしでは生きられない体になってしまっている。今回は自宅から有線回線で会議に参加していた。

「そう思うか」

『意図的に調整している可能性がある』

「我々の意図に気が付いていると?」

『そこまではわからん。生存本能かもしれないし、別かもしれない』

「ふむ……知識に関してはこちらのメモリージングの影響だろう。予想以上に物静かな人格を形成したようだ」

「子は親に似るっていうしねぇ」

「あくまで似るだけだ、溝口。そして子供の人格形成はこれからなのだよ」

『そう。薬となるか毒となるかは我々の選択次第だ』

「なら皆城。いよいよ合流させるのか?」

 

緊張した面持ちで公蔵に尋ねる史彦。

 

「私はそのつもりだが、君たちはどう思う? 特に生駒。おそらく入れるとなれば祐未ちゃんの学年になる」

『大丈夫だろう。祐未ならば下手に影響を受けることもない』

「そうか。真壁と遠見先生は?」

「島のためになるなら反対する理由もない」

「……大丈夫です」

「ありがとう、苦労を掛ける」

「そして実際に苦労するのは子供たち、か」

「うむ……だが我々は島を守らねばならん」

溝口のボヤキに公蔵は毅然とした態度で答えた。

竜宮島は世界で最後の楽園である。その楽園を守るためなら公蔵は家族さえも差し出す覚悟を持っていた。

「わかってるさ。平和な時間は貴重だからねぇ」

「そうだ。彼女についてはフェーズを進めることにする。研究施設の方はどうだ?」

「はい。破損した機材からデータファイルをいくつか復元できました。ただ、暗号化が施されているのですぐ解除とはいかなさそうです。また、対象が入っていたと思しき人口子宮内に対象とは無関係な組織片を発見しました。島のデータファイルを参照してみましたが該当者はおらず。依然不明なままです」

「わかったことより不気味なことのほうが多い、か」

「それでも進歩は進歩だ。分析班には感謝している」

「それと、もう1つ気になることが」

「気になること?」

史彦の問いに、千鶴は俯きながら説明する。

「ええ。過去のコアギュラに関する事故を再度調べた結果なのですが、動作不良――処分()()()とされるコアギュラは複数あったようです。処分に関して私は関与していなかったので気づくのに遅れてしまいました」

「いや、見つけてくれただけでも貴重な情報だ。感謝する」

公蔵は申し訳なさそうにする千鶴に労わる言葉を贈った。

「おいおい、つまりまだあの娘っ子みたいなのがいるかもしれねえってことか?」

「あくまで可能性として、ですが……」

「ぞっとしねぇなぁ」

「なんにせよ、今は彼女のことに注力するしかあるまい。遠見先生、引き続き調査を頼む」

「はい、わかっています」

「それと生駒、例の件だが」

『引き続き進めている』

「助かる。それではこれにて会議を終了する!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

――――そして彼女たちは「居なくなった」

 

わかってる。救えたはずの命なんだって。なりふり構わず原作知識を引き出していれば、俺が脳みそを弄られる程度のことでみんなは生きることができたはずなんだ。そもそも竜宮島のみんなはそんな非道なことしないだろ。染色体変異がなんだ、同化現象がなんだ。こんなの、ただの人災だ。俺が悪い。

もう止まれない。止まっちゃダメだ。歯車みたいに動き続けろ。悩んでいる暇もない。そんな暇すら彼女たちは失ってしまったんだ。だから動け。進め。痛みを忘れるな。

 

 

やることをやる。わかってるよ、みんな。

 

 

 

 

 

 

 


 

報告書No.21410426(抜粋)

作成者:主席研究員 遠見千鶴

題名:観察対象557(名称:狩谷 案子)の経過観察報告について

本文:

観察を開始して半年がたった今、対象の観察段階はフェーズ3までが終わっている。

次はフェーズ4、集団内での意思疎通能力の確認である。

対象はこれまで個人間の会話や交渉を複数回とってきた(あるいは取らせるように環境を作った)。そのほぼすべてに極端な感情の起伏や衝動的な行動は見られず、極めて理性的に物事を判断している。対象と比較的親しい者が死亡したときも取り乱す姿は見られなかった。

しかしこれが生死に対して無頓着なのか、現実を受け入れた上での反応なのかはわからない。

また、これらは対象が自我を獲得したと考えられてから半年しか経っていないことを思えば、対象の身体的・精神的・技術的成長速度は驚異的である。生育初期にそういった遺伝子改良を受けたと考えるのが妥当だろう。

対象がこれからどのような意識をもって動くのか予想がつかない。

ただし、現状を鑑みれば島全体に対して損害を被るような行動はとらないと思われる。

 

 

補遺:数人の研究員から、対象の健康診断時に脳波が数秒止まるという報告がなされている。対象は数秒間疑似的な脳死状態になることができると予想されるが、その目的や意味はいまだ不明である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

――――僕らの道は、常に走り続けることでしか拓くことができなかった。

けれどその道を選んだのは、僕らだ。

たとえ苦難の道だとしても、ただ走り続ければ楽園にたどり着けると信じていた。

 

 

 

 

 

 

 




次話からROLキャラと絡むようになる……予定
だいぶカットしてしまったのでうまく伝わってなかったら作者の力量不足
お試しで投票やってみました。


次回、編入。

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