GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
外に出ると、強い太陽の日差しが目に刺さる。
周りを見ると、人気のない建物や捨てられた車がそこら中にあるのが見えた。
アラガミ出現前の世界ではハイウェイ沿いに栄えた小さな町だったのかもしれないが、今となってはありふれたゴーストタウンだ。
恐らく、ここがヒルデたちの住む町なのだろう。
極東支部の周辺でも、パッチテストで不合格だった者はアナグラ周辺に、こうした廃村を利用したコロニーを作って生活している。
「ほれ、お前さんの神機だ」
ブライアンが無造作に神機を投げてよこす。先ほどまで拘束されていた割には、随分と警戒が緩んでいる。
「……いいんですか?」
「事情が変わった。別の場所に誘導していたはずのオウガテイルの群れが、行先を変えてこっちへ向かってきている」
ゴッドイーターの出番だぞ、とブライアンが肩を叩く。
「なんだ? 難しい顔をしているな」
「あの、改めて聞きたいんですけどブライアンさんは……」
チッチッと指でその先を言わせないようにして、ブライアンは意味深な笑顔を浮かべながらコウタに顔を近づける。
「―――その先は言うんじゃねぇ」
なんとなく察するだけなら見逃すが、口に出してしまえば取り返しのつかないこともある。好奇心はなんたらを殺すというが、まさに今のコウタがその状況だった。
「いいか、ここでの俺とお前は連中の捕虜だ。捕虜だが、ゴッドイーターだから使い道があって“無理やり”アラガミと戦わされに行く。―――いいな?」
コウタが無言でうなずくと、ブライアンは満足したように離れていく。
しばらくすると、一台のピックアップトラックが猛スピードで現れ、コウタたちの前で急停止した。荷台にはヒルデも乗っている。
「行きますよ、乗って! ほら早く!」
ヒルデに促されるがまま、コウタも荷台に乗った。車の荷台に乗るのは初めてだが、思ったより揺れるので常に何かを掴んでいないと不安定だ。北米支部のヘリコプターに比べると、あまり良い乗り心地とは言えなかった。
「GO! GO!」
助手席にいたサングラスの男が叫ぶと、ピックアップトラックは現れた時と同じように急発進した。がくん、と荷台が大きく揺れる。
「わっ」
コウタが思わずバランスを崩しかけると、横から伸びた手で逆方向に引っ張られる。ヒルデが助けてくれたのだ。
だが、その瞬間に再び車が跳ね、今度こそ2人でバランスを崩して倒れてしまう。
「うわっ」
「うぎゃっ」
折り重なるように倒れ、悲鳴をあげる。ちょうどコウタがヒルダを下敷きにしてしまう形になってしまい、よほど痛かったのか涙目になるヒルダ。
「ご、ごめん!」
慌てて謝るコウタ。ついでに少女特有の柔らかさに触れてしまったこともあり、気まずさで慌てて後ずさる。まぁまぁ胸も膨らんでいた。
「いやー、今どき中々見ないウブな反応っすね。さては君、独り身でしょ」
「今それ関係ある!?」
そもそもヒルデが無駄に露出度の高い恰好をしているから――と口を開きかけた矢先、コウタはあるモノに気づく。ヒルデの横にある、小さな大砲のようなものには嫌というほど見覚えがあった。
「神機……?」
「あ、やっと気づいたんすか」
よくよく見ると、ヒルデの腕にもゴッドイーターが付けるリングのようなものがあった。だが、形が少しフェンリルのものと違う。
それに神機の方も細かく確認していくと、極東支部や北米支部で見かけたものと見た目がかなり違う。神機は個人ごとに違うのが基本だが、ヒルデの神機はそれ以前の問題だ。
まるで素人が手作りしたみたいだ――――。
その辺のパイプやドラムを削り取ったような、簡素で粗雑な作り。アナグラの神機整備士である楠リッカが見たら、呆れるか卒倒するかといったレベルの品質の低さだ。
基本的な構造は、北米支部にいる軍や警察で使っている回転弾倉式グレネードランチャーに近い。巨大なリボルバー銃とでも呼ぶべきか。
銃身部分にはいかにも外付けといった形で、銃剣サイズの刀身が付いている。だが、防腐加工も研磨処理もされておらず、間に合わせの急造品という印象を受けた。
