お気に入りがちょこちょこ増えて嬉しいでっす!
今までは二次創作ばかりだったので、オリジナルでも評価してもらってありがたいことです。
ちなみに、普段は『バンドリ!』と、今休止してますが『パワプロ』の二次で活動してますので、よろしければぜひそちらもご覧くださいませ!
平日の昼間から午後にかけての公園というものは、意外にサラリーマンが多い。
午前と午後に別の案件を抱える外回りの営業担当のサラリーマンは、昼飯時の正午辺りには他社に伺えないので、必然的にどこかで時間を潰すことが求められる。
カフェなどでも近場にあれば時間を潰せるのだが、そう都合よくあるわけもないし、それにカフェは金がかかる。何度も営業で外回りする必要がある営業だと、その度に金を払うのは手痛い出費だ。
そんな、サラリーマンにとっての救世主が公園である。
何だかんだで色々な場所に設けられた公共施設である公園は、意外に探せばすぐそばにあったりするし、誰でも入れるし、何より金もかからない。
なんなら、最近は危険だということで遊具を撤去した上にボール遊びまで禁止された骨抜き状態の公園も多く、騒がしい子供の寄り付かないそこはサラリーマンにとっては絶好の休憩&時間潰しスポットになっている。
ここ、《
午後三時の公園、そこのベンチに腰かけて、あっちのベンチを見ればスーツ姿のサラリーマンがタブレットで仕事をしているし、また別のベンチでは昼食を食べ損ねたのであろう別のサラリーマンが、コンビニのサンドイッチを摘まんでいる。
戦士にも休息は必要だ。
無論、それは現代社会を生きる企業戦士たちにも当てはまる。
そんな企業戦士であり、しかも、物理的に特殊災害と戦っている、現代社会が生んだリアル
「あー、しんどー」
ベンチに腰を下ろしてだらりと足を投げ出し、つかの間の休息をとるご同類の姿を眺めながら、素直に今の気持ちを口から吐き出す。ここでベンチに座る人間は誰もお互いのことなど気にしていない。普段なら「企業イメージが~」などと言われるところだが、今に限っては多少は素が出てしまっても構いはしない。
出勤してすぐに外回りに出掛けた俺は、それからすぐに目ぼしい営業先を何件か回ったものの、どこからも色よい返事を聞くことはできなかった。
途中で治田部長から連絡が入り、普段とは違う場所にも営業に向かったが、そこの返事もなしのつぶてであった。
……まぁ、仕方ないんだけどさ。平和の時にヒーローの有り難みが分かるやつなんてほとんどいないからなぁ。
そもそも、「正義のヒーロー」という仕事はコンスタントに世の中から求められるものではない。怪獣や怪物のような特殊災害が発生して、初めてその存在を求められるものだ。
転ばぬ先の杖として普段から側に置くにはコストがかかる。かといって、いざ緊急時に雇おうとしても間に合わない。ヒーローの使いどころは難しいのである。
だから、「正義のヒーロー」の営業活動は大概が行き当たりばったりである。たまに仕事を貰えれば御の字で、むしろその目的はうろついているときに、偶然特殊災害に遭遇することを狙うことにある。
企業ヒーローが特殊災害に遭遇した場合、その解決権は最初に交戦したヒーローの所属する企業に与えられる。例えば、自前のヒーローだけで解決するのも、他の企業やフリーランスのヒーローと共闘するのも、選択権はその企業が持つわけだ。
自前の戦力だけで特殊災害を解決できるのであれば、当然単独で解決するのが最も利益が出る。
特に、自然発生した生物型の特殊災害を討伐したあとの遺骸は、世界各地の研究機関がこぞって欲しがっている。時には、たった重さ数キロの臓器に、億単位の金額で買付の注文が入ることだってあるのだ。
そんなドル箱を独占するために、人手の多い企業は常に街中をヒーローたちに巡回させて、誰よりも早く特殊災害と交戦できるような体制を構築している。
そのため、特殊災害までいかないような三下怪人なんかは、街中をうろつく「正義のヒーロー」たちの手で、本命のついでに一瞬でやられてしまう。人工で作られた上に人間がベースの怪人は、遺骸の素材としての需要が全くといっていいほどないので、とにかく大勢で囲んでサクッと袋叩きにするのが最も効率がいいからである。
なんだか夢のない話であるが、現実のヒーローの俺はやはり夢ではなくて現実に生きなければならない。
