GOD EATER -The Frontier Spirits-   作:フェンリル北米支部

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Chapter 01:素晴らしき新世界
EPISODE01:北米支部


 『BIG TACO』――馬鹿デカいタコス――。

 

 

 それがフェンリル北米支部所属『ゴールト・キャルチ』研究所につけられた仇名だった。外見だけみれば良さそうだが、中には何がどうなっているか分からない。

 

 言うまでもなく居住性は最悪。ただでさえ狭いラボの壁や天井に、各種ディスプレイに操作盤のメーター、延長コード、配管などのあらゆる機器がところ狭しと詰め込まれている。

 

 その中の一室、ナトリウムランプに照らされた計器盤の丸ガラスに、眼鏡をかけた男が映っていた。

 

 

「博士」

 

 

 助手の声で、オズワルド・スペンサーは我に返った。

 

「どうした」

 

「対象に動きが」

 

 その報告を聞いて、スペンサーは無線機を手に取った。

 

 

「――各員へ。現在時刻は0431。研究を開始する」

 

 

 早口に告げると、所長はディスプレイを開いて各種計器の稼働状態を確認する。

 

「B班へ。投薬の濃度を上げろ」

 

「了解。1%上昇させます」

 

 研究員の一人が復唱し、慣れた手つきで器具を動かしていく。

 

「心拍数上昇……60、61、62……」

 

 メーターに記されたあらゆる数字が変化していく。しかし、すべては想定の範囲内だ。

 

「P53偏食因子を投与。今のところ、オラクル細胞の増殖はみられません」

 

 

「よし、今日の実験はここまでだ。現状を維持したまま、明日まで様子を見よう」

 

 スペンサー博士の言葉に、ほっと安堵するような声が漏れる。いつもの事とはいえ、やはり実験は緊張するものだ。

 

 

 皆が一息つき、次の食事で何を食べようかと呑気な団らんへと移った時、事件は起こった。

 

 

「――――――」

 

 

 突如として発生したハウリング。研究員たちは悲鳴をあげ、とっさに耳を抑える。

 

「なんだ……!?」

 

「分かりません! これから調べ……」

 

 

 助手の声を遮るように、けたたましい警報が鳴る。

 

 

「大変です所長! 被験体の心拍数が急上昇しています!」

 

 混乱したような助手の声。

 

「この速度……明らかに異常です! このままでは暴走の恐れも……」

 

「急いでP53偏食因子を! いや、この際P73偏食因子でも構わん!」

 

「ダメです!どちらも受け付けません!」

 

 何という事だ、とスペンサーは愕然とした。横目でモニターを確認すると、すでにダメージ・コントロールの限界を超えているのが目に入る。

 

 

「退避する……ここはもう、放棄するしかない」

 

 

 無線でそう告げた後、スペンサー博士はポケットから別の端末を取り出した。フェンリル北米支部へ直接通話できる非常用の回線だった。

 

 

 **

 

 

 それから10年後の、2073年――。

 

 

『皆さま、おはようございます。本日はフェンリル極東支部発、北米支部・サンフランシスコ空軍基地行きのフライトをご利用くださいまして感謝いたします。機長のダニエル・マクファーレンです。当機はまもなく目的地のサンフランシスコに着陸いたします――』

 

 

 流れるようなアナウンスの声に、雨宮リンドウははっとして目が覚ます。気付けば、ゆったりとしたシートでぐっすりと眠りこんでいたらしい。

 

 

「やっと目が覚めたようですねリンドウさん。もうすぐ着陸態勢に入るそうですから、シートベルトを締めた方がいいですよ」

 

 右隣から声をかけてくるのは、部下のアリサだ。本名アリサ・イリーニチナ・アミエーラ……自分と同じ新型神機使いで、見た目そのままクールな性格をしている。

 

 

「コウタさんも起きて下さい。いつまで寝ているつもりですか」

 

 生真面目な性分なアリサは、自分と同じように眠りこけていたもう一人の同僚の肩を掴んで揺さぶる。

 

