GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
アルカトラズという名の島がある。
サンフランシスコ湾にぽつんと浮かぶ、絶海の孤島――サンフランシスコ湾の一番潮の流れが速いところに浮かぶこの島は、サメが泳ぐ冷たい海水によって世間から隔絶された地である。
先住民であるネイティブ・アメリカンから「呪われた悪魔の島」だとして恐れられたこの島は、後に脱出不可能と言われた監獄島「ザ・ロック」へと改修され、全米有数の凶悪犯たちが収容されていた。
サンフランシスコの僻地にあり、本土から隔絶したこの島は機密保持にも安全対策にも打ってつけだ。そこに目を着けたのが、フェンリル北米支部の顧問であるオズワルド・スペンサー博士だ。秘密主義のスペンサー博士の手によって、この島はフェンリル北米支部によってアラガミ研究所へと再び改造されていた。
**
その日は嵐だった。雷鳴が轟き、暴風雨が吹き荒れ、強い波が海岸に打ち付けている。外では人が立っていることすら困難で、ほとんどの職員は屋内へ退避していた。
そんな嵐の夜に紛れて、アルカトラズでは1人の男が気づかれることなく潜入を果たしていた。男の名を雨宮リンドウという。
リンドウは非合法に入手した水中スクーターを使って潜水し、海中にある島の使われなくなった配管を神機でこじ開ける。かつての排水路を遡っていくと、島内に通じる地下水路へと達した。
(スパイのブライアンの話だと、この辺のマンホールを開ければ侵入できるって言ってたが……)
それらしいマンホールを見つけたものの、びくとも動かない。何かで塞がれているようだ。神機を使えば無理やり穴をあけられないこともないが、騒音を聞きつけてすぐ警備員が駆けつけてくることだろう。
再び、外で雷が鳴る。耳をつんざくような大音量だ。
(なるほど、そういうことか)
この嵐であれば、神機を使って破壊しても気づかれることは無い。リンドウは雷鳴に合わせるようにして神機を振るい、焦れる気持ちを抑えながら、少しづつ人が通れるような穴を開けていく。
ようやくリンドウがマンホールを通過したころには、神機を振るい始めてから1時間が経っていた。フラッシュライトで周囲を照らしながら、通路を先へと進んでいく。ブライアンとの合流場所は、たしか廃棄されたシャワー室だったはずだ。
どうやら区画が丸ごと廃棄されているらしく、シャワー室への道は瓦礫だらけだった。しばらく進むと、暗闇の中に立っている人影を見つけた。
「ブライアンか?」
リンドウが距離を縮めると、ブライアンは「よお」と気さくに手を振った。
「ずいぶん遅かったじゃないか」
「新しい道路を作ってたもんでね」
肩をすくめてリンドウが答える。
だが、神機からは手を離さない。それは研究所の警備兵が来た時の備えでもあったが、同時にいつでもブライアンを斬れる位置に置かれていた。まだ完全に信用すると決めたわけではない。
「おいおい、俺が裏切ると思ってるのか?」
「アウトローたちを裏切った奴の口から言われると、説得力が違うからな」
神機を握る腕に力を込めると、ブライアンは大きな溜息を吐いた。おおげさに首を横に振り、腕を大きく広げて肩をすくめる。
「俺だって無人神機兵なんてジョーカーがいるとは知らなかったんだ。ブシドーには反するかもしれんが、アダムと一緒にカミカゼしたって無駄死にだよ。命あっての物種だ」
リンドウはじっとブライアンを見つめていたが、やがて諦めたように神機を下した。
たしかにブライアンの言う通り、あの状況では北米支部の方に付かざるを得なかっただろう。
「……それで、お前は一体誰の味方なんだ?」
「人類さ」
「笑えない冗談だな」
