「結構だ。先約がいるんでな」
「……先約?」
ブルーの権威を保とうと、レッドの生徒が一年で一番強いのではなんて噂を潰そうと。
卑しくも非道にも救済用カードを買い占めて万丈目に与えようとしていた教師。クロノス・デ・メディチは嫌な予感と共に冷や汗をかいた。
決闘者に大事なものとは何だろうか。
知識、技術、経験。そして時の運。それら全てを兼ね備えていたとしても……心が弱ければ意味がない。
決闘者とは時に非常な選択を迫られるものである。
切る手札が勝敗を左右以上、感情に縛られていては最強にたどり着くことなどできはしない。
だからこの男、三沢も手を下す必要があった。
「俺は! 魔王ディアボロスをリリースし、闇のデッキ破壊ウイルスを発動! 先生のフィールド・手札の魔法カードを破壊します!」
「はぁ!? ちょっ……なーんてね♪ 魔術師の左手の効果を忘れてない? 罠カードの発動した効果を無効にして破壊しちゃうの♥」
闇の支配者であるドラゴンが息絶えたかと思えばその亡骸からあふれ出す細菌。しかし、それらはルナが指を鳴らすだけで消え失せた。媒体となったディアボロスごと花火となって散る。
会場に「ああっ」と残念がる声が木霊する。それが酷くルナには気持ちがよかった。
「ざんねーん! 魔王ちゃんの犠牲も意味なし……無駄死に? 優秀な三沢っちならこの結果が分かってない訳ないのにひどいんだ~」
三沢のプレイングを責めるように言葉を並べる教師。その言い分には一理ある、しかし現在何しても無駄に近い状況にしたのは彼女自身である。
「ひ、ひでぇよルナ先生……あれじゃ三沢も何もできねぇ」
「だいたい何で生徒の実技試験に教師が出て来てるんだよ」
観客席で結末を見守る生徒たちが口々に漏らす不満。あまり男らしいとは言えないが……生徒の一進一退がかかる試験に大人げない盤面を揃えたのだ。必要経費である。
魔法使い族がいる限り魔法が封じられるフィールド魔法、魔法族の里。
ルナの闇属性モンスターを除外し、三沢の闇属性モンスターの攻撃宣言を封じる壁となった永続罠、エレメンタル・アブソーバー。
そして……魔法使い族がいる限り、罠カードが発動した効果を1ターンにつき1度無効にし破壊する魔術師の左手。
完全なる封殺だと生徒達には思えない。いくらラーイエロー一年主席という立場の男でも無理だ。
「さ・ら・にぃ……ルナはね? たった今、ピケルたちのチカラでライフが4800! 対する三沢っちはぁ~1100! そして……三沢お兄ちゃんもディアボロス君の効果で確認したと思うけど、攻撃力2800のブリザード・プリンセスが手札にあるの。
アドバンス召喚してエンドを宣言するだけでエクトプラズムってしゅうりょうー!?」
そういって手札をチラつかせ挑発する教師。わざわざ三沢のカード効果でとどめを刺そうとしているのは彼女の煽り気質に由来している。
──違う。彼女はそう言って三沢の顔から視線を少しもずらすことがない。いつもならヤジを飛ばす生徒たちに嫌味の一つでも飛ばすところだというのに。
「そうならないと、気が付いているのですね?」
「……そりゃ、諦めた子とそうでないのの見分けがつかないほど節穴じゃないしぃ?」
花火が終わり煙が晴れようとしている。
三沢が襟もとをただし、ルナが構えた。何かをしでかす。確信の元の確認だった。
無効化されるのが分かっていてエースを生贄にするバカではないと理解している。
「……では、見てください。これが俺の狙いです!」
そのある種の警戒、期待に応えるべく三沢が腕を振るった。煙が晴れる。
晴れたかと思えば雲る、先ほどのウイルスよりも深く毒々しい瘴気がフィールドに現れる。
辺りを支配せんと低く揺れる咆哮が響き渡る。
牙が爪が、その姿を現した。
「──っ、その姿……闇黒の魔王ディアボロスですって!?」
ディアボロスの亡骸が弾けた中より、更に純度の高く深い深い闇の王が生まれた。
新たなる王の姿を祝福するように三沢のモンスターたちが胎動し鳴動する。
このカード名の1.3の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
一.このカードが手札・墓地に存在していて、自分フィールドの闇属性モンスターがリリースされた場合に発動できる。
このカードを特殊召喚する。
二.このモンスターがモンスターゾーンに存在している限り、相手はこのカードをリリースできず、効果の対象にもできない。