「聞こえてますか? 起きて下さい」

 

「む、んおぁあ~……って、あれ? 何でアリサが隣にいるわけ?」

 

 コウタは寝ぼけているのか、顔の筋肉をひくひくさせながらうっすらと目を開ける。だが、肝心の頭はまるで回っていないらしい。

 

 

「何でって……まさか本気で言っているんですか?」

 

 盛大に顔をしかめるアリサ。しかし説教しようと彼女が口を開くより早く、リンドウが苦笑する声が機内に響いた。

 

「まぁ、たまにはゆっくり休むのも悪くないじゃだろう? ここ最近、ずっと働きっぱなしだったから」

 

「それはそうですけど……これも任務ですから、あんまり気を緩めてもらっては困ります。コウタさんがアメリカでもこの調子だったらと思うと心配です」

 

 

「アメリカ……あ」

 

 

 そこでようやくコウタは思い出したらしい。今、自分たちが何処へ向かっていて、何をする予定なのか。

 

 

 ***

 

 

 コウタの主観ではあるが、2073年は比較的に穏やかな年であったと言えよう。

 

 一昨年に発生した『アーク計画』の失敗および『エイジス島崩落事件』のあと、残された極東支部ではその復興に向けて着々と再生が進みつつあった。ヨハネス・フォン・シックザール元支部長が死亡した後、ペイラー・榊博士の元で発足した新体制は今のところ順調といえる。

 

 

「――君たちには、しばらくアメリカに行ってもらいたいんだ」

 

 

 そんな折、数日前にペイラー博士から唐突にそう告げられた時は誰もが耳を疑った。確認するようにコウタがツバキさんの方を見ると、にべもなく「決定事項だ」と返される。ご丁寧にフェンリルの印が押された公式文書まで配られると、もはや疑う余地はなかった。

 

 半信半疑、といった表情で書類をめくるコウタたちに、ペイラー博士はアメリカ派遣の理由を簡潔に説明する。

 

「――まぁ、簡単に言うとフェンリル支部同士の交流だね。ずっと同じ支部にいると、どうしても視野が狭くなりがちだ。たまには違う支部に研修に行って、普段とは違った経験や新しいノウハウを身に着けて欲しいんだ」

 

 

 そう言って辞令を出されたのが1か月前。参加するのはリンドウ、アリサ、コウタの3名。研修期間は半年とされた。

 

 形式としては交換留学の形をとっており、リンドウらが北米支部に向かっている間、北米支部からも同人数が極東支部に異動になる。少なくとも人員面では、アラガミ対策が疎かになるという事はないだろう。

 

 

「アメリカかぁ……いつかは行ってみたいと思ってたんだよな。古い映画の中でしか見たことないし」

 

「遊びに行くんじゃないんですよ、まったく」

 

 いつも通り呑気なコウタに呆れて見せたアリサだったが、実のところ彼女も内心では興味津々だった。北米支部といえば、“文明最後の地”として密かにゴッドイーターたちの間では有名だったからだ。

 

 

 現在、北米における安全圏――つまりフェンリルが掌握している地域は西海岸沿いにある。具体的には、かつてのカリフォルニア州北部、オレゴン州、ワシントン州、アラスカ、ハワイ、そしてカナダのブリティッシュコロンビア州がその領域だ。

 

 そして北米における人類の数は1874万人。フェンリル本部のあるヨーロッパの2115万は別格にしても、この数字は極東の21万人、オセアニア500万、ロシア600万、中央アジア1200万よりも多い。

 

 

「ついに、アメリカに来たんだ……!」

 

 

 これまでにない期待に胸を高鳴らせ、藤木コウタはアメリカの大地へと足を踏み入れたのであった。

 




    
 ずっと昔に書き留めてて、ずっと放置していたゴッドイーターSSです。

 漫画『GOD EATER -救世主の帰還-』という作品ではアメリカ支部が出てくるらしいんですが、作者が存在を知らないまま書き進めてしまったのでご容赦ください(汗)

 ご笑覧いただければ幸いです。
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