GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
EPISODE22:グラウンド・ゼロ
サンフランシスコ湾に面した海軍基地では、新たにロールアウトされた新型無人神機兵が何百、何千と整列している。それに加えて戦車、攻撃ヘリコプター、ステルス爆撃機、フリゲート艦からなるアメリカ軍は、軍事に詳しくない者が見ても壮観であった。
しかもそのすべてが完全無人戦力であり、広い意味では『パトリオット』神機兵のカスタム版とも呼べるもの。人間に割いてきた安全性・居住性・生存性・娯楽といった全ての機能がムダとして省かれることにより、相対的に性能は向上している。
照明の電力はセンサーに、乗組員のコックピットは弾倉に。それぞれ換装することで小型・軽量化に加えて、従来とは段違いのスペックを実現した。何より、人間の生物学的な限界がない。24時間フル稼働でも1か月は運用できる。
(あまり大々的にはしたくなかったが、公表してしまった以上はしかたない。それを最大限にアピールするまでだ。『パトリオット』神機兵が無敵であると喧伝することで、カネもコネもすべて集めてやる)
市民から熱烈な歓迎を受ける中、アーヴィング支部長は今後について思いをはせる。
性急な無人神機兵の導入に対する懸念の声もあったが、ことごとく世論という炎に消し飛ばされた。今は世界に薪をくべるときなのだと、多くの市民が考えた結果だった。燃やし尽くしたあとの世界のことは、その時に考えればいい。どちらにせよ、その世界はアメリカ主導になることだろうから。
今やアメリカ軍は再び、世界最強の軍隊に返り咲いたのだ。
――異変が起きたのは、その時だった。
「なんだ、おい!担当者は何をやっている!パレードを続けろ!」
突如として、整然と行進していたはずの『パトリオット神機兵』がその歩みを止めたのだ。中にはガクガクと痙攣しているような機体もあり、何かしらの不具合が生じたことは明らかであった。
(そんな、何重にもチェックしたはずなのに……)
いち早く異常事態に気づいたセレナは携帯端末をとり、運用システムにアクセスする。だが、マスター権限を持っているはずのセレナのIDを使っても、端末はエラーを繰り返すばかりだ。
「嘘でしょ……私のIDがアクセス権限が凍結されてる!?」
基幹システムなだけに、厳重なセキュリティが何重にもかけられていた。にもかかわらず、警備責任者であるセレナのアクセスを受け付けないとは、どう考えても異常事態だ。
うろたえるセレナの前で、ガチャン!と大きな音が響いた。無人神機兵のうち一体が、いきなり武装形態を見栄えの良い剣モードから銃モードに切り替えたのだ。
慌てて士官の一人が駆けつける。
「ナンバー0066! 今すぐプログラムを停止せよ!」
護衛は無人神機兵のシリアルナンバーを確認し、緊急停止を命令した。マニュアルでは、動作不良が生じた機体は一時停止させ、原因解明のためにアルカトラズ研究所に送り届ける手順になっている。
マニュアル通りに対応した士官だったが、その無人神機兵は無言で士官の方に向き直ると、無機質な警告音を発した。
「武器ヲ捨テナサイ―――10秒ダケ猶予ヲ与エル」
士官は困惑していた。無理もない。彼は儀礼用の服装に着替えており、武器など持っていないのだから。
だが、無人神機兵『パトリオット』はそのままカウントを続け、停止命令も受け付けない。
「クソッ! どうなってんだ!? 待て――ぐぁっ!」
狼狽する士官の制止を無視し、タイムカウントが切れると無人神機兵は発砲を開始。不運な士官の悲鳴は途中で途切れ、一瞬で顔が吹き飛んだ。血と骨と肉片が周囲に飛び散り、力を失った四肢がぐったりと垂れ下がる。
それがパニックの引き金となった。
「う、うわぁぁあああああッッーーー!」
悲鳴が連鎖的に広がり、群衆が我先にと逃げ出す。
