GOD EATER -The Frontier Spirits-   作:フェンリル北米支部

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EPISODE16:裁判

         

 戦闘は短時間で終わった。

 

 

 北米支部の兵士たちが、アウトローたちに銃を向けて取り囲んでいる。サバイバルの達人であるアウトローたちも、対人訓練戦闘を受けてきたプロの兵隊には敵わない。

 

「捕虜を回収して」

 

 セレナが命令する。ボロボロになったアウトローたちが、北米支部の兵士に連行されていった。

 

 

「―――セレナさん!」

 

 

 声がした方に顔を向けると、兵士に保護されたコウタの姿があった。

 

「よかった! 無事だったのね!」

 

 朗らかな笑顔で、心から嬉しそうに声をかける。

 

 顔を合わせるのは3日ぶりだが、再開したコウタは随分と印象が変わったように思う。顔つきが引き締まり、だが瞳の奥には抑えた悲しみのようなものが感じられた。

 

 

「セレナさん、彼らをどうするんですか……?」

 

 思いつめたようなコウタの問いに、セレナは困ったような顔をする。

 

「捕まっている間、何かあったの?」

 

「アダムさんから、色々な話を聞きました……」

 

 それ以上は語らず、コウタは沈黙した。セレナもそれで何となく事情は察し、周囲の兵士たちを下がらせた。

 

 

「……それで、コウタ君はどう思ったの?」

 

 口調は優しいが、それはセレナが丁寧に言葉を選んでいるからだ。その裏側にある「アウトローの言い分を鵜呑みにするのか」といった不満を、コウタは感じ取っていた。

 

 

「まだ……よく分かりません」

 

 正直に告白するコウタに、セレナの表情が少しだけ緩む。やがて意を決したようにコウタの手を取ると、人気の少ない壁際まで連れていく。

 

 

「コウタ君、1つだけ忠告しておくわね。今みたいな話は、もうしない方がいいわ。今回の反乱でサンフランシスコ市民にも100人以上の死傷者が出てる」

 

 北米支部の人間や市民たちの多くはその元凶たるアウトローたちに対して、少なからず憎しみを抱いているはずだ。こうなってしまっては、同情を引くのも難しいだろう。

 

 

「じゃあ、アダムさんたちの話は嘘なんでしょうか? その、彼らは北米支部に入れないってのは」

 

「……概ね事実よ」

 

 だったらどうして、と聞きかけたコウタをセレナは遮った。

 

 

「アメリカは法治国家なの。例え納得できなくても、ルールには従うのがこの国の流儀よ」

 

 

 セレナはアメリカを、そしてアメリカの法治主義を誇っている。法律は変わり続けるものだが、それでも法律を守るという精神は、この国の人々が守り続けてきた。

 

 セレナの父であるスペンサー博士はドイツ系、母はアイルランド系だが、それでも2人は同じアメリカ人だ。人種も文化もバラバラな移民たちの末裔をアメリカ人たらしめているもの、それは法律であり憲法である。ルールを守るという意識の共有こそが、自分たちをアメリカ人と規定している。

 

 だからこそ、それを守ることがセレナの誇りだった。

 

 

「どうしてもアウトローたちを弁護したいなら、止めはしないわ。でも、ちゃんとルールに従って然るべき手順を踏んで」

 

 セレナの深いグリーンの瞳が、真っすぐにコウタを見つめる。

 

「アメリカでは、いかなる事件も法廷で裁かれる。もし必要なら、知り合いの弁護士も紹介するわ。あるいは君が裁判所で証言することで、何か変わるかもしれない」

 

「セレナさん……」

 

 世の中を変えたいのならば、きちんとした手順を踏むべきだという、セレナの意見は実に優等生的な回答だ。それはコウタにも分かる。

 

 だが、本当にその手順は誰にでもフェアに作られているものだろうか……アダムやヒルデの話を聞いていると、そう感じざるを得ない。

 

 もちろんコウタ自身、邪推のし過ぎではないかと思ってもいる。

 

 しかしアリサに対してロシア支部が行った仕打ちや、極東支部でシックザール前支部長が内密かつ独断で欠航しようとした「アーク計画」などの経験もあって、フェンリルが純粋な善意の組織ではないことも知っていた。

 

 

 とはいえ、それを裏付けるだけの証拠が無い。たしかにセレナの言う通り、アダムの証言だけで判断するのは性急過ぎる。公平で開かれた裁判を開き、全てを白日の下に晒すべきだという彼女の言い分はもっともだ。

 

「……分かりました。忙しいのに色々とありがとうございます」

 

「ええ、私も出来る限りの事はするわ。だからコウタ君も、まずはゆっくり休んで」

 

 言い終わると、セレナはふっと表情を緩めた。少し寂しい感じのする、優しい声だった。

 

 コウタが頷くと、セレナはすぐ部下に呼ばれて自分の仕事に戻っていった。

 

 部下から聞いた報告をもとに指示を下し、こまめに上司にも確認を取りつつ、サンフランシスコへの帰還準備をてきぱきと進めていく。兵士たちからも頼りにされているのが傍目にも分かった。

 

「………」

 

 コウタも駆けつけてきた兵士たちの指示に大人しく従い、一緒に軍用ヘリに乗り込んだ。顔を上げると、カリフォルニアの青空が広がっていた。白い雲がゆっくりと流れていく。

 

 

 

 **

 

 

 

「判決を告げる。被告、アダムを死刑に処す」

 

 