理想で腹は膨れないからなぁ。ローンもあるし。
「はぁ~、辛いなぁ~」
不遇の我が身を嘆きながら、俺の体はますますベンチにだらりと沈み込む。このまま時が経てば、いずれゲル状の軟体となって溶け出してしまいそうな勢いだ。
「おーい! 早く運べよ!」「おっせーんだよ!」「早く、早く!」
「ま、まってよぉ……」
「……ん?」
俺が、この場にふさわしくない子供の声を聞いたのはそんなときだった。
ふと前方の広場に目をやると、そこには四人の小学生が歩いていた。俺の液状化が進んでいるうちに、いつの間にか学校の下校時刻が来ていたらしい。
俺が目の前の子供を小学生だと判断したのは、彼らがランドセルを持っていたからだ。
しかし、一人が一つ背負うべきはずのランドセルは、今、空色の野球帽を被った、たった一人の少年が一人で運ばされていた。
うっわー、ひでぇな。今時もあんなことやるんだなぁ。
ランドセル運びの罰ゲームは俺も子供の頃にやったことがある。でも、それはじゃんけんで負けたやつが公平に運ぶ遊びの延長であり、なんだかんだ言いながらみんなでルールを決めて楽しんでいた。
それに比べると目の前の光景はどうだ。ランドセルを運ぶ野球帽の少年はひたすらに辛そうな顔をして、囃し立てる周りの少年の顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。明らかに遊びの範疇ではない。
「はぁ、はぁ……は、運んだよ。これでいいよね?」
それでもなんとかランドセルを指定の場所まで運び終えたのだろう。野球帽の少年が足を止めて周りの少年たちに声をかける。
「ぶっぶー! ダメでーす!」「タイムオーバーだ!」「だから、次のポイントまで、またお前が運ぶんだぞ!」
そんな野球帽の少年に、周囲の少年たちは残酷な言葉を投げかける。
「そ、そんな……だって、時間なんて決めてなかったじゃないか」
「うっせー、文句あんのかよ?」「お前がおっせーのがわりぃんだろ!」「お前なんかハブってもいいんだぞ!」
「あ、あぅ……」
ささやかな抗議の声も握り潰され、野球帽の少年は俯いて今にも泣き出しそうだ。それを見た周囲の少年たちはまた酷薄な笑みを浮かべる。
……くそっ、胸糞悪いガキどもめ。
目の前であからさまな「いじめ」の光景を見せつけられた俺は、気が付けばベンチから立っていた。
「正義のヒーロー」が立ち向かうのは、何も巨大な怪獣や怪物ばかりではない。
芽生えかけた悪の芽を摘み、弱き人を守るのも「正義のヒーロー」の立派な務めだ。
スーツのボタンを外し、ネクタイと襟元を緩めながら、ゆっくりと少年たちに近づく。野球帽の少年をいじめるのに夢中になってこちらに気付かない少年たちの真後ろに立つと、俺は「おい」とできるだけドスが効いた声で話しかけた。
「うわ!? なんだよおっさん!」
驚いた三人の小学生たちが飛び上がるようにこちらを振り向き、その中のリーダー格の少年が声をあげた。髪の毛をツーブロックに刈り込んだ可愛げのない外見をしている少年だ。
「誰がおっさんだコラ。口のきき方に気を付けないと縦に畳むぞ、あ゛ぁん?」
俺のことを「おっさん」呼ばわりしたその少年を、俺はできる限り優しく諭す。
もし、俺が「正義のヒーロー」じゃなかったら、今頃お前は、顔面にサッカーボールキックを叩き込まれてダウンしてるぞ。俺の慈悲に感謝するがいい、少年よ。
しかし、そんな慈悲の心に気付かぬ哀れなツーブロックは、愚かにも俺に対して口答えしてきた。
「大人が子供の遊びに割り込んでくるんじゃねーよ! つまんねーだろ!」
「遊びなら俺も割り込まねーよ。てめえらがやってんのは遊びじゃなくて『いじめ』だろーが。違うか?」
「いじめ」の言葉を出したとたん、口答えした少年以外の二人が思わず顔を見合わせる。
こいつらはいわゆる「金魚の糞」だ。自分から率先して悪事は働けないし、火の粉が降りかかりそうになったらいの一番に逃げる根性無し。俺の一番嫌いなタイプだ。
なんなら、まだ悪党なりに根性が座ってる目の前のツーブロックの方が立派だとさえ思う。
「違げーし! こいつが遊びたがってるから付き合ってやってんの! 文句あんのかよおっさん!」
