おっさんヒーローの現実   作:なんJお嬢様部

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続きました。

お気に入りと初評価あざまっす! 感謝感激でございます!

この話では現代社会の「正義のヒーロー」の問題みたいなところが見え隠れするよ!


3話 男とは日向で笑って陰に泣く生き物である

 外回りに出掛けると言って社屋空振り飛び出した俺は、早速駐輪場に向かうと、愛用のママチャリ(6500円+税)のホイールロックに鍵を刺す。

 しかし、そこでアクシデントが発生した。

 

「あら? 鍵が回らねぇ……もしかして壊れたか?」

 

 なんと、今朝はスムーズに回ったホイールロックの鍵が、今ここに来てうんともすんともいわないのである。安物だから力任せに捻るとますます歪んでおかしくなりそうで、安易に力業に走ることもできない。

 

「くぬっ、ふっ、この、さっさと開け、こらっ……あ、開きそう……あ、だめか、やっぱり気のせいだったわ、くそっ……」

「あれ、正田さん、何やってるんすか?」

 

 どうにか鍵を穏便な方法でこじ開けようと四苦八苦している俺の背中に若い男の声がかかる。

 

「……ん?おお、蛇目(じゃのめ)じゃないか!」

 

 振り返って声の主を確認すると、そこには「ヒーロー第4課」の同僚、蛇目(じゃのめ)頼斗(らいと)が立っていた。

 二十代後半、180台後半の長身を持ち、浅黒い肌に短く黒髪を刈り込んだいかにもアスリートという精悍な顔立ちを誇る蛇目。彼と俺は、以前はよく現場でバディを組んでいた間柄だ。

 しかし、最近はシフトの都合と、お互いに係長の役職を拝命し部下が付いたことで、滅多に顔を合わせることがなくなっていた。

 ヒーロー関係の会社は生物災害に対して24時間の即応体制を取る必要があるので、一つの部署に同じ役職の人間が複数存在する。

 そして、同じ役職同士は被らないようにローテーションで出勤させられるのだ。こうすることで、24時間いつでも指揮・連絡系統が安定するわけだ。

 現在、「ヒーロー第4課」には係長は俺を含めて四人いて、今日は俺が通常出勤、蛇目は夜勤上がりでこれから帰宅するところというわけである。

 ちなみに、同じ役職の蛇目が俺のことを「さん」付けで呼んでくれるのは、俺の年齢が上で、さらに俺は高卒入社なのに対して、蛇目は大卒での入社で勤務年数に差があるからだ。

 

 ……ん? まてよ。蛇目が夜勤ということは……あ、そうだ!

 

 「夜勤」という言葉が頭に浮かんだとき、俺はどうしても蛇目に言っておかねばなるまいと思っていたことがあったのを思い出した。

 

「蛇目! お前、何で《ギドン》を退治するの俺達の勤務時間まで引き延ばさなかったんだよ!」

「あ、すみません正田さん!」

 

 俺がどうしても蛇目に伝えなければと思っていたこと。

 それは、「何で《ギドン》を、次に出勤する俺たちに引き継がずに倒したのか」ということだった。

 

「マジで、これは俺たちの給料に関わることだからな? ことと次第によっては『極秘ヒーロー会議』もんだぞ?」

「うへぇ!? それだけは勘弁してくださいよー!」

 

 蛇目はペコペコと頭を下げるが、これは俺ばかりの問題ではないのでこちらとしても厳しい態度を取らざるを得ない。

 そもそも、怪獣や怪物などの特殊災害は、できるならサクッと倒したいものだ。

 しかし、これが職業ヒーローになると話が変わる。

 前にも言ったが、俺の給料は安い。これは、職業ヒーロー全般に言えることで、余程の大手以外は、基本給だけではそれこそ最低限の生活費を払って足が出るレベルで、地域の最低賃金ジャストレベルに入念に調整されている。

 では、どうやって生活を成り立たせるのか?