 法廷に、裁判長の声が響き渡った。あまりにあっさりと人の命を奪う決定が下されたことに、アリサとコウタは思わず息を吞む。

 

 

 一方、被告席のアダムは表情を変えずに皮肉っぽい笑顔を浮かべている。まるで「この茶番劇が、お前たちの大事にしている民主主義なのか」とでも言いたげな顔だ。

 

 

 そしてその他大勢の聴講者はというと、アウトロー側の証人が何か言えばブーイングの嵐、フェンリル側の検察の発言には喝采のコールを送るという実に分かりやすい構図となっていた。陪審員もすべてサンフランシスコ市民から選ばれているため、結果は最初から決まっていたようなものだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

 傍聴席にいたコウタが抗議の声を上げた。

 

「あまりに一方的じゃないですか!」

 

 一応、アダムには弁護士が付けられたものの、証拠品になりそうなものは全て検察側が押収しており、弁護側には「安全保障に関わる機密保持」を理由に一切の情報提供が行われなかった。これでは検察側が不利な証拠を揉み消したり、自分に有利になるよう証拠を偽造しても反論のしようがない。

 

 どうにかコウタも証人として証言する場を得たものの、わずかな時間しか与えられず、発言の度に検察側の妨害を受けて殆ど何も言えないまま時間切れで退出させられてしまった。

 

 加えてマスメディアは連日のようにアダムが前科者であるとか、市民の憎悪を煽るようなバッシングキャンペーンを行っている。公平であるはずの法廷では、「保安上の問題」を理由に銃を持った警官がぐるりと傍聴席の周りを取り囲んでいた。これのどこが公平中立な裁判といえるのか。

 

 

 だが、コウタの抗議に対して裁判長は小槌でバンバンと机と叩くと、明らかに軽蔑した表情で機械的に言い放つ。

 

「証人は発言を慎重になさってください。それ以上は法廷侮辱罪と捉えます」

 

「っ……」

 

 無茶苦茶だ、とコウタは耐え難い無力感に襲われた。

 

 建前上はルールだ何だと言っておきながら、どれも北米支部にとって有利なように制度化されている。そしてルールをどう解釈するかは、ほとんど北米支部側の恣意的な主張が認められているようになっていた。

 

 

「では、これにて閉廷します!」

 

 

 裁判長が再び小槌を打ち鳴らすと、北米支部の兵士たちがアダムを連行していった。他の傍聴人たちも、そくさくと退室していく。

 

 そして直後、まるであらかじめ用意されていたかように生中継の会見映像がメディアに映し出された。

 

 

「――市民の皆さん、フェンリル北米支部より重大発表です。先ほど、先日の同時多発アラガミ襲撃事件の首謀者とみられるアダム容疑者が、裁判によって死刑となることが決定されました」

 

 

 おお、と街の至る所で市民たちが喜びの声を上げた。悲劇を起こした大罪人が、ついに法と正義の下で裁かれたからだ。

 

 

 **

 

 

 アダムの裁判から5日後、サンフランシスコでは街の再建が進んでいた。といってもアラガミの被害を受けたものはなく、混乱と同時に発生した暴動やパニックで悪化した治安を改善するための作業だ。

 

 

 ゴッドイーターたちの大半は、ノートン・ラインの巡回へと回されていた。コウタもエディと一緒に警備任務を終えたあと、アリサが交代に現れたので昼食をとりに休憩所へと向かう。

 

 休憩所でランチボックスを受け取ると、目の前にコーヒーが差し出される。リンドウだった。

 

 

「よう」

 

 コウタはコーヒーを受け取り、淡々と食事を始める。リンドウの方も無理に話かけることなく、ただ傍で一緒に昼食をとった。

 

 北米支部の内情については、リンドウもペイラー博士からある程度の話は聞いている。

 だが、人から聞くのと目の当たりにするのとでは全然違う。歳を取って世間慣れした自分ですら嫌気がさしつつあるのだから、多感な年頃の青年には猶更だろう。

 

 

「失望した、って顔だな」

 

 コウタはしばらく黙っていたが、やがてポツリと口を開いた。

 

「………セレナさんたちを信じたかった。セレナさんの言った“アメリカの法と正義”を信じたかった。けど、そんなものは何処にも無かった……」

 

「裏切られたと思ったか?」

 

 棘のある言い草につい反発しそうになるが、リンドウの顔を見て口を閉ざす。ややあって、絞り出すように答えた。

 

「そうかもしれません……」

 

 何が正しいのか。何を信じればいいのか。コウタはよく分からなくなっていた。

 

 

「ずっと俺はフェンリルのゴッドイーターになって、人助けがしたいと思ってました。敵はいつもアラガミで、一人でも多くの人をアラガミから守ることしか考えてませんでした」

 

 極東支部では、そのシンプルな信念で通用した。アナグラはいつも危機と隣り合わせで、物資も少なく生きることで精一杯だった。多くの人を救い、少しでも生活を豊かにする……それは目指すべき目標で、すぐには手の届かない夢だったからこそ、その先のことを考えていなかった。

 

 

 だが、北米支部では違う。多くの人が安全に生きられる環境があり、豊かな生活を送れるだけの余裕がある。にもかかわらず、問題は減るどころか複雑さを増して増えているようにすら感じられた。

 




 「ルールはルール」なんて言葉もありますが、条文をどう‟解釈”するかで割となんとでも言えちゃったり(お風呂屋さんと銀色の球で遊ぶゲーム屋さんから目を逸らす)
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