「……君、なにか失礼なこと考えてるでしょ?」
「いやぁ、そんなことは無いよ!? 俺はただ、シンプルでカッコいいなって」
さっと目を逸らして否定するも、ヒルデのジト目が変わることは無かった。
「コータ、嘘ヘタすぎ……」
もっとも、見た目に関してはヒルデも同意見だった。ダサいし、カッコ悪い。しかもその上、性能までゴミクズみたいなものだから、何ひとつ良いとこ無しである。
とはいえ、それでもほぼ初対面の他人から「うわぁ……」みたいな顔をされると、それはそれでムカつくものだ。
ヒルデは大きな溜息をつくと、投げやりに口を開く。
「まぁ実際、これを神機と呼ぶのも憚られるぐらいの粗悪品ですから、コータの印象は別に間違っちゃいませんよ。貧乏って嫌ですね」
北米支部のゴッドイーターたちとは、比べるまでも無い。あちらは神機本体は勿論のこと、補助デバイスから支援装備まで豊富に揃っていた。
「えっと、ヒルデはゴッドイーターなの?」
「どうだろ? オラクル細胞から作られた武器を使う兵隊、って意味では神機使い含まれますけど」
所詮“アウトロー”ですので、とヒルデは自嘲気味に言う。
アウト・ロー、すなわち「法の外にある者」の歴史は古い。イギリスやドイツでは古来より犯罪者に対して「法の外に追いやる」という刑罰があった。これを宣告されると全ての市民社会から排除され、それを援助することは許されず、もし援助すれば援助者自身が罪に問われることさえある。
アメリカでも西部開拓時代、罪を犯して東部の都市にいられなくなった犯罪者が、自らをアウトローと称して法の埒外にある西部の荒野で新生活を始める事例が往々にして存在した。
「たしか極東じゃハイヴに入れてもらえなかった人たちは、サテライトって呼ばれるコロニーで生活してるって聞くけど、そんな感じでイメージしてもらえれば」
ただし極東のサテライト拠点に住む人々、と北米支部のアウトロー達には決定的な違いがあった。
「アメリカには建国以来、武装して戦う伝統がありますからね。捨てる方も捨てられる方も、武器なしでコソコソ生きるのは性に合わない。さっき少しだけ言いましたけど、最低限アラガミと戦えるような武器が月1回だけ支給されるんすよ」
―――簡易型神機『ミニットマン』
その名は、招集されると僅か1分(minute)で駆けつけると言われた、アメリカ独立戦争時の民兵たちに由来する。名前の通り、「誰にでもすぐ扱える神機」がコンセプトだった。
「そんな事が……!」
コウタが驚きに息を吞む。
ゴッドイーターになるには、まず自分の体に適合した偏食因子を発見しなければならない。神機に接続するには偏食因子の投与が不可欠で、もし適合に失敗すれば神機に「捕喰」されて肉片になってしまう……それがゴッドイーターの常識だ。
「まぁ、自分はあんま詳しくないんですけど、たしか偏食因子が強いとゴッドイーターも強くなる代わりに適合が難しくなりますよね」
コウタが頷く。マーナガルム計画において強力なP73偏食因子は、ソーマ・シックザールという強力なゴッドイーターを生み出したが、同時に多くの被験者を死に追いやったという。
「極東支部には強いゴッドイーターが多いって聞きますけど、ウチはその逆ですよ。ヒルデちゃんみたいな弱いゴッドイーターもどきが、めっちゃ多い」
ゴッドイーターの能力の高さは、偏食因子の適合率に比例する。
裏を返せばゴッドイーターとしての能力をある程度犠牲にすれば、その分だけ偏食因子の適合率は上昇させられる。そう考えたスペンサー博士たちの研究グループによって開発されたのが、P74偏食因子だった。
北米支部は偏食因子を徹底的に弱体化さることで、誰にでも適合できるようにしてる。汎用性を重んじるアメリカの設計思想では、一部のエリートにしか扱えないような武器など欠陥兵器でしかない。
「皆が銃をとって戦うのが、アメリカのやり方なんすよ。例え1人1人の適合率が低くても、数を揃えて火力と物量で圧倒すればいい」
――万人に等しく光を与えよ。
何時でも何処でも誰にでも簡単に扱えるようにする。より多くのものを、より安価に効率よく……この高い生産性と大量生産こそ、アメリカ流の合理主義なのだ。