おっさんヒーローの現実   作:なんJお嬢様部

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ヒーローものが書きたいって衝動があるけど、正統派のヒーローは書けそうにないので、むしゃくしゃして書いた。

今は反省していない。

でも、いずれ後悔はするだろう。


1話 夢は夢のままであるぐらいが丁度いい

 ヒーロー。

 

 それは少年の夢。少年の憧れ。

 

 「○○戦隊」や「ライダー○○」、「○○マン」といった特撮映像を見たことのある少年であれば、一度は将来の夢を「正義のヒーロー」としたことがあるのではないだろうか。

 

 そして、それはこの俺も例外ではなかった。

 幼少のみぎり、TVの中であからさまな着ぐるみの怪人相手に無双するヒーローたちは俺にとっての憧れだった。子ども心に「正義とは、男とはかくあるべきなのだ」と思った俺は、齢五つにして、彼らのような「正義のヒーロー」を将来の夢と定めた。

 もちろん、大多数の普通の子どもなら、そんな夢は心と体が成長するにしたがって、幼少期の美しい思い出として過去に置き去りにしていくものだろう。

 しかし、俺にはその壮大な絵空事(ゆめ)を、過去に置き去りにしていくことがどうしてもできなかった。

 小学校、中学校、高等学校と、夢を抱き続けた若者は、18歳にしてついに念願の「正義のヒーロー」になった。

 

 そう、()()()()()()()()()

 

 絵空事(ゆめ)に手が届き、現実のものとなってしまった結果、俺の夢は現実という刃によってズタズタに切り裂かれ続けた。

 その度に、なんとか貼り合わせてきたものの、気がつけば大切に守り育ててきたはずの夢は、昔日(せきじつ)のそれとは違ってひどく歪なものになってしまった。

 

 絵空事(ゆめ)は、夢のままでいい。

 

 そんな当たり前の事実に気づいたときには、俺はもう取り返しのつかないところまで来てしまっていた。

 

 正田(まさだ) 正義(まさよし)、30歳。

 職業、「正義のヒーロー」。

 

 これは、「正義のヒーロー」にしかなれなかったとある男の物語だ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

ピピピ……ピピピ……ピッ

 

「くぁあ……、もう朝かよ……」

 

 欠伸混じりにぼやきながら、俺は、枕元の目覚まし時計のスイッチをオフにした。

 

「あ゛あ゛……、肩痛てぇなぁ……。ちっくしょう、金子のやつめ、あそこはキックするふりでいいっつってんのに、マジで当てやがって」

 

 湿布を貼って一晩寝ても治らない肩の痛みに、思わず痛みの原因となった後輩へのぼやきが口から漏れる。

 この程度の怪我、昔なら一晩中寝てたら次の日には治ってケロッとした表情で出勤していたものだが、やはり寄る年波には勝てないらしい。

 

「……もう30だもんなぁ、俺」

 

 痛む肩を擦りながら顔を洗いに洗面所へ向かう。冷たい水に顔を潜らせてから、鏡に映った顔をしげしげと眺める。

 日本人にしては彫りが深めでちょっとは整った俺の顔は、10年前なら女の子の好意の視線を集めて止まなかった。

 しかし、くたびれた30歳になった今では、むしろ実年齢以上に老けて見えるというデメリットが大きい。

 特に、こんな疲労が残ったときにはそれが顕著で、飲み会の席で後輩の一人には「コーナーポストに追い込まれて、10発位いいパンチをもらった後の某ハリウッドスターみたい」などと例えられた。

 その後輩は、発言の直後に宴会場の角に追い詰めて10発位いいパンチを食らわせてやったことは言うまでもない。

 

「……まぁ、眺めてどうにかなるもんじゃないしな」

 

 いくら鏡を見たところで見えてくるのは自分の顔と悲しい現実だけだと悟った俺はすぐに朝食の準備にかかる。

 今朝の朝食はシリアル、牛乳、ベーコンエッグ、サニーレタス、ドレッシングというお手軽メニューだ。

 最も、これは今朝「の」ではなく、今朝「も」という表現が適切だ。なぜかというと、ここ数年、朝は疲労から体がルーチンワーク以外を拒絶するので、これ以外のメニューを作ったことがないからである。

 それより前はトーストにその日の気分で色々なジャムをつけて食べていたのだが、ある日、トースターが千年の眠りから覚めた休火山の如く、天井を染めるほどの黒煙を噴き上げてその役目を終えたので、それ以来、ずっと今のシリアル生活を送っている。

 そして、その活火山(トースター)は、未だに台所の端に煤まみれで転がっている。市役所にゴミ回収用のシールを買いに行く時間がないせいだ。

 ちなみに、今使っているコンロの調子もよくないため、ベーコンエッグが生ハムと生卵に置き換わる日もそう遠くはない。俺には壊れたコンロを買いに行く時間もなければ気力もなかった。

 

「いっただきまーす……」

 

ムシャ……モニュ……ナポ……

 

「……ごっそーさん」

 

 10分と経たずに朝食を胃袋に収める。今の俺にとっては朝食は単なるエネルギー補給のための行為にすぎない。車にガソリンを入れるときに、給油ノズルから流れ出るガソリンの音に耳をすまして、その音を楽しみながらゆっくりとガソリンを注ぐ人間がいるだろうか。つまり、そういうことだ。

 

「さーって、テレビテレビっと……」

 

 朝食を片付けると、俺はテレビのリモコンに手を伸ばす。テレビは俺にとってもっとも大切な朝のルーチンだ。

 とはいっても、別に出勤前の一息というわけではない。

 テレビで流れるニュースの事と次第によっては、俺は会社ではなく現場に直行しなければならないからだ。

 

 まー、その方が俺としては嬉しいんだけどなー。頼む、怪人でも怪獣でも戦闘ロボットでも何でもいい、誰かどこかで暴れててくれ!

