GOD EATER -The Frontier Spirits-   作:フェンリル北米支部

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EPISODE18:パトリオット

           

 サンフランシスコ南東部、ハンターズ・ポイント海軍造造船所に併設されたフェンリル北米支部の軍需工場では、新型神機兵『パトリオット』が量産されていた。

 

 生産性と整備性を重視するのはアメリカ兵器の伝統ともいえる分野で、民間部品の使用を前提とした設計により、多くの部品が民生品との互換性をもっている。この工場も以前は軍用ドローンなどの無人兵器を製造する工場だったのだが、多くの民生品を流用したおかげで転用は比較的容易に進んだ。

 

 

「支部長、ラインの様子はすこぶる順調です。一刻も早く戦場へ届けられるよう、シフトも3交代制にして24時間フル稼働させています」

 

 工場長の報告に、オズワルド・スペンサー博士は慇懃に頷く。

 

 極秘に行われたテスト訓練でも、神機兵は期待通りの活躍を見せていた。要求した全てのスペックをいかんなく発揮し、充分に実戦でも通用している。これに勝てる敵は、世界のどこにも存在しない。アラガミであろうと、フェンリルであろうと――。

 

 

(これでいい……今はまだ兵器としてのみ運用されているが、新型神機兵に使われているAIを始めとする最新テクノロジーは、民間分野でも十分に活躍できるはず)

 

 

 それはアメリカに新たな需要を生み出し、経済を活性化させる事にも繋がるはずだ。

 

 アラガミとの戦いにおいて、ゴッドイーターは決して万能ではない。どれほど体を鍛えようと、現場でえ訓練を積もうと、勉強して戦い方を工夫しようと、人間である以上はいずれ老いて死ぬ。

 

 

 だからこその神機兵、だからこその無人化。それを達成したスペンサーは技術者としてはもちろん、政治家や軍人としても世界中の全ての天才を凌駕したという自信があった。

 

 

 それでも――。

 

 

 スペンサーはかぶりを振る。表には出来ない秘密を抱え込みながら、その罪悪感に押しつぶされないように。

 

 

 

「不満そうね」

 

 

 部屋の扉から現れたのは、娘のセレナだ。肉親とはいえ、本来であれば部外者が入って場所ではない。

 

「入室の許可はとれたのか」

 

「それはもう、英雄の娘ですから」

 

 肩をすくめて答えるセレナ。

 

 

「デモンストレーションも上手くいったみたいだし、おめでとうを言いに来たのだけど」

 

 セレナの賞賛に対して、スペンサー博士は眉間にしわを寄せ、あからさまに顔をしかめた。

 

 

「……別に何でも無い。人気取りのパフォーマンスで予想通りの結果が出ただけだ」

 

 

 マスメディアの調査によれば、フェンリル北米支部への支持率は80%を突破している。多額の寄付金が集まり、神機兵の量産は順調に軌道に乗った。今ではアメリカのみならず、世界中のフェンリル支部がこぞって神機兵の導入を望んでいる。

 

 北米支部の功績とスペンサーの名声は絶大なものとなり、今や北米支部はフェンリル本部すら凌ぐ勢いだ。スペンサーを次の北米支部長に推す声も多い。極東支部のペイラー博士など一部の者が神機兵の性急な導入を危ぶむ声をあげたものの、どれも圧倒的な世論の声に押しつぶされた。

 

 

「もう聞いてるかもしれないけど、フェンリル本部は神機兵関連の予算を大幅に増額するそうね。今後の普及への投資もかねて、大手銀行に公益財団や個人投資家まで、研究への融資の話で持ちきりよ」

 

 

 新型神機兵に組み込まれた新型AI「インディペンデンス」は、あらゆる基幹システムを刷新するという触れ込みだ。いずれはハイテク関連産業だけでなく、全ての製造・資源・小売・物流・医療・情報・金融業まで、どんな産業もインディペンデンスと無縁ではいられなくなる。

 

 

