GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
工場の生産ラインにいたのは、やや場違いにも思えるスーツを着込んだ男と、F-SATのタクティカルベストを着込んだ男だった。
「――以上が無人神機兵『パトリオット』の正体だ。理解できたか?」
スペンサー博士の説明を聞いたグレアム・ウェーバー隊長は、無人神機兵が殉職した警官や死刑囚の脳を生体部品としたサイボーグだと知ると、怜悧なブルーの瞳で手にした部品を眺めた。
「つまり投薬で無理やり適合係数を上げて急造のゴッドイーターに仕立てていた、アウトロー達をサイボーグ化すると」
グレアムの理解力は、スペンサーを満足させた。大抵のアホは何度繰り返し説明しても理解してないどころか話すら聞いていなかったりするのだが、グレアムは1回説明しただけで要点を的確に掴む。
北米支部では、偏食因子を誰にでも適合できるほど弱体化させ、さらに免疫抑制剤を人体に打ち込むことで、本来であれば適性の無いはずのアウトローたちを『疑似ゴッドイーター』として利用している。
だが、無理やり適合させた俄仕立てのゴッドイーターでは戦力としては心もとなく、薬物の使用は人体への負担も大きい。より強力で、かつ消耗を抑える手段としてスペンサーが注目したのが、彼らをサイボーグへと作り替えることだった。
「まるで、どこぞの映画に出てくるデトロイトのロボ警官ですね」
実は古い映画が趣味のグレアムが皮肉げに言う。
「しかしアメリカは人権に厳しい先進国です。もしこの事実が明らかになれば、人権活動家に教会、そして有権者も黙ってはいませんよ」
「元々、のど元を過ぎれば熱さを忘れるような連中だ。手段を選んでいては勝てないと、また追い詰められないと思い出せんだろうよ」
「だが、それでも民意は民意です」
フェンリル北米支部のゴッドイーター部隊トップとして、グレアムはそれなりに北米支部の政治事情についても精通している。だが、それとは別に先祖の偉大な発明である、「選挙」というシステムもまた、グレアムはそれなりに評価していた。
少なくとも「自分たちが選んだ政治家が国を動かしている」と彼らが信じている限り、秩序を積極的に乱そうと思う者はそう多くない。実際には政治家は単なる看板に過ぎず、本当に国を動かしているのは、選挙で選ばれたわけでも何でもない官僚や政治顧問だとしても――。
「アーヴィング所長はこのことを?」
「知らないとでも?」
「でしょうね、愚問でした」
グレアムは眉根に皺をよせ、腕を組んで目をつぶる。彼が物事を考えるときのいつもの癖だ。
「無人神機兵『パトリオット』量産のためには、生きた人間の脳が大量に確保しなければなりません。供給源は?」
「基本的には囚人だな。今回のアウトロー騒ぎで素体となる死刑囚は増えたが、それ以上に需要が増えている。今後はホームレスを拉致してくるなり、安楽死を偽装するなりして、これまで以上に人材の有効活用が必要となる」
人を人とも思わぬスペンサーのセリフに、グレアムの表情が歪む。だが、気に入らなくても上司は上司だ。命令系統には忠実な軍人として、グレアムはこみ上げる嫌悪感を飲み込んだ。
「いいのか? ホームレスにはヤク中やアル中も多い。それに老化した年寄りの脳なんか使って、本当に大丈夫なのか」
「プログラムは標準化してある。記憶領域さえ問題なければ、パフォーマンスに影響はない。結局はただの人間であるゴッドイーターとは、そこが違う――」
その時、けたたましいサイレンが鳴った。
ハザードランプが一斉に点滅し、強固な合成金属で出来たシャッターが次々に降りていく。屋内放送で流れる女性のアナウンス音声は、侵入者の存在を知らせていた。
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非常警報の騒音は、換気ダクトの中にいるリンドウたちにもよく聞こえてきた。
「だからマンホールの蓋は開けておけと言ったんだ」
「まだマンホールが原因だと決まったわけじゃないだろ」
この期に及んで責任逃れを図るブライアンを、リンドウは軽く小突いてやろうかと思った。
――なにが「あの辺は今じゃほとんど使われていない」だ。どう考えてもバレる原因があるとしたら、あの杜撰な侵入ルートしかありえない。
「そう怒るな兄弟、今は責任追及よりも目の前の問題に対処する方を優先しよう」
それらしいセリフで誤魔化そうとするブライアンを、今度こそリンドウは神機で小突いた。
ブライアンみたいなことを言った人間で、本当に後で責任をとった人間は見たことが無い。大抵は目先の問題への対応が終われば、今度は「解決した話を蒸し返すな」と言って永遠に責任を取らないものだ。
とはいえ、実際問題としては換気ダクトの中で責任追及合戦を繰り広げている時間はない。少しでもこの場から脱出できる方法を考なければ。あんな会話を聞いてしまった以上、捕まれば間違いなく消される。
――だが、どこに逃げればいい?