三.自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。
相手は手札を1枚選んでデッキの一番上または一番下に戻す。
魔王ディアボロスが進化した姿。攻撃力は3000! 手札をデッキに戻しちゃう効果も超強力。魔法使い族だったら使ってたかもしれないわね。
闇のデッキ破壊ウイルスの効果は囮か。その狙いは真のエースを引きずり出すためだったのか。
そう観客たちがざわつく。だが、だが対峙している教師はそれを真意だと信じるわけにはいかない。
「なっ、なんでそんなカードをここに……!?」
「これは、先生が不要カードボックスに──」
「違うわよ、入手経路じゃない! なんで
自分が複数持っているからと出したカードだ。持っていて不思議ではないのは理解している。
だからこそ、だからこそ今の今まで出てこなかったから油断していた。あるならもっと早く出てくるはずだと考えていた。
「墓地送られたのは……2ターン目の針虫の巣窟で落としたのね。それ以降、いくらでも闇属性モンスターがリリースされたタイミングはあったわ。
なんで今? その子は私のターンに出したって……」
記憶を探れば。もっと早い段階で出していれば楽になっただろう箇所がある。なのになぜ。
舐められているのか、ふざけているのか、やや怒気をはらみながら尋ねれば……三沢は遠い目をしたのもつかの間、今度はチラリと後ろに目をやった。
「十代、カオス・ソルジャーを倒したことは褒めてやろう……だがその勢いもここまでだ!
俺はっ! 魔法カード、
「え、待てよ……今万丈目の場には、カオス・ソルジャーとして扱われている超戦士の魂がいる。そしてさっき
「そのまさかだ!! 俺は融合を発動! カオス・ソルジャー扱いの超戦士の魂、青眼の究極龍扱いの開闢の騎士を生贄にささげ──いでよっ、
教師とイエローの主席のバトルの裏側で繰り広げられているもう一つの激戦。ブルーのトップとレッドのトップがぶつかり合い会場を震えさせている。
前者が雁字搦めな計算と論理のデュエルだとするならば、こちらは互いの意地とロマンのぶつかり合い。見ごたえのあるデュエルに見るものは息をするのも忘れる。
ただでさえ万丈目が広げていたレアカードたちのオンパレード、そのトリを飾る大物がついに姿を現した。興奮しない訳がない。
「あの万丈目のカード、渡したのは……ルナ先生ですよね?」
三沢とて自分のデュエル中で無ければ全力でその全貌を記憶しようと考えていた。故にわかる。彼の浪漫と意地を支えるカードたちの出どころが、自分のデッキのキーカードたちと同じであることを。
どうやって彼にカードを。そんな疑問と共に指摘すればルナはやや居心地が悪いと眉を顰める。しかし否定はしなかった。彼にだけに聞こえるような声で口開く。
「……タダじゃないわよ? 賭けたのよ彼は。自分の勝利に、私の思惑が崩れることに」
「賭けさせた、の間違いのようですね」
「えー、ひど~い♥ 決めたのはメジョっちだもん!」
目じりを伸ばし笑う彼女と、それを見て観客席で紅茶を啜るメイドを見て三沢は真相に気が付いた。彼女の思惑に万丈目はハマり、プライドを保ったまま手を出したのだろう。
……賭けの代償がどれほどのものだとしても、あのレアカードの数々を手に出来るなら決して分は悪くない。そう考えてしまう自分もいた。
「で? 闇黒の魔王を出さなかったのとなんの関係があんのよ?」
話逸らすんじゃないわよ。ドスを利かせ教師と思えない態度で生徒に尋ねた。
考える事数瞬、三沢は何度か万丈目たちとメイドさんを見返す。
「……俺は、このまま貴女の思惑に、カードに頼っていいのか。デッキに入れておきながら悩んでいました」
弱い自分がいる。決して目の前で小悪魔ぶるだけでは済まない彼女の過去を不意に知ってしまった自分がいる。
それが、自分たちをタダ強くするだけで本当に済むのか。奇妙なゴールド寮を作るだけで終わるのか。分からなかった。
だから三沢は悩んでいたと吐き出した。強いデッキを、強いデュエリストになるためには不要だと自分で理解している物が邪魔をする。
「──ルナ・ベルケット先生、貴女の過去を俺は知りました。だから、デュエルが始まった後ずっと……今の貴女を知るためにはどうすればいいか考えていたんです」
悩みがあるなら原因を取り除くべきだ。理知的に彼は行動する。ように見えて、感情が原動力だ。