 人類をアラガミとの戦いから解放するという大偉業を成し遂げたスペンサー博士は、もはや向かうところ敵なしのように思われた。

 

 

「そうだな。神機兵だけでなく、通常兵器への新型AI搭載も電子装備の更新という形にすればスムーズにいくだろう。生産ラインはいずれ秘匿性が確保できたら各地に移して、素材の調達と生産効率をあげる。徹底的に水平分業を推し進めていく予定だ」

 

「素敵ね。あれだけの融資があれば、設備はいくらでも増強できるし」

 

「おだてるのが上手くなったな。流石はミス・フェンリルUSAといったところか」

 

「からかわないでよ。あれ、けっこう恥ずかしかったんだから」

 

 セレナが赤面する。

 

 ちなみにミス・フェンリルUSAというのは毎年、北米支部で行われているミスコンのことだ。そこでセレナは過去に2回、優勝している。容姿端麗で話術の才もあり、しかも無人神機兵の立役者であるスペンサー博士の娘ともなれば、マスコミが放っておくはずもない。実際、インタビュー映像は動画再生サイトでも大人気だった。

 

 

「アーヴィングの人気取りに使われたとはいえ、もしお前が出世を狙ってるなら知名度を上げるに越したことはない。私も父親として、実に鼻が高い」

 

 

 そう言う割には、スペンサー博士の表情は硬い。セレナは父親の心中を図りかねたが、それ以上に追求することはしなかった。

 

「アーヴィングによろしく伝えてくれ。明日のセレモニーは、お前が担当だろう」

 

「あら、覚えててくれたのね」

 

 飄々と答えるセレナだったが、その口元には父親に認めてもらえたという、隠し切れない喜びの色が見えた。

 

 

 **

 

 

 

 その翌日、アメリカ国民は前例のない騒ぎの中にあった。マスコミ関係者が重大発表の連絡を受けて、フェンリル北米支部の本拠地であるシアトルのスタジアムに集められた。 

 

 

「――お集まりの皆様! 私はフェンリル北米支部長、フランク・アーヴィングです!」

 

 

 企業の重役然とした、黒スーツの男が名乗りを上げると一斉に拍手と歓声が起きた。

 

「既に噂をご存じの方も多いかと思いますが、我々は人類共通の敵・アラガミを倒すにあたって強力な武器を手に入れました! 我々はこの新しい発明によって、人類の新たな時代を築きたいと考えています!」

 

 

 ――さぁ、ご覧ください!

 

 

 アーヴィング所長が告げると同時に、スタジアムの奥から蒸気が噴き出す。壮大なファンファーレが鳴り響く中、重々しく空いた扉の奥からゆっくりと巨大な影が現れた。

 

 3メートルを優に超す全身を覆っているのは、チタン合金の鈍い輝きを放つ、全身甲冑の如き外骨格。頭部には赤いカメラアイとセンサー類が、クモの眼のように配置されている。両の手には腕と一体化した神機が装着されており、左右で銃と長刀とを使い分けることが出来た。

 

 

「これが新型の神機兵『パトリオット』です!」

 

 

 アーヴィングの声とともに、‟愛国者(パトリオット)”の名を冠する鋼の騎士が、整然と動き出す。1機だけではない。何十、いや何百もの神機兵の軍団が、一糸乱れぬ動きで整然と通りを行進していく。

 

一切の無駄な動きの無い、統率のとれた行進――この新兵器が人類に勝利をもたらすのだと、誰に言われるまでもなく居並ぶ群衆は一様にそう感じた。

 

 

「知っておられる方も多いと思いますが、『神機兵』とは神機技術の粋を使ったパワードスーツです。『フライア』の開発室長レア・クラウディウス博士らなどによって、フェンリルでも長らく研究が続けられてきました」

 

 

 しかし――。

 

 

「この『パトリオット』には、既存の神機兵と大きく違う点がひとつあります! すなわち……」

 

 

 アーヴィングが手元のコンソールを操作すると、信じられないことが起こった。動きを止めた神機兵の背部が開閉し、プラグ状の機械部品が後方へスライドしながら現れた。

 

