GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
「さて、と」
ヒルデはそう呟くと、おもむろに注射器を取り出した、カートリッジには、不気味な透き通ったブルーの液体が入っている。
それを躊躇することなく、ヒルデは自分の首筋に打ち込んだ。痛みで顔が少しばかり引きつる。
「それは……?」
心配したコウタが質問する。これも麻薬か何かで、戦闘前に気分をハイにでもするのだろうか。
――だが、ヒルデの答えは別の意味で予想外のものだった。
「ああ、これは免疫抑制剤です。これが無いと、体が拒絶反応起こして偏食因子を受け付けなくなっちゃうので」
「誰にでも適合する」がP74偏食因子の売りとはいえ、そのままではやはり人を選ぶ。そこで北米支部の研究所が出した答えは、「逆に人体の方を偏食因子に適合させてしまう」というものだった。
具体的には、偏食因子に対する体の拒絶反応を抑え込むために免疫抑制剤を人体に投与する、という荒業だ。
加えてP74偏食因子は「誰にでも適合」させるために極端に適合率を下げているため、そのままでは実戦で使えない。よって実戦では通常より多い量の偏食因子を身体に投与し、さらに拒絶反応を無理やり抑え込むために強力な免疫抑制剤を二重に投与するという方法を使っている。
「そんな……! じゃあ君たちの身体は――」
「んー、自分はまだピチピチのギャルだから大丈夫ですけど、10年もこれ使ってたら廃人ですね」
あっけらかんとヒルデは言う。
だが、何も根本的な解決にはなっていない。継続的に使用していれば免疫力が低下してしまい、ちょっとした体調不良やケガが命にかかわるような病気に発展してしまったり、原因不明の病気や発狂、果ては適合不良によってアラガミ化してしまうこともあるという。
「無茶苦茶だ! そんなもの、使ってちゃダメだって!」
それではまるで、自ら寿命を縮めているようなものではないか。
北米支部にはあれだけ潤沢な装備があるというのに、壁を隔てた反対側では非人道的とも呼べる方法でしか生存を許されない。たまたま生まれた場所が違うからといって、ここまで人生が変わってしまうのか。
「北米支部はこのことを知って……?」
「そりゃ知ってはいるんじゃないんですか。それ以上の興味は無さそうですけど」
だからこそ、生存率を改善しようという研究は行われなかった。
何故なら、そちらの方が北米支部にとって都合がいいからだ。アラガミとアウトローたちが共倒れになれば、それだけ彼らに回す予算が少なくて済む。
これを不幸とみるとか幸運とみるかは、人それぞれだろう。
極東支部のサテライト拠点に暮らす人々のように無防備のまま放り出されてアラガミに怯えながらひっそり暮らすのか、非人道的な戦争の道具にされながらも最低限のアラガミと戦う力を手にして僅かな希望に縋って生きるか。
「そんな……」
コウタが呆気に取られている内にも、目的地が近づいてくる。
「はい、湿っぽい話は一旦終わりっすよ。今は目の前のアラガミを倒さないと」
ヒルデが自分のミニットマンを構え、荷台の上からオウガテイルの群れに狙いを定める。次の瞬間、緑色のレーザーが空気を切り裂いた。
「よぅし! 狩りの時間だ!」
すぐ隣にも、何台もの車が駆けつけた。お世辞にも統制がとれたとは言い難い、身なりも服装もバラバラのアウトローたちが、各自の裁量で狙いをつけて発砲する。
唯一揃っているのが、北米支部からの支給品である神機ミニットマンだ。とはいえ、それすらも各自が勝手にカスタマイズしてライフル用のスコープやグレネードランチャーを外付けしていたりする。
「今だ! 行くぞ!」
ブライアンが叫び、そのままヒルデたちと共に突撃していく。
慌ててコウタも後を追いかけた。ヒルデたちはグングンとオウガテイルとの距離を詰めていき、至近距離まで接近してから一斉に発砲した。この距離ならば、外すことは無い。
だが、ミニットマンの弾を受けたオウガテイルはよろめきながらも、消滅することは無かった。
(威力が弱すぎる――!)
