おっさんヒーローの現実   作:なんJお嬢様部

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続きました。

公園編はこれでラスト。ここと次の話はちょっと暗いかもしれない。

【よくわかるあらすじぃ!】
野球帽の少年あきら君と、「正義のヒーロー」まさよしは、公園のベンチでお話ししたぞ!


6話 なぜ敵の幹部は重い過去を背負っていることが多いのだろうか

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「ふむ、無理してるわけではなさそうだな。ならよかった」

 

 あきら君がメロンソーダにむせてから暫く、ようやく落ち着きを取り戻した彼を見て、俺は背中を擦る手を止めた。

 

「いや、それにしても盛大にむせたな」

「あう……すみません。本当に炭酸って飲むのが初めてで、一度は飲んでみたかったんですけど、あまりこういうのは買う機会がなくて」

 

 あきら君は恥ずかしそうに手元のメロンソーダに視線を落とす。

 

「そうなのか。もしかして、親御さんがそういうのに厳しかったり?」

 

 何となくさらりと漏らしたこの言葉に、あきら君は微妙な表情を浮かべて視線を逸らした。

 

「あ、その、実は…………僕、両親はいないんです…………」

「あ、マジか、悪い……」

 

 たどたどしいあきら君の言葉に俺は思わず頭を抱えた。

 

 うっわー!? 俺のアホ! めっちゃデカい地雷踏んでるじゃねぇか!

 

 現代の日本では親がいない子どもは珍しくない。

 離婚によるシングル化もあるが、それ以外にも《特殊災害(スーパーハザード)》や、それを超える《巨大災害(ヒュージハザード)》によって、突然親と死に別れることがままあるからだ。

 実は、()()()()()()()()

 俺の両親は二人とも、15年前に起きた《巨大災害》《超獣ゲゼル》が引き起こした広域破壊に巻き込まれ、俺と妹の二人を残して呆気なく死んだ。

 今思えば、この《巨大災害》が、俺が夢から覚める最後のチャンスを奪ったのかもしれない。

 

 だが、そんなことよりも今は目の前のあきら君へのフォローが先決だ。流石にこんなことを言って何も言わないのは大人としてまずい。

 

「本当に悪かった、あきら君。君の深いところまで無神経に入り込んでしまった。謝っても許して貰えないかもしれないが、許してくれると嬉しい」

 

 俺はスパッと謝罪の言葉を述べると、しっかりとあきら君の方を向いて深く頭を下げる。

 正直、いくら謝罪の言葉を尽くしても無意味だと思ったし、もしこれで許されなかったとしても仕方のないことだとも思った。他人の過去に土足で踏み込むというのはそういうことだ。

 

「あ、頭を上げてください、まさよしさん。僕は、そんなに気にしてないですから。それに、初対面で親がいないなんて分かる人はいませんよ」

「だからこそ、俺は慎重になるべきだった。これは俺の油断による完璧なこちらの落ち度だ」

 

 頭を上げて、あきら君の目をまっすぐに見ながら俺は俺の過ちを口にする。ことここに及んでは、自分の比を認める誠実な態度ぐらいしか意味を持たないだろう。

 

「ですから、本当に気にしてませんよ! むしろ、僕みたいな子どもにでもちゃんと頭を下げてくれる人なんだって、ますます、まさよしさんのこと尊敬しました!」

 

 あきら君が今の言葉をお世辞ではなくて、本心から言ってくれたことが目を見ている俺にはよくわかった。

 

「ありがとう、あきら君。今後はそんなことがないように気をつけるよ」

「こちらこそ気を遣ってもらってありがとうございます。それじゃあ、この話はこれで終わりということで」

「そうしようか」

 

 お互いに感謝の言葉を述べて俺たちは微笑む。

 これでこの件は終了だ。

 お互いに納得したのなら、あまり長く同じことを引きずり続けるのは精神衛生上よろしくない。

 

 しかし、やっぱりあきら君は大人びてるなぁ。対応の仕方が小学生のそれじゃないぜ。親代わりの人がいい人なんだろうか?