 それは、《特殊災害特別給付金》という特別手当だ。

 これは、「特殊災害への対処に従事した職業ヒーローが籍を置く企業に対して、政府から支払われる給付金」である。

 だから、俺たち職業ヒーローが、怪物などの特殊災害に出動すればするだけ会社に金が入り、そこから基本給に特別手当てが上乗せされるというわけだ。

 

 そして、ここでミソになるのが「政府からの給付金は、災害対処に従事したヒーローの人数分支払われる」ということ。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「接ぎ木」と業界で呼ばれるこのテクニックは、企業にも、そこに属するヒーローにもメリットがあるので、多少強力な特殊災害が発生したら大概の企業が使うテクニックである。

 

 今回の《ギドン》は、強さ的にも引き延ばしに丁度いい特殊災害だったのに! あー、ただでさえ少ない給料アップのチャンスがぁ!

 

 週に一回必ず悪の組織や怪獣と戦うテレビの中の「正義のヒーロー」と違って、俺たちリアルの「正義のヒーロー」には、絶対に毎週戦える悪など存在しない。

 というか、この世にそんなに悪がいたら既に社会は崩壊しているだろう。

 かといって、悪が少ないかと言われるとそんなこともない。ニュースになるような《巨大災害(ヒュージハザード)》までいかないレベルの災害は、日に数度レベルで発生する。

 しかし、そんな小規模な悪は「正義のヒーロー」たちによって取り合いとなって、一瞬で駆除されてしまう。テレビのヒーローと違い、現実には俺たちのような企業ヒーローはわんさかいるのだ。

 そして、悲しいことに俺たちは大概金に困っている。

 故に、憐れな小さな悪の芽は、俺たちの小遣い稼ぎの的となってしまうのだった。むごい。

 

 でも、そんなことよりも今は《ギドン》だ! 蛇目をここで逃がすわけにはいけない!

 

「さぁ、蛇目! お前に《ギドン》を倒す正当な理由があったのか答えろ! 無ければ『極秘ヒーロー会議』だぞ!」

 

 俺は人差し指を蛇目に突きつけて返答を迫る。

 ちなみに、「極秘ヒーロー会議」とは、ヒーローばかりが集まる酒の席で暗黙の了解を破ったヒーローを糾弾して、飲み会の支払いをそいつに押し付けるというただの私刑である。しかしそれは、この現代社会において村八分やリアル火刑にしないだけ、ヒーロー的、文明的な制裁であった。

 そして、まさに今その私刑を受ける瀬戸際に立つ男、蛇目は突きつけられた人差し指を眺めてから、その顔に申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。

 

「すんません、正田さん。ほんとは『接ぎ木』で引き継ぐ予定だったんですけど、実は、テレビの取材がきちゃって……」

「……マジで?」

「マジです」

「……ちなみに、どこのテレビ局よ」

 

 テレビの取材が入ったと聞いて、思わず俺はテレビ局の名前を尋ねていた。

 その言葉を聞いた瞬間、蛇目は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「それがね、なんとあの東都テレビなんですよ!」

「マジか! あのめっちゃ可愛い吉野レポーターのいる東都テレビか!?」

 

 東都テレビは、地方局ながらドキュメンタリーに力を入れるなどの独自路線で、現在にわかに人気が高まっているテレビ局である。

 特に、特殊災害の現場には命を省みずレポーターやカメラクルーを送り込むことで有名であり、その迫力のある映像の視聴率は、うちの会社の営業利益とは逆に、日に日に右肩上がりする一方である。

 中でも、さっき俺が名前を挙げた吉野レポーターは、危険な特殊災害の現場には似合わない、まだ幼さの残るあどけない顔立ちと、それに対するグラマーなボディのアンバランスさで人気の名物レポーターの一人である。

 

 うっわー、吉野レポーターがいるとかマジかよ! ずっりぃ~なぁ~、おい!

