GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
ブライアンが操縦する人工アラガミ『ポール・バニヤン』は限定的な飛行能力を持つ。10人程度の人間であれば、ぶら下がっていても問題は無い。
「……11、12って全部で13人いるんだけど」
ヒルダが指摘すると、間髪入れずにセレナが答える。
「ええ、だから
「セレナさん!?」
声を上げたコウタを、セレナは優しく諭す。
「もうこのサンフランシスコにいるアメリカ人は、私とグレアム隊長だけ。だから、私たちが責任をとらないと。誰が率先して犠牲を払うべきかは、明らかでしょう?」
セレナの言葉は、重かった。
「私とグレアムの命……今の北米支部が弁償できるのは、これぐらいしかないから」
思い切った覚悟だった。
「アメリカは変わらなければいけない。だから貴方たちは必ず生き残って、未来を背負って生きて」
代わりに託されたものは、アメリカの未来だった。
「なるほどねぇ、コウタ君が惚れるわけだ」
沈黙を破ったのは、場違いなヒルデのセリフだった。赤面するコウタときょとんとしたセレナを他所に、ヒルデは神機を展開する。
「いいんじゃないですか? その案、アタシは乗りますよー」
ヒルデが決して好感を持っていなかった北米支部のゴッドイーターであるセレナを認めたのは、それだけの覚悟を見せつけられたからだ。自分たちが生み出した悪魔と戦い、責任をとろうとする、その決意を。
ヒルデの言葉を聞いて、アウトローたちが迷っていたのは一瞬のことだった。
「それで、どうする?」
***
「しくじるなよ」
「そっちこそ」
笑顔でグレアムにそう言うと、セレナは駆け出した。崩れかけたゴールデンゲートブリッジの上、横転して炎を上げる何台もの装甲車やジープの横を走り去っていく。横倒しになったトラックからは、黒焦げの兵士と避難民が這い出るようにして息絶えていた。
そして轟沈する空母ユナイテッド・ステーツの甲板に佇むブライアンの上まで辿り着くと、橋から身を乗り出してセレナは神機を乱射した。背後、しかも頭上からの攻撃にも関わらず、ブライアンの反応は早かった。すぐに攻撃を回避し、倍返しと言わんばかりに応戦してくる。それがセレナの狙いだった。
ブライアンの乗るポール=バニヤンは眩い光を放つと、その巨体からは信じられないほど優雅に宙へ浮き始めた。
セレナは廃車の間を抜け、その陰に身を潜めてやり過ごそうとする。
「無駄だ!」
だが、ブライアンはシャワーのように無数のレーザーを放ち、小型乗用車から大型トラックまでまとめて吹き飛ばす。まるで勝負にならない。戦車で戦艦に立ち向かうかのごとく、圧倒的な火力の差だ。
「こっちよ!」
セレナはからかうように手招きすると、再び走り出す。ブライアンはトレーラーを殴り壊し、車を跳ねのけ、恐るべき疾風となってセレナを追った。
――逃げ切ることは不可能だ。
だが、セレナは最初から逃げ切るつもりなどなかった。巨人の拳を逃れ、セレナは橋の入り口へと移動する。すぐ近くには国立公園があり、森から漂う深い霧に包まれている。身を隠すにはもってこいの場所だ。戦う意志のない者にとっても、そうでない者にとっても。
追ってきたブライアンは、セレナが逃げ去る先で無数の殺意が自分へ向けられているのを感じ取った。
「ッ……待ち伏せか!?」
ポール=バニヤンが急停止するのを見て、リンドウは舌打ちした。流石に北米支部のエースというだけあって、相手も勘がいい。簡単には罠に引っかかってくれないようだ。
「撃て!」
リンドウの号令と共に、ポール=バニヤン目掛けて無数のバレットが飛んでいく。ヒルデたちアウトローは二手に分かれ、挟み撃ちの要領で獲物を囲んでいた。
放たれたバレットはポール=バニヤンの巨体に吸い込まれていき、一斉に爆散した。さらに背後から一人、グレアムが躍り出て神機を連射する。背中からの奇襲を受けてブライアンは反射的に、その巨体を反転させた。
「うぉおおおおッ!」
だが、グレアムの方も負けてはいない。
逃げるどころか逆にポール=バニヤンに向かって駆け出していく。接近することで、ポール=バニヤンの高火力を使えないようにするつもりなのだ。
