GOD EATER -The Frontier Spirits- 作:フェンリル北米支部
1か月後、コウタは見慣れたアナグラの自室にいた。
北米支部のスタイリッシュなホテルのような客室と比べると、ひどく簡素でお世辞にも綺麗とは言えない。
わずかな空間に所狭しと漫画や干した洗濯物が敷き詰められているのを見ると、実に生活感溢れる光景だった。
コウタは拾ってきたパイプ椅子に腰かけると、コーラの瓶をあけた。部屋の隅に置かれた小さなテレビには、フェンリルのアナウンサーがニュースを読み上げる姿が映っていた。
――北米支部で発生した無人神機兵の暴走から、1か月が経ちました。北米支部による爆撃とフェンリル本部の介入によって、ようやく北アメリカは平穏を取り戻しつつあります。
テレビの中では、フェンリルの兵士たちに銃を突き付けられながら俯く北米支部の幹部たちが映し出されていた。
皮肉なことにアダムたちの望みは、フェンリル本部によって叶えられることとなったのだ。
アーヴィング支部長が死んだことによる混乱、無数の避難民、そして生き残った極東支部からの報告……さすがの北米支部いえども全てを隠しきることは出来ず、何よりセレナやグレアム、ブライアンといった優秀なゴッドイーターの多くを失ったことによる戦力低下は深刻なものがあった。
さらに戦力の大半を最前線であるサンフランシスコに投入していたこともあり、シアトルやバンクーバーといった拠点は無傷であったにもかかわらず、もはや単独では北上するアラガミの群れを支え切ることは出来なかった。
この窮地を救ったのは、かつて「アウトロー」と呼ばれた者の生き残りだった。彼らは文字通り最前線でその身を犠牲にしながら、フェンリル本部からの増援が到着するまでの10日間を耐え抜いたのだ。
やがてフェンリル本部が最新鋭の神機で武装したゴッドイーターを引き連れてくると、ようやくアラガミの北上を食い止めることが出来た。
しかし同時に北米支部がこれまでに行ってきた数々の隠ぺい工作や非人道的な実験や迫害などが次々に明るみになり、ついにフェンリル本部の圧力に屈する形で北米支部は特権を手放すと同時に、本部の厳重な監視下に置かれることとなった。
テレビの中では、キャスターが原稿を読み上げている。
――また、今回の事件で改めて無人神機兵の危険性に焦点が当てられ、フェンリル本部は研究開発を凍結する方向で合意しました。
せめてもの慰めといえば、ヒルデのことだ。
彼女は無事に撤退線を生き抜き、今ではバンクーバーで暮らしているらしい。今でもたまに連絡をとっているが、戦いはもうコリゴリとのことでメカニックを目指して勉強中だとか。
(今度、リッカさんのこと紹介してみようかな)
思い返せば結局のところ、今回の騒ぎの中で自分に出来たことは多くない。自分で選んだ結果ではなく、制御できない大きな力のうねりの中で大勢の人の死をただ傍観していたような気もする。
サンフランシスコで発生した大きな嵐が、たまたま通りすがりのコウタたちを飲み込んで、いくらゴッドイーターでも対抗することは出来なかった。
セレナも、アダムも、アーヴィング支部長も、ブライアンでさえ、その渦の中で無駄な足掻きを続けていただけなのではないか。
嵐に吹き飛ばされないよう、必死に地面にしがみ付いて。
その結果、ある者は運よく生き延び、ある者は運悪く嵐に飲み込まれていった。
自分たちが生き残った意味、などというのは考えるだけ無駄なのだろう。どうしようもなく、人間は無力だ。
それでも――と思いかけたところで、お腹が大きな音を立てて鳴った。そろそろ夜更けだ。
今日はなんとなく食欲が出なくて、夕食はまだ食べていない。
それでも頭と関係なく、お腹はすくのだ。
こんなにも無力なのに、体は生き延びようとしている。
(そういえば北米支部のメシ、ほんと美味しかったな……)
散々な北米支部への出張だったが、セレナやグレアムたちと一緒に食べたビーフ・ラビオリの味は覚えている。
たしか極東支部でも食べられる食堂があったはず。憂鬱な気分でも、空腹のときに食べればきっと幸せを感じられるだろう。
肉のジューシーな旨味と満腹感を感じることが出来れば、生きていて良かったと、その瞬間だけは感じられるはずだ。
(……単純だな、人間って)
そんなことで誤魔化されないぞ、と思いつつもコウタはゆっくりと椅子から立ち上がった。
こんなことの繰り返しが大人になってもずっと続くのかと思うと、動きたくなかった。
――それでも、コウタは何かに突き動かされるようにして立ち上がる。
それから歯を食いしばって、前へと歩き出した。
一応、本編はこれで終わりですが、Cパートがあと1話だけ。