「なっ……」
警備していたセレナが声を失っている間にも、見れば会場を警備していた『パトリオット』神機兵があちこちで暴走を始めていた。
ショックから立ち直った生身の人間の兵士が一部で応戦しているが、通常のアサルトライフル程度では傷ひとつ付けられていない。銃撃戦に巻き込まれた数千の群衆は逃げ場を失い、会場は燦燦たる有様だ。
「――支部長!」
無人神機兵の暴走と、数千の観客を巻き込んだ銃撃戦を目の当たりにしたセレナは、アーヴィング支部長の姿を見つけると庇うようにして会場から退避を図る。
「こちらに来てください! 今のうちに脱出を!」
アーヴィング支部長は頷くと、セレナの背中に隠れるようにして机の下から立ち上がった。大の大人の男が自分より女子大生ほどの女性に隠れている姿は滑稽であったが、それを誰も気にする余裕がないほど現場は大混乱に包まれている。
セレナは神機を展開させて周囲を警戒しつつ、対アラガミ用のスタングレネードを周囲に炸裂させる。
「急いでください!」
無人神機兵にはアラガミのオラクル細胞が使われており、セレナの狙い通りスタングレネードを当てれば一定時間は麻痺するようだった。実際、無人神機兵たちは武器を展開し、次々に火炎弾や電撃を放っている。これでは反乱というより、アラガミ化した暴走だ。
「アラガミ化だと!? 馬鹿な! スペンサーの奴は100%安全だと……!」
「支部長、ここは危険です! 急いで離れましょう!」
血の惨劇から逃れるようにして軍用駐車場についたセレナは、逃走中のジープを捕まえてアーヴィング支部長を車内に押し込んだ。助手席に乗り込んだセレナは、脱走しようとしていた若い運転手を睨みつける。
「これからアーヴィング支部長を避難させます。協力してくれますね?」
エメラルドの瞳で睨みつけられた若い新兵は、こくこくと頷いてアクセルを踏んだ。ジープがエンジンを唸らせて急発進する。
「一体、何が起こっているんだ?」
狼狽したアーヴィング支部長が問うと、セレナは顔を歪ませた。
「……詳細は分かりません。ですが、警備責任者である私のアクセスすら受け付けないということは、現状で無人神機兵を統制する手段は無きに等しいものかと」
「スペンサー博士……いや、君の父上からは?」
「アルカトラズへ通信を試みましたが、応答はありません。神機兵は完全に我々のコントロールを離れ、暴走状態にあります」
「初期不良の類か? それとも……」
アーヴィングの問いに、セレナは首を振った。
「初期不良が原因の場合、暴走するのは一部の個体だけに留まるはずです。一斉に全ての神機兵が暴走したとなると、恐らく何者かがウィルスでも流し込んで『パトリオット』を制御するネットワークシステムそのものを破壊したものかと」
考えうる限り最悪の推測に、思わず天を仰ぐアーヴィング。だが、セレナは状況がさらに悪化すると産んでいた。
「無人神機兵は一体一体が接触禁忌種アラガミに相当するスペックです。今すぐにでも手を打たなければ最悪、北米支部が壊滅します」
セレナの言葉にアーヴィングが絶句したとき、急にジープが停止した。運転手がブレーキを踏んだのだ。
前を見れば、逃げてきた大勢の観客とパニックになった市民が道路を埋めている。
「市民が多すぎて、これ以上進むのは無理です!」
「か、構わん! アクセルを踏め! 庶民の一人や二人、撥ねてもどうにかなる!」
アーヴィング支部長が叫ぶも、運転手は怯えた顔でセレナに懇願するような表情を向けた―――自分には出来ない、と。
「私がやるわ」
この期に及んで愛想も何もない。セレナはシートベルトを外して無理やり運転席に乗り込むと、赤面する新兵の股の間に細身の体を滑り込ませる。こんな状況にもかかわらず腰に固いナニかが当たるのを感じて嘆息し、次の瞬間には覚悟を決めて勢いよくアクセルを踏み込んだ。
い つ も の