ゴッドイーター、生き残った人々をアラガミから守る最後の盾。人の身でありながら、人類の守護神という、矛盾に満ちた存在だ。
言葉だけなら模範解答だが、この場において誰の味方でもあるということは、誰の味方でもないことでもある。
なんにせよ、完全には信用できない。それでもリンドウがブライアンの誘いに乗ったのは、無人神機兵について何か分かるかも知れないという期待があったからだった。
「さて、それじゃ本題に入ろうか」
聞きたいことは沢山あった。無人神機兵については、不明なことばかりだ。ペイラー博士からも、充分に警戒するよう忠告されている。
「ついて来い。あとフラッシュライトの光は消しておけ」
ブライアンはそう言うと、薄い月明かりとサンフランシスコ市街の灯りを頼りに、瓦礫をよけながら施設の中を慣れた様子で進んでいく。どこから情報を入手したのか知らないが、アルカトラズ島の見取り図はとっくに頭の中に入っているのだろう。
「なぁブライアン……今さらなんだが、他に侵入ルートは無かったのか?」
「脱獄不可能と呼ばれた全米有数の刑務所にか? もしそんなものがあるんだったら、こっちが聞きたいね」
「だとしても、せめてマンホールの蓋ぐらい開けてくれ。たまたま今日は雷雨じゃなかったら、音でバレてたぞ」
「そうでもないさ。あの辺は今じゃほとんど使われてないはずだ」
しばらく進むと、扉が見えた。
ブライアンが扉を押し開くと、そこにはぽっかりと大きな穴が開いているだけだった。頭だけを乗り出すと、遥か下まで続く大穴に何本もの太いワイヤーが垂れているのが見える。地獄まで続いていると言われても、思わず信じてしまいそうなぐらい深い。
「エレベーターシャフトか」
「ご名答」
ブライアンは茶化すと、ジャンプして曲芸師のようにワイヤーへと飛びついた。そのままベルトについているフックをワイヤーに引っ掛け、懸垂降下の準備を整えた。
(マジかよ……)
リンドウは一瞬だけ気が引けるも、ブライアンは当然のように「お前もやってみろ」と言わんばかりにベルトとフックを寄こして投げる。リンドウは諦めてワイヤーに飛び乗り、ブライアンに続いてひたすら下へ下へと足を運ぶ。
途中、急にエレベーターが上昇したら一巻の終わりだな、などと思っていたが幸運にも機械が動く素振りは無い。ワイヤーは延々としたまで続き、上から漏れる光が少しづつ少なくなっていく。まるで深海にでも潜っているような気分だ。
やっとのことでエレベーターの天井部分に足が付く。天井には通気口と思われる網状の格子があり、ブライアンがドライバーでネジを外すとエレベーター内部へと侵入することが出来た。
「よっと」
ブライアンは再び別のドライバーを取り出し、エレベーターの扉にねじ込む。するとゆっくりと扉の隙間から光が漏れ始めた。
「物資の搬入エレベーターだったのか」
「考えたもんだろ。もっと褒めてもいいんだぜ」
エレベーターから一歩踏み出すと、そっけないコンクリートの部屋に大量の段ボールやプラスチックの箱が乗せられたカートが置かれているのが見えた。
さらに奥へと進むと、広い空間があった。どうやらこちらが本当の倉庫室らしく、ドーム状の部屋にはいくつものコンテナが無造作に積まれている。
「こっちだ」
ブライアンが指し示したのは、天井の配管だった。恐らくは排気ダクトだろう。こちらの配置図もブライアンの頭に入っているらしく、排熱や排煙ダクトを避けながら換気ダクトを探り当てていく。
「よし、この中に入るぞ」
「まるでハリウッド映画だな」
本日何度目かになる配管の中に辟易しつつ、リンドウもブライアンに続いて換気ダクトへと侵入する。匍匐前進で狭い空間を移動していると、やがてブライアンが止まった。
「ツイてるな、リンドウ。―――こいつはビンゴだ」
気づいた人もいるかもしれませんが、映画『ザ・ロック』のノリ。