 

 俺があきら君のことをぼんやりと想像していたそのとき、あきら君が「あっ」と小さく声をあげた。

 

「どうかした?」

「すみません、僕、もうそろそろ帰らないとダメな時間です……」

 

 俺が問いかけると、あきら君は本当に残念そうな声でそう洩らした。

 公園の時計を見ると、時刻はもう4時を回っていた。あきら君とは2時間近く一緒に過ごしたことになる。

 

「そうか……たしかに、小学生なら用事がないなら家に帰らないといけない時間だな」

「はい、僕の都合ばかりで申し訳ないのですが……」

「いいって、俺も5時には会社に帰っておきたかったからな」

 

 申し訳無さそうにするあきら君に、気にするなと手をヒラヒラと振る。とにかく定時に間に合うように会社に帰ることができれば、こちらとしては無問題(モーマンタイ)というやつだ。

 

「では、まさよしさん。僕、帰ります」

「おう、気を付けてな」

 

 脱いだままの野球帽をかぶり直し、帽子と同じ空色のランドセルを背負ったあきら君は、ちょこんとお辞儀をすると公園の出口へと歩き始めた。

 その背中をベンチに座ったまま眺める俺のように前で、彼は5,6歩進むと足を止めてこちらを振り返った。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「ま、また、こうやって僕とお話ししてくれませんか!? 本当に、よければで、いいんです、けど……」

 

 ランドセルの肩紐をぎゅっと握り締めたあきら君が、恐らく精一杯の声で俺に叫ぶ。

 もちろん俺の答えは決まっている。

 俺は無言で大きく頷くと、頭の上に両腕で大きな丸を作った。

 

「やったぁ!」

 

 それを見たあきら君は跳び上がって喝采の声をあげる。

 

「俺も仕事があるからいつもは無理だけどな。暇なときは今日ぐらいの時間にこの公園のベンチで座っておいてやるよ」

「約束ですよ! 約束ですからね!」

「ああ、約束だ」

 

 そうして、真っ赤な夕日を浴びながら、何度もこちらを振り返って手を振るあきら君の姿が、夕日に溶けて見えなくなるまで、俺はずっと彼のことを見送っていたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「たっだいまー、って、誰もいないけどな!」

 

 セルフツッコミを入れながら俺は玄関で靴を脱ぐ。

 

「あー、疲れた。飯食って早く寝よう」

 

 今日も最近どっと増えた独り言を漏らしながら部屋の扉を開ける。

 別に寂しいわけではなくて、この歳になってくると何をやるにしても声に出してやる気を呼び起こさないと行動に移せないのだ。

 部屋に入ると真っ先にキッチンスペースに向かい、スーパーで買った弁当をレンジに突っ込んで、ポットでお湯を沸かす。その間に俺はインスタントスープの準備を始める。弁当とスープの種類が日によって違うだけのルーチンワーク。

 

「いただきまーす」

 

 挨拶をして弁当を開ける。今日はスーパーで最も安いのり弁だ。見栄をはってジュースをあきら君に奢ったので、その分俺の晩御飯はグレードダウンだ。それぐらいカツカツな生活を送っている。

 

モニュ……ナポ……ズズ……

 

「ごちそーさま。さって、なんか連絡は入ってるかね」

 

 さくっと晩御飯を終わらせると携帯端末を開く。空間投影式のスクリーンが開き、送られてきたメールを確認する。

 

「さて、なんか新しい仕事は、っと……ん?」

 

 あるはずのない仕事のメールを探していたそのとき、ローンの返済通知や、格安ネットモールからのセールのお知らせに混ざって、久しぶりに目にする差出人からのメールがあった。

 差出人の名前はただ一文字、「妹」と表示されている。

 

「…………」

 

 無言でメールを開く。

 

 

 

==============

《from:妹》

《to:[email protected]

==============

 

