GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
EPISODE14:武力蜂起
――破局は突然に訪れた。
リーダーであるアダムの指示に従い、アウトローたちが一斉に戦線を放棄してアラガミが踏破するに任せたのだ。彼らにとってみれば、やろうとすればいつでも出来たことだった。
ただ、これまでのように律儀にアラガミ出現の報告を北米支部に飛ばし、ゴッドイーターたちが駆けつけてくるまでの肉壁という役目を放棄すればいいだけのこと。
しかし、北米支部の市民にとっては完全に青天の霹靂であった。今まで早期警戒の大部分を自らが追放したアウトローたちに依存し、そのくせ彼らが真面目に働いてくれると当然視していたツケが回ってきたのだ。
その日のうちに、未曽有のアラガミの大群がサンフランシスコへ向けて殺到した。配備されていた対アラガミ用の地雷原や鉄条網は、圧倒的な数の前にあっさりと突破されてしまう。
慌てて北米支部はゴッドイーターを出撃させるも、完全に後手に回っている。市内では久しく生じなかったパニックが発生し、警官隊と市民との間でいくつもの衝突が発生していた。
今は辛うじてサンフランシスコ市街地を囲む大要塞壁群『ノートン・ライン』によって被害を食い止めているが、突破されるのは時間の問題だった。
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「なぜ気づかなかった!?」
会議室のソファに座るなり、フランク・アーヴィング所長はスペンサー博士を睨みつけた。鬼気迫る表情であり、アラガミの危機に怯える気持ちよりもアウトローたちの“背信行為”への憤りの方が大きいらしい。
(少しでも想像力を働かせれば、こうなることは予想できただろうに)
つくづく固定観念というものは恐ろしいな、とスペンサーは内心の侮蔑を隠しつつ報告をする。
「ゴッドイーター隊はすべて出撃させている。できればシアトルやバンクーバーからも、応援部隊も可能な限り送ってほしい」
もっとも間に合うかどうかは微妙だろう。
「それで、アウトロー共はどうなっている? まさか一夜にして全滅したということもあるまい」
「ああ、アダムのコロニーが首謀した計画的な犯行だ。ほぼ全てのコロニーを説得して、一斉に仕事をボイコットした」
「裏切り者め……!」
アーヴィングがドンッと机を大きく叩く。いちいち大げさな男だ、とスペンサーは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
代わりに伝えたのは、今回の騒動を起こした張本人からのメッセージだ。
「アウトローのリーダーから、要求が来ている。名前はアダム・グリーン、元国語教師だ。全てのアウトローに対して市民権を与えて北米支部への移住を認めれば、即座にボイコットを止めてアラガミ退治に加勢すると」
「馬鹿を言うな! そんなことをしてみろ、市民は大混乱だ。受け入れ体制だって整っていない!」
そうだろうな、とスペンサーは肩をすくめる。そもそも受け入れ体制を整えようという気があるのが、まずはそこから疑問ではあるが。
「だが、どうする? このままではサンフランシスコは持たないぞ」
そうは言いつつ、スペンサーの顔に焦りは見られない。むしろこの状況を楽しんでいるようにさえ見えた。
「……何が言いたい?」
含みに気づいたアーヴィング所長の問いに、スペンサーはニヤリと笑う。
「我々の希望の星……新型神機兵『パトリオット』を投入する絶好のチャンスだとは思わないか?」
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アダムたちアウトローの蜂起を受けて、サンフランシスコ・ハイヴに駐屯するゴッドイーターには一斉に出撃命令が下されている。そこにはアリサとリンドウの姿もあった。
「――そちらに地雷原を突破したヴァジュラが向かっています。対処をお願いします」
インカムから聞こえる、オペレーターの落ち着いた声。今のところ、襲撃してきたアラガミに対して例の『C3I』ドクトリンを的確に運用することでどうにか対処している。
ゴッドイーターだけでなく、旧アメリカ合衆国軍やカリフォルニア州兵、州警察にFBIまで対アラガミ弾を装填して総動員だ。オラクル細胞を塗布しただけの対アラガミ弾では時間稼ぎ程度にしかならないが、それでも十字砲火によってアラガミの動きが鈍れば、セレナたちゴッドイーターにとっては大きな助けとなる。
「撃て!!」
セレナの号令で、一斉にヴァジュラに向かってバレットが発射されていく。
「隊長、追加のOアンプルとスタングレネードです!」
