GOD EATER -The Frontier Spirits-   作:フェンリル北米支部

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EPISODE15:無人神機兵

                    

 

 アラガミと戦うゴッドイーターたちの元に、高速で近づく航空機の編隊があった。C-17輸送機と、それを護衛する2機のF-16戦闘機だ。

 

 

「――グレアム少佐。敵アラガミを確認しました」

 

 

 格納庫内に設けられた簡易司令室の中では、フェンリル北米支部の精鋭たちが待機していた。

 

 

 彼らを指揮するグレアム・ウェーバー少佐は、柔らかそうな金髪にオリーヴ色の瞳を持つ、軍人というより舞台俳優のような風貌の優男だった。

 

 しかしアラガミ討伐の戦績はトップクラスで、不遜な態度が目立つブライアン・ケインよりも任務に忠実な点を高く評価されている。

 

 セレナとは同期で、彼女と同じくゴッドイーターおよびアメリカ軍人である自分のことを誇りに思っていた。

 

 

「あまり遅れると、セレナに怒られてしまうな」

 

 

 ブライアンはリラックスした様子で、戦術モニターを見やる。

 

 情報共有システムとリンクしたモニターの戦域図上では、敵アラガミの配置とそれに抵抗する「アウトロー」たちが表示されていた。 

 

 識別タグをもたらない彼らのほとんどが「unknown」と表示される中、一人だけ詳細な情報付きの兵士がいるのを見つけたグレアムは小さく苦笑する。

 

「ブライアンめ、やっぱり生きていたか」

 

「少佐、本当に参加されないんですか? セレナ大尉の救援に行った方が……」

 

「白馬の王子になりたいのは山々だが、今日のヒーローは俺じゃない」

 

 

 グレアムの視線の先にあるのは、マントを羽織った巨大な騎士。

 

「頼むぜ、姫を助けるのは騎士の十八番だろう?」

 

 

 返事がないと分かり切って冗談を飛ばすグレアムに、オペレーターは呆れたように肩をすくめてコンソールを叩いた。

 隅の方に表示された数字モニタが、敵の索敵圏内まで間もない事を伝えてくる。

 

 

「システム・オールグリーン……」

 

 

 バイザーの中にある瞳――センサーが赤く光る。準備完了だ。

 

 

「よし、全ての『神機兵』を起動しろ! ただちに戦闘行動に移行せよ!」

 

 

 

 **

 

 

 

「――無人神機兵『パトリオット』、全機起動しました」

 

 サンフランシスコ市内にあるフェンリル北米支部の指令センターでも、フェンリルの制服を着たオペレーターがグリーン所長に報告をしていた。

 

 

 部屋一杯に映し出されたモニターには、迫りくるアラガミに対峙する無人神機兵の姿が映し出されている。

 

 アーヴィング支部長は頷いたあと、今回の作戦に参加するために集結したゴッドイーターと兵士たちに向けてマイクで語りかけた。

 

 

「我々はこれより、アラガミ掃討作戦『ロングドライブ』を開始する」

 

 

 続いてオペレーターたちを一瞥すると、皆が一様に緊張した面持ちをしているのが目に入った。

 

 

「アウトローのテロリスト共は、あろうことか同じ人類である我らを僻み、アラガミを差し向けて滅ぼそうとさえしてきた」

 

 

 アーヴィングが口にすると、北米支部の人々の目に憎しみの光が宿る。先祖たちから受け継ぎ、自分たちの手で築き上げたものが奪われようとしていることへの、怒りの炎だ。

 

「容赦はするな! 我々の力を思い知らせてやれ!」

 

 

 

 **

 

 

 

 すべては、一瞬の出来事だった。

 

 大空から降り注ぐ無数のクラスター爆弾―――さらに空中で破裂することで子弾が広範囲に散布され、地表で爆発すると同時に爆炎が大地を埋め尽くす。

 

 いかにアラガミいえども、正面から爆撃を食らえば無事では済まない。体の何割かを持っていかれ、再生しようとしているところに、さらなる新手が登場した。

 

 

 それは鋼鉄に輝くメタルボディの軍団……北米支部の切り札たる『新型無人神機兵』だ。

 

 

『―――戦闘モードに移行。対象の殲滅を開始』

 

 

 数秒と経たず、神機兵の軍団はアラガミの群れへ突入する。市街地に雪崩込みつつあったアラガミを、次々に血祭りにあげていく。

 

 驚いているのはサンフランシスコ市警察や軍だけではなかった。各地の戦線で一斉に神機兵が投入され、任務放棄していたアウトローたちも呆気に取られて神機兵の登場を見つめている。

 

 

(無人型の神機兵……噂は聞いていたが、既に量産体制に入っていたのか!?)