 

 祈りながらテレビのチャンネルをニュース番組に変える。切り替わったモニターの中では、いつもお馴染みのアナウンサーが朝のトピックをおっとりした口調で伝えている。

 この時間帯、競合するニュース番組は数多いが、俺は毎朝この番組ばかり見ている。なぜなら、アナウンサーが若くて巨乳で、しかも胸元の露出の多い服をよく着てくれるからだ。

 引力というものはより重い物体に向けて作用する。つまり、俺がこの番組に引き寄せられてしまうのは自然の摂理、致し方ないというわけだ、うん。

 そして、俺が、少し動く度に存在感をアピールしてくるアナウンサーの乳を凝視……ではなく、アナウンサーの言葉に耳をすましていると、いよいよ肝心のニュースが入ってきた。

 

「では、今朝のハザードレポートの時間です」

「おっ、きたきた」

 

 お目当てのニュースが始まったことで、揉み手をしながらモニターを凝視する。「ハザードレポート」とは、現在、首都圏に発生している「怪人・怪獣・怪物」といった、特殊災害(スペシャルハザード)を限定して取り扱ったニュースコーナーだ。これが俺にとっての飯の種となる。

 

 

「今朝のハザードレポートですが、現在、ヒーローの出動を要する巨大災害(ヒュージハザード)及び特殊災害の発生はゼロです。ただし、昨夜未明に発生し、現在は駆除された《汚染怪獣ギドン》から漏れだした毒性の高い体液のため、首都環状線の一部区間が除染終了まで運転を見合わせています。該当の駅と区間は以下のーー」

「あー!? 《ギドン》のやつ、もう駆除されちまったのかよー! 夜勤の奴ら、もう少し仕事を引き延ばせなかったのか!」

 

 ニュースはまだ途中だったが、俺はお目当ての情報がなかったことに思わず叫び声を上げた。

 もし、凶悪な怪物などが街で暴れていたなら、「正義のヒーロー」である俺はそのまま現場に直行できるのだが、特殊災害が起きていなければ定時に会社でタイムカードを切らないと減給対象になる。基本給が少ない上に出来高の報酬もあまり見込めない俺の会社では、減給は死活問題だ。

 

「ああ、くそっ! とにかく出勤だ!」

 

 もはや用もなくなったテレビの電源を落とすと、急いでジャージに着替える。

 俺は「正義のヒーロー」だから、一般的なサラリーマンのようにスーツで出勤する必要はない。かといって用もないのにヒーロースーツで街中をうろつくと国家権力(ポリス)への通報対象になるので、機動力優先のジャージ姿が俺の仕事着というわけだ。

 玄関で靴を履き、小物入れから鍵束を掴み取るとすぐにドアを開けて外に飛び出す。外に出るとそこには新鮮な朝の光がーー一切射さない、無秩序に配管がのたうつ、ごみごみした雑居ビルの外壁があるばかりである。

 俺の住むアパート『灘草荘(なだそうそう)』は、築60年近い1DKの平屋の建物なのだが、20年前の区画整備の煽りを受けて以来、林立する高層ビル群に日照権を奪われて久しい。故に陽光などは期待するべくもなく、特に日の射さない北の外壁などは見たことのない陰性植物のたまり場になっていた。

 そのお陰で家賃は月25000円と立地からすれば破格の値段で、俺のような「正義のヒーロー」でもなんとか生活できているのだ。

 

 ……ん? 「正義のヒーロー」なら、もっといい暮らしをしているんじゃないかって?

 HAHAHAボーイ! 「正義のヒーロー」にそんな甘い幻想を抱いちゃいけないよ!

 だって、甘い幻想を抱き続けたその結果が、今のこの俺なんだからな!

 ……だからな!(2回目)

 

「って、ヤバい、マジで時間がない!」

 

 どこかの誰かから受信した電波に応えていたせいで時間に余裕もなくなった俺は、急いで俺の足であるママチャリ(メーカー不明、6500円+税)に跨がる。

 昔は、「ヒーローといえばバイクだろ!」とバイクに乗っていたこともあったのだが、現場に出動する度に暴れる怪獣たちによってめちゃくちゃに壊され、気がつけばローンだけが山のように残る結果になったので、いつ壊されてもいいように安いママチャリにしたのだ。

 ちなみに、ローンのいくつかはいまだに支払いが残っていて、ただでさえ苦しい俺の家計を、植物型怪獣の蔓のようにぎちぎちと締め付けている。

 

「よっしゃー! いくぞー!」

 

 そんな辛い現実を振り払うように、俺は努めて元気な声を上げてペダルを漕ぐ。

 安物のママチャリのペダルはオイルを注してもなお重い。その重さが、ペダルを回すことに必死にさせて、俺を辛い現実から少しだけ遠ざけてくれる。

 

 もちろん、目を背けたところで現実が変わるわけではない。

 

 俺はやっぱり30歳の「正義のヒーロー」だし、住んでるのは家賃25000円の陽当たり不良好のボロアパートだし、給料は安いし、ローンはあるし、安物のママチャリのペダルは重く、一向に前に進まない。

 

 もう一度言う。

 

 これは、そんな「正義のヒーロー」にしかなれなかった男の物語である。




多分、そんなに長くはならないと思うので、暇潰しにどうぞ。

良れば評価も待っております。
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