そんな、多少は根性のあるツーブロックは俺の批判にも怯まず舌鋒鋭く切り込んでくる。
「……『おっさん』つったの二回目な。三回目はないから覚悟しろよ、少年? んで、文句があると言われればある。俺は『正義のヒーロー』だからな。お前らみたいな悪党は見逃せないんだよ」
仏の顔も三度まで。
優しい俺はあと一回だけチャンスをやった。次は絶対に全力でボコりにいく。絶対にだ。
俺が固く心に誓うその目の前で、いじめられていた野球帽の少年が顔を上げた。その顔に浮かぶのは驚きと、そして、わずかな希望。
ようやく少しはましな顔になったか。
俺は野球帽の少年が、初めて明るさを感じさせる顔になったことに安堵する。
人間、わずかな希望があれば前に進むことができる。
だから、野球帽の少年の顔に浮かんだそのわずかな希望の光を消さぬように、俺は一歩も引かぬ覚悟を決める。
そんな俺の態度をツーブロック以外の二人は敏感に感じ取ったようで、明らかに及び腰になっている。気勢を上げるのはもう目の前のツーブロックだけである。
「『正義のヒーロー』なら、さっさと怪物をぶっ殺しに行けよ! それが仕事だろ!」
ツーブロックは、俺を指差して大声で怒鳴る。
ヒーローは怪物や怪獣と戦うもの。だから、こんなところで俺たちに構ってる暇なんかない。自分は何も間違ったことを言っていない。
それは、そんな確信に満ちた口調でもあった。
「いや違う」
「え……?」
だから、俺がその言葉をあっさりと否定したとき、ツーブロックは呆気にとられた表情を浮かべていた。
そんなツーブロックを見下ろしながら、俺は腕組みをして堂々と言うべき言葉を口にする。
「『正義のヒーロー』の仕事は、『
先程も触れたように、ヒーローの務めはいくつもある。
しかし、どんな務めがあろうとも最終的に行き着くのは「みんなの笑顔と平和を守ること」である。
そのためだったら、俺は誰からどんな文句を言われようとも憎まれようとも、どんな汚れ仕事だろうとやる覚悟がある。
例えば、そう、こんなことだってできるんだぜ。
俺はスーツの左袖をめくるとそこに着けた腕時計型の変身デバイスをツーブロックたちに見せつける。
「見ろ。俺は、正式に国から許可をもらって『正義のヒーロー』をやってる。それで、正式なヒーローってのはその活躍を常にデバイスで記録されているんだ。給料を払うにも証拠がいるからな。それでーー」
そこまで言って、俺はツーブロックたちを見回す。
「ーーお前らがさっき俺の目の前でやったことも、全部記録に残ってるんだがどうする? この辺りだと、お前ら上都小学校のやつらだよな。この記録、学校や警察に送ったらさ、これから最高に楽しいことになると思わないか、なぁ、少年?」
「うっ……!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ツーブロックが初めてたじろいだ。金魚の糞の二人に至っては氷点下の屋外に二時間投げ出されたような青白い顔をしていた。
「や、ヤバいよたっくん!?」「に、逃げようぜ!」
「くっそー! 覚えてろよ!?」
「あっ……」
形勢の不利を悟ったツーブロックたちは、野球帽の少年からランドセルを引ったくるように奪うと、一目散に逃げていった。
「言われなくても記録は残ってるから忘れねぇよ! 次、同じことやってるの見かけたら終わりだから覚悟しとけ!」
逃げ去っていくその背中に、俺は周到に追い打ちをかける。
今回の記録をすぐに学校や警察に提出しないのはせめてもの恩情というやつだ。もし、ツーブロックがもう一回俺のことを「おっさん」と呼んでいたら、間違いなく俺はこの記録を関係各所に提出していただろう。
まぁ、いつ記録を出されるかがわからない状態で震えて毎日過ごすことにはなるが、それは自業自得ってやつだな。
罪には罰の報いが必要だ。
今回のそれは少年にとってはかなり厳しいものなのだろうが、やつらはそれだけのことをやったのだ。
これを期にしっかりと改心することを願うばかりである。
そうして、ツーブロックたちの姿が見えなくなるまで見送ると、その場には俺と野球帽の少年だけが残されたのであった。
公園編は次回に続きます。
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