ヒルデから欠陥品だと聞いていたが、想像以上の低スペックにコウタの額から冷や汗が流れていった。これでは威嚇にしかならない。
「スティーブ、テイラー! 援護お願い!」
しかしヒルデたちは怯むことなく、倒れたオウガテイルめがけて数人がかりで集中砲火を加えた。連続して何発ものレーザーを受けたオウガテイルが悲鳴を上げて倒れこむ。倒れたオウガテイルは結合崩壊を起こしており、弱点が露わになっていた。
「よっと」
そしてヒルデは倒れたオウガテイルめがけて大きくジャンプし、そのまま神機の先について銃剣タイプのショートブレードでトドメを刺した。
「いっちょ上がり!」
他のアウトローたちも、数人がかりでオウガテイルを取り囲むようにして次々に仕留めていく。コウタもまた、10体ほどのオウガテイルを倒したものの、キリがない。徐々にアウトロー側にも被害が出始めていた。
「よし、ここまで怒らせれば大丈夫だろう。退却するぞ!」
ブライアンがそう言うと、スタングレネードを取り出してオウガテイルに放り投げる。一時的に相手の動きが止まり、わずかな隙が生まれた。その僅かな時間を利用して、ここまで乗ってきた車に向かって全力ダッシュする。
「行け!行け!」
アクセルを全開にして、猛追してくるオウガテイルから逃げるアウトローたち。コウタやヒルデもどうにか発車寸前に、荷台へ飛び乗ることが出来た。
「にしても、やっぱり本物のゴッドイーターは違うっすねぇ。見直しました」
「いや、ヒルデこそ凄かったよ。とても勇敢だった」
コウタが答えると、ヒルデが嬉しそうな顔になる。そのままぐいっと身を乗り出し、コウタの頬にキスをする。
「え……!?」
顔を真っ赤にするコウタに、ヒルデは悪戯を成功させた子供のように笑う。
「うんうん、やっぱり強い男はイイっすね。でも女の子に責められると弱いっての、めっちゃギャップ萌えっす」
なんならキスとその先でもしましょうか、などと大胆に迫ってくるヒルデ。想像以上に積極的なアプローチにたじろぐコウタを押し倒し、馬乗りでキャミソールの紐に手を伸ばしかける。
「ちょっ、何を!? こんな場所じゃ不味いって……!」
「ふぅん、じゃあ違う場所なら―――」
「おいこらガキ共、なに戦闘中に盛ってんだ」
見かねたブライアンからヒルデに拳骨が落ちる。そこまで力を入れるつもりはなかったらしいが、ちょうどタイミングよく車が跳ねて悶絶するヒルダ。
「っ~~~~!」
「………」
ブライアンの方もまた、予想外の威力でぶつかってきたヒルダの頭の衝撃を緩和しきれず、手首を痛めて苦々しい顔になる。
「あの、大丈夫ですか……?」
おろおろするコウタの質問を無視し、ブライアンは何事もなかったかのように、手首の痛みを抑えながら前を指さした。
「少年、あの丘が見えるか?」
「はい」
「あそこまで行ったら、もう一度オウガテイルに反撃するぞ。こうやって少しづつ群れを攻撃しながら注意を引き付け、群れを町から引き離すんだ」
***
結局、その日は7回もオウガテイルとの戦闘が発生した。
戦っては退却し、別の場所へ移動してから、また戦う。その繰り返しだ。
「全く、遊撃戦ってのは楽じゃないな」
ブライアンがぼやく。かれこれ、ほとんど24時間にわたって戦い続けている。
だが、こうしたゲリラ的な戦い方は貧弱な装備しかもたない、アウトローたちが生き残るための知恵でもある。北米支部の贅沢で合理的な戦い方とは違う、弱者の奇策とでもいうべき生存戦術だ。
「………疲れた」
流石のコウタも、ほとんど休み無しの戦闘で疲労困憊だった。今はトラックの横で、体を休めるべく座っている。
「でも、やっぱりヒルデたちは凄いな」
素直な感想が口を突いて出る。
ヒルデたちは長時間の戦闘をものともせず、戦闘が終わったあともけが人の手当てや武器に車のメンテナンスと休む間もなく働いている。
対アラガミ戦闘のスキルに限れば、正規のゴッドイーターであるコウタの方が上だろう。だが、サバイバルという観点で見れば、ヒルデたちにはフェンリルのゴッドイーターには無い粘り強さがあった。
全ての作業が終わるころには、日も明けて翌日の朝になっていた。
「よし、今日の当直は終わりだ。お疲れー」
街のどこからか、非番だったアウトローたちがぞろぞろと現れる。それを見たヒルデたちはやっと肩の荷が下りたといった表情で、それぞれの家に帰っていった。
「じゃ、またね!」
「うん、また明日」
ヒルダと別れ、コウタはブライアンに連いていく。
コウタには、初日に監禁されていた部屋を当てがわれた。ただし初日と違って、どこからか持ってきた簡易ベッドが付いている。
――そのままベッドに倒れこむと、一気に疲労が押し寄せてきた。
深夜明けの睡眠となると、窓の無い部屋ほどありがたいものはない。コウタの意識が暗転するまでそう長い時間はかからなかった。
GEアニメ10話のオウガテイルは強キャラ感あった。
空木イロハお姉ちゃんほんと尊い……