GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
EPISODE27:命の選別
攻撃の報告は、空母ユナイテッド・ステーツのブリッジにも飛び込んできた。アーヴィングも寝ていたところを起こされ、眠気の残る頭をフル回転させて対応にあたる。
「被害状況は?」
「駆逐艦アトランタが沈没しました。現在、ゴッドイーター隊が出撃しています」
その時、モニターを見ていたオペレーターの一人が叫んだ。
「第二波、来ます!」
それと同時に、再びサンフランシスコ湾内で爆発が起こる。今度はどの船が沈んだのだろうか。
「大量のアラガミ、湾内に出現!」
襲撃は止むどころか、むしろ拡大していた。索敵モニターには、無数の光点が点滅している。
「いよいよ総攻撃というわけか」
アーヴィング支部長が唸った。
「艦載機は全機、スクランブル発進させろ。待機中の兵士とゴッドイーターには、帰還命令を出せ。停泊中の船もすべて、発進の用意を」
アーヴィングの命令に、ブリッジの全員が持ち場について作業を始める。
「30分後に、船団はサンフランシスコを離れる。それまでに可能な限り多くの避難民を収容しろ」
アーヴィング支部長の言葉に、ブリッジの全員に緊張感が走った。
「そんな短時間では、とても……!」
オペレーターの一人が悲鳴を上げる。だが、アーヴィングは機械的に告げた。
「これは決定事項だ。30分後には、サンフランシスコ市内に向けて核ミサイルが発射される」
息を吞む一同。だが、これもアーヴィングにとっては想定内の範囲だ。
「決定を変えるつもりは無い。封じ込めに失敗すれば、この被害が北米全土に広がってもおかしくないんだぞ」
被害を最小限にして切り捨てるための、非情な判断。それでも、誰かがやらねばならない。
アーヴィングが背負っているものは、この地球で最後に残った文明の名残だからだ。
それは単なる領土や、そこに住む人々だけを意味するのではない。文化や思想、そして“アメリカ”そのもの―――。
アーヴィングの両肩には、その歴史が持つ重みが強くのしかかっていた。
**
サンフランシスコは、逃げ惑う人々で大混乱だった。
その中で、ゴッドイーター隊がアラガミと戦っている。兵士や警官たちも、船に避難民を誘導するために必死だ。
セレナたちは、アラガミの襲撃に苦戦していた。
これまでの戦闘では、常に火力と情報で優位に立った上で一方的に殲滅するような戦いしかしてこなかった。数でも火力でも負けた状態での戦いでは、どうしていいか分からず実力を発揮できない物も少なくない。
(一度にこれだけ来られると、倒しても倒してもキリがない……!)
セレナの表情には焦りの色が見える。脱出まで、もう時間がない。残弾数も少なく、北米支部のゴッドイーターたちは近接戦闘に慣れていない。
(部下たちのことを考えれば、退却しかない。けど、まだ避難中の人たちが……!)
どうすべきか決めあぐねるセレナ。連日の疲労が溜まり、注意力が落ちていたこともあったのかもしれない。
背後に迫るアラガミに気づくのが少しだけ遅れた。
(っ……!?)
