GOD EATER -The Frontier Spirits-   作:フェンリル北米支部

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EPISODE30:LAST STAND

 リンドウの悪い予感は的中していた。黒煙と炎の向こうで蠢くものがあった。巨大なそれは天を見上げ、大きく呼吸を繰り返していた。

 

 ポール=バニヤンは健在だった。

 

何千度の炎も、衝撃波によって音速で吹き飛ばされた金属片も、その巨体を傷づけることは出来ない。開いていた肋骨部分も閉じており、恐らくはその中でブライアンも生きているのだろう。

 

 もっとも流石に完全な無傷という訳にはいかなかったのか、ひしゃげた飛翔ユニットがパージされた。だが、それ以外の動きに支障は無いようだった。

 

 

 そしてゆっくりと、再びポール=バニヤンの中からブライアンが姿を現した。

 

「ハリウッド映画のラストみたいにゃいかないぜ?」

 

 ポール=バニヤンが再び、大気が震えるほどの衝撃波を放つ。そしてリンドウたちの方へ向かって一気に距離を詰めてきた。

 

 

「避けろ!」

 

 

 剣形態で応戦しようとしたアリサを、リンドウは庇うようにして横に倒す。あれに立ち向かうのは、ナイフで列車を止めようとするようなものだ。

 

「ぐぁッ―――!?」

 

 運悪く逃げ損ねたアウトローの一人が、巨人の突進で弾き飛ばされる。そしてポール=バニヤンはその巨体から信じられないような身のこなしで、一瞬のうちに身体を逸らせて立ち止まった。

 

 

 だが、そのわずかな間にヒルデたちも反撃準備を整えていた。迫るブライアンに向かって照準を合わせ、再び引き金を引いた。

 

「くたばれ!」

 

 アラガミバレットが真っすぐにポール=バニヤンへと向かう。しかし巨人は面倒くさそうに腕を振ると、そこから放たれたレーザーがコンパスのように一閃した。

 

「嘘でしょ―――」

 

 アラガミバレットはレーザーで相殺され、衝撃波がヒルデたちの身体を枯草のように吹き飛ばす。一瞬遅れてビルの一階部分が砂煙を上げて崩落し、地響きと共に壁の一角が砕け飛んだ。

 

 

「次は俺のターンだ」

 

 ブライアンがにやりと笑うと、再びポール=バニヤンが光に包まれる。空母ユナイテッド・ステーツを一瞬で轟沈させた、破壊のシャワーが放たれる予兆だった。

 

「逃げて!」

 

 慌ててヒルデが叫ぶ。蜘蛛の子を散らすようにして逃走を図るアウトローたち目がけて、ブライアンの全方位攻撃が殺到する。

 火柱が上がり、トラックが横転した。粉砕して吹き飛んだ部品が矢のように地面を削り、ヒルデは頭を抱えて地面に転がった。

 

 痛みを確認する暇もない。目の鼻の先に、ポール=バニヤンの巨体があった。

 

「っ――」

 

 慌てて神機の引き金を絞る。

 

 

 だが、何も起こらない。

 

 

 弾倉は既に空になっていた。動揺したせいで確認を怠っていたのだ。

 

「こんな時に―――」

 

 舌打ちする間は無かった。ポール=バニヤンの拳が、目の前に迫ってくる。もう逃げることは出来ない。

 

 

 だが、それでもヒルデは目の前の怪物を睨んだ。視線で相手を殺せるとは思わないが、せめて死ぬ前に唾ぐらいは吐いてやろう。

 

 本当にくだらない、しかし文字通り必死の覚悟をしたヒルデに声が聞こえた。

 

 

「ヒルデ!」

 

 意外と近くから聞こえたそれは、コウタの声だった。

 

 

 ブライアンが拳を振り上げたまま、声の方を向くとコウタが突っ込んでくるのが見えた。そして彼の背後にいるアリサの神機から放たれるバレットの残影も。

 

 次の瞬間、1人のアウトローが放ったバレットが、ポール=バニヤンの肩を撃ち抜いた。

 

 一瞬、巨体がぐらつく。その隙にコウタはヒルデを掴んで引きずり出し、渾身の力を振り絞って海に放り投げた。

 

「ちょ、少年―――!?」

 

 驚いたような声を最後まで言い終えることなく、ヒルデは水中に沈んだ。水面からは泡がぶくぶくと浮いているのが見える。あと数秒もすれば、浮き上がってくるだろう。

 