リンドウたちが今いる場所は、すでに地下数十メートルの密室空間だ。もともと出入口は限られているし、隔壁で封鎖された現状ではさらに脱出が困難だ。
このまま排気ダクトの中で隠れている分には安全だろうが、永遠にかくれんぼをしている訳にもいかない。早くアーヴィングとスペンサーの陰謀を止めなければ、大勢の人々が生きたまま脳を切り刻まれ、記憶を操作されて死ぬまで機械の奴隷にされてしまう。
(あんなもの、正気の沙汰じゃない……!)
気づかれずに脱出するのは不可能。しかも、スペンサーとアーヴィングを早く止めないといけない。この困難な二重の目標を同時にどう達成するべきか。
(いや、一つだけ方法があるか)
自分で思いついておきながら、実に滅茶苦茶な作戦だとは思う。だが、事態は急を要する。リンドウは意を決して神機を握る手に力を込めた。
「ブライアン、あの二人を人質にとるぞ!」
そう言うが早いが、リンドウはダクト内で神機を力任せに振り回す。驚いたブライアンが「What!?」と聞き返すのを無視して、換気ダクトを内側から破壊して外へ躍り出た。
「動くな!」
突然ダクト内から現れたリンドウの姿に、驚くグレアムとスペンサー。グレアムの方は慌てて神機を展開しようとするが、手元に何も無いことに気づいて舌打ちする。最高機密の研究室に、武器は持ち込めない規則になっていた。
「ようグレアム、忘れ物かい?」
後から降りてきたブライアンも後に続いて銃タイプの神機を展開、二人に照準を定める。
すぐに騒ぎを聞きつけて20名ほどの銃を持った警備兵が現れたものの、ブライアンの神機を向けられたアーヴィング支部長とスペンサー博士の姿を見て動きを止める。さすがにこの状況で発砲するのは躊躇われた。
「よーし、いい子だ。さて、二人には大人しく付いてきてもらおうか」
「ブライアン貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!」
スペンサー博士が叱りつける。
だが、効き目は無かったようだ。ブライアンはへらへらと笑いながら、涼しい表情で受け流す。
「そのセリフ、そのままお返ししますよ。博士こそ、自分のしている事の意味を分かっていらっしゃるんですか? もし無人神機兵の実態が世間に公表されれば、辞職じゃ済まないですよ。愛娘のセレナも悲しむ」
「くっ……」
スペンサー博士が押し黙ったところで、リンドウとブライアンは二人を連れて移動する。警備兵の一人に命じて隔壁を解除させ、奥へと進んでいく。
「しかしリンドウお前、やる事が大胆だな」
「そっちこそ、同じことを考えていたんじゃないのか」
リンドウが返すと、ブライアンが「まぁな」と口元を歪める。
「さて、それじゃ二手に分かれるとしようか」
ブライアンはそう言うと、グレアムをリンドウの方に突き出した。
「リンドウは隊長を連れてアウトローたちを解放しに行ってくれ」
「お前はどうするんだ?」
「博士と一緒に無人神機兵の生産ラインを止めに行く」
わかった、とリンドウは頷いてグレアムに神機を向ける。
「妙な真似をするんじゃないぞ」
「しないさ。勘違いしてないで欲しいが、私個人としてはこんな非人道的な方法には賛成していない」
「だったら何故、スペンサーに従う」
「上官だからだ」
「なら、お前は運がいい。今のスペンサーはただの捕虜だ」
リンドウがアウトロー収容区画に案内するように言うと、グレアムは「こっちだ」としっかりした足取りで道を曲がっていった。
「さて、じゃあ俺たちはコントロール室だな」
ブライアンが神機を構える。スペンサー博士は憮然としていたが、抵抗は無意味だと悟ったのかブライアンに付いてくるよう促した。
新型神機兵の正体はまぁ、簡単に言うとロボコップ2です。