 

「この中には、新型の制御用AIが収納されています! そう! 『パトリオット』とは、“無人型神機兵”なのです!」

 

 

 無人型神機兵……それはアラガミと戦う、全ての人類にとっての夢だった。これまで市民には非公開だった情報であるが、アーヴィングは初めて公式にそれを認めた。 

 

 

「当然ですが、無人機がアラガミに壊されたところで死者は出ません。『パトリオット』量産のあかつきには、ついに人類はアラガミとの戦いから解放されるでしょう!」

 

 

 アーヴィングの言葉を理解するにつれて、聴衆は静まり返っていった。もちろん落胆ゆえではない。歓喜と驚嘆のあまり、言葉が出ないのであった。

 

 鋼の騎士が、愛する家族の身代わりとなってアラガミと戦ってくれるのだ。嬉しくないはずがない。 

 

 

「そればかりではありません! この新型AIは優れた演算速度に加え、高度な判断力、そして自己学習能力を有しています。更にデータリンクの共有も可能であり、無限の可能性を秘めているのです!」

 

 

 アーヴィングの言葉に、再びどよめく記者たち。演説を聞いていた軍やフェンリル関係者からは、「むしろこちらの方が重要ではないか」と言う本音さえ漏れている。

 

 どれだけ優秀なゴッドイーターであろうと、人間である以上いつかは老いるし寿命も尽きる。だからこそ彼らは自らの経験から編み出された「職人技」を、可能な限り部下に伝えようとする。

 

 

 だが、人間の育成には時間もかかるし、他人に己のノウハウを伝える事も容易ではない。OJTにしろマニュアルにしろ、100%は伝えきれないのだ。

 

 

 しかしAIは違う。オンライン上に積み上げられたデータは劣化もしないし、ネットワークにアップロードされた情報は直ちに全体が共有するところとなる。一体の神機兵がロールアウトしてから破壊されるまでの、全ての情報がビッグデータとして蓄積・共有されるのだ。

 

 

「この『パトリオット』は研究段階から、汎用性と量産性を意識した設計をされています。いずれはAIひとつで凄腕スナイパーから歴戦の指揮官まで、ありとあらゆるタスクをこなせるようになるでしょう」

 

 汎用性と互換性。それは無人の機械だからこそ実現できる。

 

 

「加えて命令には絶対服従! 臆病者もいなければ、独断専行もありえない! 戦場の不確実性リスクを極限まで減らせる一方で、とれる戦術の幅は最大限に広がります!」

 

 まさに完璧な兵士、そして無敵の軍隊。それこそが無人神機兵。

 

 

「実際、先の反乱に投入された無人神機兵は、多くの勝利をアメリカにもたらしました。そして多くの兵士の命を救った」

 

 それは机上の空論ではなく、紛れもない事実だ。その実績が、アーヴィングの言葉と無人神機兵に信頼を与えていく。

 

 

「もうアメリカの若者が命を危険にさらす、古い時代の戦争は終わりました。我々がコーラを飲み、フットボールの試合に熱中している間、自動的に勝利が訪れる新時代が到来するのです」

 

 

 自由と勝利――アメリカ人が好むその言葉を、アーヴィングは繰り返し強調していった。

 

 

「無人神機兵が、そしてアメリカは戦争を根本から変えたのです!もはやアラガミなど脅威ではない!祖国に栄光と自由を、そして勝利を!」

 

 アーヴィングはさらに大衆を煽り、その演説に感化された人々は喝采の嵐を引き起こしていく。

 

 

「この無人神機兵『パトリオット』がある限り、アメリカは決して負けない! 必ず敵を打ち破り、そして勝利する!」

 

 

 アーヴィング支部長が叫ぶ。負けじと、観衆からも大歓声が巻き起こった。

 





 無人神機兵って色々な利権が絡みそう……(そもそもフェンリル自体、次代に必要とされてはいますが、実態としては軍産複合体ですよね)
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