 

 とりあえずヒルデの無事を確認したコウタは、神機を振り上げた。

 

「このッ!」

 

 何度も何度も、神機のブレードでポール=バニヤンを叩き斬るようにしてぶつけていく。

 しかし、やはり傷一つ付けることは出来ない。

 

 ブライアンは忌々しげにコウタを見下ろし、再びその巨体を飛翔させる。コウタの攻撃が届かない場所から、レーザーで一掃する気だ。

 

 

 だが、それを許さない者がいた。

 

 

 甲高い飛翔音が不意に飛び込んでくる。同時に、ポール=バニヤンの巨体に爆発が発生し、大きくバランスが崩れる。

 

 

「あれは……!」

 

 

 ヒルデが茫然と呟く。その時、ようやくコウタにも唸るようなエンジン音が聞こえてくる。

 

 

「あれ、戦車なのか……!?」

 

 

 長い歴史を持つサンフランシスコの象徴たる赤い鉄橋の上から、道を阻むものすべてを鋼鉄のキャタピラで踏み潰しながら進んでくるものがある。

 

 

 ゴールデンゲートブリッジを爆走する獰猛な鉄の獣こそ、かつての偉大なアメリカの力の象徴―――主力戦車M1エイブラムスだった。

 

 

 先ほどポール=バニヤンの強固な装甲を貫いたのは、この戦車の持つ44口径120mm滑腔砲の砲弾だったのだ。

 特徴的なガスタービンエンジンを唸らせ、橋上に転がる廃車を跳ね飛ばしながら真っすぐに突進してくる。

 

 

 ポール=バニヤンに乗るブライアンは逃げようとはしなかった。

 

 

 それどころか戦車の前に立ちはだかり、かかってこいと言わんばかりに突進する。

 そして角を持つ動物同士が縄張りを巡って争うように、あるいはアメフトでタックルでもするかのように、エイブラムス戦車とポール=バニヤンが正面から激突した。

 

 

 ポール=バニヤンは全てのスラスターを噴出させ、戦車のタックルを前進で受け止めている。

 しかし戦車の方もエンジンをさらにふかし、キャタピラで地面を削るようにしてぐいぐいとブライアンを押し込んでいく。

 

 

「いいぞー! やっちゃえ! USA! USA! USA!」

 

 下でぷかぷか浮かびながら叫んでいるヒルデの歓声に反応したわけではないだろうが、徐々にエイブラムス戦車が優勢となってきた。

 踏ん張るポール=バニヤンの脚部ユニットが圧力に耐えきれずヒビ割れ始め、少しづつ地面にめり込みながら後ろへと押されていく。

 

 

「コウタさん! リンドウさん! 聞こえますか!」

 

 戦車のハッチが開き、そこから顔をのぞかせたのはアリサだった。

 

「いま、セレナさんが戦車で抑えてくれています! この隙にポール=バニヤンを!」

 

 どうやらエイブラムス戦車を操縦しているのはセレナのようだ。そこら中で廃棄されている軍用車両の中から、動かせるものを見つけたのだろう。

 アラガミが誕生してからの戦車はもはや恐竜のような存在であったが、中に人間が搭乗しているのなら話は別だ。

 

「しかしセレナさん、ほんと何でも出来るんだな……」

 

 ハイスペック女性は数あれど、ゴッドイーターの激務の間にどこで戦車の運転免許なんて取ったのだろうか。

 戦車の方だって、こんな使い方をされるとは思ってもいなかっただろう。

 

 

「コウタ、脚を狙え!」

 

 

 リンドウが叫ぶ。

 

 

「了解!」

 

 

 リンドウの狙いは、ポール=バニヤンの機動力を潰すことだった。いくら頑丈でも、動きさえ止めれば急所を狙える。

 

 コウタは全身の痛みを堪えて走り、何度もポール=バニヤンの背後から切りつける。

 否、切るというよりもはや叩きつける感覚で、神機に全身全霊の力を込めて振り下ろす。

 

 

「うぉらぁああああッ!」

 

 

 がつん、と大きな音がした。ついに脚部ユニットが割れたのだ。ポール=バニヤンはその巨体の重量を支え切れず、膝をつくようにして大きく態勢を崩す。

 

 

「アリサ! スタンだ!動きを止めるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 リンドウの号令と共にアリサがスタングレネードを放り投げ、コウタもとっさのところで回避する。