久しぶりです。

まだ死んでいませんか? 私はなんとかやっています。

 

前に連絡を入れたときから私も昇進して、さらに上位のデータベースにアクセスする権限を得ました。

ですが、そのデータベースにも望む情報は存在しませんでした。

これ以上となると、政府直属の研究機関か、あるいは政府そのもののデータベースにしか情報はないのかもしれません。

 

どうやら、《超獣ゲゼル》は私たちが思っているよりも遥かに危ない案件のようです。身を滅ぼさないうちに手を引くことをお勧めします。

兄さんも色々思うところはあると思います。しかし、やはり命あっての物種だと私は思うのです。

兄さんが最善の判断をしてくれることを祈っています。

 

P.S.

もし、ヒーローを辞めたら、私が関係機関への就職の口利きぐらいならできますのでいつでもご相談を。

 

==============

 

 

 

「……妹め、兄の心配をするなんて100年早いぜ」

 

 そう呟くと俺はメールの画面を閉じる。

 

 俺の妹正田(まさだ) 正美(まさみ)は、祖父母が父方も母方も既に鬼籍に入り、父母も15年前の《巨大災害(ヒュージハザード)》で失った今、俺にとって世界でただ一人同じ血が流れている肉親だ。

 俺が「正義のヒーロー」になることを《巨大災害》のときに決意したように、妹は現場にこそでないが、ヒーローたちを裏から支えるオペレーターとして《特殊災害(スーパーハザード)》と向き合う道を歩んでいる。

 ちなみに、妹は俺より大手の企業に就職している上に、すでに役職は俺よりも上だったりする。

 

 これが高卒と大卒の違いだというのか……うごご……!

 

 本来なら俺が守らなければいけないはずの妹に、既に追い抜かれているという現状に、俺はベッドに飛び乗って足をパタパタさせて身悶えする。

 

 思えば妹は昔から俺よりも賢かった。

 だから、直接現場に出向いて目につく怪物どもと片っ端から戦うことを選んだ俺とは違い、裏方としてヒーローたちのサポートに徹した上で、親の事件の真相に迫る情報を得ようとしている。

 

 ……やっぱりすげぇな、正美は。俺にはこんなに賢く生きるなんて無理だ。

 

 15歳で「正義のヒーロー」となることを決め、18歳でそのまま夢を叶えて、それからここまでただひたすら真っ直ぐに進んできた。

 何度もいうように、俺はもう抜け出せないところまでどっぷり「正義のヒーロー」に浸かっている。だから、現場で戦う「正義のヒーロー」を辞めたとしても、間違いなくヒーロー関係の仕事に再就職するだろう。「みんなの笑顔と平和を守る」、自分で誓った正義のために。

 

 それならば。

 

 せめてこの手足が「正義のヒーロー」として動く間は。

 せめてこの心に灯る闘志の炎が消えない間は。

 俺はずっと、「正義のヒーロー」でいたいのだ。

 

 閉じたメールの画面を再び開くと、俺は素早い手つきで正美への返信を行う。

 

 

 

==============

《from:兄》

《to:妹》

==============

 

気遣いありがとう。いつも心配させてすまない。

 

兄はできるだけ、自分らしいやり方で「正義のヒーロー」をやっていくつもりだ。

だから、そちらも上手くやってくれ。

 

君の健康と安全を祈っている。

おやすみ。

 

==============

 

 

「……これでよし」

 

 妹へのメールを打ち終えたのもそこそこに、俺は再びベッドへとダイブした。

 ママチャリでの外回りのせいか体が大変重く、胃袋が満ちた今、抗い難い眠気が襲ってくる。

 

 ……ああ、くそ、まだ風呂に入ってないのに。ルーチンが崩れるけど、風呂は、明日の、朝で、いい、か……

 

 記憶が残っていたのはそこまでで、気がつくと俺は深い眠りの淵へと落ちていった。




まさよし「(- ω -)……zzz」スヤァ

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