まるでアウトローたちの反乱を予期していたように、北米支部の対応は迅速だった。それどころかテレビ局や新聞社などマスコミ関係者まで現場に現れる始末で、アリサたちは対応に苦慮していた。
「こちらCA-TVのスティーブ・ミラー記者がお送りしております。現在、ノートン・ラインでは激しい戦闘が行われており―――」
「危険です! 下がってください!」
アリサは横にいる記者とカメラマンを押しのけ、射撃ポイントを確保する。
マスコミのお守をしながら戦うなど呑気にも程があるのではないか。あるいは、それ程までに余裕があるということなのか。
恐らく、その両方なのだろう。
「――オーマイゴッド! 今、ヴァジュラの巨体が目の前で倒れていきます! なんということでしょう!あの危険なアラガミを倒したのは、まだ10代の少年少女たちです!信じられません!」
ようやくの事でヴァジュラを倒すと、案の定スティーブ記者がいちいち大げさなリアクションで大騒ぎする。こういう実況が視聴者にはウケるのだろうが、勘弁してほしいというのがアリサの正直な気持ちだ。
「では、ここで本日の英雄に質問しましょう! ジェシカ・ハーパー伍長です! それではジェシカ、今の気持ちは?」
ヴァジュラを倒したのは、最初のブリーフィングで見かけたラテン系の女性ゴッドイーターだった。ノリよく「サイコーにスカっとしたわ!」とインタビューにも快く応じている。
「戦いの最中なのに……」
アリサが呆れていると、セレナが苦笑した。
彼女も相変わらず小綺麗な服に、入念にセットされた髪、そして化粧を欠かしていない。まるでアクション映画の女優のような野性的な美しさだが、それも全て計算し尽くされたものだ。
「アリサちゃんの気持ちは分かるけど、フェンリルも商売だからね。スポンサーである市民にゴッドイーターの活躍ぶりを公開するのも、大事な仕事のひとつよ」
北米支部では、住民からの支持が他の支部と比べて突出して高い。セレナに言わせれば、こうした透明性の高さが信頼を生み、それが民主主義を通じて北米支部の高い支持率に繋がっているという。
「それからアリサちゃんに朗報よ。行方不明になったコウタ君のことだけど、手掛かりが見つかりそうなの」
***
「そうか―――」
アダムは部下からの連絡を受け、小さくため息を吐いた。落胆はあったが、想定はしていた。
「シアトルとバンクーバーにいるスパイから連絡がありました。空軍のヘリと輸送機、および爆撃機の編隊がそちらに向かっているそうです。彼らは人質救出作戦を実行しつつ、同時にこの一帯の掃討作戦を実行するつもりかと」
それが意味することは、事実上の切り捨てだ。
テレビを見ると、フランク・アーヴィング所長が「救助に全力を注ぐ」「市民を決して見捨てない」といったお決まりのフレーズを連呼している映像が延々と垂れ流されている。どれも大衆受けが良いだけで、何の効力もないリップサービスだ。
世間に向けて「救出に全力を注いだ」というポーズを示してはいるが、掃討作戦を同時に行う時点で人質の身の安全など考えてはいないだろう。北米支部は組織のシステムを守るために、コウタの命を見捨てたのだ。
1人の命と、100万人以上の平穏な生活……数の論理で天秤にかける事は、正しい判断なのだろう。
だが、それこそがこの国の歪みなのだとアダムは思う。見たくない現実から目を背け、犠牲を自分より弱い誰かに押し付ける日々が今のアメリカを歪ませた。
「期待するだけ無駄か……」
アダムは呟くように言ってから、窓の外に目を向けた。
その先には彼らが生活拠点として使っている、打ち捨てられた崩れかけのショッピングモールがあった。微かに灯りはあるが、壁の中と比べればあまりにも弱弱しく、今にも消えてしまいそうなほどだ。
アラガミに怯え、貧困に喘ぎ、地べたを這いずり回って食料を探し、今日より良い明日を迎えることなく死んでいく――。
こんなシステムを作った連中は許せないが、それ以上にシステムに甘んじて生きている「普通の人々」がより一層許せなかった。今回の事件でそんな連中の目を覚ましてやりたかった。
「どうしますか?」
「救出部隊も掃討部隊も、まとめて殲滅する。その上で人質の存在を全世界に向けて公表し、見せしめとして殺すことで我々の力と決意を示す」
「……いよいよですね」
部下の声音から、押し殺した感情が伝わってくる。フェンリルの精鋭部隊を手玉にとり、これを返り討ちにすることが出来れば、こちらの力を示す事が出来る。
現状を変えるためには、リスクが伴う。多くのモノを失うことにもなりうる。だが、覚悟はとうの昔に決まっていた。
スタングレネードぐらいなら普通の兵士でも扱えるんですかね?