 戦車に身動きを封じられたポール=バニヤンに回避することはかなわず、目の眩むような閃光が炸裂する。

 

 ――ポール=バニヤンがようやく動きをとめた。

 

 そして身動きのとれぬ彫像のように固まる人造アラガミから、M1エイブラムス戦車が後退して僅かに距離を取った。

 車体の動きが止まり、今度は巨大な砲塔がゆっくりと動いていく。そして獲物に槍でトドメを刺すかの如く、長大な主砲がその頭部に向けられた。

 

 

「撃て!」

 

 

 セレナに聞こえないと分かっていても、コウタは叫ばずにはいられなかった。そして次の瞬間、 44口径120mm滑腔砲から砲弾が発射された。

 

 劣化ウランで貫通力を高めたAPFSDS弾は、発射と同時に炸裂した。

 

 ポール=バニヤンが一瞬で粉々に吹き飛び、爆炎が炎上に広がってゆく。さすがのブライアンも、文字通りゼロ距離から戦車の主砲で直撃されては無事ではいられないだろう。

 

 

 ただ、想定外のことがあったとすれば、燃え広がる炎が周囲の森に引火してしまったことだ。

 

 沿岸部は比較的湿度が高いとはいえ、基本的にカリフォルニアは乾燥気候だ。森の中で少しでも火の気があれば、一瞬で燃え広がって山火事となることも珍しくない。

 

 ポール=バニヤンとの戦闘で至る所に広がった炎は、木から木へと移って早くも山火事の兆しを見せ始めていた。

 

 

「――セレナさん!」

 

 

 はっと我に返ったコウタは慌てて戦車にかけよろうとする。だが、あと数歩というところで目の前に燃える炎をまとった巨木が倒れ落ちてきた。

 

「無理だ! コウタ、諦めろ!」

 

「でも!」

 

「すぐにでも辺り一面に燃え広がります! 早くここから逃げ無いと!」

 

 アリサとリンドウの言葉は正論だ。それでも、と戦車を見るとハッチからセレナの顔がのぞいた。向こうも、コウタに気づいたようだ。

 

 

「―――――」

 

 

 セレナの唇が動く。声は聞こえなかった。

 

 

 そして次の瞬間、また別の木が倒れ落ちてきて、コウタの視界を塞いだ。すでに炎だけでなく煙も充満していて、アリサの言う通り早く逃げなければ一酸化炭素中毒の危険がある。

 

 それが、コウタの見たセレナの最後の姿だった。

 

 

「急いで崖まで走るんだ!」

 

 切羽詰まった様子で、リンドウが叫ぶ。

 

 まもなく無数の核弾頭ミサイルが放たれ、サンフランシスコは死の街となるだろう。

 上空を見上げると、いくつもの飛行機雲を残して急速に街へと近づいていく核ミサイルが見えた。

 

「どうするんですか!?」

 

 ようやく崖まで辿り着いたアリサが恐る恐るリンドウに尋ねる。彼女自身、どうすべきか答えは既に出ているのだろう。

 

 眼下に広がる大海原―――身のすくむような高さだ。

 

「海水浴といこうか」

 

 リンドウが最初に飛び降り、アリサがそれに続いた。生き残った他のアウトローたちも一瞬ためらった後に覚悟を決め、最後にコウタが残った。

 

 

 ちらり、と一瞬だけサンフランシスコの街を振り返る。

 

 

 自由と民主主義、正義と繁栄をほこった夢の街。その全てを清算するかのように今、サンフランシスコは炎に包まれていた。

 そして数秒後には、全てが塵へと帰ることで夢から醒めるのだろう。

 

 

(さようなら――)

 

 

 サンフランシスコに。アメリカに。そして、セレナさんたちに。

 ここで会った全てのものに、最後の別れを告げる。

 

 コウタが飛び降りると、街から大きな音が聞こえた。これまで聞いたどんな音よりも大きな爆発音が。

 

 続いて凄まじい熱が押し寄せ、肌が焼けるような熱さと体が宙を浮く感覚で体中の器官が平衡を失い、頭がぐるぐる回って落ちるような気持ち悪さを感じた後、コウタは冷たい水の中へと落ちていった。

 

 

 この日、地図の上からサンフランシスコという街は完全に消え去った。

           





 気づいた方もいるかもしれませんが、戦車 vs 人造アラガミの対決シーンは『ランボー3』のノリです(調子に乗ってスミマセン・・・)。
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