「……リゼったら、おしゃべりね。結局ルナのカードを使えず悩んで追い詰められましたーって訳? ばっかじゃない?」
だがそれこそがデュエリストらしい。運命を相手取りつつも最適解だけでは生きていけない戦士たち。
三沢の目に今、小さな覚悟が宿ったことルナは知った。それはそうと自分の過去を勝手に知って勝手に悩まれた事に対しての苛立ちをぶつけた。
「いいえ、
俺は、ジャイアントウイルスをリリースし……罠カード、死のデッキ破壊ウイルスを発動!!」
それを糧に、足場にして三沢は駆け上る。
死と刻印された細菌たちが広がっていく。究極竜騎士の光に照らされたフィールドに陰を作る猛毒。
「──げげっ!? でぃ、ディメンション・マジックを発動! 白魔導士のピケルをリリースして手札のブリザードプリンセスを特殊召喚、そして怨念のキラードールを破壊!」
かつて猛威を振るったカードの改訂版。それでもなお自分の場を壊滅させる威力を持つと気が付いたルナは手立てを探すも苦し紛れの一発のみ。
その間にもウイルスが自軍のフィールドを埋め尽くし……王女ピケル、そしてプリンセスを飲み込み蝕んだ。
「相手フィールド、手札の攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊、これで先生のモンスターは全滅!」
「あ、ああ……!」
突如としてがら空きになったフィールド。対する三沢の場には進化した魔王。このターンで彼女が出来ることはもはや、一つしかない。
力任せにディスクからデッキを抜き出し、一枚をつかみ取る。
「わ、私は死のデッキ破壊ウイルスの追加効果。デッキから攻撃力1500以上のモンスターを……マジシャンズ・ヴァルキリアを一体、墓地に送るわ。
……ターンエンド!」
墓地に送ればすぐさまデッキが戻され、シャッフルされる。その途中だというのに彼女はエンドを宣言した。よほどイラついている証拠だ。
その様子を見て、三沢は自分の考えが進んでいることに小さく頷く。
「では俺のターン、ドロー。……スタンバイフェイズ、さっき俺のターンでリリースした二体目の怨念のキラードールが戻ってきます。俺はそのままターンエンド。永続魔法エクトプラズマーの効果で怨念のキラードールをリリース。本来なら800ポイントのダメージが発生します、が」
「……死のデッキ破壊ウイルスのデメリット、発動ターンの次のターン終了時まで、相手が受ける全てのダメージは0」
「はい。それでは……ルナ先生のターンです」
言われるがままドローをしようとしてルナは手が止まる。
フィールドに既に死のウイルスは存在しない。三沢が引いたカードは伏せられていない。手札から発動するカードの可能性もあるが微妙なところだ。
魔法カードを引くのが一番まずい。自陣の魔法使い族モンスターが消えたことで魔法族の里の圧力は自身にのしかかってきている。
しかし、状況が不味いのは三沢も同じ。ライフは依然として1100のまま。ルナが低級モンスターを二回ほどエクトプラズマーの生贄にするだけで消える命。
なにより折角の進化したディアボロスがいたとしても、闇属性の攻撃宣言を封じるエレメンタル・アブソーバーが無ければエクトプラズマーの弾にするぐらいだ。
それでも4800のライフ、簡単にはいかない。
三沢のエクトプラズマーによるバーンか、アブソーバーを除去し攻め込まれて負けるのが先か、ルナがいいカードをドローし削り切るのが先か。
これは互いのドロー力を、作り上げたデッキの一枚一枚が物を言う状況だ。
そこに余裕はない。
「……これで、私の今ってやつを見るつもりってワケ?」
「……はい、ご教授お願いします」
ルナが不満を現せば彼は笑った。それがやはり面白くなくて、彼女は手をドローするデッキにかける。
黄金色の目にぎらついた、小さな小さな火が灯るのを三沢は見た。
「上っ等じゃない。このルナ・ベルケットがどんな人間か……せいぜい理解していきなさい──ドロー!」
空を切るドローカードの音は、興奮高まる試合会場の歓声の中に消えた。
本日ハ詰メデュエルハお休みデス。
その代わりと言っては何ですが……総合評価1000超えを記念して、ルナ・ベルケットちゃんの立ち絵を描いていただきましたー!!
→
【挿絵表示】
←
著:朱身つめ様
ラーイエローの制服を原型が無くなるまで改造したパーカーと大人ぶったノースリーブのシャツが最高です。
そんなこんなで次回、実技試験の解法後編に続きます。
校長による語りです。