やられる―――そう思っていたところに、目の前のアラガミが爆発した。
「よかった!間に合った!」
神機を展開したコウタたちだった。
「コウタさん!? それに、貴方たち……!」
コウタの後ろには、オレンジ色の囚人服を着た一団。収容所に送られたはずの、アウトローたちだ。囚人服のまま、簡易型神機「ミニットマン」を展開している。
「こんなんで手こずるとか、これだから撃たれ弱いエリートは嫌いなんですよね」
そう言いながら、アラガミに切り込んでいく。
「無茶よ!危険すぎる!」
セレナの制止の声が届く前に、ヒルデはアラガミに切り込んでいた。巧みにアラガミの砲撃を躱しながら接近し、至近距離から弱点を狙い撃ちにする。
実際、危険は大きく、うまく砲撃を躱し切れずに四肢を吹き飛ばされるアウトローたちも多くいた。
だが、仲間の損害も顧みず、ヒルデたちは狂戦士のようにアラガミに立ち向かっていく。
恐らく我流であろうヒルデたちの動きには無駄も多く、射撃の腕や体さばきでいえば北米支部所属のゴッドイーターたちの方が上だろう。だが、死を恐れず戦闘に身を投げるアウトローたちの戦いぶりには、えもいえぬ気迫があった。
「こんな戦い方って……」
自分たちとは全然違う。気づけばセレナは、ヒルデたちの戦いぶりに圧倒されていた。しばらく呆気に取られていると、セレナのイヤホンにブリッジから通信が入った。
―――帰還命令だ。
「ですが、まだ避難民が……」
セレナが抗議しようとすると、アーヴィング支部長の声が割って入った。
「守るべき避難民は市内に残っている者だけではない。言っている意味は分かるな?」
ぐずぐずして、既に港を離れた船まで破壊されては元も子もない。セレナにもそのぐらいの事は分かっていた。すぐさま部隊に命令を飛ばす。
「全員、帰還せよ。これは命令よ」
そう言いつつ、命令とは逆の方向に向かうセレナ。慌ててジェシカが呼び止める。
「ちょっとセレナ隊長!?」
「ごめん、10分だけ残らせて」
悪あがきかもしれない。自己満足かもしれない。それでも、一人でも多くの人が救えるなら。
**
空母ユナイテッド・ステーツの艦橋にある指令センターでは、最終調整が行われていた。すでに艦載機も帰還しており、あとはアーヴィング支部長の命令を待つだけだ。
「セレナの奴、隊長から率先して命令を破るとは……」
アーヴィングが苦々しげにぼやく。だが、すぐに頭を切り替えて部下の報告に耳を傾けた。
「現在、17万人の収容を確認。まだ多少は増えると思いますが……」
「予定の約半分か……」
何を思っているのか、その表情からは判断できない。
だが、沈黙も一瞬のことだった。すぐにアーヴィング支部長は顔をあげると、ブリッジの全員に命令を下した。
「よし、全艦隊に発進命令。最大船速でサンフランシスコから離脱せよ。安全圏に入り次第、各ミサイル攻撃を開始する」
アーヴィングが椅子に座ると、ブリッジ要員も続いて着席した。
エンジンが唸り、ゆっくりと空母ユナイテッド・ステーツは海に浮かぶ巨体を動かし始めた。次々に甲板にヘリが着陸し、乗員を下ろしてはスペース確保のために機体が海に投げ捨てられていく。
ブリッジのモニターには、サンフランシスコ市内の様子が映し出された。置いて行かれた避難民たちが必死で助けを求めるさまを、一同は無言で眺める。
時おり発生する爆発は、まだ残っている兵士や警官たちが戦っているからだろうか。まだ市街地にいる人々のために、最後まで戦っているのだ。
――既に核ミサイルが街に向けて発射されているとも知らずに。
「フリーダム小隊、帰還しました」
モニター越しに報告するのは、セレナ率いるフリーダム小隊のジェシカ・ハーパー曹長だ。隊長であるセレナと副隊長であるブライアンの姿はない。
「支部長、あと10分だけ待っていただくことは出来ませんか? まだセレナ隊長が……」
「独断専行のために、作戦を変更することはない」
ばっさりと、アーヴィング支部長は切って捨てる。
「すでに30万人は確保した。核ミサイルも発射されている。作戦は中止も延期もできない」
「そんな……!」
「他にどんな手がある? たしかにまだ救えるかもしれない命はまだ沢山ある。だが、その僅かな可能性のために確実に救える30万の命を危険にはさらせない」
どの道、残っているヘリコプターや輸送機に、全員は乗せられないのだ。その時間もない。善意であれ能力を超えた欲を出せば、かえって被害が拡大するかもしれない。
「助けられる命は大いに越したことはないが、もし失敗したら君にその責任がとれるのか? 大きな犠牲を払ったからこそ、何としてでもリスクを排除して生き残らねばならん。救える命を確実に救う―――それが私のやり方だ」
そういえば有名なダンケルク撤退戦、最後まで殿を務めて英軍の退却を見届けてから降伏したフランス軍部隊がエモいんですよね。