 

 

 アダムたちのいるショッピングモールから望遠鏡で見れる場所でも、空中から降下した神機兵たちが移動中のアラガミを撃滅しつつあるのが見えた。

 

 

(アーヴィングめ、あんな奥の手を持っていながら―――!)

 

 本来であれば喜ぶべき状況であるにも関わらず、アダムが感じたのは怒りであった。

 

 あれほどの性能を持つ対アラガミ兵器が量産に入っていながら、壁の中の連中は外の人々のことなど存在しないかのように犠牲を強いてきたのか。

 

 

 

 戦況は一気に北米支部の優位へと逆転していた。各地の戦場に投入された5000体以上の無人神機兵は、あれほど強大に見えたアラガミの群れをスチームローラーのように叩き潰していく。

 

 

「第8小隊は私に続け!」

 

 双眼鏡で覗くと、ヘリから降下したグレアム少佐を先頭に、50体ほどの神機兵が続いていく姿が見えた。

 

 指揮官たるゴッドイーターの命令を受け、完璧に統制された動きで攻撃陣形を作っていく神機兵たち。火力を集中し、一体また一体とアラガミを各個撃破しながら削り取っていく。

 

 

 

 まるで全てが予定されていたかのような、あまりに鮮やかな勝利だった。

 

 華々しい登場から、何度もシミュレーションしたかのように統率のとれた戦闘、落ち着き払った冷静な指揮……とても不意を突かれてから慌てて切り札を出したようには見えない。

 

 

 だが、その強烈な違和感の正体に気づいたアダムが、次いで感じたのは恐怖であった。顔を強張らせながら最悪の可能性に辿り着く。

 

 

「まさか……」

 

 直後、アダムたちのいるショッピングモールにロケット弾が炸裂した。

 

 

 

「っ―――!?」

 

 続いて、攻撃ヘリコプターの機関砲による連続した砲声が轟く。一緒にいたアウトローたちの大半はパニックを起こし、フェンリルの爆撃に恐れをなして蜘蛛の子を散らすのように逃げ出してしまった。

 

 

 ――対人戦闘訓練を怠ったツケが回ってきたか。

 

 

 アダムは心の中で毒づいた。

 

 

 正直、フェンリルがあんな奥の手を隠しているのは完全に予想外だった。ここにいるアウトローたちはアラガミとの戦いには慣れていても、人間同士の本格的な戦闘には慣れていない。

 

 それに対して、フェンリルの側は「アウトローの反乱」に備えた対人戦闘訓練を受けたプロの兵士たちばかりだ。動きが明らかに違う。

 

 

 ――計画は完全に失敗だ。その上、拠点も組織も壊滅し、アダムの半生を捧げた準備は全て水の泡となった。

 

 

 だが、アダムとて素直に膝を屈するつもりはない。また、いつか立て直して見せる。その上で、この腐ったシステムを変えるために戦い続けるのだ。

 

 

 **

 

 

 アダムは逃げ出さなかった僅かな部下たちを集め、瓦礫に隠れながら反撃するように命じる。

 

「撃て!」

 

 部下たちと共に、迫りくるフェンリルの兵士たちに向けて引き金を引く。轟音と共に銃弾が発射され、フェンリル兵たちは慌てて壁に隠れる。

 

「手りゅう弾を使え!」

 

 アダムが叫ぶと、3人の部下が手りゅう弾の安全ピンを外した。それを放り投げると、放物線を描くようにして飛んでいき、フェンリル兵たちの前で轟音をあげて炸裂した。

 

 

 

 ――静寂――

 

 

 相手を制圧したのだろうか。しかし油断はできない。

 

 アダムは銃を構えて周囲を警戒しながら、ゆっくりと前進する。すると二台の無人神機兵が、壁の陰からぬっと姿を現した。

 

「クソッ!」

 

 慌てて退避を試みるも、間髪入れずに乱射される無人神機兵の機銃斉射に晒される。部下たちは勇敢にも反撃したものの、無人神機兵のメタルボディに傷ひとつ付けることが出来ないまま、無慈悲に撃ち込まれる銃弾の嵐に沈黙した。

 

 

「――無駄な抵抗は止めてください」

 

 

 聞き覚えのある声がした。アダムが瓦礫をを払いのけて立ち上がると、目の前に突き付けられた銃口が見えた。

 

「お前……」

 

 目の前にいたのは、拳銃を構えたセレナの姿だった。

 

 一瞬だけ引き金に指を延ばしかけるが、セレナの全てを見透かすような緑色の瞳の前に抵抗は無駄だと悟る。もし自分が少しでも怪しい動きをすれば、彼女は容赦なくこちらの眉間に銃弾を撃ち込むだろう。

 

 

「アダム・グリーン。貴方を扇動罪と殺人罪、そして国家反逆罪で逮捕します」

 

 




 無人神機兵、原作の方でもありましたけど、個人的にはけっこう好きだったり。

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