 

 自分も知っている有名人の前で活躍することができた蛇目に対して、嫉妬を禁じ得ない俺の目の前で、蛇目のテンションはさらに上がっていく。

 

「そうなんですよ! しかも、俺、その吉野レポーターにインタビューされちゃったりしたんですよ!」

「うっそ、お前、マジかよ!?」

「マジなんすよ~! しかも、『こんな恐ろしい怪獣にも勇敢に立ち向かうなんて素敵です』なんて言われちゃったんですよ~!」

 

 ……あの、吉野レポーターから、「素敵です」、だと?

 そんなの……そんなの……

 

「……蛇目」

 

 気がつけば俺は、両手でしっかりと蛇目の肩を掴んでいた。

 急に肩を掴まれた蛇目は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……はい?」

 

 俺の行動の意図をいまだにのみ込めないでいる蛇目に向かって、俺は軽く頭を下げた。

 

「すまん蛇目、俺が悪かった。もし、俺が同じ立場だったら、テレビカメラの前でカッコつけたくて、間違いなく《ギドン》はその場でぶっ殺してるわ」

 

 誰だって、みんなの前で「正義のヒーロー」になりたい。

 そんなの当たり前に決まっている。

 特に俺たちみたいに望んで「正義のヒーロー」になったやつらには、少なからずそのような願望はある。

 そんな俺たちが、どうして蛇目の判断を責めることが出来ようか(反語)。

 そんな俺の意図に気付いた蛇目は、一瞬ハッとして、すぐにまた申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「……! すみません正田さん、そういうことなんです……」

「いや、これは仕方ないわ。同じ立場なら、俺じゃなくても誰だってそうする。誰もお前を責めたりなんかできないさ」

「正田さん……」

「もし、他のやつらが文句垂れるようだったら俺に言いな、間に入ってやるからよ」

「……っ、ありがとうございます!」

 

 深く頭を下げる蛇目に、気にしてはいないというようにひらひらと手を振る。

 

「ははっ、いいっていいって。それよりも、もうそっちはあがりだろ?」

「あ、いえ、一応《ギドン》を倒した現場のリーダーってことで、簡易の報告書作成のための残業があるんで」

「うわ、それならますます引き留めて悪かったよ。早く行ってくれ」

「すんません、正田さん! また今度飲みに行きましょう!」

「おーう!」

 

 笑顔で手を振りながら社屋に向かう蛇目を手を振って見送る。

 そして、蛇目の姿が完全に見えなくなった次の瞬間的ーー

 

「あ゛~~!! 羨ましいんじゃ~い!」

 

 ーー俺はキレた。

 

 腕のデバイスを起動して、腕の部分だけをヒーロースーツに変身させると、一向に開く気配のなかったママチャリのロックを土台ごと引きちぎる。安物のそれがヒーロースーツのパワーに耐えきれる訳もなく、飴細工のように曲がってその役目を終えた。

 俺は曲がったそれをゴミ箱に放り投げると、そのままサドルに股がってママチャリを漕ぎ出す。こうでもしなければ、今の気持ちに整理がつきそうになかった。

 

「ちくしょーー! 俺も目立ちてぇーー!!」

 

 相変わらず硬いペダルを踏みながら、周囲に誰もいないことを確認した俺は全力で叫ぶ。

 

 蛇目がやったことの理由は分かった。

 そのことについて納得もした。

 しかし、それを心が受け入れるかは別問題だった。

 俺だって血の通った人間だ。

 他のヒーローが活躍すれば羨ましいし、なぜそこで活躍しているのが俺ではないのかと悔しく思うのだ。

 

 ……待ってろよ、俺のまだ見ぬ怪獣ども! 俺が今から貴様らを残らず駆逐してやるからな! 

 だから、頼むから今度は俺のところに現れてくれ! そして、できればテレビ局が取材に来てる時にお願いします!

 

 下心丸出しの思いで、俺は一心不乱にペダルを漕ぐ。

 その行き先はもちろん決まっている。

 

「……とりあえず、ホームセンターで鍵をつけ直そうか、うん」

 

 夢を追いかけるのは大事だが、やはりまずは現実を見ないといけない。

 俺は、壊れたママチャリのロックを直すために、まずはホームセンターの自転車コーナーに急ぐのだった。

 

 

 




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