虚を突かれたブライアンは距離をとろうとするが、間に合わない。ジャンプして巨人に飛びついたリンドウは、至近距離から弱点である頭部を狙い撃ちにする、素早くトリガーを引き、次々にアサルトバレットをポール=バニヤンの顔面に叩きつけた。
――これで、ポール=バニヤンの視界を奪った。の狙い通り、ポール=バニヤンの肋骨部分が左右に開いて生身の人間が露出する。憤怒の形相のブライアンだ。
だが、それが限界だった。
センサー類が集中している頭部を破壊したところで、本体には傷ひとつつけられていない。
ポール=バニヤンが吠え、大きく体を捩じるとグレアムは遠心力で吹き飛ばされる。
「がッ………!」
地面に強く叩きつけられ、何度か地表を転がったあと、立ち上がろうとするグレアムが血反吐を吐く。すぐにその全身から力が失われた。骨を何本か折ったのだろう。あるいは地面にぶつかった衝撃で、内臓がぐちゃぐちゃになったのかもしれない。
「――隊長!?」
すぐにセレナが駆け寄ろうとするが、ブライアンはそれを許さなかった。耳をつんざくほどの大音量で咆哮すると、強烈な衝撃波を全方位に向けて放った。
「うわっ――!?」
「きゃぁ――ッ!」
セレナだけでなく、ヒルデやコウタ、アリサたちまで一緒に吹き飛ばされる。とっさに神機を地面に突き立てたリンドウでさえ、一瞬だが身体が宙に浮くほどの威力だ。
「いくら何でも無茶苦茶だろ、アラガミかよ!」
ブライアンが次の行動に移る前に攻撃するべく、グレアムは駆け出した。だが、その動きは完全に読まれていた。
ブライアンが腕を振り回し、大の大人ほどもある拳がグレアムの脇を掠めた。
「降参するなら今のうちだぞ?」
ブライアンがあざ笑うように、巨体で一気にグレアムにタックルを仕掛けてくる。間一髪で躱したグレアムだったが、接近戦でも勝ち目はないようだ。
「ったく、デカさに似合わない俊敏さだな」
勝てないと分かると、グレアムはさっさと逃げ出した。背後から撃たれないよう、遮蔽物を利用しながらジグザグに移動する。逃げ行くグレアムをブライアンが全力で追いかけていくと、国立公園入口の横にある駐車場へと辿り着いた。
「邪魔だ!」
ブライアンは、グレアムが逃げ隠れる乗用車や軍用車両を、次から次へと跳ね飛ばす。
魔法のように車が空を飛び、そして次々に論面へと激突した。轟音と共に装甲車が砕け、内部に積まれていた弾薬に引火して花火のように火を噴く。戦場と化した駐車場を駆け抜けたグレアムは、端に止まっていたコンボイのタンクローリーの車体下へとスライディングした。
ポール=バニヤンはそのまま拳でタンクローリーを殴りかけ、寸でのところで腕を止めた。タンクローリーに『強燃性、火気厳禁』と書かれた警告ステッカーに気づいたからだ。
「ご苦労さん」
タンクローリーの下でグレアムが呟く。この距離では狙いをつける必要すらない。引き金をゆっくりと引き絞ると、タンクに大穴が開く。内臓をえぐられた人間が血を流すように、強燃性の油が勢いよく噴き出していく。
それが地面に広がっていき、グレアムの背中を濡らしていく。オイルの気持ち悪い感触に悪態を吐いて、グレアムは神機を捨てた。
「まったく、死ぬにはいい日だぜ」
代わりに取り出したのは、45口径オートマチックだ。アメリカ人のパワーの自由と正義の象徴、その残弾を全て撃ち込む。
「じゃあな、戦友」
次の瞬間、火気厳禁の文字の中央を弾丸が貫通し、跳弾が金属と擦れて火花が散る。そしてついに、強燃性のオイルに火が付いた。一部は揮発ガスとなっていたこともあって、引火した炎は一瞬のうちに周囲を大爆発へと巻き込んでいく。
それはまるで、巨大なフェニックスが大きな羽を広げたかのようであった。
轟音と共に爆炎が膨れ上がり、ポール=バニヤンの巨体を逃がす間もなく飲み込んでいく。ブライアンの姿も一瞬してその中へと消えた。衝撃波が熱風と共に広がり、もうもうと黒煙が立ち上る。
「……これで、終わったんでしょうか」
熱風が収まってから、アリサが不安そうに呟いた。
「だといいんだがな」
意識の回復したリンドウは、その隣に立って火柱を睨みつけていた。時おり咳き込んで血反吐を吐いているが、それでも神機を放そうとはしない。苦痛に歪んだ顔で、じっと炎の奥を睨みつけていた。
こんなことで、あのブライアンが死ぬとは思えない。
戦闘シーンって難しい・・・。